過度な期待はせんでください。
かつての『超常』が『日常』となり……
『異能』と呼ばれた力が『個性』と呼ばれ……
『個性』を好き勝手に振るうことで、殺人、窃盗、傷害、いわゆる悪事を働く者たちを
嫌でも巡っていく日常の中、誰もが敵の存在を恐れ、そんな敵たちと戦うヒーローを賞賛し、憧れた。
そんな世界にあって……
否、この世界に限らず、どんな世界にも、例外と呼ばれる存在があるのは常と言っていい。
ヒーローとなるために必要な、ヒーロー免許。
確かな教育課程を経たのちに、厳しく狭き門である資格試験に合格することでやっと入手できるそれを持つ者たちのみ、ヒーローとして個性を行使することが許される。
だが、中には……
そんなヒーロー免許を持たないまま、言ってみれば、一市民でしかない身でありながら、”力”を振るい、敵と戦おうとする者たちもいる。
もっとも……
現代のNo1ヒーローにして、『平和の象徴』”オールマイト”の台頭と、彼に続く実力派プロヒーローたちの活躍によって、平和な日常が約束されたこの国での今となっては、もはや絶滅危惧種といっていい存在だった。
だが、あくまで絶滅危惧種であって、絶滅種とは違う。
自警団は、今でも存在する。
そして今、一つの国で、その国全てで話題となっている、自警団の存在があった……
……
…………
………………
某所。某ビル内にある、警察庁特別会議室にて……
「『
大勢の警察関係者たちが座っている前で、前に立つ刑事は説明を続けながら手元のPCを操作する。スクリーンには、話に出てきた集団を、かなり遠くから写したらしい写真が表示されていた。
「一見すれば、よくある未成年の不良集団、暴走族ですが、これまで数々の
続けて表示されたのは、左目に深い傷を負いながらも凶悪な笑みを浮かべ、更には全身から肥大化した筋繊維を出現させている大男。
そして、ライフジャケットを思わせる装備を身に着けた男女……否、夫婦のプロヒーロー。
刑事が説明している集団の、規模の割に報告数も信憑性も少ない目撃証言の中でも、確かに信頼できる情報の裏付けとなる出来事と証言と言える。
「そして現在。今でもプロヒーローや市民の間でも目撃証言は多数あり、中には大勢の野次馬やマスコミがその場にいたにも関わらず、やはり彼らを鮮明に写した写真や映像は残っていない。おそらく、彼らの中に妨害系、または証拠隠滅を可能とする『個性』を持った人物がいるためと推察できますが……そういった経緯による証拠の少なさもあって、彼らが出現した後でなければ我々も彼らを捕捉することができず、また、いざ現場へ到着した時には、全てを終わらせ逃走した後だった。そんな状態が続いています」
……
…………
………………
「質問よろしいでしょうか?」
場所は変わって、某所にある、とある高等学校。名を『雄英高校』。
1年A組――ヒーロー科1-A。
その教室では某会議室と同じように、
各クラスの生徒数は20名。
うち、長い髪をポニーテールにまとめた女子生徒が、発言の許可を得たことで質問を発した。
雄英高校 ヒーロー科1-A 副委員長
「いくら、妨害系個性の持ち主がメンバーの中にいると言っても、百人もの集団が同時に行動しているのです。まして、彼らは私たちとは違い、訓練も行っていない……言い方は悪いですが、素人の集団のはず。そんな集団が、これまでただの一人も捕まっていないというのは、いささか信じられないのですが……」
彼女の発言を受けて……
聞いていたクラスメイトたちも、同じ疑問を抱く。
プロヒーローでもある担任教師も、その疑問に答えるために発言を行った。
雄英高校 ヒーロー科1-A 担任
「そうだな。言い方が良くなかった……八百万の言う通り、いくら妨害と逃走が上手いとは言え、百人の全員が全員、逃げられるわけじゃない。実際、メンバーの中で数人だが、逮捕者も出ている」
「逮捕されているんですか?」
「そうだ……逃げ遅れたところを警察に捕まったヤツもいれば、敵にやられて病院に搬送されたところを逮捕されたってヤツもいる。こいつらのせいで仕事を奪われたプロヒーローが逆恨みで攻撃したって例もあった。まあ、そのプロヒーローは後でプロ資格をはく奪されたが……」
最後に、プロの世界の生々しい現実の話を聞いてしまった彼らだが……
重要なのは、そこではない。
「もちろん、そうやって捕まった構成員からも話は聞いた。普通なら、そこから芋づる式にチーム全員の逮捕ってのがお決まりのパターンだが……捕まったヤツらの全員が全員、誰もが知ってるチームの断片的な情報こそ話しはするが、決定的なチームの詳細、何より、主力メンバーを始め仲間の情報を吐くヤツは一人もいなかったらしい……証拠も無く、現場に警察がいたわけじゃねーから、やっていること自体は敵相手の正当防衛で通せるし、何より、未成年相手に、個性を使ったり無茶な取り調べをするわけにもいかないから、結局情報は聞き出せないまま、釈放するってのがお決まりのパターンだそうだ」
「……そこまで口を閉じるくらい、ヤベェヤツなのか? 総長ってヤツ……」
「ヤベェってのは……情報を吐いたヤツは生かしておかねー、的な?」
雄英高校 ヒーロー科1-A
雄英高校 ヒーロー科1-A
クラスの中でも特に小柄な男子生徒と、特にチャラい外見の男子生徒が、やや脅えたふうに発言をするも……
相澤は、首を横に振った。
「俺も一度、捕まったメンバーの一人の取り調べに立ち会ったことがある。取り調べ中、総長やチームに対して恐怖を抱いている様子は全く無かった。むしろチームの仲間、特に総長に対して、強い恩義を懐いていた」
過去を振り返り、同時に、又聞きした内容も思い出す。
「そいつだけでなく、逮捕された構成員の全員がそうだったらしい。なんでも、総長のアドバイスで制御困難だった個性を制御できるようになったり、個性を伸ばして、敵と戦える力を身に着けられたって話だが……要するに、恐怖政治ではなく、純粋に仲間やチームは売らないっていう、忠義心と強い絆でまとまった連中というわけだ」
「うおおおおお!! 違法のヴィジランテって言っても熱いヤツらじゃねーか!?」
「男の熱い友情! 熱血っすね!?」
クラス内でも熱い性格、ついでに大きな声を持つ二人が同時に立ち上がり叫んだ。
雄英高校 ヒーロー科1-A
雄英高校 ヒーロー科1-A
そんな二人に対する、「座れ……」という相澤の一言が、二人を黙らせ、座らせた。
「……だがまあ、そういうことだ。八百万の言ったように、未成年の素人集団ではあるが、総長の号令やら、個性の訓練のもと、強いうえに驚くほど統率の取れたチームでもある。実際に、“血狂いマスキュラー”を始めとする多くの敵がこのチームによって打倒され、逮捕に至っている」
一通り話を終えて、それでも……と、相澤は続けた。
「連中が、法律を無視して個性を使い、敵どもと戦っているヴィジランテ、つまりは犯罪者集団であることには変わりない。お前たちも、今度の職場体験を始め、こいつらと関わる可能性はある。まだヒーローの卵であるお前たちに、こいつらをどうこうする権利や権限は無いが……このことを頭に入れて、警戒しておけ」
担任によるまとめの言葉に、クラス全員「はい!」と同時に返事を返した。
「にしても、何者なんすかね? 百人ものチームをまとめて、個性伸ばしまでやってのける総長ってのは!? しかも、話聞いてたら、俺らと歳もそんなに変わらないんすよね!?」
と、話がまとまったと思った所で、『夜嵐イナサ』は興奮冷めやらぬといった調子で声を上げていた。
そんな夜嵐の様子に、相澤はため息を一つ吐きつつも……
「今言ったように、捕まったヤツらが口を割ろうとしないから、確たる情報は皆無に等しいが……だが、噂は流れているはずだ。そして、その噂はおそらく正しい」
「マジっすか!?」
そんな二人のやり取りを……
後ろの席で、特に興味を示さず、無言で傍観している生徒がいた。
……いや、興味が無いというよりも、別の事柄に意識を向けていると言うべきだろう。
雄英高校 ヒーロー科1-A 学級委員長
普段の真面目な彼なら、騒ぐ生徒を注意し、文句を言っていたに違いない。だが、この日の学級委員長は、ただただ黙って、事の成り行きを傍観するだけだった。
「マジだ。正直、俺も信じられないんだがな……」
そしてもう一人。
飯田と同じく黙ってはいるものの、もしかしたら、このクラスで誰よりもその話題に興味関心を示す者。
「総長は百人の構成員の中で、ただ一人の『無個性』だということ……そして、逮捕された者たちには、共通してこう呼ばれていた」
クラス内、どころか一年生の中でも随一の人相の悪さを持つ彼……
雄英高校 ヒーロー科1-A
彼の呟きと、相澤の声が、重なった。
「「”無敵のデク”」」
……
…………
………………
日付は変わり……
東京都某所にある、名も無い神社前にて――
物々しい。
それが、この場の状況を表すには最もふさわしい言葉だろう。
まず、時刻はすでに夜なのに、神社の前の一帯は明るい。それは、元ある外灯に加え、何十台と集まり停められているバイクからの、ヘッドライトが空間を照らしているせいだ。
加えて、夜の静けさは無く騒々しいのは、停められたバイクのエンジンが掛かったままであり、中には大喜びで空吹かしする者もいるせいだ。
そんな場に集まった連中の雰囲気も、物々しいと表現するべきものだった。
全員、年齢こそ若いようだが、そんな若さを忘れさせるほどの物騒な空気、雰囲気を漏れなくまとっている。
生まれつきの個性柄、どうしてもそういう外見になってしまう者もいるだろうが……
派手にセットされた髪型。開けられたピアス。ジャラついたアクセサリー。
そんな見た目の通り、荒々しさと、暴力的な力強さが、彼らの口調、立ち居振る舞いからは隠す気なく醸し出されていて、いわゆる、『不良』であることが誰の目に見ても明らかである。
中には見るからに気が立っている者もいて、余計にこの空間の物々しさに拍車をかけている。
そんな不良たちの全員、同じ服装をしていた。
黒色の特攻服。今時時代遅れと言ってもいいその背中には、金色の縦文字が刺繍されていた。
『 東
京
卍
會 』
そんな物々しい空間に……
ブオンッ
ブオンッ
新たに二つの排気音が鳴り響いた。
それまで好き勝手に振る舞っていた若者たちが、一斉にそちらへ視線を向ける。向けた後で、左右に並んで道を開けた。
道を開けた上。神社の石段まで続く石道の上を、二台のバイクが突っ切り始めた。
前のバイクには、ガタイの良い長身の男が。後ろのバイクには、小柄な低身長の男が乗っていた。
「「「「おつかれさまです!!」」」」
「「「「おつかれさまです!!」」」」
一斉に下げられた頭と共に、空間に響く不良たちの挨拶のもと。対象的な二人は、石段のすぐ前にバイクを停める。立ち上がり、被っていたメットも取り去った。
長身の男……
金髪に染め上げた髪を頭頂部のみに残し、左右は剃りこんでいる。そんな
東京卍會 副総長
そんな、恵まれたガタイと目立ち過ぎる外見の少年の横で、メットを取った小柄な男は……
はっきり言ってしまえば、地味な印象の、少年である。
まず、この場に集まった全員が全員、髪の毛の一部、または全てを染めていたり、長く伸ばしていたり、目立つ剃り込みを入れていたり、奇抜な形にセットしたりと、とにかく目立つ頭をしている。
なのにその少年は、おそらく天然なのであろうモサモサの緑がかった黒髪を、特に手入れするでも整えるでもなく、自然に伸びたままな状態にしている。
目立つと言えば目立つかもしれないが、彼らのように、目を引き、良識の範囲を逸脱しているほどじゃない。
顔つきも、いかにも不良然とした他メンバーとは違い、そばかすの残った顔には幼さとあどけなさを浮かべている。
ピアスを開けているわけでもなければ、
小柄な体格も相まって、一見した印象は、目立たず地味な、善人といったところだろう。
いくら、特攻服の下に、そんな小柄な肉体を限界まで引き絞ったような、細身ながらも鋼のような肉体を備えていようとも。
いくら、誰よりも目立つ、くるぶしに届くロング丈の特攻服を揺らしているとしても。
いくら、彼は不良だと説明されたとしても。誰も、その少年を見て不良だと思う人間は、いやしないだろう。
そして、この少年こそ……
ロング丈の特攻服の、左袖に刺繍された金文字が示す通り……
「「「「おつかれさまです!! 総長!!」」」」
「「「「おつかれさまです!! 総長!!」」」」
両手を後ろに、腰を直角に曲げ、声を上げる不良たちの声が示す通り。
誰よりも目立たず、地味な印象を受ける、この小柄な少年こそが――
東京卍會 総長
「デク、ドラケン……」
そんな、総長と副総長の二人に、気安く近づき話しかける男がいた。
左耳に十字のピアス。白紫色のベリーショートヘア。広い額の中心に、両目とは別の単眼が光る、軽度の異形型の少年は、二人に対して小声で説明を行った。
東京卍會 弐番隊隊長
「……」
三ツ谷の言葉を聞いて、ドラケンはため息を一つ吐くと……
「おい
若干のイラ立ちを込めつつ。ただし、完全に威圧的にならないよう意識しつつ。そんな呼びかけを行った。
メンバーの視線が、ドラケンの叫んだ方向へ集まる。
神社には珍しくない石灯篭が立っていた。大人が隠れるには無理のある幅しかない石灯篭から……
「……」
ひょっこりと、帽子をかぶった、小さな少年が顔を出した。
小学生
「お前、何度も俺らには近づくなって言っておいたのに……とうとう集会場所まで嗅ぎつけてきやがって」
「べ、別にいいだろ!?」
イラ立ちを込めたドラケンの低い声は、普通なら、聞いただけで萎縮する。顔も見ているならなお更だろう。
だが洸汰は、多少は脅えつつも、拳を握り叫び返した。
「俺だって、
「お前はまだガキだから、ウチには入れねーって何度も言ったろうが?」
「俺はガキじゃない!!」
「バイクの足も届かねーヤツが、ガキじゃなくて何だって?」
「うぅ……」
「ドラケン、それ下手すりゃ個性差別だぞ……」
子供らしい洸汰の反論に、ドラケンはからかい口調で返す。三ツ谷からの指摘も途中に挟みつつ……
「うるさいドラケン! お前が認めなくたって、俺は東卍に入ってやるからな!」
「……なんだって、ウチにこだわるんだ? 日本にはオールマイトだっているし、お前の両親もプロヒーローなんだから、敵倒してーなら普通はプロヒーローに憧れるもんじゃねーのか?」
何気ないふうに聞いているが、今のご時世、それは真っ当な疑問である。
ドラケンも、ここに集まっているメンバー全員、自分たちが褒められた存在でないことは自覚している。
加えて、仲間の力のおかげもあって、未だに自分たちの存在は、認知されてこそいるが、明確にはされていない。
そんな曖昧かつ、後ろ暗い存在である自分たち以上に、テレビやネットの世界で華やかに活躍している、オールマイトを始めとしたプロヒーローたちの姿に憧れ、自分もまたヒーローを目指す。
洸汰が、複雑な事情は分からない子供なことを差し引いても、それが、現在のこの世界の子供たちが懐く夢の常道と言っていい。
だが、洸汰は首を横に振った。
「そのパパとママに勝てなかった敵を倒したのが、デクにーちゃんと東卍じゃねーか!」
洸汰の目には、オールマイトやプロヒーロー、両親ではなく、真っすぐ、今目の前に立っている東卍――デクに向けられていた。
「敵にやられて死にそうになってたパパとママを、助けてくれたのは東卍だ。それに、そんなパパやママでも勝てなかった敵を、倒したのはデクにーちゃんだろう? だったら、パパやママや、他のヒーローよりデクにーちゃんや東卍はすごいってことじゃねーか! パパやママより、デクにーちゃんたちの方がずっと――」
「洸汰」
ずっとかっこいい――
そう叫ぼうとした洸汰に呼びかけ、前に立ったのは、”無敵のデク”……
「親を……ウォーターホースのことを、そんなふうに言っちゃダメだ」
「デク、にーちゃん……?」
デクは、洸汰に合わせてひざを着いて、目をジッと見つめた。
「確かに、マスキュラーにトドメを刺したのは俺だ……けど、倒すことができたのは、お前のパパとママが必死に戦って、アイツにケガさせて弱らせてくれてたからだ」
洸汰とジッと目を合わせ……
ゆっくり、言い聞かせるように、話していく。
「ウォーターホースだけじゃねぇ。弱ってたとは言え、マスキュラーはマジで強敵だった。そんな敵に勝てたのは、ケンチンに三ツ谷、東卍の仲間たちが、俺を必死に支えてくれたからだ。コイツラがいなかったら……もちろん、ウォーターホースがいなかったら、俺は今ごろ死んじまってた。俺がマスキュラーを倒せたのは、東卍の仲間たちと、洸汰のパパとママのおかげだ」
洸汰だけでなく、後ろに並ぶメンバーたちにも聞こえるよう、断言する。
それを聞いて、メンバーの多くは誇らしく微笑み……
ドラケンは、苦笑していた。
(こういう場でその呼び方はやめろって……てか、マスキュラーの時も、俺が『個性』使って押さえるのがやっとだった相手を、『無個性』の蹴り一発でノしちまったのを、俺らのおかげだって言われてもなぁ……)
ドラケンに限らず、三ツ谷や、その他幹部クラスのメンバーも同じことを思っていた。
「お前のパパとママは、めちゃめちゃ強くて立派なヒーローだよ。だから東卍より、そんな東卍のことを助けてくれたパパとママを、お前はもっと、誇りに思うべきだ」
「……」
「だから洸汰、お前は、東卍には入れない」
最後の断言には、さすがの洸汰も反論しようとした。
だが反論するよりも前に、デクは続けた。
「代わりに洸汰、お前、俺のダチな」
「だ、ダチ?」
「そう……集会に顔出すくらいは許してやる。それで勘弁してくれ」
手を合わせ、申し訳なさそうに笑い、頼む。デクなりの譲歩を目の当たりにして……
「……分かったよ。デクにーちゃんがそこまで言うなら、ガマンしてやる」
ややふて腐れ、唇を尖らせつつも、そう、妥協し受け入れた。
「相変わらず、デクの言うことは素直に聞くよな」
再びドラケンが揶揄し、それに洸汰が反論の声を上げるよりも先に。
「おい、ヒミコー!!」
「はーい♪」
ドラケンが呼びかけて、その先から、この場には似つかわしくない、少女が走ってきた。
白めな金髪のお団子ヘアー。口元には八重歯を光らせる、ややギャル然とした見た目の、女子高生が走ってきた。
女子高生
“
「このガキ、集会の間守ってやってくれ」
「ガキっていうな!」
いつものごとく、洸汰は反論の声を上げるものの……
直後、ヒミコと呼ばれた少女の顔は、洸汰の目の前にあった。
「キミ、お名前は?」
「……出水、洸汰……」
「洸汰くん……! カッコイイ名前だねぇ、カァイイねぇ」
満面の笑みで、直前のデクと同じように、洸汰の目を真っすぐ見つめてきた。
同じように、彼女の目を真っすぐ見つめた洸汰は……
「……お、おう! ねーちゃんは俺が守ってやる!!」
と、顔を赤らめ、ごまかすように、そんなことを叫んでいた。
「なーに色気づいてんだか……」
「ヒミコは俺の彼女な」
「でもって、俺の妹な」
三ツ谷、ドラケン、デクが、順にそんなことを言っている前で。
「守ってくれるの? 私のことを?」
三人の声が聞こえているのかいないのか。そんな洸汰に対して、ヒミコは洸汰に迫った。
「カッコイイなぁ、ウレシイなぁ……カァイイなぁ、カァイイなぁ……」
徐々に顔は蒸気していき、高揚し、鼻息も荒くなる。
最初、洸汰は彼女を美少女だと感じていた。だが、徐々に変化していく彼女の様に……
心中から、得体の知れない恐怖が込み上げてくる感覚を覚えた。
そんな、恐怖を証明するように……
「洸汰くん……血、吸ってもイイですか?」
「ダメに決まってんだろ」
呆然とするばかりの洸汰の前にあったヒミコの頭をガッとつかみ、持ち上げたのはドラケンである。
「いたい~ッ、痛いよ~~ケンく~~んッ……」
「ったく……可愛いもの見ると血を吸いたくなるそのクセ、ガマンしろって言ってんだろ。てか、血なら昨日吸わせてやったばっかだろーが」
「俺の血やろうか?」
「えー? タカシくんの血は遠慮します。やっぱり、吸うならケンくんかデクくんの血がイイです♪」
「グルメだねー」
「どんなグルメだよ……」
「は、はは……」
とまぁ、可愛らしい闖入者のおかげで停滞していた集会ではあったのだが……
デクが石段を登り、最上段に腰を下ろし……
「空気が変わった……」
ヒミコに抱きしめられる洸汰の言葉の通り……
洸汰の登場により、すっかり緩み切ってしまっていたこの場の空気が、一瞬にして、元の引き締まった状態に変わった。
「今日集まってもらったのは、”ヒーロー殺し”の件だ」
石段の下に待機しているドラケンが、用件を切り出した。
「参番隊隊長、パーちん! 前に出ろ!!」
続けて、その声に従い、一人の男が前に出る。
背はあまり高くない。だが、立派な恰幅と力強さを感じさせる。そんな、頭頂部以外を剃り込んだ金髪が特徴的な大男が、デクの前に立った。
東京卍會 参番隊隊長
「パーのダチが、ヒーロー殺し “ステイン” にヤられた。ニュースにもなってたし、お前らん中にも世話になったことがあるヤツはいるだろう……ターボヒーロー“インゲニウム”だ!」
ドラケンの説明に、パーちんは奥歯を噛みしめ、後ろに組む手を握りしめた。
「容態に関しちゃあまだニュースになってねぇが……命こそ助かったが、脊髄をやられて下半身麻痺で一生車椅子生活。ヒーローとしては再起不能らしい……インゲニウムもプロヒーローだ。覚悟はできてたろう。だが、ステインはその異名の通り、今まで17人のプロヒーローを殺害して、23人が再起不能になってる。そのヒーロー殺しが今、保須市にいるってことが分かった!」
「……で、パーはどうしたいの? ヤるの? ヤらないの?」
ドラケンによる一通りの説明が終わり、デクが、前に立つパーちんに問いかける。
「
「んなこと聞いてねぇよ。ヤるの? ヤらないの?」
パーちんの言葉を遮って。ただ、答えのみを要求する。
そんな問いかけに対する、パーちんの答えは――
「ヤりてえよ!! あの野郎ぶっ殺してやりてえよ!!」
「だよな」
涙ながらの参番隊隊長の叫びに対して、総長は笑顔を返し、立ち上がった。
「こん中に、パーのダチやられてんのに、迷惑って思ってるヤツいる?」
「「「「……」」」」
「「「「……」」」」
「インゲニウムやられてんのに、ヒーロー殺しに日和ってるヤツいる?」
「「「「……」」」」
「「「「……」」」」
「いねぇーよなぁ!!?」
返事の声は、無い。
ただ、微笑む者。白い歯を見せる者。力強く頷く者。拳を握る者。
デクからの問いかけに、拒否を示す者は一人もいない。
それを、洸汰も理解した。
「ステイン潰すぞぉーー!!」
――オォォオオオオオオオオオオ!!
――ワァァアアアアアアアアアア!!
「場所は保須市。明日、東卍全員で乗り込む!」
――オォォオオオオオオオオオオ!!
――ワァァアアアアアアアアアア!!
「すげぇ……」
荒くれ者たちをまとめ上げ、一つにする。
そんな、デクにーちゃんの姿に。
「これが、東卍の総長……」
洸汰は、入ることを禁じられた集団に対する、捨てきれない憧れの気持ちを再燃させるのであった。
『緑谷 出久』(通称:"無敵のデク")
東京卍會 総長
ご存じ、原作ヒロアカ主人公にして、元ネタ『東リべ』における"無敵のマイキー"枠。
見た目は緑谷出久そのものだが、目付きはややマイキー寄りに据わっている。
性格はマイキーそのものではあるが、出久としての頭脳と知性、個性に対する造詣も同時に併せ持っている。
当然、『無個性』。
好きなものはかつ丼とどら焼き。
『"渡我 被身子"』(トガヒミコ)
元ネタのエマ枠で、出久の同い年の異母妹。
そのため戸籍上の本名は『緑谷 被身子』なのだが、「長いです」「呼びづらいです」との理由で旧姓である渡我被身子を自称している。
見た目、性格、個性全て原作そのままだが、経歴がかなり異なる(出久もだが)。
元ネタ通り恋人はドラケン。好きなものはカァイイものとケンくん。デクくんとおじいちゃんも♪
『出水 洸汰』
ある意味、武道枠の小学生。
両親であるプロヒーロー"ウォーターホース"は、大物敵"血狂いマスキュラー"との戦闘で重症を負い、トドメを刺せられそうになったところを東卍が加勢。打倒、捕縛に成功。
東卍はこの事件を機に全国に名を轟かせ、ウォーターホースも無事にヒーローとして復帰したわけだが……
こうして、洸汰はヒーローに憧れるよりも、ヴィジランテに憧れるようになったのだ!
ウォーターホースも出久らに感謝こそしているものの、息子の憧れが自分たちやヒーローでなく、ヴィジランテに向いてしまったことに対して複雑な心境に駆られ、出久もまた、幼くして自分のような不良に憧れさせてしまたことに罪悪感を感じている。
『龍宮寺 堅』(通称:"ドラケン")
東京卍會 副総長
見た目、性格ともに元ネタ通り。個性有り。
ヒミコとは彼氏彼女の間柄。彼女の『性癖』にも理解を示していて、出久ともども定期的に『献血』を行っている。
『三ツ谷 隆』
東京卍會 弐番隊隊長
性格、見た目もほぼ元ネタ通りだが、額の中心に第3の目を持つ軽い異形型。無論、個性有り。
彼を含め、東卍の隊長クラスは一通りヒミコに対して『献血』したことがあるが、ヒミコいわく「ケンくんの血が一番おいしいです! 二番目はデクくんです!」らしい。
『林田 春樹』(通称:"パーちん")
東京卍會 参番隊隊長
見た目、性格ともに元ネタ通り。個性有り。
プロヒーロー"インゲニウム"とは友人同士。
家族ではないためお見舞いこそ叶わかったが、彼の家族からケガの具合を知らされ、激怒したことで今話に至る。