イキったウマ娘がトレーナーに返り討ちにされるもトレーナーは最初から担当バにゾッコンなので最終的にドローに落ち着く話 作:ゆーりふり
しかし、逆に「ジェーンティルティルティルwww私が最強のティアラ三冠ウマ娘だドンナwww」みたいなエアプドンナを書けるのは今だけじゃないかと考え此処に至った。
担当トレーナーは生まれる世界を間違えた天然系です。
出会いはそう――事故だった。
高い才能と弛まぬ努力。
それに見合うだけの実力。
私はトレセン学園に入学した時点で強者の側だった。
自身の気質もまた強者――否、最強で在ることを求めていた。
だからなのだろうか。
入学式の日を迎えトレセン学園の敷地へと足を踏み入れた私は些か舞い上がっていた。
この学園の生徒なら誰だって目指す頂は同じだ。
最強最速。
ターフとダート。
距離とレース場。
適性の違いはあれど、最も速くゴールすることを至上として戦いに来ている。
戦い。つまり、勝負だ。
勝負であるのならば、そこには勝者と敗者が存在する。
勝者として君臨し、敗者を見下ろし誰が強いのか明確にする瞬間。
控えめに言って最高の時間であろう。
自分と同じく入学式の場へと足を進める者達を見ていると笑みが零れる。
肩で風を切って歩きながら周囲を威圧する者。
他人など興味ないと冷めた表情で我関せずを貫く者。
己の強さに絶対の自信を持ち獰猛に笑う者。
あれら全てが私に敗北して跪く日が来るのかと思うと、楽しくて堪らない。
「あら、失礼」
ふと、肩に軽い衝撃を感じると共に音が耳へと届く。
振り返れば、派手な出で立ちのウマ娘が床に尻餅を付いた状態でコチラを睨み付けていた。
確か先ほどから周囲を威圧していたウマ娘だったと思うのだが。
「立てます? 難しいのなら保健室まで抱えて行ってあげても構いませんけれど」
「て、テメェ……!」
どうやら、ぶつかった勢いで転けてしまったらしい。
私としたことが不慮の事故とは言え、はしたない真似をしてしまった。
強者なればこそ、力は細心の注意を払って行使しなければならないというのに。
「舐めてんのかっ!」
「なにかご不満でも?」
「ぐっ……。な、なんでもねえよ」
喧嘩腰で立ち上がり吠えるウマ娘は一睨みするだけで威勢をなくし、すごすごと逃げるように去っていった。
……つまらない。
彼我の力量差を測る聡明さもなければ玉砕覚悟で挑んでくる気概もない。
最初に交流したウマ娘があの程度だなんて、これからの学園生活に水を差されたようで不愉快だ。
倒す相手が優れていればこそ勝利の価値は高まる。有象無象の雑魚をいくら倒したところで井の中の蛙にしかならないではないか。
やり取りを眺めていた周囲のウマ娘たちなんて、睨んでもいないのに目が合っただけで怯えたように後退る始末。
そんなことがあったからだろうか。
これからへの期待と高揚。
落胆と失望。
色々と綯い交ぜになった私は少しだけ態度が投げやりで、油断をしていた。
だから対応を間違えた。
入学式へ向かう生徒たちの足が止まっていることを不審に思い、誘導をしていたトレーナーが近付いてきていたことに気付かなかった。
そのトレーナーが視界の端に映った瞬間、体が反射的に振り向くことを止められなかった。
どうせまた喧嘩を売ってきたウマ娘だろうと、力を制御することを放棄していた。
「おっと、もうすぐ入学式が始まります。君も急がないと遅刻しますよ」
その振り向き様の衝突は――。
鍛えられたウマ娘でさえ跳ね飛ばし、暴君や不沈艦にも競り負けない自信のあった膂力は――。
あろうことか、ただの人間に受け止められていた。
「ああ、失礼。女性の体に気安く触れるものではありませんでしたね」
なによりも腹が立ったのは、私の肩に手を添えた姿勢で立つ男がまるで華奢な女の子を受け止めたかのように軽い対応をしてきたことだろうか。
――――――
「是非、君をスカウトさせてくれ!」
「私を選んでくれれば必ず三冠を獲らせてみせるわ!」
「うちのチームなら、きっと君が望む環境を提供できるはずだ!」
選抜レースに勝利した私の周囲に群がるトレーナーたちの言葉を聞き流す。
聞こえがいいだけの口説き文句に興味はない。
トレーナーがスカウトするウマ娘を品定めするように、私たちもまた己の目で共に道を征く者を見定める。
そして、いま私が測りたい相手は一人だけだ。
「いかがでしたか、私のレースは」
「類稀な力強さを感じる素晴らしい走りでしたよ」
観客席でレースを観察していたトレーナーの一人に声を掛ける。
その男は巌のような体躯をしていた。
180cmを優に超える身長。
私の体を覆い隠せるほどに広い肩幅。
スーツの上からでも鍛え抜かれているのが窺える筋肉。
短く刈り上げられた頭髪の下にある顔付きは精悍だ。
「当然の評価ですわね」
私の身体をいとも容易く受け止めた男。
私を普通のウマ娘としか認識していない男。
「それで、あなたの見立てを聞かせていただけます?」
屈辱だった。
私たちウマ娘の本懐は速く走ること。
必ずしも肉体的な屈強さを求めている訳ではない。
それでも、眼中にもなかった人間の男なんかに私の身体が軽く柔い物のように扱われた事実が許せなかった。
だから、私の力と強さを思い知らせるために関わり合いを持った。
「それは以前も聞かれたジェンティルドンナさんがティアラ三冠を達成できるかという話ですか? そうですね……運が良ければ獲れるかと」
「運ですって?」
その言葉に頭に血がのぼるのを感じた。
今しがた私が見せた圧倒的な勝利はこの男になにひとつとして響いてはいない。
だから"運"などという要素が必要と言わせてしまう。
だが、私の望むティアラは運によってもたらされるモノでは断じてない。
実力のみを以て最強のウマ娘が勝ち取るモノなのだ。
「聞き捨てなりませんわね。私は運ではなく己の強さで三つのティアラを手に入れます」
「ふむ、そう言うのであれば大丈夫かもしれません」
「あなた、さっきからなにを言ってますの?」
煙に巻くような物言いに怒りが増していく。
もしかしなくても、この男は私と真面目に会話をするつもりがないのだろうか。
「本当の不運を知っている者はそんな楽観的なことは言いません。此処まで生きて来て
「……っ!!」
自分の口から鈍い擦過音が鳴ったのが分かった。
楽観的と言われたことに自然と歯噛みしていたようだ。
「怒らせてしまったのなら申し訳ありません。言いたかったのは、実力なら君が勝つ可能性は十分に有るということです。私も陰ながら応援しますよ」
「いいでしょう。その挑戦、受けて立ちます」
「……はい?」
示さねばならない。
私の"力"は不運も不条理も跳ね返すのだと。
「私のトレーナーになりなさい」
「えっと、それは何故でしょうか?」
理解が追い付かずキョトンとした顔をする男を見て少しだけ溜飲が下がる。
そうだ、これが正しい形なのだ。
私が他を圧倒するのが在るべき姿だ。
「一番近くで私の勝利する様を見せて差し上げましょう。そして教えてあげます。私の強さは運の介在する余地などない完璧なモノであると」
外野から眺めて終わった後に『運が良かったですね』などとは言わせない。
私の歩む道を隣から余すことなく見ろ。
誰一人として私には並び立てないのだと知れ。
私の勝利は必然だったと、その口から言わせ自身の不明を認めさせてやる。
「これからよろしくお願いしますね、私のトレーナー?」
「あっはい」
――――――
トレーナーは寡黙な男だった。
知識も見識も優れているが多くは語らない。
必要なことを必要なだけ教え、後はウマ娘の自主性を尊重する。
その接し方はトレーナーというよりも教師のように思えた。
超一流のアスリートと言われても納得の体躯をしているがスポーツや格闘技を嗜んでいるという話は聞かない。
一見すると威圧感のある容貌だが、頼み事を断らず大きな身体をしているからか学園内では頼り甲斐のある男だと言われている。
誰に対しても態度が変わらず公明正大な人物というのが総評になるだろうか。
そんな男に私の″力″こそが最強なのだと刻む日が待ち遠しい。
そうして担当契約を結んで以降、私はティアラ三冠の前哨戦としてトレーナーを試すための行動を開始した。
私を最強だと認めさせることは勿論だが、改めて考えてみると人間がウマ娘に匹敵する身体能力を持っているはずがない。
あの時、私の身体が止められたのは咄嗟に加減ができていただけなのだろう。
偉そうに教育者面してガタイが良くとも所詮は人間。
ウマ娘――ましてや
そう思い直したのだが……事は上手くは運ばなかった。
「そちらのダンベル、片しておいてくださいな」
その日、トレーニングルームで筋トレに使用したダンベルの重量は二百キログラム。
特殊な合金を用いてウマ娘用に拵えられた特注品だ。
バーベルであっても一般人が持ち上げることは不可能な重さ。
ましてや両手で持つのに適さないダンベルとあってはウマ娘でも使用者を選ぶ。
私だからトレーニングに使える代物。
他にもわざと散らかした大小のプレート全てを合わせれば、総重量は果たして何百キロになるだろうか。
「分かりました。ジェンティルドンナさんはトレーニングを続けていて構いませんので」
その人間に扱えないはずの重量物がまるでプラスチック製だったのかと錯覚するような気軽さで拾われていく。
両腕で山盛りの重量プレートを抱えて苦もなく運ぶ姿はとてつもなく異様だった。
「この蹄鉄は合いませんわね」
またある日はレースで使用する蹄鉄の合わせをしていた。
厚みや素材の異なる蹄鉄をとっかえひっかえして比べていく。
そして、試し終わった蹄鉄は乱雑にトレーナーへ向けて放り投げる。
その金属塊が出すスピードは豪速球と言っていい速度だ。
頭部や重要な臓器に当たれば死亡は免れず、四肢であれば粉砕されるだろう一撃。
「数は多いですが安全に直結する道具です。しっかりと見極めてくださいね」
それらが空のペットボトルでも受け取るかのようにキャッチされる。
私であっても受け止め方を誤れば指先を怪我しかねない勢いのはずなのに。
あえて視線を外したタイミングで投げてもキャッチできるのはどういう理屈だろうか。
……そうして一年近い月日が過ぎて流石に私も理解した。
「あくまで私の力に抗う。そういうことですわね」
「特にそんなつもりはないのですが……」
いいでしょう、認めてあげます。
この男の身体能力は私に匹敵する。
だが、それは私の敗北と同義ではない。
私たちウマ娘が至上とするのはレースの一着だ。
このレース――桜花賞でそれを示す。
「そこで見ていなさい。私の完全無欠の勝利を」
「えっと……まあ担当トレーナーですので見ますが」
その呆れたような顔は腹が立つからやめろ。
――――――
それからまた少し時間が経った。
私はクラシック戦線で宣言通りに三つ全てのティアラを頭上に頂いた。
そうして名実共に最強のウマ娘の一人に名を連ねた。
だと言うのに……。
「では、ジェンティルドンナさん。今後はエリザベス女王杯やヴィクトリアマイルではなく、混合路線に挑むということでよろしいですね?」
「ええ。ヴィルシーナさんを降した以上、ティアラ路線に私の敵となるウマ娘はいません。ならば次はクラシック三冠に挑んでいた者たちや上の世代を標的とするべきでしょう」
「ヴィルシーナさんを降した……ですか」
納得のいってなさそうな顔にまた腹が立った。
GⅡレースも含めれば自分は四度もヴィルシーナに先着している。
秋華賞は少しだけ背筋が冷える思いをしたが、どちらが上位者であるのかはっきりしたと言ってよいはずだ。
「なにか文句がお有りで?」
「確かにティアラ三冠でジェンティルドンナさんが勝者であったことは自明です。ですが、ウマ娘のピークがいつ訪れるかは誰にも分からない。シニア級に上がった後のヴィルシーナさんにあなたが勝てるかもまた同様です」
そんなことは分かっている。
私はヴィルシーナに四度勝利し、彼女は四度敗北した。
だがそれでも、彼女はまだ折れてはいない。
秋華賞で勝敗を分けた七センチが次に逆転していない保証など何処にもない。
「もう一度きっちり叩き潰してこい。そうおっしゃっています?」
「そういう訳ではありません。まあ、厳密にはヴィルシーナさんとジェンティルドンナさんの得意距離は異なっている。無理矢理に挑みに行く必要はないですね」
「私が挑むのではありません。ヴィルシーナさんが挑んでくるのです」
全く以って腹立たしい。
この男は初めて会ったときからなにも変わらない。
私のことをなにも特別だと思っていない。
この私を――ティアラ三冠を成し遂げたジェンティルドンナを他のウマ娘と同じように扱う。
仮にも私の専属トレーナーであるのに。
私に尽くすのは担当トレーナーとそのウマ娘だからで、
私の力に、
ただ教え導く者として教え子に接する。
「ジェンティルドンナさんらしい物言いですね。そうなると今後のレースでライバルとなるウマ娘はオルフェーヴルさんにゴールドシップさん……他にも沢山。とても才能豊かな世代です」
だから何も変わらない。
私に怯えない。
私に媚びない。
私との距離を必要以上に縮めようとはせず、私の"力"を以てしても変えることができない。
その事実が堪らなく受け入れられない。
「……ねえ、トレーナー」
「はい、なんでしょう」
それでも変えたいと思うのなら、行動に移すしかない。
女の子として扱われていても、異性としては全く意識されていない事なんて全然気にしてない。
ただ現状が腹立たしいだけだ。
「私のこと、何時までその呼び方で通すおつもり?」
「呼び方、ですか?」
その呆けた顔は惚けるつもりなど一切なく、本心から何を言っているのか分からないという表情だった。
――ああ、もう本当に腹が立つ。
「いい加減、他人行儀ではないかしら?」
気安い態度を許すつもりなどない。
舐めた態度なんて絶対に許さない。
だが、専属トレーナーと担当ウマ娘の関係性がその他大勢に対するものと同じ扱いなんていうのは業腹で仕方がない。
「私の名前、決して短くはないでしょう」
略称にせず敬称を付けた呼び方は礼節を弁えていると言えなくもない。
しかし、周囲と比較してみれば仲が悪いとも取れる仰々しさだ。
あの唯我独尊な暴君や奇天烈不沈艦でさえ『オルフェ』や『ゴルシ』といった愛称で呼ぶことをトレーナーに許しているのだ。
これではまるで私があの癖が強すぎる二人よりも、さらに横柄でコミュニケーションに難があるウマ娘のようではないか。
私が三つのティアラを頂くに至った過程にトレーナーの助力があったことは事実。
ならば愛称のひとつくらい許すのが女王の器量というものだろう。
ジェンティルあるいはドンナ。
そこに"さん"付けするかどうかは好きにすればいい。
「私にとってはあなたも屈服させる対象ではあります。けれど、外から見れば私の隣に侍っている存在なのも確か。親愛の証……ではなく褒美の一つとでも思って受け取りなさい」
わざわざ懇切丁寧にそう述べてあげたというのに、なぜかトレーナーは困ったように眉を曲げ、口元を手で覆って思考に耽り始めた。
「なんです、その反応は」
「ジェンティルドンナさ……君からそんな提案をされるとは思わなかったもので。さて、どうしたものでしょうか」
なんだそれは。
まるで私が融通の利かない女のようではないか。
「難しく考える必要はないでしょう。奇抜さは不要。ただ呼びやすければそれで良いのですから」
「なるほど……」
得心が言ったようにトレーナーはポンと手を叩いた。
そもそも最初から二択しかないだろうに相変わらず変な男だ。
「では、これからは親しみを込めてドンちゃんとお呼びしますね」
「しばくぞ」
『ゴルシちゃん』と『ウィンディちゃん』が居たのが良くなかった。
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