イキったウマ娘がトレーナーに返り討ちにされるもトレーナーは最初から担当バにゾッコンなので最終的にドローに落ち着く話   作:ゆーりふり

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くそっ、これじゃタイトル詐欺じゃないか。
そう思ったが投稿しないのは勿体ないの精神を発揮しました。
皆、当然ヴィブロスは引いて育成済みだよね?


ヴィブロス

「~~♪」

 

 ヴィブロスは上機嫌で校舎の廊下を歩いていた。

 元気に振り上げられる腕に合わせてツインテールが小気味よく揺れていて、口元は深く弧を描いて鼻歌まで漏れている。

 放っておけばそのままスキップでもしそうなほどに彼女がルンルン気分なのは、つい先日の国際レースが理由だ。

 

 ドバイターフ。

 

 幼い頃に体験した忘れられない煌びやかな国、人、レース。

 彼女はそのキラキラと光輝く世界に魅了された。

 生来、甘え上手でおねだり上手なヴィブロスは両親に望めばなんでも与えてもらえた。そんな彼女が初めて経験した聞き入れてもらえない願い。それがドバイに住むという夢だ。

 

 故に彼女は誰かに頼むのではなく自身の手を伸ばすことに決め、大切なトレーナーの助力もあって、ついに指先を届かせた。

 あの日みた時となにも変わらない。むしろ自分の力でその地を踏みしめたことで、輝きはより一層増したように思えた。

 

 前年に続き、日本のウマ娘によるドバイターフの二年連続制覇。

 華々しい成果はヴィブロスのドバイに住むという夢を実現させる大きな一歩だ。

 

 両親と上の姉から、これでもかという位に褒められた彼女のご機嫌が天井を突き破って降りてこなくなっているのも道理というものだろう。

 

「またドバイにも行きたいけど、次は香港もいいかも~」

 

 下の姉であるシュヴァルグランの友人――サトノクラウンが香港で勝利したGⅠレースが放つ輝きもドバイに負けず劣らずだった。

 自分にとっての最高はやはりドバイだが、機会があればトレーナーと共に香港デートだってしてみたい。

 明日は土曜日でここ最近トレーナーが実家へ訪れるのが通例になっている。その時に両親もいる場で話題に出してみてもいいかもしれない。

 

「トレっち、私のことなんて話してるかな~。きっとベタ褒めだよね~」

 

 そんな彼女のトレーナーは今、学園の一室で雑誌のインタビューを受けている。

 雑誌の名は月刊トゥインクル。 

 その名の通りトゥインクル・シリーズを専門としているレース雑誌だ。

 ティアラ三冠のひとつである秋華賞と国際GⅠレースであるドバイターフで勝利したヴィブロスの今後について取材をしたいとの依頼を受けたトレーナーは、家族と同じかそれ以上に自分のことを褒め称えているに違いない。

 

 その光景を思い浮かべながら頬を緩ませるヴィブロスは学園の授業を終えて意気揚々と取材の場へ合流しようとしていた。

 

「なるほど。それがトレーナーさんが好ましさを感じているウマ娘なんですね」

「はい」

 

 そうして部屋の前に辿り着いたヴィブロスの耳に記者とトレーナーの声が届く。

 

(……トレっちの好みのウマ娘?)

 

 そんなの自分に決まってるじゃん。

 なるほど、きっと自分の好きなところを聞かれて答えていたのだろう。

 疑うでもなくそう考えたヴィブロスは握ったドアノブから手を離して聞き耳を立てた。

 

 トレーナーは果たして自分のどこを好きと答えていたのだろうか。

 愛嬌と容貌だろうか。

 レースの才能だろうか。

 ドバイに住むという夢に本気なところだろうか。

 いや、きっと全部だろうなとヴィブロスは浮かべる笑みを深める。

 

「しかし、やはりと言いますかヴィブロスさんとはあまり共通点がありませんね」

「あはは、確かにそうですね。意識した訳ではないんですが、どちらかと言えば素朴で華美を好まない子が多いかな」

 

(……は?)

 

 ヴィブロスはドバイへと続くキラキラスターロードからコースアウトして真っ暗闇に落ちる自分の姿を幻視した。

 

「色々と資料も集められているんですよね?」

「ええ。ですが、データでは見えてこないことも多い。これから彼女たちと関係性を深めたいと考えています」

 

 トレっちが自分を置いて素朴で華美を好まないウマ娘と関係性を深める?

 それはダメ。

 絶対にダメ。

 

「そうなると……」

「ヴィブロスには我慢してもらうことになりますね」

 

 トレーナーの隣に自分以外のウマ娘が居る。

 そのウマ娘のことを褒めて、頭を撫でて、腕を組んでトレーナーと仲良く歩いている。

 そんな光景が脳裏を過る。

 

(――そんなのやだっ!)

 

 ヴィブロスの思考はグチャグチャに乱れ、脚が勝手に逃げるように部屋から離れていく。

 無自覚に駆け出したヴィブロスは、途中で柔らかいものに衝突して歩みを止めた。

 

「あぅ……」

「いったいどうしたのヴィブロス?」

 

 ヴィブロスを受け止めたのは、彼女の姉であるヴィルシーナだった。

 俯いて周囲の様子を伺うこともせず校舎を走っていた妹の様子に、普段とは違うものを察したヴィルシーナは慌てて前に出て彼女を抱き留めていた。

 

「ぐすっ……お姉ちゃ~ん」

  

 こちらを見上げ、目に涙を浮かべて縋りついてくる姿にヴィルシーナは庇護欲を刺激され胸キュンしそうになったが、今は大切な妹を泣かせた原因を排除するのが最優先だと緩みそうになる表情を引き締めた。

 

「トレっちが、トレっちが~」

「あなたのトレーナーさんがどうかしたの?」

 

 まさか彼の身になにかあったのだろうか。

 夢を全力で手助けして実際にドバイまで連れて行ってくれたトレーナーに何かあれば、妹が精神に多大なダメージを受けることも納得だ。

 

「浮気しようとしてる~!」

 

 よし殴ろう。

 ヴィルシーナはそう決意した。

 

 

 

「……なんで僕まで」

「ごめんねシュヴァち~」

「別にいいけどさ」

 

 ヴィブロスから詳しい事情を聴いたヴィルシーナは次女であるシュヴァルグランにも声をかけ、トレーナー室をガサ入れしていた。

 シュヴァルグランはあのトレーナーがヴィブロスを放って浮気なんてするとは思えなかったが、よく考えなくても年齢的にヴィブロスは恋愛対象外のはずなので他の恋人がいてもおかしくない。

 担当のウマ娘という意味だと……ヴィブロスがシニア級になりトゥインクル・シリーズに慣れたことで二人目を探す可能性はあるかもしれない。

 

「見つけたわよ」

 

 証拠はあっさり見つかった。

 トレーナー室の机の上に隠すでもなく置かれたファイルの背表紙には『ウマ娘分析資料』という簡素な文字。だが、その頭には赤色でマル秘と付いていた。

 

「心配しなくても大丈夫よヴィブロス。この証拠を使って弱みを握ればあなたのトレーナーさんを飼い慣らすことは可能よ」

「……どう見ても浮気相手の情報とは思えないんだけど」

 

 暴走気味に物騒なことを言っているヴィルシーナを懐疑的な目でシュヴァルグランが見やる。

 妹がセレブ思考なのに対して姉は女王様気質なためか、強引な手段も辞さないことがある。

 だが、そもそもこのファイルの中身は浮気の証拠なんかではなく、ただの仕事の成果物だろうとシュヴァルグランは考えていた。

 

「……これは。確かに素朴な印象のウマ娘が多いわね」

 

 ヴィルシーナによって開かれた中身に綴られていたのはオグリキャップ、スペシャルウィーク、ライスシャワーといったウマ娘たちの情報。

 いずれも優れたウマ娘たちではあるが、ヴィブロスが劣っているとは思わない。そう腹を立てたヴィルシーナはさらにページを捲ろうとして……手を止めてファイルを閉じた。

 

「どうしたの?」

「な、なんでもないわ」

 

 突然の行動に疑問を投げかけるシュヴァルグランにヴィルシーナはどもりながら返事をする。

 その表情は苦虫を嚙み潰したように歪み、額に汗が滲んでいた。

 

「なんで隠すの、お姉ちゃん」

 

 まるで見つかった浮気の証拠を隠す旦那のような動きにヴィブロスの声に冷たいものが宿った。

 

「見せて!」

「ダメよ、これは見ない方がいいわ!」

 

 咄嗟にファイルを庇うヴィルシーナだったが、揉み合いの末に床に落下してしまいバサリと開かれる。

 そのページにはシュヴァルグランの写真が貼られており、赤マルで最重要と書かれていた。

 

「しゅ……」

「ヴィブロス、きっとこれはなにかの間違いよ!」

 

 まさかヴィブロスのトレーナーがシュヴァルに懸想していただなんて。

 シュヴァルがヴィブロスにも負けない素敵な女の子なのは全面同意だが、姉である自分はどちらを応援すればいいのか。

 姉妹の絆に大きな罅が入ることを恐れたヴィルシーナは必死に弁明をするが、拳を握って身体を震えさせているヴィブロスの耳には入っていないようだった。

 

「シュヴァちの泥棒猫~!!」

「えぇっ、なんで僕!?」

 

 状況に付いていけず驚愕するシュヴァルグランは泣きながら部屋を出ていくヴィブロスに手を伸ばすが、その手が届くことはなかった。

 

――――――

 

 翌日、三姉妹の実家を訪れ、広いリビングに通されたトレーナーは珍しいものを見た。

 

「うぅ~」

 

 もじもじと恥ずかしそうに体を左右に揺らしているヴィブロスはここ二年ほどの間、濃密な時間を過ごしてきたと断言できるトレーナーをして見たことのない姿だった。

 

 彼女の特徴的なツインテールが今日は結われておらず、ストレートに背に垂らされていてリボンも付けていない。服装はベージュとブラウンがベースのロング丈のワンピース。生地も厚手のようで、オシャレで高級品なのは分かるのだが派手さが欠片もない。

 

「うぅ~~」

 

 そんな常ならぬ恰好のヴィブロスはチラチラと上目遣いにトレーナーへと視線を向けている。

 トレーナーは理解した。

 これは褒められ待ちであると。

 思えばヴィブロスと初めて出会ったときもショッピングに同行して試着した服の感想を求められた。彼女のセレブ嗜好を含む様々な個性について知ったのも、その時だった。

 

「なんだか新鮮だな。似合ってるよヴィブロス」

「うぅ~~~」

 

 さっきからずっと唸っているヴィブロスはなぜかトレーナーの褒め言葉にがくりと頭を落として項垂れた。

 次いで廊下へと続くドアの向こうから強烈な殺気が飛んでくる。

 トレーナーがそちらに目を向けると、僅かに空いたドアの隙間から縦に並んだ二つの目がこちらを睨んでいた。

 

 それがヴィルシーナとシュヴァルグランであることはすぐに分かったが、なぜヴィブロスが落ち込み二人の姉から睨まれているのかが理解できない。

 もしかして褒め方を間違えたのかと思い至ったが、自分に褒め言葉のボキャブラリーやセレブ的なセンスを求められても困る。

 さて、どうしたものかとトレーナーが悩んでいるとヴィブロスが弱弱しく口を開いた。

 

「やっぱり、トレっちはこういう服装が好きなの?」

 

 トレーナーの頭にクエスチョンマークが浮かんだ。

 ヴィブロスは自分の好みを探ろうとして普段着ない服を選んでみたということだろうか。

 しかし、それなら何故褒めたことに落ち込んだのか。

 

「嫌いということはないけど」

「じゃあ、こんな感じのパーカーとか?」

 

 ヴィブロスの足元に置かれていた紙袋には服が入っているらしく、出てきたのは落ち着いた色合いの青が配色されたパーカーだ。

 セレブというか金持ちがオフにブランド物のスウェットとかジャージを着てるイメージがなくもないが、一体どんな理由でパーカー好きと思われたのか。

 

「パーカーも特に好きでも嫌いでもないけど、シュヴァルがよく着ているよな」

「あぅ……」

 

 シュヴァルグランの名前を出した瞬間、再度ヴィブロスが項垂れてドアの向こうから飛んでくる殺気が増した。

 訳が分からない。

 だが、このままでは自分の用事が頓挫してしまいそうだ。

 そう考えたトレーナーは仕方がないので先に切り出すことにした。

 

「実は今日はシュヴァルに用事があって来たんだ。いま話せるかな?」

「えっ?」

 

 ヴィブロスが驚愕したように目を見開く。

 

「休みの日に申し訳ないんだが、俺たちの今後にも関わる大切な話なんだ」

「ダメ! そんなのダメ!」

「えっ?」

 

 ヴィブロスの大きな声に今度がトレーナーが驚いた。

 

「確かにシュヴァちは私の家族でトレっちも家族だけど、トレっちは私のなの~!」

 

 状況が理解できずに両腕をブンブンと振り回しながら涙を流すヴィブロスを茫然を眺めていると、トレーナーはふと真横に気配を感じた。

 首を回して見上げると、そこには青筋を浮かべてコチラを見下ろすヴィルシーナの姿。

 どこぞの貴婦人を想起させる鬼みたいな気迫だなとトレーナーは呑気にも考えていた。

 

「お覚悟はよろしくて?」

 

 なんの覚悟か聞く暇は与えてもらえそうになかった。

 

 

 

「ご飯をたくさん食べるコツを知りたかった?」

「……はい」

 

 ヴィブロスたちの両親を含む家族五人に囲まれ床に正座しながら事情を説明する。

 経緯はさっぱり分からないが、俺は担当するウマ娘を増やすことを画策していると思われているようだった。

 

「ドバイターフでベストな結果こそ出せましたが、環境の変化に伴う体重の減少と疲労の蓄積は無視できません。これからも海外遠征を視野に入れるなら、身体作りの基本である食事量を無理なく増やしていく方法を見つけたいなと」

 

 オグリキャップ、スペシャルウィーク、ライスシャワー……そしてシュヴァルグラン。

 いずれも健啖家なウマ娘たちだ。

 時々ボテっと腹が出た状態で学園内を徘徊しているが、次に見た時は通常状態に戻っているので現役ウマ娘の運動量であれば太り気味になる心配もないだろう。

 そうでなくてもヴィブロスは成長期なのだから、もっと食べた方がいい。

 

「うぅ……恥ずかしすぎる」

 

 腹が制服からはみ出てしまうくらいに食べる女だと知られていたことに羞恥心を感じたのか、シュヴァルグランは両手で目を覆って俯いている。

 たくさん食べられるのはアスリートにとって貴重な才能だから誇ればいいのに。

 

「じゃ、じゃあトレっちが私よりもシュヴァちのこと好きになった訳じゃないんだ」

「そんなことある訳がないだろう?」

 

 ヴィブロスと出会う前にシュヴァルグランと会っていたら、どうなったかは分からない。

 誰とも出会っていない状態で三姉妹を並べられて、そこに三人のウマ娘がおるじゃろう?と選ばされた時に誰を選ぶかも断言はできない。

 だが共にトゥインクル・シリーズを駆け抜けた今となっては、俺にはヴィブロス以外を選ぶなんて考えられない。

 

「よかった~」

「はは、随分と変なことを心配していたんだな」

 

 尊敬する大好きな姉だからこその嫉妬と勘違いだろうか。

 なんにしても不安にさせてしまったのなら解消させておく必要がある。

 今日はいっぱい褒めて全肯定してあげないとな。

 

「つまり、トレっちは私を選んでくれるんだ~」

「ああ、もちろんだ」

「いや~ん大胆。それってプロポーズ~?」

「ははは、もちろん!」

 

 ―――あ?

 

 とんでもない失言だと気付き、訂正のため立ち上がろうとした瞬間、両肩に凄まじい勢いで手が乗せられて体が押さえ付けられる。

 

「あら、まさか恋愛で妹に先を越されるだなんて。羨ましい限りだわ」

 

 お前、もし撤回したらどうなるか分かってるんだろうなというヴィルシーナからの圧がギリギリと両肩に掛かる。

 助けを求めて目線を向けた先のご両親はニコニコ笑顔だが目が笑っておらず、最後の頼みの綱のシュヴァルグランは未だに恥ずかしがったまま視界を閉ざしていた。

 

 ……結局、その日はヴィブロスの()()()()しようという提案でホームパーティーが開かれ、俺はいつの間にか自室として改装されていた客間に泊まって夜を明かすこととなった。




最近はジェンティルドンナとヴィルシーナのことばかり考えている。
あのゴ……うきなる貴婦人に分からされる姉さんを見たい欲求が抑えられない。

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