箱入り最恐サキュバスは精を搾らない 作:女体化サキュバスだいしゅき人間
「あと少し」
俺は暗い森を逃げる。
俺は自由になりたい、好き勝手生きていたい。
縛られてる生活はこりごりだ
ここはサキュバスの森。
俺はサキュバスとして生まれたのが心は男であった。
サキュバスの教育は俺からしたら、それはまさに地獄だった。
やれ、男の気持ちよくなる部分を覚えろ。
やれ、ある部分を無理やりたたせろ。
男をだますために弱っているふりをしろ。
腕をさりげなく絡ませる演技をして、いい雰囲気なったところで一気に襲え。
もううんざり!
それがどれだけきつかったと思っている。
使える魔法も淫魔法と闇魔法の二種。
そのうちの淫魔法は催淫効果をもたらすものだし。
目なんて魅了の魔力が宿っている。
俺は同性愛者なのにこれら三種が、なぜか他サキュバスより優秀であった。
そのため森の同級生である皆は口々に言うのだ。
羨ましいと。
こっちは羨ましくない!
そうしておれはサキュバスの森と人間界を隔てる結界をようやく抜ける。
森を抜けた先はまた森の中。
特有のオスの匂いが辺り一面に充満し、そこら中に白い液体がこびりつく、おどろおどろしいサキュバスの森とは違う。
日の光が入り込み、優しい風が頬をなでる。
新鮮な空気で満たされた清涼なる森へと降りられた。
ここまでくればもう、サキュバスの追ってを気にしなくて大丈夫である。
なんせサキュバスの森を抜けた先は完全ランダム。
追いかけて来ようにも、別の場所に出てしまうので捕まえることはできないのだ。
元は世界中に散らばれるように設計されたシステムなのだが、こんな風に活用できる日が来るとは。
でもこれでようやく落ち着けた。
俺はその場で休憩のために少し座り、しばらくたってから歩き出した。
「お腹空いた」
朝から何も食べていないと腹を擦る。
というよりかは、何が入っているか分かったものじゃないので物心着いた時からもう何も食べていない。
そのため他サキュバスはグルメなんだと俺を遠目で嫌煙することが多かった。
「獣か木の実か」
なんて適当に森を散策していると、視界の端できらりと何かが反射する。
「うん?」
それは骨だった。
それも多分人間の骨。
見慣れているから分かるのである。
「はぁ……」
正体が分かった俺はため息を漏らした。
地面に付いているのは獣の足跡ではない。
何か細いものを引き摺った痕と人間の靴跡。
それも途中で切れており、追うことすらできない。
そもそも人間は不味い。食えたものじゃない。
両手を頭の後ろに置いて「あーあ」とぼやき、俺は歩き始める。
* * *
「……フッ……ハァ! ……」
しばらく歩いていると、何か棒を振っているかのような風切り音が聞こえてくる。
さらに耳を澄ませてみれば、声はどうやら人間のオスものらしい。
運がいい。
適当に魅了でもしてご飯を貰おう。
腹が減り過ぎて手段を選ぶ余裕なんて無かった。
既に走り出していた。
草や茂みをかきわけ開けた場所に飛び出した。
予想通り、確かにそこには人間の子どものオスが居た。
一挙一動何やら動きを確認するかのように、長い棒を振っている。
「女の……角と尻尾!? なんでこんな場所に!」
驚いているところどうでも良いが、おれはすぐに人間のオスの両肩に掴み掛かり、魅了の魔眼で見つめ、
バチンッ! と何かに弾かれた。
こいつ、魅了が効かない!?
見ればこのオスの服には何やら魔力が込められている。
この服のせいか。
「お、俺はこ、これでも、聖騎士の見習いだ。相手になって――」
「ご飯! ご飯くれ! お腹空いた!」
「こいつ……飢餓状態か」
「パン! パン! パン!」
「こんなのばっかりか」
パンが欲しいって言っているだけなのになぜ通じない!
少年に掴み掛かっていると、森の木々がざわめき始める。
さっきまでの優しい風と違い、少し激しい風が頬をなでる。
少し気になったので、オスの肩から手を放して振り向く。
ざわめきは大きくなる。
騒ぎの主は近づいてきているのが分かる。
まったく、こっちは早くご飯食べたくて気が気でないのに!
そうして姿を現したのは猿だ。
ただのでかい紫色の猿。
「し……紫煙の大猿、こんなところに居ていい魔物じゃ」
なんて言って人間のオスはガタガタと震えだした。
その様子に俺はふと思う。
……こいつ殺せばご飯くれっかなぁ。
こいつ自体はまずそうだし。
紫猿は手に持った人間の死骸を投げつけてくる。
俺はその飛来物へ手のひらを掲げ、闇魔法で消し飛ばした。
それから人間のオスに振り返り、ニコッと笑む。
「あれ消すからご飯ちょうだい?」
言うが速いか、俺は最高速度で飛行して、濃縮した闇色の球体を紫猿に放り投げる。
球体は紫猿の身体へと着弾し、黒い太陽のように膨張した。
紫猿の身体が崩れ去る。
見れば黒い太陽の当たった場所が丸ごと抉り取られている。
俺は手を振りかざし、残った黒い太陽をぎゅっと握り潰した。
すっとへたれ込んでいるオスの近くでしゃがみこむ。
そのまま両肩を掴んで揺すぶってみる。
「終わったよ。だから速くご飯くれよご飯!」
「や、やるから! だから振るのは止めてくれ!」
「分かった!」
ぱっと手を放してみれば、人間のオスはぐったりとして地面に顔を付けた。
口からは涎が流れ落ち、グロッキー寸前のようである。
しばらくその場でしゃがみこんで待ってみれば、ようやく回復したのか頭を抑えながら上半身だけ起こした。
「で、お前の言うご飯って何だよ」
「パン!」
「それって大人のやる奴か? それとも朝食で食べるような焼いた奴か?」
「焼いた方!」
「……お前、サキュバスだよな?」
「見ての通り、それ以外の何に見えるかな?」
人間のオスは深々とため息をついて完全に立ち上がった。
土ぼこりをパタパタと叩き落としながら、改めて疑惑の表情を浮かべる。
「なんで襲わなかった」
「それはどっちの意味でかな?」
「……両方」
人間のオスは顔を赤くしてそっぽを向く。
俺はその反応にニヤニヤとしたり笑みを浮かべながら、「やーらしい」と弄ってみる。
「うるさいな! こっちはお前らのような悪魔から人を守る聖騎士! の見習いだ。理由が気になっても良いだろ」
「そんなもんなの?」
「そんなもんだ!」
それじゃあと、俺はここまでの経緯を話していく。
サキュバスの森でのこと、俺の心の性別が男であること、それとサキュバスの習性が嫌で嫌で仕方なかったから抜け出してきたこと。
すべてを包み隠すことなく、洗いざらい喋っていった。
俺の今までを聞いた人間のオスの反応はというと、
「信じられない」
疑いの目で俺を睨みつけてくるのである。
理由を聞いてきて、素直に話されたらそれはそれで信用できないなんて。
じゃあ何をどうすれば信用するんだろう。
面倒くさいから身包みでも剥いでから魅了する?
でもそれしたって聖騎士ってことはさ……。
めんどくさいなぁ。
おれは人間のオスに手を振る。
「もういいよ。お前、いらない。別のとこ探すから」
ここでグダグダしている方が時間取られるしね。
さっさと別の場所に行こ。
お腹空いても猿は食べたくないし。
「待てよッ!」
声を張り上げる人間のオス。
俺はくるりと振り返る。
人間のオスは頬を掻く。
「礼をしないとは一言も言ってないだろ……。来いよ」
「じゃあパン! 久しぶりにパン食いたい!」
「どんだけだよ」
「言っとくけど、こっちは五歳の時から何も食べてないんだからな!」
俺は人間のオスに駆け寄っていき、その手を握る。
そのまま歩き出そうとすると、人間のオスは何やら変なことを言ってくる。
「お前、本当に男に興味は無いんだよな?」
「何か変なことしてる? 魅了眼とか使ってないけど」
「いや、気づいていないなら良い。それと、うちの父ちゃんは聖騎士団長だから。その羽と尻尾、消して行けよ」
俺は「はーい」と高らかに返事をして、言われた通りに翼と尻尾を消す。
人間世界でも普通に出している人は出しているって、教わったんだけどなぁ。
木を隠すなら森の中。
忠告通りにしておこう。
「それとお前、名前は?」
「……名前」
「無いのか?」
「あるにはあるけど、女っぽい名前で好きじゃない」
人間のオスは顎を手で擦る。
「じゃあディア! お前は今日からディア! ちなみに俺の名前はミノだから、今後そう呼ぶように」
「ディア……そのまんま」
「うっさいなぁ」
「でもディアね。うん! 今日から俺はディアだ!」
俺は少し嬉しくなって大手を振る。
初めて本当の俺の姿で名前を呼ばれた気がする。
嬉しいなぁ。
本当に、嬉しい!
こっちに来て良かった!
なろう版から相当変更。