【完結】"無敵のデク"   作:大海

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最初に謝っとく。
ムーチョ推しの皆様、ごめんなさい……



第2話【 Breaking Dance City 】

 

 

 日常と非日常は紙一重。

 

 人々がいくら安寧に、平和に暮らすことを願い、心がけ、実際にそうしていると感じていても、誰もがそれを行うことができるとは、限らない。

 動機やキッカケはそれぞれであれ、たった一人がそんな平和を嫌い、壊すために力を振るったとしたなら……

 たまたま近くに、周囲にいた人にとって、ほんの数秒前まで過ごしていた日常は、簡単に非日常へ化け、我が身に振りかかる。

 

 そしてそれは、超常社会と呼ばれるこの世界では、より顕著と言っていい。

 誰かが力を――『個性』を振るった時。

 その被害は、その規模は、時に甚大な災害として人々に振りかかる――

 

 

 

 某月某日、保須市にて――

 

「きゃあああああああ!!」

「うわあああああああ!!」

 

 人々の悲鳴。逃げ惑う足音。

 加えて町からは、ビルや建造物の破砕音。

 

 そんないくつもの音の発生源。そこに、異形、且つ、巨大なナニかが暴れていた。

 不自然なほど肥大した身体。脳がむき出しの頭。顔には、生気や人格と言ったものが感じられない、あまりにも人からかけ離れた姿。

 今時、ヒトには見えない異形型の身で生まれてきた人間は珍しくも無い。それでも、町を破壊し、暴れまわるその三つの巨体からは、人間らしさと呼ぶべき要素は一つも感じられない。

 

 失われた理性のまま、むき出しにされた本能のまま、ただただ暴れ、壊し、狂い……

 

 

「きゃっ!!」

 

 そんな町では当然、プロヒーローらによる避難誘導、戦闘が行われている。とは言え、全員を救け、護ることは、現実的に不可能な時もある。

 彼らの目が届かず、気づいた時には手も届かない。

 不幸にもそんな状況に陥った女性は、目の前に迫り、腕を振り上げる異形を前に……

 

「たすけて……」

 

 もはや逃げるヒマさえ無い……

 諦め、届かない声を呟いた――

 

 

 バブゥゥウウウウウッ

 

 独特なエンジン音。

 直後、目の前にいた異形の身が、真横へ吹き飛ぶ。

 直後、目の前を、一台のバイクが横切った。

 

「保須市か……初めて来たが、エラく賑やかな町じゃねーか!」

 

 ブオンブオンブオンッ

 ブオーブオーブオーッ

 彼の登場を皮切りに、次々とバイクのエンジン音、排気音が鳴り響く。

 人々が逃げだし、ガランと広がった沿道を――

 大量のバイクと黒い影が、一瞬で埋め尽くした。

 

「おい、あれって……」

「黒の特攻服の、暴走族。それに、あのデカイ旗……」

「本当にいたのか……!」

 

 その集団の登場に、未だその存在を信じ切れずにいた者の声も含め。

 未だ、避難できず残っていた者たち。人々を守っていたプロヒーロー。

 誰もが、彼らの存在を認めることとなった。

 

「東京卍會?」

「東京卍會だ!?」

「東京卍會! 実在してたんだ!?」

 

 

 

「おーおー……見るからにヤバそうなのが暴れてんなぁ」

 

 

東京卍會 壱番隊隊長

 場地(ばじ) 圭介(けいすけ)

 

 

 リン……

「今までヤバくねー相手なんていたかよ?」

 

 

東京卍會 肆番隊隊長

 羽宮(はねみや) 一虎(かずとら)

 

 

「ちげーねぇ……」

 

 

東京卍會 伍番隊隊長

 武藤(むとう) 泰弘(やすひろ)(通称:”ムーチョ”)

 

 

「パーちん!」

 

 パーちんを呼ぶ、三ツ谷の声が響く。

 

「見つけたぞ! 江向通り、4丁目の方だ!」

「ウチのが一人、そっちに向かった。お前も、ダチの仇打ってきな!」

 

 三ツ谷と場地の激励を聞き、パーちんはバイクの方向を転換させた。

 

「俺もそっちへ行く。ペーやん、お前もだ!」

 

「おっしゃあああああああ!!?」

 

 

東京卍會 参番隊副隊長

 (はやし) 良平(りょうへい)(通称:”ペーやん”)

 

 

「ケンチン、ここ任せていいか?」

「ああ、任せろ! ステインヤる邪魔はさせねー」

「さんきゅ……場地!!」

 

「お前ら!! 今からは携帯は使えなくなるからなー!!」

 

 パーちん、デク、ペーやんがその場を離れた直後。

 逃げ遅れた者の中には、幾分か落ち着きを取り戻した者もいた。中にはスマホを取り出し撮影を試みる、野次馬根性たくましい者もいた。

 

「あ、あれ?」

 

 だが、そんな者たち全員が、手元のスマホを見て疑問に思う。

 どれだけ動かそうとタップし、ボタンをプッシュしても。スマホはウンともスンとも言わなくなった。

 それを確認した長身の少年は、長く伸ばした黒髪を、ゴム紐で縛っていた。

 

「準備完了……」

 

 

場地 圭介

個性:『磁場』

 磁場を操る。

 微弱な電流を発生させることで、周囲の電子機器を故障しない程度に狂わせることが可能。

 また、磁力を操作することもできるぞ!

 

 

「ひとまず……これでも喰らっときな!!」

 

 場地が手をかざした瞬間、その先で横倒しになっていた車が動きだす。

 そのまま場地の手の動きに従って、迫っていた異形にぶつかった。

 

「車に気づかなかったのかよ。能無し――脳無しか? こいつら……」

 

 

「ウォオオオオッッ!!」

 

 別の地点では、黒髪に金のメッシュ、首に虎のタトゥーを入れた少年……一虎が前に出て、向かってくる脳無しと呼ばれた異形と相対していた。

 

「……」

 

「ウォオオオオッッ!!」

 

「……クソッ! こいつ、俺の個性が効かねぇ!?」

 

 気づき、避けようと動き出した時――

 後ろから伸びた、巨大な黒い拳が脳無しの顔面を捕らえ、殴り飛ばした。

 

「下がってな。一虎」

「ハッ! 個性がダメでも楽勝で戦えるわ。ゴリラ」

 

 そんな悪態も兼ねた呼びかけを行いつつ……

 頭頂部のみ金髪に染めた、黒い皮膚と、黒く太い毛に覆われた長い腕を地面に着ける、ゴリラ――ムーチョの隣に、一虎は立った。

 

 

武藤 泰弘(通称:ムーチョ)

個性:『ゴリラ』

 そのものずばり、ゴリラの個性。

 身軽な動きとゴリラパワー――400キロの背筋力と500キロの握力を振るえるぞ!

 

 

「いつもはデクに任せっぱなしだからなー……たまには俺らだけでやってやろうぜ!!」

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」

 

 ドラケンの激励に、メンバーの絶叫がコダマして……

 保須市は、戦いの舞台に変わった――

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 同じころ、江向通り4丁目の細道にて――

 

「ハァ……話にならんな」

 

 血のように赤い巻物。全身、靴のつま先にまで刃物を携帯した男。

 顔の上半分は目出しマスクで隠しているが、そこに本来あるはずの突起――鼻は見られない。

 顎の長い口から長い舌をはみ出させ、マスクの下からは、暗く深く、凶悪な目を覗かせる。

 そんな、刃こぼれのひどい日本刀を片手に持った男の前には……

 

「うぅ……くッ!」

「クソ、が……!」

 

 倒れ伏す、二人の少年。

 全身に鎧を包んでいながら、眼鏡を外した素顔は苦悶に満ちていた。

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-A 学級委員長

 飯田 天哉(コードネーム:”インゲニウム”)

 

 

 そんな飯田と同じように、地面にへばりついたかのように倒れ、身動きが取れずにいる、髪の色が赤と白の左右に分かれた少年。

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-A

 (とどろき) 焦凍(しょうと)(コードネーム:”ショート”)

 

 更に、彼ら二人から離れた場所には、プロヒーロー”ネイティブ”が、同じく身動きできず地面に伏せている。

 

「贋者のヒーロー……復讐に取りつかれた子供……力の全ても引き出せない半端者」

「くぅ……!」

 

 自身のことを言われ、屈辱を感じるも、自由を奪われた体では、拳を握ることも、奥歯を噛みしめることさえ難しく……

 

「正さねばならない……貴様らのような贋者はびこる社会を……俺を殺していいのは、真の英雄、オールマイトだけだ!!」

 

 

ヒーロー殺し

 “ステイン”

 

 

 言いたいことを言い終えたらしいステインは、天哉を足蹴にして押さえ、刀を振り上げた。

 

「や、やめ……!!」

 

 必死に声を上げようとするも、動きも力も全て封じられた轟は、ただ見ているしかなかった。

 

「飯田ー!!」

 

 轟の、見ている目の前で……

 飯田に向かって、刀の切っ先が――

 

 

「……! ちぃッ……!」

 

 突き立とうとしたその瞬間、ステインはその場で飛び、二人から離れる。

 直後、ステインの立っていた位置、ちょうど轟と飯田の間に、巨大な炎が走った。

 

「え……え?」

 

 

「哀しいなあ……轟焦凍」

 

 自身を呼びかける声に、轟がふり向いた先。

 そこには、黒い特攻服を着た男が歩いてきていた。

 

「ハァ……何者だ貴様……」

 

 蒼い炎を噴出するその男……

 腕まくりした特攻服の下にある、手の甲から上は軽くない火傷を負っていて、特にひどい部分は、健康な肌を医療用ホチキスで固定している。

 顔にも火傷を負っていて、腕ほど深刻ではないものの、頬や下あごの皮膚は今にも崩れかけている。

 そんな火傷の目立つ黒髪の男は……

 倒れる生徒二人を守るように、前に立った。

 

「東京卍會、壱番隊隊員――”荼毘”!!」

 

「東京、卍會だと……!」

 

「東京卍會……ハァ、噂のヴィジランテ集団か」

 

「パーちん! こっちだ!」

 

 荼毘、と名乗った男が声を上げる。その時、新たに三人分の足音が響いた。

 

 

「見つけたぞコラ! ヒーロー殺し!!」

 

 荼毘に並んで……誰よりも早く前に出たのは、怒りに震えた参番隊隊長――

 

「君たちは……ペーやん? それに、パーちん!?」

 

 現れた友人たちの姿に、飯田は驚愕の声を上げていた。

 

「その格好……ペーやんとパーちんが、東京卍會……!?」

「あの長い特攻服着たヤツ……あれが総長、無敵のデクか……?」

 

「ヒーロー気取りのガキどもが……ごっこ遊びに付き合う気はない、消えろ!」

「そのヒーローごっこにテメェはやられんだよ!!」

 

 ヒーロー殺しの威圧に対して、参番隊隊長は、臆することなく叫んで返した。

 

「やめるんだパーちん! 君はプロヒーローでも、どころかヒーロー志望ですらないだろう!?」

「うるっせーぞ天哉!! 天晴やられてはらわた煮えくりかえってんのは俺も同じなんだよ!?」

 

 そんなやり取りをしている間に――

 ステインは、日本刀を構え走り出した。

 

 

「パァァアアアアアーーー!!」

 

 

「ハァ……なんだ、それ、はッ……!?」

 

 パーちんの突然の絶叫に、一瞬呆れたステインだったが……

 

(な、んだ、これ、は――)

 

 異変に気づいた時には……

 日本刀を落とし、ひざを着いていた。

 

「おらぁ!!」

 

 そこへすかさず、接近したパーちんが拳を振るう。

 

「やっちまえパーちん!!」

「たたみかけろ!!」

「……」

 

 ペーやんと荼毘が叫び、デクは静観している。

 二人に言われるまでもなく、パーちんはステインの、顔面と言わず、アゴと言わず、頬と言わず、頭と言わず、胸と言わず、肩と言わず……

 

「……下がれパーちん! 15秒だ!!」

 

 と、デクが叫んだ瞬間――

 

「ちぃッ――」

 

 ステインがナイフを振るい、パーちんは後ろへ下がる。

 間一髪、振るわれたナイフは、特攻服の腹を切り裂いただけに終わった。

 

「マジかよ……パーちんが、あんだけタコ殴りにしたのに」

「そうとう頑丈なヤツだな、アイツ……」

 

 ステインはゆらりと立ち上がり、血と共に溜まった唾を吐き捨てる。

 

「なるほどな……ごっこ遊びにしてはやる」

 

 あらためて四人を――自身を一人殴り続けた男、パーちんを見据えた。

 

「叫ぶことで動きを封じる個性か……15秒というのは時間制限か? なぜ再び個性を使わない? 一人に使えるのは一回限りか?」

「ちぃッ……正解だよ、クソ野郎が……!」

 

 

林田 春樹(通称:パーちん)

個性:『頭がパー』

 対象一人に向かって「パー!!」と叫ぶことで、対象の頭をパーにする。

 パーにできる時間は今のところ、15秒が限界だ。

 なお、同じ相手には一日に一度しか効かないぞ!

 

 

(元々はせいぜい、2、3秒しかパーにできなかった。それがデクのおかげで15秒まで伸ばせた。この個性と、俺の拳で、少なくとも生身の相手で仕留められなかった敵はいねぇ。それをこの野郎……!)

 

「ハァ……」

 

 立ち上がったステインは……ナイフをしまい、拳を握った。

 

「付き合ってやる。貴様らのごっこ遊びにな」

「嘗めやがって……」

 

 挑発であることは、この場の誰もが分かっている。罠かもしれない。

 だが、パーちんは前に出た。

 

 

「オラァ――ブッ」

「ハァ――」

 

 パーちんが、力の限りの拳を振るった。が、それをアッサリ避けたステインの拳が、パーちんの顔面を捕らえた。

 

「パーちん!?」

「ボクシングか……」

 

 そこからは、一方的な蹂躙。

 ステインは、ナイフや刃物はもちろん、つま先から飛び出した針さえ使用していない。

 ただ二本の拳だけで……彼らと同じ土俵で、パーちんを圧倒していく。

 

「おい!! お前ら仲間なんだろ!?」

「パーちんを守ってくれ!! 死んでしまうぞ!?」

「黙って見てろ……これはパーの喧嘩だ」

 

 倒れながら、必死に叫ぶ二人の生徒の声に、デクは冷静に返答する。

 その間にも、パーちんは必死に食らいつくが……

 

「パーちん!?」

「ペー! 黙って見とけっつったよな?」

「ご、ごめん、デク――」

 

「おい! アイツもう意識ねーぞ!!」

「止めろ! 殺されてしまう!!」

「なんで? まだ諦めてねーじゃん」

 

 とっさに走り出したぺーやんにも。二人の雄英生に対しても。

 何もせず、不敵に笑って返すだけ。

 なんて薄情な男だ……なんてひどい男だ……

 二人ともが共通して、東京卍會総長の少年に対してそう認識した。

 

 

「ぐはぁ……ッ!」

 

 やがて、トドメの拳を喰らったパーちんは……

 ふっとばされ、ふらつき、倒れ――

 

「もういい、分かった。大人しくしていろ……レァロ――」

 

 あげく、個性で動きを封じられ――

 それをデクが、支えた。

 

「デク……ゴメン、オレ、ふがいねぇ……」

 

 負けた悔しさ……

 友の仇を打てなかった悔しさ……

 指一本さえ動かせない身になって、それを漏らしたパーちんに対して……

 

「なに言ってんの……パーちん、負けてねーよ」

 

 

「ハァー……」

 

 そんな二人のやり取りを見て、取り落とした日本刀を拾ったステインは、今まで以上に大きな吐息を漏らした。

 

「ごっこ遊びに付き合ってやった結果がこれか。所詮は、現実を直視することもできん小僧ども……」

 

 悪態と共に、パーちんをペーやんに預けたデクへ、切っ先を向ける。

 

 

「ハァ……誰かが正さねばならぬ。贋者の英雄はびこる社会。そして、イタズラに力を振るう愚か者どももまた、粛清対象だ――!!」

 

 

 主張と叫びのもと、前に出てきたデクに向かって奔り――

 

 

「……は?」

 

 声を漏らしたのは、プロヒーローのネイティブ。

 

「一撃……いや、二発か。二回の蹴りで――」

 

 それを、プロヒーローの彼はかろうじて認識していた。

 飯田と轟は、彼以上に認識が遅れた。

 

 まず、デクは身をひるがえし、突っ込んできたステインのアゴに蹴りを打ち込んだ。

 直後、跳びあがって振り下ろされた足の甲が、再び刀を手放したステインの後頭部を捕らえ、その勢いのまま地面に顔面を叩きつけた。

 

 その戦闘時間、三秒未満……

 

「ウソだろ……」

 

 ようやく動けるようになり、動けるようになったことさえ気づかないほど、轟は、呆気に取られていた。

 

 

「東卍は俺のもんだ」

 

 そんな二人や、ネイティブ、気絶したステイン、パーちん、荼毘とペーやん……

 誰に言うともなく、デクは、宣言した。

 

「俺が後ろにいるかぎり、誰も負けねーんだよ」

 

 圧倒的――

 

 東京卍會 総長”無敵のデク”。

 この場の誰もが魅入られた。

 

 圧倒的なカリスマに……

 圧倒的な実力に……

 

 

 ただ、一人を除いて――

 

 

「兄さんのかたき……」

 

 その声の方を見た時――

 

「飯田!?」

 

 飯田が、ステインの落とした日本刀を、ステイン目掛けて振り上げていた――

 

「がッ……!!」

 

 だが、刀がステインを突き刺すより前に、飯田の手から、刀が離れた。

 

「ペーやん……邪魔しないでくれ!!」

 

 だがぺーやんは、刀を落とさせた攻撃……口に含んだビー玉を吐き出し、ぶつけることを繰り返すことで、飯田の身をステインから離した。

 

 

林田 良平(通称:”ペーやん”)

個性:平丸(ペーガン)

 口に含んだ物をもの凄い勢いで吐き出す。

 その最大威力は、ビー玉をコンクリートブロックに食い込ませるほど。

 なお、撃ち続けていれば普通にアゴが疲れちゃうぞ!

 

 

「バッカ野郎、天哉!! 今なにしようとしやがった!? 兄貴(最高のヒーロー)目指してるやつが、敵を殺そうとすんじゃねー!!」

「うるさい!! 僕がやろうとしたことと、君たちがしたいこと、何が違うっていうんだ!?」

「全然ちげーよ、タコ」

 

 怒りのままに叫び散らす飯田に対して、デクが、静かに声を掛けた。

 

「パーちんもペーやんも、俺もこいつのことはゆるせねぇ。だがなぁ、俺たちはこいつを殺しにきたんじゃねぇ。お前の兄貴のかたきを討ちにきたんだ」

「だから! 何が違うっていうんだ!?」

「知るか。テメーで考えろ……ただ、お前が目指して憧れたっていうお前の兄貴(インゲニウム)は、(お前)にこうしてほしかったのか?」

「な……!?」

 

 それだけ言うと……

 落ちていた日本刀を拾い上げ、飯田の手に握らせた。

 

「もし、お前の兄貴の望みが復讐で、こうしてほしいって言ってたのなら、俺たちも止めねぇよ。兄貴の望みを叶えてやりな」

 

 そして、離れる。

 飯田の手には、ステインの日本刀。目の前に倒れているのは、気絶したステイン。

 

 止めなければ……

 荼毘やペーやんはともかく、轟もネイティブも、それは分かっていた。

 

 なのに、できなかった。

 デクの語った言葉。二人だけの空気。

 それが、手出しは許さないと語ったように感じたから……

 

「……!」

 

 日本刀を手に、ステインを睨みつけ……

 

 

「……轟くん、縛るものはないか?」

 

 日本刀を捨てて、ステインの両手足を押さえつけた。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 ひと悶着こそあったものの、ネイティブ含め、三人全員がステインの個性から解放されて。

 

「さすがゴミ置き場。あるもんだな……」

 

 ビニールひもで簀巻きにしたヒーロー殺しはデクが担ぎ、個性で動けないパーちんはペーやんが背負っていた。

 

「……あの、ネイティブ」

 

 そんな中、この中でただ一人のプロヒーロー、ネイティブに、飯田が気まずげに話しかけた。

 

「その……厚かましいお願いだと、分かっているのですが……どうが、パーちんたちのことは……」

「……」

 

 ネイティブも、彼の言わんとすることは分かっている。だから、微笑んだ。

 

「本当はよくねーんだが……けど、俺も命、助けられたからな。今回だけだぞ?」

 

 飯田の顔に笑みが戻り、轟も、複雑ながら安堵の表情を浮かべる。

 

 ネイティブ、ウォーターホースに限らず、彼らに助けられ、恩義を感じ、顔を見ても黙っている。そんなプロヒーローも、この超常社会には大勢いた。

 

 

 リン……

「デク! パーちん!」

 

 と、そこへ新たな声と、鈴の音が響いた。

 

「よー一虎! こっちは終わったぞ!」

「おお! こっちも終わって、俺ら以外は逃げた所だ」

 

 左耳のイヤリングの鈴を鳴らしながら、デクたちに近づいてきた、金髪メッシュと首に虎のタトゥーが目立つ、肆番隊隊長の一虎と、もう一人。

 背は低めで、金髪と黒髪のツーブロックの少年。

 

 

東京卍會 壱番隊副隊長

 松野(まつの) 千冬(ちふゆ)

 

 

「荼毘……個性使ったのか?」

「ああ……もっとも、俺の出番はほとんど無かったがな」

「だろうな。見せてみろ、冷やしてやる」

「さんきゅー、千冬……だろうな、は余計だ」

 

 お互いに軽口を叩き合いながら、千冬は荼毘の見せた腕に手をかざし、個性を発動させた。

 

(俺と同じ……? いや、少し違う。あれは、氷結ってより――)

 

 

松野千冬

個性:『吹雪』

 吹雪を発生させ操ることができる。

 規模の小さいものなら、単純に冷やすことにも使えるぞ!

 

 

「……? 大勢の足音……ネイティブ、応援呼んだのか?」

「いや、俺はなにも……」

 

 千冬が荼毘を冷やしているその横で、デクが行った質問には、ネイティブは否定で返した。

 

「……お前ら、俺らもそろそろ行くぞ。ヒーロー殺しは任せた」

 

 彼が呼んでいないにせよ、長居は無用らしい。

 だから仲間たちに呼びかけ、離れようとした。

 

 が――

 

「あれは……!?」

 

 一虎が、声を上げた先。そこには。

 

「アレは……脳無!?」

 

 場地からは脳無しと呼ばれた、翼を広げた巨大な異形が、こちらに向かって――デクに向かって、飛んできていた。

 

「デク!」

「逃げろ!!」

 

「……」

 

 

「……なーんだ。ステインより弱えーじゃん」

 

 デジャブを、一虎と千冬以外の全員が感じた。

 デクを捕らえようと、急降下を行った翼の脳無。

 その側頭部を、デクの回し蹴りが捕らえ、そのまま地面に叩きつけ、停止させた。

 

 

「あっちだ!」

「貴様ら! 全員動くな!!」

 

 そこへ、また大勢の人間の声。

 姿からして、プロヒーロー。しかも――

 

「ヤバッ、エンデヴァーもいるじゃん……!」

 

 いくら違法のヴィジランテ集団と言えども、目的を同じにしたヒーローたちとやり合う気は毛頭ない。特に、全身から炎を揺らすNo2ヒーロー”エンデヴァー”とぶつかることなど、状況も相まってご免だった。

 

「一虎!」

「あいよ!」

 

 そこでデクは、肆番隊隊長に声を掛ける。

 一虎としても、こういう事態を想定して一人残っていた。

 

 

「……」

 

「子ど、も……?」

「な、なんだ?」

「あ、あれ?」

 

 前に立った一虎の顔を見た、プロヒーロー全員が、足を止めた。

 体が震える。中には、冷や汗を流す者もいた。

 誰もが、数メートル離れた一虎を前にして、動かなくなった。

 

「個性は正しく発動してる……やっぱ、アイツらに効かなかったってだけか……」

 

 

羽宮一虎

個性:『虎の威』

 彼の顔を見た者たちの恐怖心を刺激し、動きを封じる。

 ただし、恐怖を感じない相手――機械(ロボット)とかには効果が無い。

 また、恐怖に慣れるか克服されると、すぐに個性を解かれてしまうぞ!

 

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

「おお! さすがNo2、復活早ぇな」

 

 いち早く恐怖心を克服してしまったらしいNo2エンデヴァーが前に出たが……

 

「ペーやん、千冬」

 

 それさえ、デクは想定内だったらしい。

 デクから指示を受けた二人は、まず、ぺーやんが口に含み、思いきり吹き出した。

 それを、千冬が吹雪を発生させ、一気に前に向かって吹き荒れさせる。

 真っ白な粉がその場に一気に広がり、彼らの視界を妨げた。更に――

 

「あれは……小麦粉か!? イカン、炎はまずい……!!」

 

 広がった粉がこちらへ届くより早く、急いで全身の炎を引っ込める。

 幸い、粉塵爆発こそ起こらなかったものの……

 

 粉が晴れた時には、特攻服を着た少年らは全員、姿を消していた。

 

「あれが、東京卍會……クソッ」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「ただいまー」

「……」

 

「おかえりなさーい!」

 

 事が全て済んだ、その夜。

 帰宅したデクと、荼毘を、エプロンを着けたヒミコが出迎えた。

 

「晩ご飯できてますよー♪」

「腹減ったー」

「俺、先に風呂もらうわ」

「お風呂は今、おじいちゃんが入ってます」

「マジか……」

 

 義妹からの言葉に、義兄はため息を吐く。

 仕方がないので、義弟であるデクと一緒に、食卓に着くことにした。

 

「いっぱい食べてください」

「さんきゅー、ヒミコ」

「いただきます……」

 

 あれだけ派手な出来事だらけだったというのに……

 

 ヒミコ、デク、荼毘の三兄妹の夜はいつも通り、平和に過ぎていくのだった。

 

 

 

 




vsステインは実写版、vs脳無はアニメ版の長内戦を意識して書いてみました。



『"荼毘"』
 東京卍會 壱番隊隊員
 元ネタにおける真一郎枠であり、出久とヒミコの義兄。
 見た目、性格、個性ともに原作通りだが、原作ほど火傷は深刻じゃない。
 過去に街をさまよっていたところを出久とヒミコのおじいちゃんが保護、一緒に暮らし始めてそのまま家族になった。
 彼の本名および正体を知っている者は、出久とヒミコ、おじいちゃんを含め、東卍の中でも少ないが、東卍自体、何かしら事情を持った者たちがほとんどなため、特に興味は持たれていない。
 個性の威力はもちろん、素手の喧嘩も強く、本来なら隊長クラスでもおかしくない実力を有しているが、長く戦えない身体のため一隊員の身に甘んじている。



『林田 良平』(通称:ペーやん)
 東京卍會 参番隊副隊長
 見た目、性格ともに元ネタ通り。
 パーちんとは幼なじみで、天哉、天晴とも友人同士。
・個性:『平丸(ペーガン)』
 口に含んだ物をもの凄い勢いで吐き飛ばして攻撃できる個性。
 出久のアドバイスに従って個性を鍛えた結果、ビー玉をコンクリートブロックに食い込ませるほどの威力を出せるようになった。
 口に含む者は物体、液体、粉末等問わないが、手ごろな大きさ、軽さ、やすさ、薫り、舌触り等の理由で、ビー玉を好んで使う。
 極力乾燥させた口に粉末を含んで吐き出せば、ちょっとした目くらましにもできる。
 なお、使い続ければ普通にアゴに負担が掛かる。
 よっぽど無理をしないかぎり大丈夫だが、最悪、顎が外れるかも……


『場地 圭介』
 東京卍會 壱番隊隊長
 見た目、性格ともに元ネタ通り。
 デクとは幼なじみで、荼毘の本名と正体を知る数少ない人物の一人。
・個性:『磁場』
 簡単に言えば、X-MENのマグニートーと同じことができる。
 ただし、動かせる重さの限界は車一台分ほど。
 今まで東卍の映像が残らなかったのも、彼の個性によって周囲の電子機器を狂わせていたのが大きな理由である。
 過去にはこの個性のせいで、身近にあるスマホやゲーム機といった電子機器を壊してしまっていたが、デクのアドバイスで制御を覚えたことで、『故障はしないが無効化はできる』加減を覚えることに成功した。


『松野 千冬』
 東京卍會 壱番隊副隊長
 見た目、性格ともに元ネタ通り。
 個性の特性上、荼毘と行動を共にする機会が多い。
 彼自身、最初は荼毘の世話係をしているようで気に入らなかったが、荼毘が良いやつであることを理解し、何だかんだ上手くやっている。
 余談だが、遠縁の親戚筋に、代々続いたが近年になって没落したという名家と繋がりがあるらしいが、千冬の知ったことじゃない。
・個性:『吹雪』
 冷気、寒気、雪を伴う強風――吹雪を発生させ操る。
 その気になれば、街一つを氷河期に変えられるが、威力と範囲の大きさから制御が難しく、デクに出会うまでは個性を持て余していた。
 手の平サイズの吹雪を発生させることも覚えたことで、火傷を冷やしたりすることも可能になった。


『羽宮 一虎』
 東京卍會 肆番隊隊長
 見た目、性格ともに元ネタ通り。
 この小説では真一郎が不在のため、元ネタとは違ってデクとは敵対する理由がなく、肆番隊隊長になった。
 ちなみに、肆番隊は他の隊とは違って、副隊長が二人体制である。
・個性:『虎の威』
 彼の顔を見た者の恐怖心を刺激し、動きを封じる。
 幼い子どもや、人によっては永遠に効果を発揮できるが、恐怖を克服、または慣れることで簡単に脱出できる。
 また、その特性上、二回目以降の相手には効果が弱まる場合が多い(慣れられる、飽きられる)、ロボット等の感情の無い相手には効果が無い、そもそも顔を視認されなければ発動すらしない等、意外と弱点の多い個性でもある。


『武藤 泰弘』(通称:"ムーチョ")
 東京卍會 伍番隊隊長
 性格は元ネタと同じ。ただし、外見はゴリラ(元ネタの外見の肌を黒くし、腕は太く長く、全身がゴリラの毛に覆われているイメージ)。
 彼や副隊長を始め、伍番隊はいわゆる『異形型』個性の持ち主が多く集まっている。
 そのため、彼が東卍の隊長で最も喧嘩が強いこともあって、近接戦闘における最強の部隊とされている。
・個性:『ゴリラ』
 ゴリラ。
 ゴリラにできることができる。
 ゴリラ(豪ヒロミ)ではなく、ゴリラ(ムーチョ)である。

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