【完結】"無敵のデク"   作:大海

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アンチ・ヘイト要素回。



第4話【 Childhood Frends 】

 

 人は生まれながらに平等じゃねぇ。

 

 それを理解したのは、齢4歳の時だ……

 

 

 始まりは中国の慶々市。光る赤ん坊が生まれたこと。

 そこから世界中で、本来とは異なる超常の力――今じゃ個性と呼ばれる力を持った人間が生まれ出した。

 

 そんな超常に伴って、爆発的に増えた犯罪件数。国の法整備がもたついてる間に、勇気ある連中がコミックさながらのヒーロー活動を開始。

 超常への警備。悪意からの防衛。

 そうやって市民権を得たヒーローは世論に押される形で公的職務として認められた。

 

 そうして、ヒーローっていう職業が誕生したってのは、今じゃ学校でも習う事実だ。

 

 敵と戦い、勝って、人々を救ける。そんなヒーローに、世の人間たちは興奮し、憧れ、声援を送る。

 特に、純粋なガキどもなら、誰もがヒーローに憧れた。

 

 

 No1ヒーロー、平和の象徴”オールマイト”。

 

 俺に限らず、日本中が、たった一人で犯罪の発生件数そのものを押さえこんじまったその存在に憧れた。

 誰もが思った。オールマイトみたいなヒーローになりてぇ。

 

 俺も……

 

 アイツも……

 

 

 

 

 

「クソデクゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ!!?」

 

 

 そんな絶叫は、夕方の河川敷に響き渡った。

 そんな絶叫に、歩いていた三人組は振り返った。

 

「あの制服……雄英か? それもヒーロー科」

「そんな優等生のおぼっちゃんが、うちのデクに何の用だよ……」

 

 振り返った三人のうちの二人――ドラケンと三ツ谷。

 一見すれば、派手な見た目をしたこの二人に、地味な彼が絡まれている。そんな光景にも見えていたろう。

 そんな、地味な見た目をした三人目は……

 

「よぉ、かっちゃん……お久しぶり」

 

 二人の前に出て、絶叫した少年――爆豪勝己に呼びかけた。

 

 

「クソデク……やっぱテメェか? “無敵のデク”って……」

 

「なんだ? かっちゃんも入りてぇのか? 東卍」

 

 今にも爆発しそうな、もの凄い形相を浮かべる優等生に向かって、地味な服装をした総長は、淡々と話しかけていた。

 

「なんにもできねぇ出来損ないの無個性のデクが、東京卍會だぁ? 総長だぁ? 無敵のデクだぁ!?」

 

「なんだ、あの野郎? いきなり現れて、ケンカ売ってんのか?」

「やっちまうか? デク」

「下がっとけ。俺の客だ」

 

 尊敬する総長を罵倒されたことで、二人の幹部は拳を鳴らす。

 だが、デクはあくまで、冷静に爆豪を見据えていた。

 

「それで、なんの用だ? なんにもできねぇ、出来損ないの無個性の、東京卍會総長、無敵のデク君に?」

 

 爆豪の言い放った言葉、一言一句違わず言い返した結果……

 

 

 ただでさえもの凄い形相だった爆豪の中で、何かが切れた音が響いた。

 

「クソデクの分際で調子に乗ってんじゃねえ!! 俺と今すぐタイマン張れやぁ!!?」

 

 

「三ツ谷……周りに人は?」

「……俺の見える範囲には、一人もいねぇな」

「多分、そのこと分かってて挑んできてんだろうな」

「キレ散らかしてる割にみみっちいと言うか細かいというか……」

 

 二人とそんな会話をした後で……

 デクが、前に出た。

 

 

「ぶっ殺すッ――!!」

 

 爆豪は、己の『個性』――爆破を発動。掌を爆発させ、その衝撃で宙に浮かび上がる。

 その勢いのままデクに突っ込んでいき――

 

「死ぃぃぃぃねぇぇええええええええ!!」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 四歳の時、俺はアイツに突き飛ばされた。

 俺と悪ガキどもがいじめていたガキを、アイツが庇ったんだ。

 もっとも、『無個性』だったアイツが、俺たちに敵うわけもなく、逆にボコられただけに終わった。

 

 ガキのころから、俺はなんでもできた。

 他のガキどもより体も強かった。

 ガキどもが読めない文字を読んで、意味も理解していた。

 なんで、俺以外の誰もそれができねぇのか。理解できなかった。

 

 そんな俺に、『個性』が発言した。

 爆破……強くて派手な、ヒーロー向けの個性。

 なんでもできる能力。ヒーロー向けの個性。

 齢4歳にして、確信した。

 俺は、すごいヤツなんだ。

 憧れのヒーローになるべくして生まれてきた、すごいヤツなんだ……

 

 

 そんな俺の周りにいる人間の中で、いっちゃんすごくねぇヤツ。

 

 それが、アイツ……出来損ないの、『無個性』のデク。

 

 なんにもできねぇ弱っちぃ石ころの分際で、いつも俺の後ろをついてきていた。

 石ころのくせに、一丁前に俺のことを心配して、手を差し伸べてきた。

 

 気持ち悪ぃ、気に入らねぇクソデク!

 そんな気にいらねぇ幼なじみが……

 

 

 姿を消したのは、4歳の時。

 理由は分からねぇ。引っ越しだとか、そんな話は聞いたことがなかった。

 他のガキどもは、すごくねぇデクのことなんかあっさり忘れた。

 だが、俺は、忘れられなかった。

 

 ある日、母親(クソババァ)が話してるのが聞こえた。

 

 デクは、母親に捨てられた。

 無個性の息子を捨てて家を飛び出した。

 そして、父親も姿を消した。

 それで、遠くのお祖父さんのもとへ引き取られた。

 

 それが本当なのかどうか。それは分からねぇ。ただの尾ひれがついた噂かもしれねぇ。

 だが、それを聞いた俺は思った。

 

 個性が無かったから……

 すごくなかったから……

 アイツは、実の親にさえ、捨てられちまったのかって……

 

 

 それからはひたすらに、力を磨き続けた。

 俺は、アイツとは違う。

 すごくねぇばっかりに、捨てられちまう出来損ないじゃねぇ。

 

 それを証明する。

 

 そのためにヒーローになる。

 

 アイツみてぇにならないように……

 

 謝る機会と一緒に消えた、アイツみてぇにならないように――

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「……はッ!?」

 

 しばらく、懐かしい夢を見ていた。それを自覚した直後、草地に倒れていた身を引き起こした。

 

「痛ってぇ……!」

 

 直後、自身の側頭部に痛みが走る――触れるとそこは、ぷっくりと、大きなコブが盛り上がっていた。

 

 

「よぉ……目ぇ覚めた?」

 

 横から、アイツの声が聞こえた。

 夢の中よりも低く、大きくなっていた、その声の主は……

 

「デク……」

 

 澄ました微笑みを浮かべる、幼なじみの姿があった。

 

 そこで、直前のことを思い出す。

 デクに襲い掛かった瞬間、米神に、強烈な痛みが走ったこと。直後には、逆の米神に、地面に叩きつけられる感触が走ったこと。

 最後に見たのは、足を振り上げたデクの姿――

 

「俺……負けたのか?」

「おお。蹴りの一発で白目剥いてたぞ?」

 

 あっけらかんと、デクは言い放つ。

 爆豪は、言葉を失うしかない。

 怒ることもない。悔しがることもない。悲しむこともない。

 ただ、自覚するヒマも無いほどあっさりし過ぎた敗北に、反応する余裕さえも無かった。

 

 

「ん……」

 

 そんな、呆然とするばかりの爆豪に、差し出されるものがあった。

 

「食う? どら焼き」

「いらんわクソがッ!!」

「新発売の『ブートジョロキ餡どら焼き』」

「……食ったるわクソがッ」

 

 鷹の爪の七倍辛いというハバネロの、更に二倍以上の辛さを持つという。そんなブート・ジョロキアをふんだんに使った、激辛好きにはたまらないのであろうどら焼きをぶっきらぼうにつかみ取り、口にほお張る。

 ここにいるのは、自分と、デクの二人だけ。

 取り巻き二人は帰ったらしい。

 

「よく食えるな、そんなの。俺には辛すぎて無理だ」

「ハッ! ガキ舌がよぉ!」

「三歳の時に大喜びでワサビチューブ空になるまで吸ってたかっちゃんが異常なんだよ」

「アァン!?」

「おばさんにバレて、俺のせいにしようとしてたけど、俺にできるわけねーって、速攻でバレて殴られてたよな?」

「やかましいわッ!! そんな昔のことは忘れたわ!!」

「今もやってたりして?」

「するか!! 自腹で買ったヤツでしかやらんわ!?」

 

 デクがからかい、爆豪は叫び倒す。

 一見険悪なようにも見えて……

 直前にはあった険悪や剣呑はすでに無く、あるのは、仲の良し悪しはともかく、気の置ける幼なじみ同士だから作りだせる、そんな、柔らかな空気だった。

 

 

「……なぁ」

 

 終始、デクにペースを握られ、叫び倒しながら、激辛のどら焼きを完食したところで。

 

「親に捨てられたって、本当か?」

 

 長年の疑問を切り出した。

 幼なじみとして、デクの父親はともかく、母親のことは知っていた。

 息子が無個性だからと、見捨てるような女性ではなかったと、幼いころの記憶ながら確信できた。

 だから解せなかった。母親が話していた噂が……

 

 

「お前のせいだ」

「ああ?」

 

 返ってきたのは、短い一言。

 

「おふくろが消えて、帰ってこなくて、どうすればいいか分からなくなってた俺に、親父が電話越しに言ってきたのが、その一言だった」

 

 デクは、語りだした。

 

「それだけ言って、電話を切った後、親父から電話がかかってくることは二度と無かった。その間、ずっと待ってたよ。電話しようにも、4歳の時は電話の使い方も分からなかったし、そもそも番号が分かんねーし。それでもきっと、おふくろはいつも通り帰ってきて、俺のこと抱きしめてくれる。で、親父も帰ってきてくれる。そう信じて、待ってた……ずっと休んでたのをおかしいと思った幼稚園の先生が、様子を見にきてくれなかったら、飢え死にしてただろうな」

 

 語られた事実に、爆豪は、何も言えなかった。

 

「その後は、父方のじいちゃんに預けられたわけだが……そこで初めて、同い年の妹がいたって知った」

「……妹? 同い年?」

 

 そこで、聞き捨てならない単語が聞こえ、さすがに聞き返した。

 

「ちょっと待てや。お前に双子の妹がいたとか、聞いたことねーぞ?」

「ああ。俺も知らなかったよ。だから最初は驚いた」

 

 そしてまた、語っていく。

 

 

「俺の親父、昔から出張の多い仕事してて、家にはほとんどいなくてさぁ……だからだろうな。出張先で、おふくろとは別の女、作ってやがった」

 

 動画を見た時と同じように、爆豪はまた、絶句させられた。

 

「親父としては、子供(ガキ)のできた方を選んで、残った方は捨てる算段だったみてーだが……俺ができて、そのすぐ後に妹のヒミコができて、どっちも捨てるに捨てられなくなっちまったらしい」

 

 最低なクズ親父だろう? デクは、そう笑いかけていた。

 

「そうして俺が生まれて、ヒミコが生まれて、なんだかんだ、ヒミコの方にも仕送りしながら上手いこと隠してたみてーだが……三歳の時だったかな? ヒミコが、個性の影響で死んだ鳥の血を吸ってたのにビビったヒミコの母親が、ヒミコを親父の実家に残して姿をくらましやがった」

 

 そりゃあビビッて当然だ。爆豪はそう感じたが……

 デクのその顔は、笑って語っていた自身のこととは違い、静かに、キレていた。

 

「そのせいで、腹違いの妹がいたってことがおふくろにバレて、その後はまあ、想像通りの修羅場だったらしいぜ。それで離婚するしないって話にもなったけど、俺も生まれてたし、なんだかんだ、そんなクソ親父でも、おふくろは愛してたんだろうな……だから、ヒミコに関しては、俺とおふくろは一切関わらねぇ。育てたいなら、自分たちの目の届かないところで勝手にやれ。そんな条件出して、再構築って形になった……実母からもおふくろからも拒否されたヒミコからすりゃあ、たまったもんじゃなかったろうがな」

 

 ひどい話だ……

 安直だが、爆豪はそう思うしかない。

 

「それで、おふくろはそんなことがあった後も、俺に対しては、良い母親でいてくれた。毎日美味いメシも作ってくれて、ご近所でも評判で……けど裏では、泣いてた。めちゃめちゃ辛いのガマンして、無理して母親してたんだろうな。今なら、それが分かる」

 

 顔を伏せ、哀しげに語る。

 拒否された妹だけでなく、それが分かりっこない4歳の息子にとっても、たまったもんじゃなかったろうに。

 

「そんな時に、俺が普通じゃねぇ、『無個性』だって診断を受けて……で、限界が来ちまったんだろうな。俺一人を家に残して、出ていって、それっきりだ」

 

 

 

 その時の母の姿を、デクは今でも覚えている。

 

 ――ぼくも、ヒーローになれるかな……?

 ――この人みたいな、最高のヒーローに……?

 

 幼なじみと喧嘩して、コテンパンにやられて帰ってきて、己の弱さと、無個性という現実に打ちのめされて。

 そんな苦しみをごまかすために再生した動画。

 それを見ながら、問いかけた時の、母の顔――

 

 まるで……否、実際に、汚らわしいものを見ていたんだろう。

 自分以外の女と、その間に子供まで作った男。

 そんな男との間にできて、他ならぬ私が産んだ、普通じゃない、『無個性』のガキ……

 

 妻であること、加えて、母であることに耐えられなくなって、傷つき、錯乱し、逃げ出すのも無理はない。

 汚らわしいものの発した音に答えることもせず、必要な荷物だけまとめた後は、家を飛び出した。

 

 一人残されたデクは、ただ、待った。

 動画を一通り見終わった後も。お腹がすいても。眠くなっても。

 大好きなお母さんが、また、僕の身を抱きしめてくれるその時を……

 

 待ち続けた、三日目の夜に、電話が掛かってきた。

 お母さんかと期待して出ると、お父さんの声。

 4歳のつたない舌と語彙で、必死に説明した。

 お母さんが、いなくなったこと。ずっと帰ってこないことを――

 

 

 ――お前のせいだ……!

 

 

 お父さんから返ってきたのは、その一言だけ。

 後日、父が会社も辞めて姿をくらましたことを知ったのは、空腹に耐えかね倒れていたところを、幼稚園の先生が保護してくれた後のことだった……

 

 

「つまり、あのクソ親父は、別の女と子供作っておふくろを怒らせた自分のこと棚に上げて、せっかく再構築したおふくろが姿を消したのは、無個性だった俺のせいだ。そう言いたかったみてーだな」

「マジに最低のクズ親父だな」

 

 もはや、爆豪としてもそう言うしかなかった。

 

「初対面の妹に対しても、どう接すればいいのかよく分からなかったけど……ガキだったこともあって、なんだかんだ、すぐ仲良くなれた。とは言え、しばらくは落ち込んだし、泣きもした……そんな俺にじいちゃんが、空手を強制してきてな」

「空手だぁ?」

「うちのじいちゃん、空手道場経営してたからな。嫌々やってみたんだが……そこで初めて、俺は天才だったって気づいたよ」

 

 天才……

 爆豪も言われたことがあるその言葉に、思わず反応した。

 

「周りの大人がやってた技、全部こなすことができた。道場に入って一ヶ月後には、じいちゃんも教えることが無くなって、試合したら大人にも勝ってた。その後は、時々しか道場に顔見せなくなっても、文句は言われなくなった。他の門下生に自慢するためにな」

「ケッ! 自慢かよ……」

「ああ。自慢だよ。誰よりも一番すごいかっちゃん?」

 

 『いっちゃんすごくないデク』に皮肉を返され、睨みつける。

 

「それで、そんな天才サマが、今じゃあ日本中に名を轟かせるヴィジランテチームの総長様ってわけかよ?」

 

 爆豪からの皮肉も、デクは気にせず、話していく。

 

「まあそんな道場でも、時々顔を出してるうちに、同い年の新しい幼なじみができた……家が近所だったってだけで、特に仲良かったわけじゃねぇ。しょっちゅう喧嘩ふっかけてきてさ。その度にボコボコにしてやったけど……」

 

 話題がデク自身のことから、自分とは違う、幼なじみの話に。

 それを語るデクの顔は、本当に楽しそうで。

 

「なに考えてるのか分かんねーヤツでさ。眠いってだけですれ違ったヤツ殴るし、腹減ったら車にガソリンまいて火ぃつけちゃうし」

「お前の周りにはヤベェヤツしか集まんねーのか……?」

 

 鳥の血を吸う妹だったり、分かんねーをはるかに超えた幼なじみだったり……

 

 

「ああ――そうだよ」

 

 そして、そんな爆豪の声に、デクは頷いた。

 

「バカすぎたり貧乏だったり、どうしようもない事情のせいで学校からも社会からも見捨てられたヤツ……親にも見放されて不良になるしかなかったヤツ……異形型だったり没個性だったり、逆に強すぎて制御がままならなかったり、そういう個性のせいで差別を受けてきたヤツ……ヒーロー志望だったのが挫折して捻くれたヤツってのもいる。東卍に集まるヤツはそういう、普通の生き方ができなかったヤツらばっかだ」

 

 最後の例は、デク自身のことを言っているのか……そう、爆豪は感じた。

 

「世の中、好きで敵に堕ちるヤツなんて、そうそういねぇ。同じように、好きで不良になったり、ましてやヴィジランテになるようなヤツなんて、普通はいねぇ。東卍作ったのだって、元はと言えば、ダチの一人が、ヒーローも警察も相手にしてねぇ小物敵に粉かけられてたのを、ガキンチョ六人が集まって、ヒーローチームの真似事して戦ったのが始まりだったしな」

「……そのヒーローチームがなんで暴走族なんだ?」

「当時、俺らみんなヤンキー漫画にハマってたんだよ」

 

 理由を聞いてみれば、子供らしい単純な理由である。

 

「で、その敵を倒した時点で、俺らのヒーローごっこも終わりのはずだった。けど、その敵にやられてた、他の被害者たちからも感謝された。そうして人が集まった。それで、次に悪さしてた敵も見つけて、そいつも倒した。そしたらまた、感謝されて、人が集まった。その後は仲間が仲間を呼んで、ヤバイ敵とも戦えるようになって……それで、気がついたら百人に増えてた」

 

 大きくなった理由も、ある意味、子供らしい。

 だがその果てにできたのは、数が三桁にものぼるヴィジランテチーム。

 

「集まったヤツみんな、いつ敵に堕ちちまってもおかしくなかった、そんな連中だ。そんな連中が、ヒーローの真似事してギリギリ社会の敵にならないようあがいてる。東卍は、そういうチームだ」

 

「……」

 

「分かってんだよ。俺も、チームのメンバー全員、自分たちが、どれだけダセェことしてるかってことは。不良って時点で、自分たちがどれだけダセェ人間か……それでも、不良(俺たち)は、こんなやり方しかできねぇ。周りや法律がどう思おうが、他にやり方を知らねぇ。そんなヤツらをさぁ、ダセェの一言で見捨てるなんてこと、できるか?」

 

「……」

 

 法律を破るヴィジランテチーム。学校ではそう教えられていたし、実際正しい。デクも、メンバーも、自覚しているらしい。

 そして、そんな法律違反のチームの実態は、敵予備軍になっちまった若者たちが、犯罪者になってでも敵にならないために、正義の味方のマネして必死にあがく、そんな集団。

 

「だから俺が、アイツらを生かしてやる――俺が、不良(アイツら)の時代を創ってやる」

 

 全力で『ダセェこと』をして、全力で『ダセェ連中』の居場所を――時代を創る。

 そんな夢を語るデクの顔は、どこまでも真っすぐで、澄んでいるように見えた。

 

 

「……」

 

 個性にも恵まれず。親にさえ捨てられて。不良にまで落ちぶれて。

 結果、似たような境遇の仲間が集まり、そんな仲間たちのために全てを捧ぐ。

 そんな、デカすぎる存在になっていた幼なじみを前に……

 

 自分はどうだ?

 才能に恵まれ。親に恵まれ。家庭に恵まれ。環境に恵まれ。

 そんなぬくぬくした環境で、何不自由なく、雄英に入るまでは挫折も知らず、ヒーローを目指すことができている。

 そんな自分には……

 

 これ以上、東卍やデクを責める権利なんて……

 

 

「……そんな大事な東卍の総長が、こんな堂々と歩いてていいのか?」

 

 だから、新たな疑問を尋ねてみた。

 少し前こそ、東卍は噂程度に知られこそすれ、映像の少なさも相まって、そこまで話題に上がる存在でもなかった。

 それが、あの(・・)ヒーロー殺しを捕らえた上、脳無を蹴りの一発で沈めるという、インパクト絶大な映像が出回った結果、東卍の存在は一躍知れ渡った。

 何より、粗い映像とはいえ、爆豪のように、気づく人間は出てくるだろう。

 目の前に座る少年が……

 

「大丈夫だろう。俺見て東卍の総長と思うヤツなんていねーよ」

「……」

「見えるか? 俺が、東卍の総長に」

「……」

 

 言われて、改めて、目の前の幼なじみを見てみる。

 天然に伸びたモサモサの髪。そばかすの浮いた幼い顔。

 学ランは全てのボタンはもちろん、ホックまできっちり閉めて、そんな制服を着た体型は、見た目完全にモヤシと言っていい。

 爆豪の知る、弱っちい幼なじみの姿そのままだ。

 

「実際、今日も普通に学校行ったけど、俺見て総長だと思ったヤツ、一人もいなかったし。先生からも、この間の中間テストで学年一位取ったこと褒められたしな」

 

 確かに、誰も思うまい。こんな、目立たない地味な優等生のガキが、今や全国に名を轟かす、有名ヴィジランテチームを束ねる存在だなんて……

 

 

 

「……そういえば、見たぞ、雄英体育祭」

 

 と、幼なじみのギャップに何も言えなくなった爆豪に、デクは新たな話題を振った。

 

「優勝おめでとう」

「ケッ! あんなもん、勝ちじゃねーよ。あの半分野郎、最後まで嘗めプしやがって……」

「表彰式は見ものだったよな? 全身ふん縛られながら、縛られた口でキレ散らかしてよぉ」

「うるっせぇわクソデクが!?」

「オールマイトに無理やり咥えさせられた金メダル、どんな味だった?」

「黙れや殺すぞォオオッ!?」

 

 

 ……と。

 陽が暮れるまで、再会した幼なじみ同士は、語り明かした。

 

「また遊ぼーなー」

 

「るっせー!! 二度と会わんわボケがぁあああ!!」

 

 デクは笑って。

 爆豪はキレ散らかして。

 そんな姿は最後まで変わらなかったけれど。

 

 それでも、長く分かれて、いつの間にやら心にできていた隙間が、確かに埋まるのを感じて……

 

 

「ケッ、クソデクが……」

 

 爆豪は無意識に、微笑んでいた――

 

 

 

 

 

 その爆豪勝己が、敵連合にさらわれたというニュースが流れたのは、数日後のこと。

 

 

 




『緑谷 出久』
 おなじみ、我らが主人公。
 表向きは、地味で目立たないモサモサ優等生。
 その正体は、構成員100人を超える不良ヴィジランテチーム『東京卍會』の総長。
 そのヴィジュアルのおかげで、普段の彼を見てそんな人間だと気づく人間は学校、社会にはまずいない。
 そのため敵と戦う時は普段、隊員たちはサポートに回して総長自らが最前線に立つことで、万が一顔バレしても正体バレのリスクを抑える結果となっている。


『爆豪 勝己』
 ご存じ、爆発いじめっ子系幼なじみ。ある意味武道枠その3。
 ほぼほぼ原作通りではあるが、『無個性』を理由に『いっちゃんすごくねぇデク』が捨てられ、姿を消したことで、自分はああはなるまい、なりたくないという、恐怖とちょっとしたトラウマを懐くことになった。
 それでも志望校である雄英に入学を果たし、同級生の強さに挫折を感じつつも研鑚していたところに、東京卍會と、『無個性』の"無敵のデク"の噂を聞きつける。
 さすがに偶然だろうと思っていたが、脳無を倒す"無敵のデク"の映像を見て、自身の幼なじみだと確信。
 自身の知る姿とあまりにかけ離れていたことになぜだか怒りを感じ、見つけ出して会いに行った。
 昔とは逆にコテンパンにやられ、その後饒舌に身の上話や世間話を交わした幼なじみを気に入らないと感じつつ、どこか憑き物が落ちた心持ちで帰っていった。


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