仮面に涙を隠すのは間違っているだろうか──ダンまち×仮面ライダー── 作:シギュ
お久しぶりです。
ザッ、ザッ、ザッ、と黒灰色の石が敷かれた回廊を歩む。
直線的に形が整えられているのは古代の神殿でも再利用したからだろうか。
──すぐ傍で行われている事すらその静謐さに覆い隠されてしまっている。
切り抜かれた天井は高みから日の光を降ろし、冷たい石で囲まれた空間に日溜まりのような暖かさを錯覚させていた。
──ならばその中心で待ち受ける
『おお、新たなる同胞バッタコドク!立ち返ってくれたのですね!』
『いや、助けに来たんだ。お前達の手からな』
ローブを纏い、背後に黒服の戦闘員達を侍らせる蜘蛛の
『……?何を言っているのですか、バッタコドク?誰を助けに来たと言うのですか?』
『
虫の羽音が混ざったように濁った声で疎通される互いの意志には、しかし決定的な断絶が有った。
『……?
『
心底不思議そうな
『
──人の人生を独善的に使い潰す事に一切の躊躇が無い。
『……決裂だな』
──そして
『まぁ良いでしょう。
斯くて振り上げられた手に倣い覆面の戦闘員達が金属棒を一斉に構え、
『……分からないのか。私とお前達は相容れない……!』
独りの戦士が駆け出す。
──戦いの日々はここから始まった。
「──まぁ簡潔に言うなら、
昼下がり。
とある館の一室で
「……えっと、それ以外に区別する方法は……」
「無いわ。昔は二種類以上の特徴があるのは確実に強力だったけど、改造技術の底上げで今はどれも強さを引き上げられてる。……それでも戦いの心得があれば相応に強さを見抜く事は出来る筈よ」
「……では
「逃げなさい。……いえ、ルーキー君以外は例え相手が一人でルーキー君以外全員揃っていようと逃げる事を優先なさい。
「は、はい」
「……なぁ、それは『魔剣を持っていても』か?」
教師は
生徒達は人、人、人、人、人、
「馬鹿なの?」
「はぁ⁉︎」
「……いや、そうね。確かに貴方は強力な魔剣を作れる。この前の事件でも氷や風の魔剣を使ったと聞いているわ。
「……
磨かれた窓からは斜めに日差しが入り込む。
言葉はするりするりと紡がれる。
「そうよ。
「そっ、それではルリ様達との合流を優先すべきというのも……」
「ええ、
疑問を提起し、それに答え、理由と共に納得させる。
女の物言いが時折端的かつ辛辣ではあるものの、話を一方的に聞かされるだけではなく、その反対に話が遮られ脱線し過ぎる事も無い。
教示斯くあるべし、と涙を流す教師も居るだろう。
「……なぁ、ルリ君。ボク以外の神はどのくらいコドクについて知っているんだい?」
「止めなさい」
「即答っ⁉︎」
そしてその舌鋒は神相手であっても容赦は無い。
「……最初に言っておくわ。コドクについて神だけじゃない、他の派閥に探りを入れるのは止めなさい。……少なくとも神ウラノス、神ガネーシャはコドクを容認していないわ。だけど神が
そう語る彼女の足元に在る立方体の箱型の
効果は『一定範囲内への音と魔法の遮断』、そして『神の眼の妨害』。
かつて【賢者】と渾名された魔導士の逸品をわざわざ持ち出した女の行動は、神も人もそれだけでは信じるに値しないと口にするかのようだった。
「戦力・技術・情報能力……、コドクが提供出来るものに価値を見出す者は必ず居る。……そしてそれが表沙汰になると不味い事の結果培われたものだと知っても手に入れようとする者も居るわ」
「……口封じ、ですね」
「そう、
「わ、分かったよルリ君」
それは彼女が長年潜り抜けて来た『暗がり』と積み重ねて来た『経験』を悟らせるものでもあり、神相手でも話を受け入れさせる土壌であった。
「
「なっ、君はボクの神友を疑うのかい⁉︎」
「ルリ殿!」
「他所者から見れば入り込む余地はあるように見えるのよ。……【
「……!」
その上で敢えて聞き捨てならない言葉を吐く。
例え密やかに神望を集める女神相手だとしても。
例え或る男神を一心に慕う少女相手だとしても。
「眷族の負い目か、神の親心。どちらも利用出来る材料よ。タケミカヅチのファミリアも金目当てにオラリオに来たという噂を聞いたわ。うっかり引き摺り込まれないとは言い切れる?」
「……ヘファイストス様もですか?」
「見た限りあの
鍛治と冒険で鍛えられた赤髪の鍛治師の固い声にも一切動じる事は無い。
場数と力量が違い過ぎるというのも有るが──、──仮に場数も力量も劣っていても彼女は成すべきを成しているだろう。
「そして貴神の口から神ヘファイストスへ漏れた時、
「分、分かったよ、……肝に銘ずるよ」
即ち懸念を伝え、それに対処するよう促す。
──
最終的にどうするかは伝えられた者次第だ。
「……あの、ルリさん」
「何かしら?ルーキー君」
「……もしもヘスティア・ファミリアやフェルズさん以外の……、……コドクを知らない皆さんがコドクを知ってしまったら、望まないのに関わってしまったらどうすれば良いですか?」
だからこそ彼女は悩みを聞き逃さない。
「私達かフェルズに相談、ね。困っていたら助けてあげる、コドクと戦うにはそれが結局一番の手段よ」
「……はい!」
助けを惜しまない。
それこそが
「それじゃあ今日はこれで終わりね。何かあったら研究所かフェルズに言付けて」
「……最後に一つ、良いでしょうか」
「何?」
魔導具の起動を止めようとした女に
「いつか訪れる決戦の日、
それは彼女達、人を守る『仮面ライダー』の存在意義に対する問い掛けとも言える言葉であった。
「──戦うわよ、きっとコドクとは関係なくね」
しかし女はその問いに囚われる事無く、風のように笑った。
束縛され、不自由に堕とされるのは物語の登場人物が被る受難の定番だ。
愚王の牢獄に囚われる英雄、
怪物の生贄として鎖に繋がれる姫君、
邪悪な魔導士に捕まり手先にされる精霊達。
──であればこの聖堂に於ける独りの戦士はさしずめ『信仰を否定され磔にされる聖者』であろうか。
『ぐうぅ……!』
『流石は今の
必死にもがくが己が身を貼り付ける糸を振り解けない。
ただの殴打で戦闘員は全て床に転がし行動不能としたが、最後の二人を倒したその直後の隙を狙った粘着質の糸に腕を捕らえられ……、……壁に拘束されてしまった。
『しかし経験不足の様ですね、こうも容易く抑えられるとは。立ち返った後は戦闘訓練が必要ですね』
引っ張っても千切れないならば断ち切って振り解きたい所だが、手の届く範囲どころかこの礼拝堂の全てを見ても刃物の一つも見当たらない。
戦闘員が武器として振り回していた、刃どころか飾り一つ付いてない金属棒なら足の届く所に転がっているのだが……。
『……!』
『さて、麻酔を施した後は報告としましょう』
……ルリは一つの賭けを思い付いた。
どれか一つでも思い付きから外れれば成功しない不確定な賭けだが……。
……活路を求め、
『⁉︎』
背を向け、立ち去ろうとしていた所を足音に振り向いた
『
跳び上がり、糸を出すより早く、火花が散り──、──吸気口が風を起こす。
『っ、ああああああぁ!』
風に吸い込まれ、冷えて消え失せる一瞬前に糸に辿り着いた火花は──、──
『なっ⁉︎』
『コドクぅぅううう!』
身を焼く炎をものともせずに踏み込み、クモコドクの腹へと叩き込まれた拳は──、
『がはぁっ⁉︎』
──聖堂の端までその身体を吹き飛ばし、
『おおおおおぉ!』
『ぐっ、うううぅぅ⁉︎』
一息で駆け寄り繰り出される怒涛の乱打に防御姿勢を取るが──、──受け切れない。
防御して尚その重さに身体が軋み、
『らあっ‼︎』
『ぐがはっ……‼︎』
崩れ落ちた防御を抜いた
切り抜かれた天井が間近に迫り──、──
『だあっ、!』
『ぎっ……!』
片足を天に突き上げ、片足だけで跳び上がる。
クモコドクに足がめり込んでもその勢いは止まらず、天井に叩き付け、
『……ああああああー!』
『ああぁぁぁ……、……っ』
──天井を蹴り砕き、天高く伸び上がる。
『ふうううぅぅ……』
『……………………』
天井の向こうは、黒い岩肌を短い草が彩る山の斜面だった。
独りの戦士はその力を吐き出す様に力強く着地し、クモコドクの身体は力無く地べたに投げ出される。
『……………………、……行かなくちゃ」
その姿が変わって──、──
独りの戦士は人型の
「何故、ですか……?」』
「、」
「人も、神も、世界の誰もが、望んでいる……」』
暴力的に変形機構を壊されたが故か半身しか人へと戻らず、声にも僅かに羽音のような濁りが混ざっているが──、──聖性を帯びて見える程に美しい姿、美しい声をした、真っ直ぐな金髪の女性だった。
「……かの絶望を、」』
「……『黒竜』が、倒される事を……」』
……或るいは、涙を浮かべ、悲願を謳うその姿は『聖女』と呼ばれる資格を持っていたのかもしれない。
「『
……だが、彼女を染めるのは最早独善でしかない。
「……私は……を忘れない……、……ただ、……有る、の……」
「……………………」
声はうわ言に変わり──もしくは最初からうわ言だった──言葉は途切れ、掠れ、かつて絶望を抱いた誰かが動かなくなると共に、消えた。
……人間なら死んだだろうが、改造人類なら生きているかもしれない。
……だが
……柔らかく、暖かく、生々しい
「……言ったでしょう。私と、貴方達は相容れない」
だから一言だけ、投げ落とした。
独りの戦士は脇目も振らずに去って行く。
空は青く澄み渡り、日は静かに光を落とす。
草地には粒のように小さな花が咲いて、横たわる誰かを囲んでいた。
過去→現在→過去の順。
『現在』は十二巻と十三巻の間くらい。
:『秘密結社コドク』
…その源流は古代、魔法や精霊に頼れない環境に有った誰かが始めたモンスターの脅威に対抗する為の投薬や手術を行う手法に有ると言う。
その後神時代初期までに大方針が決まり秘密結社として成立する。
『『かの絶望』──『黒竜』を討つ為に如何なる手段も厭わない』とする秘密結社として。
三十年程前には小方針も定まり、それに基づいた計画の元に二十年程前『黒』のコードネームを与えられた当時最高傑作の改造人類が完成する。
それがバッタコドク、即ちルリである。
……方針の為にはあらゆる犯罪行為を厭わず、人を
:ルリ
…初めての戦いたる
……数えきれない程、殴り、蹴り、仕留めて来た。
十五年程前に一旦弱体化を挟んだものの、その戦闘技術は一級品。
用心深い。
そして、優しい人。
:ヘスティア・ファミリア
…『知っておくべきだ』となった為、総出でコドクについてのレクチャーを受ける。
歴戦の戦士からすればルーキー君は驚嘆に値する速度で成長するが故に『ルーキー君』である。
:クモコドク
…蜘蛛の力を組み込まれたバッタコドク最初の敵となった改造人類。
自らコドクに与した改造人類は思考能力や発声能力を残し元の姿に戻れる者が多く、彼女の素顔は金髪シスターな超美人のお姉さん。(ローブを纏い声も変わっており、コドクとしての体型からも女性だと判別するのは難しい)
高い強度を持つ粘着質の糸を放出でき、格闘をこなせる身体能力も有ったが、糸が可燃性であった為に拘束を解かれ『
……故郷を北から来た竜に滅ぼされ、コドクに傾倒した。
……故郷の孤児院で子供達の面倒を見ていた頃は、虫も殺せぬ優しい人だった。