「────2000年を越えた?」
ラプラス計算科学研究センター。
それは先鋭化した技術と時代の追い風を受けた、世界最大規模の研究施設。
その不必要なまでに長く、灰色で、潔癖な廊下の一角で、紫紺の燕尾服を纏った少女──ヴェルティは、対面する少女の口から放たれた言葉をそのままオウム返ししていた。
「はい、どうやら3日程前に装置が反応を示し……2000年から2019年までの時代が何の前触れもなく観測されました。また、それと同時にストームの予兆も2019年の極東地域で確認したようです」
「成る程、道理でセンター全体が慌ただしくなっている筈だ。彼らにとっては突然仕事の半分を奪われてしまったようなものだから。これなら呼び出されたのに放置されるのも仕方ないかな」
「財団は当面の間公表を控えると決定しましたが、どうやら人の口に戸は立てられなかったようですね……特に此処では」
計算科学研究センターは、人類が不可避の時間遡行現象である「ストーム」に抗う為、あらゆる技術の粋が集められた科学と
そしてその最終目的は1999年12月31日の深夜に発生した全世界規模のストームを乗り越え、人類と
ヴェルティ同様困惑した様子を隠せない、聖歌隊服の少女──ソネットが語るところによれば、最終目的はあまりにも唐突に、あっさりと達成されてしまったらしい。
それは喜ぶべき事であり、悲しむべき事でもあるだろう。
少なくとも、ペンと叡知で以てストームに挑んでいた数多の研究員達にとっては。
「……それで、ソネット。君が箝口令を破ってこの話をしたと言う事は、財団から何か言付けがあったんでしょう?」
「はい、今から二時間前、レディ・Zの手紙を介して極秘任務を言い渡されました。現在観測された時代の最果て──2019年へと遡行した原因を調査せよ、と」
「ふむ……」
顎に手を当て、考え込む。
任務の目的と自身が選定された理由は理解出来る。
何せヴェルティは神秘学家の保護を目的とした聖パブロフ財団の一員であり、「タイムキーパー」なのだから。
彼女が今も右手に提げている深紫色のスーツケースはあらゆる時代へと繋がる扉であり、同時にストームの不可思議な脅威から逃れられる唯一無二のアイテムでもある。
つまり、余程のこと──直接的に拘束されたり殺害されるような事態にならなければ、ヴェルティは目下最大の危険を安全に回避出来るのだ。
であれば、これまで誰が何をどうやっても辿り着く手掛かりすら見付けられなかった21世紀への斥候に選ばれるのは、そう難しい話ではない。
そして赴く時代や場所に差はあれど、このような任務に就くのもヴェルティにとってはそう珍しい話ではなかった。
が、しかし腑に落ちない点も幾つかある。
(──やけに任務が出るまでが早い)
聖パブロフ財団の動きは、まぁ鈍い。
合議制の欠点と言うべきか、或いは保守派の頭の固さ故か──法案だの何だのと言ってやたらと制限を付けたがる。
元来タイムキーパーの介入がストームの直前ギリギリまで認められていないのもその為だ。
コンスタンティンやレディ・Zのような一部改革派の下でならそこそこ速やかに行動に移れるものの、このような事情があるので一週間は待たされるだろう、とソネットから話を聞いた時点でヴェルティは思っていた。
が、しかし現実は3日。
日頃の腰の重さは何だったのかと思わず溜め息を吐きたくなる位決断が早い。
それだけではない。
タイムキーパーであるヴェルティの権限は、つい先日成立した「ストーム改革:増員と秩序」法案によって大幅に増強されたばかりだ。
つまり、その権限相応の活躍を求められている訳で──タイムキーパーチームにとっての正式な初陣となるこの任務は、保護されるべき登録外の神秘学家に対する大々的な喧伝にも繋がるだろう。
にも関わらず、財団はそれをしなかった。
箝口令を敷いた上での、彼女にとって直属の上司に当たるコンスタンティンの口すら介さず発令された極秘任務。
事が事だけに仕方無いと言えばそれっきりだが、その一方でヴェルティの直感はどうも何かがおかしいと囁いていた。
(研究センターは兎も角、もしかすると財団はこの事態を予め予想していた?)
そうして一つ疑いだしたら、切りがなく。
(私達をこの任務に宛がう為に法案を成立させた?)
ヴェルティはゆっくりと思考に埋没していく。
(だとすれば何を目的に?)
己の軽率な判断によって、これ以上喪わない為に。
(それとも────)
1929年のストームに消えた、あの少女の悲劇を2度と繰り返さない為に────
「タイムキーパー?」
「……あっ」
此方を覗き込むソネットの声で、我に返る。
普段は兎も角、一度深く考えすぎると中々戻ってこれないのが少女の悪い癖だった。
「もしかして、具合が悪いのですか?あなた様は治療が済んだばかりなのですから、もし体調に不安があるようでしたら今回の任務は私が単独で代行しますが……」
「いや、大丈夫。少し考え込んでいただけ」
「なら良いのですが……」
「それより、今回は同行するメンバーを絞ろうと思う」
言いながら、ヴェルティは身を翻す。
「全員で対処するのではなく?」
「うん。私達の誰も21世紀を知らないのだから、そこがどんな時代なのかも当然誰も知らない……何が起こるか全く予想がつかない。地道な聞き込みから始める事になる可能性だってあるかもしれないし、下手をすれば着いた瞬間に襲われる可能性だって否定は出来ない。リスクは最小限に抑えよう」
そう、このスーツケースはただ単にストームを回避する為だけに存在する避難所ではない。
その内側に内包された空間は彼女の仲間が住まう小さな園であり、ストームの痕跡と情報を集積する捜査ボードであり、過去にも未来にも繋がり得る「扉」でもあるのだ。
「人当たりが良く、それでいて自分の身を守れるだけの強さはある……そして最悪の場合、私達を置いてでも情報を持ち帰れるような『逃げ』の手が打てる能力も必要だ」
故に、ヴェルティがスーツケースのロックを外して。
中で「その時」を待っている同胞に一声かければ、彼らは直ぐに応えてくれる。
会話は重要だが、だからと言って召集をかけたり仰々しく装備を整える必要もない。
「行こう、ソネット」
「はい、タイムキーパー」
必要なのは、己の心構え。
それ一つだけだ。
常磐ソウゴは、過去と未来をしろしめす時の王者である。
具体的に述べるなら──最低最悪の魔王である「オーマジオウ」に成る未来を覆し、平成のやり直しを試みる集団「クォーツァー」が用意した偽りの王道を蹴り飛ばしたばかりの、「最高最善の魔王
つまるところ、彼は王としての一歩を踏み出したばかりであり────
「オーマジオウライドウォッチを失くした、だとぉ!?」
「いや、うん……朝見たら失くなってたんだよね」
「『失くなってたんだよね』じゃない!奴から継承した力を一月もしない内に紛失するなんて洒落にならんぞ!」
彼の王としての初仕事は、己がやった(と思われる)特大級のミスを、臣下でありかけがえのない友人である明光院ゲイツに叱られる事であった。
そうしてクジゴジ堂の床に正座させられたソウゴの隣に置かれた、大きな台座。
彼が受け継いできた平成ライダー達の力であるライドウォッチがちりばめられたその台座の頂点が、確かにない。
そこだけ初めから何も存在しなかったとばかりに、すっからかんの空白をゲイツに見せ付けている。
「机の下は探したのか!?」
「うん」
「ポケットの中は!?」
「箪笥の中も含めて一枚一枚全部引っくり返したよ」
「外に持ち出した可能性は!?」
「それはしてないかな。ずっと台座に嵌めたままだったのはゲイツも見てたでしょ?」
「それはそうだが……!と言うかお前はもう少し危機感を持て!」
「ゲイツ、一旦落ち着いて!」
どこまでものほほんとした印象の返答しかしないソウゴ。
そんな彼の姿に憤懣やるかたなしと言った様相のゲイツの肩を、少女──ツクヨミが叩く。
「ここまで来ると、もう別の可能性を考えた方が良いんじゃない?」
「別の可能性、だと?」
「ええ、例えば──盗難、とか」
「……!」
盗難。
その二文字を聞いた途端、ゲイツの表情が引き締まる。
友であり、彼を王と認める者として──継承したライダーの力を奪われるのは、ソウゴの失態であると同時にゲイツ自身の失態でもあるのだ。
だが、その可能性を考えなかった訳ではない。
「しかしそうだとして、夜の間にどうやって盗む。ソウゴ本人は兎も角、俺やツクヨミ、ウォズまでいて誰にも気付かれずに盗むなんて先ず不可能だろう。まさか新しいアナザーライダーか?」
「そうね……何時も起きるのが遅いソウゴが気付かないのは仕方無いとして、証拠の一つも残さない手際の良さは確かに普通の方法では想像が付かないかも」
「ねぇ、二人ともナチュラルに酷くない?」
抗議の声を上げるも、正座したままのソウゴを置き去りにして、ゲイツとツクヨミは議論に耽っていく。
かと言ってこっそり姿勢を崩したり逃げ出そうとすれば、即座に咎められるのは火を見るより明らかな訳で。
(うーん……別に嫌な予感はあんまりしないんだけどな)
そうして手持ち無沙汰になったソウゴに出来るのは、二人と同じ事柄を自分なりの視点で考えてみる事くらいだ。
だが、それにしたって何か論理的な答えが見えてくる事はなかった。
確かに魔王であるソウゴの直感は時に未来予知と変わらない程優秀(と言うより未来予知そのもの)なのだが、如何せん何時何処で失くしたかすら分からないのが現状だ。
こんな状態で発する「なんか大丈夫な気がする」と言う言葉ほど頼りないものはない。
例えそれを口に出した所で二人が納得する筈もないとソウゴはよく理解しており──必然的に彼の関心は
「そう言えば、ウォズは?」
ウォズ。
そう、ウォズだ。
ソウゴの臣下を自称する、どこか胡散臭い長身痩躯の男がいない。
ライドウォッチが喪失する等と言う事態となれば真っ先に現れ、訳知り顔で何やら語り始めるであろうあの男が影も形もないのだ。
そう二人に問うと、ツクヨミは特に怪訝な表情を見せる事もなく答えた。
「ウォズなら、調べものがあるとか言ってソウゴが寝ている間に出ていったわよ」
「あいつの行動がよく分からないのはいつもの事だろう」
「ウォズが盗んだ、とは考えないんだね」
「無いな」
長時間説教をされた意趣返し、と言う訳ではなく。
合理的に考えられる可能性としてソウゴが挙げた容疑者候補の名を、ゲイツはバッサリと切り捨てる。
「以前のウォズなら分からんが……少なくとも今のあいつがお前に不利になるような行動を取るやつじゃない事は明白だ。それは俺が保証する」
「そっか……仲直りしたんだ」
かつて、と言うほど昔の話でもない。
ほんの2週間程前──ウォズはソウゴから王位を簒奪しようとしたクォーツァーへと寝返り、そしてゲイツの説得を受けてクォーツァーをも裏切った。
蝙蝠のような変わり身の早さと言えなくもないが、ソウゴはそれを許した。
クジゴジ堂で暮らす友人が帰ってきてくれて、純粋に嬉しかったのだ。
しかし、何と言えば良いのか。
中々割り切れない性格のゲイツと彼に対してはひねくれた感情表現ばかりするウォズは、互いを殺しかねない戦いを繰り広げてしまったからか少しギクシャクした関係になってしまっていたのである。
なのでソウゴは二人を心配していたのだが──どうやらそれも杞憂だったらしい。
「なっ、バッ……!?待てソウゴ、俺はそもそもやつと仲直りするような関係じゃない!」
「うんうん、ツクヨミも安心したでしょ?」
「そうね……正直に言ってゲイツもウォズもしおらしくしてるのは気持ち悪かったから、これ位元気な方が良いんじゃない?」
「だから!俺の話を聞け!」
顔を赤くするゲイツに、クスクスと笑うソウゴにツクヨミ。
これこそ、少年の望んだ日常。
掛け替えの無い友人達と共に笑ったり泣いたりしながら最高最善の魔王を目指す、揺るぎなき王道。
しかし──
「……何だ!?」
どぉん、と。
平穏を引き裂くように窓が揺れる程の爆音が響く。
そして外に飛び出したソウゴ達が見たのは──町の各所から上がる火の手と、黒煙。
単なる火事や事故では起こり得ない、破壊を目的とした爆発の被害。
だが、3人は怯まない。
端からやるべき事は決まっているのだ。
「クソッ……!まさかライドウォッチが消えたせいじゃないだろうな!?」
「分かんない……でも、放ってはおけないでしょ!ツクヨミ、逃げ遅れた人がいたら手伝ってあげて!」
「ええ、ソウゴもゲイツも気を付けて!」
右、左、正面。
爆発の根源に向かって、少年少女は躊躇なく駆け出す──それが戦士の使命であるが故に。
目を開いて、先ず見えたのは──煤けた空。
数多の時代を巡ったが、現地にテレポートした瞬間から鉄火場のど真ん中と言うのは初めてだった。
そして左右を見れば、すぐ隣にソネットの姿。
互いの無事を確認するまでには5秒もかからない。
「……どうやら此処は事故か災害の現場のようですね。周囲の様子から推論するに、爆発事故でしょうか?」
周囲は既に火と瓦礫の海と化していた。
そこかしこから立ち上る炎によって視界は遮られ、舞い上がった灰が呼吸器を阻害する一面の地獄だ。
「取り敢えず、状況確認は後にしよう。今は先ず安全を確保する事を最優先にする、べき……?」
幸いにしてまだ火の手が及んでいない通り道は幾らか見て取れるが、今すぐ離れなければそれも潰れてしまいかねず──荒れ狂う熱気で飛びそうになるシルクハットを押さえようとしたヴェルティは、いつの間にか左手に何か持っている事に気付く。
「うん……?」
額の辺りまで掲げた手を目の前に持ってくる。
そこにあったのは、丁度ヴェルティの五指に収まる大きさの物体。
円形で、平べったくて、けれどそこそこ厚みもある。
間違いなく、テレポートに使用したディスクではない。
「何だろう、これ」
「どうかしましたか、タイムキーパー?」
「いや……いつの間にか握っていたんだけど、全く心当たりが無くて」
「時計、でしょうか。けれど、針や画面はありませんね」
ソネットの言う通り、それは形だけで考えるなら懐中時計のように見受けられる。
竜頭があって、盤面の四方に如何にもそれらしい飾りがあるなら尚更だ。
しかし、黒と金で彩られた少し悪趣味にも思えるその時計には肝心の針が無い。
デジタル式に表示する為の液晶が埋め込まれているのかと言えばそうでもなく、上部と下部の窪みに書かれているのは「カメン」の片仮名と「2068」の数字のみ──それにしたってイギリス英語で育ったヴェルティに片仮名は読めないのだから、彼女達からすれば時計
怪訝な目線を向けられるのも当然だった。
「何かの神秘術が埋め込まれた罠なのでは?直ぐに捨てて此処を離れた方が良いと思いますが……」
「此処を離れるのには同意するけど……これは持っていこう」
確かに、不審ではある。
何時から握っていたのかも分からない時計擬きが不意に牙を剥く可能性はヴェルティにも全く否定出来ない。
ソネットの言うように放り捨ててさっさとこの場から逃げてしまう方が余程正しいだろう。
しかし、これには何か意味がある。
「敵意であるにせよ友好の表現にせよ、何の理由もなく物を握らせてくるなど余程人が困り果てている姿が好きなのでもなければ有り得ない」
そう、単なる経験則、或いは直感に過ぎないが──これを寄越した相手が存在する以上、その人物に対面するまで捨てるべきではないのだ。
故にヴェルティは時計擬きを一先ず保留しておく事に決め、ソネットもそんな彼女をそれ以上追及しなかった。
「急ぎましょう。もう火の手がそこま────」
そして。
「繧乗?縺ッ縺ッ繧ェ繝シ繝シ繝槭」
彼女の背後で三又槍を振り上げる鈍色の人影が視界に入って。
「──ソネット!」
「────!」
瞬間、ソネットの右手が閃く。
「
「蠢?螳溘↑縺励b縺ケ縲√き繝?す繝シ──!?」
シンプルなガラスペンによって中空に描かれた詩。
キラキラと輝く光の線が破片へと砕け、無数の礫となって襲撃者に突き刺さる。
描いた詩を元に、空想を具現化させる──ソネットの
詩を描くと言う行程こそ必要なものの、その威力と使い勝手の良さは折り紙付き。
何の備えも無く全身でその鋭利な礫を受け止めた以上、襲撃者は痛みに悶えなければならず──それが衝撃で仰け反るのを二人ははっきりと目撃した。
が、しかし。
「なっ──!?」
「縺ケ縲√き繝?す繝」
痛苦の悲鳴を漏らす事もせず、突き刺さった礫をものともせず襲撃者は大上段に構えた三又槍を澱みなく振り下ろす。
明らかに人体の摂理を超えた、痛覚そのものが存在しないかのような挙動。
そして飛び退って矛先を躱したソネットが見たのは、バラバラとそれの体から剥がれ落ちた、何か。
肉でも骨でも血でもなく──機械の部品。
「……ロボット!?」
それ──カッシーンと呼ばれる尖兵は、背に羽織ったマントや鎧に覆われていない大腿部など幾らか有機的な部分も見て取れたが、その身体を構成しているのは明らかに機械だった。
更に驚くべきは、その膂力。
神秘術でもなんでもない、ただ振り下ろしただけにも関わらず槍の穂先はアスファルトを粉々に砕き、深々と地面に突き刺さっている。
もし直撃していればどうなっていたかなど、想像するまでもない。
ソネットが地面に落ちた石榴のようにならなかったのは、偏に彼女が財団でも飛び抜けて優れた神秘学家だったからだ。
「狙うなら関節部だけど……気を付けて。見れば分かると思うけど、あれはただのロボットじゃない」
「はい。タイムキーパーは下がってください」
地面から穂先を引き抜くカッシーンと睨み合うソネット。
一方でその後ろに控えるヴェルティはスーツケースを携えたまま。
戦えない、と言う訳ではない。
確かに「ストーム」の対応を専門とするヴェルティは神秘術の戦闘訓練は受けていないが、かと言って神秘術が使えないと言う事はなく、華奢な体躯に反して身のこなしもかなり軽い方だ。
にも関わらず戦闘に参加しないのは──彼女に求められているのが観察だから。
そう、ある程度手間取る可能性は否定出来ないが、単にカッシーンを倒すだけならソネット一人で事足りるだろう。
しかし戦闘に集中しなければならないソネットでは、どうしても見えないものがある──故にこそ敵の特徴、行動、背景を推察し、指揮を行うのがヴェルティの役目だ。
そして彼女の観察眼は、この襲撃者の異常な部分を早くも認識していた。
(──ソネットの攻撃よりも前に破損している?)
確かに、カッシーンの鎧は単に礫が直撃するよりも大きく壊れており、半ば半壊の様相を呈していた。
そればかりか鈍色の鎧のあちこちに継ぎ目があり、まるで一度完全に壊れてしまったものを有り合わせのパーツで修理したような歪さを感じさせる。
また、壊れたスピーカーのように意味不明な言葉を発し続けているのも乱雑に補修したイメージを与えるのに一役買っていた。
とは言え、カッシーンの攻撃力自体は先に見た通りだ。
如何に半壊状態で、ソネットが優秀な神秘学家だったとしても気を抜いて良いような相手ではない。
一先ず少数で行くと言った舌の根も乾かぬ内にそれを撤回する羽目になるが、仲間に応援を求めるべきか──と右手に提げたスーツケースへと視線を投げ掛けて。
その反対、左手に握ったままの時計擬きが光っている事に気付く。
「……ん?」
薄く、炎に照らされただけかと錯覚しそうな位僅かな瞬き。
しかしそれは間違いなく時計擬きが放つ、不可思議な位暖かく優しい光。
「ソネット」
「はい?」
「何か来る」
時を同じくして、炎の海に響く──低く力強いエンジン音。
あちこちから立ち上る火の手や道を塞ぐ瓦礫を物ともせず、その音は次第に近付いてくる。
そして────
「────見付けた!」
時計擬き、襲撃者に次ぐ3回目の闖入。
その主はバイク──それもただのバイクではない。
装飾が施され、後輪のディスクローターにそのまま「バイク」と刻まれたあまりにも珍妙な、しかしデザイン性は損なわれていない黒銀の駆体。
不整地を走破するには些か細身なシルエットにも関わらず、そのバイク──瓦礫を踏み台に宙を飛んだライドストライカーが、カッシーンに迫る。
(──まずい!)
その時、ソネットの頭を過ったのはバイクと襲撃者がクラッシュする姿だった。
そう、例え一目で分かる程信じられない走破性を持っていたとしても、元来バイクは人型の機械と激突する事を想定した乗り物ではない。
良くても乗っている少年は地面に叩き付けられ、最悪の場合はバイクそのものに押し潰される。
そんな未来が見えたのだ。
それ故、彼女はガラスペンを手繰り──しかしその予想はあっさりと覆された。
「ガッ────!?」
ゴッ、と。
鈍い激突音と共に吹き飛ばされたのは、襲撃者のみ。
少年が振り落とされる事もなければ操る黒銀の駆体が破損する事もなく──撥ね飛ばされ、瓦礫の山に突っ込むカッシーンを見送りつつライドストライカーは煤けた路面にタイヤの擦過痕を残して着地した。
「あなたは……?」
「外国の人?ここは危ないから、早く逃げて」
バイクから降り、ヘルメットを脱いだ少年──常磐ソウゴは軽く二人を一瞥して、外国からの観光客だろうと結論付けた。
何か変……独特な格好をしているな、とも。
とは言え今はそれは重要ではなく、身構えたままのヴェルティ達に避難を促そうとして。
彼女が握った時計擬き──ライドウォッチに視線が目に入る。
「あ、ウォッチ泥棒」
「……誤解だと思うから、説明させて」
それはあまりにも戦場にそぐわない、間の抜けた──時の王者とタイムキーパーの、ファーストコンタクトだった。
・常磐ソウゴ
仮面ライダーの芸術作品。21世紀初頭から、計19年間展示された。展示開始日は4月28日、春。展示場所:日本にて2068年まで時の王者として展示された。
・所感
仮面ライダージオウとリバース:2019のクロスオーバーです。
「劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer」の視聴及び「リバース:1999」のプレイをオススメします。