イキったウマ娘がトレーナーに返り討ちにされるもトレーナーは最初から担当バにゾッコンなので最終的にドローに落ち着く話   作:ゆーりふり

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正直に言います。酒に酔った状態で書いた。
あと、お嬢はウマ娘界の勘違い系大御所だってヘリオスが言ってました。


ダイイチルビー

 それはダイイチルビーがトゥインクル・シリーズにデビューして三年が経過したある日のこと。

 仕事の合間を縫って日本に帰国していた母に誘いを受け、ダイイチルビーは家族水入らずの食事をとっていた。

 

 短距離、マイルGⅠレースで挙げた数々の活躍は華麗なる一族たるに相応しいものだ。幼少の頃から小さな両肩に圧し掛かっていた重圧も幾分やわらぎ、トレーナーと共に成長していく過程で生じた変化がダイイチルビーにある種の風格を備えさせた。

 久方ぶりに再会した娘を見て、ダイイチルビーの母親はそんな感想を抱いた。

 

 そして、娘の成長を鑑みて一つの質問をした。

 

「ルビー、最近トレーナーさんとは(・・)どうなのかしら」

「どう、ですか……?」

 

 常の母らしからぬ曖昧な問いに対してダイイチルビーは裏にある意図を読み取ろうとした。

 そうして、過日の問いを思い出した。

 

『貴方も、私がどのようなウマ娘だったか――ゆめゆめ忘れぬよう』

 

 今にして思えば、自身の適性を省みず王道たるティアラ路線に固執していたことを見抜いていたのであろう言葉。

 あの時も母は答えを述べることなく自身とトレーナーに全てを任せた。

 

「(ならば、今の私も以前と同様に何らかの過ちを犯そうとしている……?)」

 

 華麗なる一族としての努力を欠かしたことはなく、懸念すべき事案も思い当たらないが見逃しているものがあるかもしれない。そう考えたダイイチルビーは思考する。

 その考えはある意味で当たっており、ある意味では間違っていた。

 

「彼は……、私の隣に立つべく弛まぬ努力をして確かな成果を出しています」

 

 一抹の不安を抱きながらもはっきりと答えを返す。

 対する母の反応は微笑みだった。

 

「ええ、そうなのでしょうね。貴方が見初めたトレーナーですもの。では、言い方を変えましょうか。最近、彼とは(・・・)どうなのかしら」

 

 質問の何が変わったのかダイイチルビーは図りかねていた。

 三人称が変わりはしたが、まさか頓智(とんち)の類でもあるまい。

 なんと返すべきか皆目見当が付かず口を噤むダイイチルビーを見て、母は表情を引き締めた。

 

「貴方は華麗なる一族に生まれたウマ娘としての役目を見事に果たしました。しかし、まだ成さねばならぬ重要なことがあります」

「それは一体?」

 

 話の流れからしてレースレコードの更新などではないだろう。

 一族の顔としての外交は一生付いて回るが故にわざわざ此処で話題に出すこととも思えない。

 

「華麗なる一族の次代。それを成す。私が聞いてるのは、その相手として彼はどうなのかしらということですよ」

「……は?」

 

――――――――――

 

 その数日後、ダイイチルビーは絶対の自信を以てトレーナーの素行調査を開始した。

 なぜ素行調査かというと明け透けに女性関係や好みのタイプを訊ねるのは品がないと考えたからである。

 断じて恥ずかしいなどという理由ではないし、勝手に素行調査するのも品がないなどと言ってはいけない。これもまた高貴なる者としての義務である。

 

 まあ、調べるまでもなくトレーナーはスピード至上主義で小柄で紫色の瞳と縦巻きロールの黒髪が綺麗な女性が好みのタイプであろう。

 疑うこともなくダイイチルビーはそのように考えた。

 

 しかし、素行調査の結果はダイイチルビーの想定するものとは全く異なった。

 というか好みの女性のタイプの情報ですらなかった。

 

 調査結果を持ってきた執事から告げられたのは、なぜかトレーナーが最近転職サイトにアカウント登録を行ったという情報。

 意味が全く分からずダイイチルビーの頭上をクエスチョンマークが飛び交った。

  

 転職――。

 転職……?

 

「なぜ転職?」

「理由は想像できなくもないのですが……」

 

 新人トレーナーが最初に担当したウマ娘の育成結果として、これ以上は望めないだろう戦績。

 華麗なる一族の隣に立つに相応しい教養と努力の姿勢。

 彼はダイイチルビーの期待に対して十全に応えてみせた。

 それの意味するところはつまり、ダイイチルビーの肖像画が実家のエントランスに並ぶ日まで共に歩むことである。

 彼の天職はダイイチルビーのトレーナーであって、転職などという選択肢は論ずるに値しない筈だ。

 しかし、事実として彼女のトレーナーは転職サイトへの登録を行っている。

 

「……てん、しょく?」

「はい、"転職"でございます」

 

 ダイイチルビーの体に震えが走った。

 理解不能な事態に相対する恐怖とはこうまで心身を蝕むのかと戦慄する。

 パリピでウェ~イなギャルに遭遇するどころの騒ぎではない。

 

「えっ、……え?」

「お嬢様、気を確かにお持ちください」

 

 母に言われたから一応女性の好みを確認しておくか程度のつもりが、何故か底なしの陥穽に嵌った気分だった。

 

「……その、考えられる理由というのは?」

 

 覇気のない声で、それでもなんとかダイイチルビーは問いを絞り出した。

 

「今年度の彼の雇用内容を調べました。そして、こちらがトレセン学園から支払われている給与になります。就職してからの期間と年齢を鑑みれば非常に高給と言えますが、お嬢様の隣に立つ者に相応しい額かと問われると首を傾げざるを得ません」

 

 手渡された資料に記載されている額は若いサラリーマンの給料としては破格と言える。激務の外資企業であっても此処までの額が出るのは稀であろう。しかし、GⅠレースを複数勝利したことに対する成果給込みであれば不自然とは言えない。

 それだけであれば可もなく不可もなく適正な額であろうと納得した。

 だが、ダイイチルビー(華麗なる一族)のトレーナーとなると少々事情が異なる。

 

 華麗なる一族の隣に立つ者としての教養。

 これを身に着け、常に実践することの難しさをダイイチルビーは誰よりも承知している。

 生まれた時から当たり前の事として続け、一族として恥ずべきことはしたくないと思っているダイイチルビー自身ですら重い溜息を吐きたくなるほどに疲労することがあるのだ。

 成人するまでの期間を極一般的な家庭環境で過ごしてきた者が一から身に着けるのにどれだけの苦労が伴うか。

 

 ――そこまで考えて気が付いた。

 

「もしかして、これは世間的に見てタダ働きをさせている?」

「少なくとも賃金が支払われて何らおかしくない労力が掛かってはいるかと」

 

 三年間、トレーナー業だけでも激務であるというのに無給で従者の真似事をさせられていた。

 それに疲れ果てた彼がトゥインクル・シリーズで一定の成果を出せたタイミングで転職を検討した。

 ダイイチルビーの中で彼の転職が途端に現実味を増した瞬間である。

 

「……まずは契約を解いて別のウマ娘を担当したいと思うのが普通では?」

「この業界で華麗なる一族に背信するような事をすれば先はない。そう考えて全く関係のない職を選ぶことは有り得るかと」

「……彼と話す時間を設けます。今から伝えるものをすぐに用意してください」

「かしこまりました」

 

――――――――――

 

 突然ルビーからの打診を受けて設けることになった二人だけの対話の場。

 学園から許可を得て借りた一室には異様な空気が漂い、俺は口を開けずにいる。

 そんな俺を前にしたルビーが(おもむろ)に机の上へ大きなアタッシュケースを置いた。

 

「ここに一億円あります。受け取ってください」

「えっ?」

「何も言わず、今すぐに受け取ってください」

 

 開かれたアタッシュケースからのぞく大量の札束。

 

 俺は遂にこの時が来てしまったかと思った。

 ダイイチルビーと共にトゥインクル・シリーズにデビューしてからの三年間を駆け抜けた。

 高貴な家柄の者たちと同等の教養を身に着けることは大変だったが、自分なりに努力をして最低限はこなせたのではないかと思う。

 しかし、ダイイチルビーは華麗なる一族として更なる飛躍を目指している。

 新人の自分よりも才能と実績に溢れるベテラントレーナーとの契約を望むのは当然の帰結だ。

 

 つまり、目の前のこれ(札束)は手切れ金なのだろう。

 それなりの戦績をもたらしたトレーナーを一方的に契約解除したとなれば華麗なる一族の名に傷が付きかねない。何も言わず受け取ってほしいというのは、契約解除に関する事由を一切他言するなという意味に他ならない。

 転職サイトへの登録を済ませておいてよかった。ダイイチルビーの担当を外れて他のウマ娘を担当するだなんて今の自分には考えられない。この日が来たならば潔くトレーナーという職自体から身を引こうと考えていた。

 そして、この餞別でもある莫大な金銭に対する答えも決まっている。 

 

「ルビー、それは受け取れないよ」

「……えっ?」

 

 ルビーの顔が青ざめ絶望に染まった気がした。

 きっと契約解除を強要された腹いせに醜聞をばら撒くとでも思われたのだろう。

 彼女の心からの信頼を勝ち取れなかった自分の至らなさを恥じるばかりだ。

 

「立つ鳥跡を濁さずと言うだろう? 俺だって最後くらいは君に恥じない姿を見せるさ」

 

 背を曲げず、顔を俯かせない。

 トレーナーを解約されるのは悔しい結果であるが、彼女と共に過ごす中で身に着けたものは掛け替えのない財産だ。

 胸を張ってトレセン学園を去ろう。

 

「お、お願いしますから受け取ってください! 足りないというのであれば……」

「金額の問題じゃないんだルビー」

 

 俺の(金に対する)辞意の言葉に"あの"ダイイチルビーが愕然としたように背を丸め、俯いた。

 なんだか最後の最後に珍しい光景が見られたなと思いながら席を立った瞬間、すすり泣く声が聞こえてきた。

 

「ど、どどどどうして泣いてるんだルビー!?」

 

 俺は意趣返しのためなら、彼女が泣いてしまうほどに悪辣なことをする男だと思われているのだろうか。

 

「あなたが、居なくなるだなんて、言うから……」

 

 その言葉の意味を正確には理解できなかった。トレーナーを辞めさせる俺に対して傍に居て欲しいという発言。今後はトレーナーとしてではなく従者のような立場で仕えろという意味だろうか。確かにルビーの傍に居られることは嬉しいが、他の者がルビーのトレーナーをしているのを直視することに耐えられそうにない。

 

「私に至らぬ点があったのであれば直します! 髪型でも服装でもあなたの好みに合わせます!」

「ごめん、君は悪くないんだ。すでに俺の好みはスピード至上主義で小柄で紫色の瞳と縦巻きロールの黒髪が綺麗な女性で固定されているからね」

「あぁ、そんな……」

 

 泣き崩れるルビーをそれ以上見ていられず、俺は視線を逸らして部屋の扉へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 その後、ダイイチルビーの泣く声を聞いたダイタクヘリオスとケイエスミラクルが部屋へ突入。床に正座させたトレーナーに事情聴取する中で話の食い違いが判明したことによって事態は終息。

 トレーナーは勘違いで職を失う危機を脱し、ある名家のスピード至上主義で小柄で紫色の瞳と縦巻きロールの黒髪が綺麗な女性と見合いをすることになった。




ダイイチルビーはトレーナーを失わず済み、トレーナーは職を失わずに済んだのでドローです。
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