【完結】"無敵のデク"   作:大海

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アンチ・ヘイト要素回。



最終話【 Greatest Teaching Others 】

 

 渋谷区にある、とあるビル。

 その中にある、一つのフロア。

 

 派手なピンクのタオル。

 ローションと石鹸の香り。

 壁にはいくつもの女の写真。

 

 知識や経験のある人間なら、この場所が風俗であることは一目で分かる。

 女たちが集まり、男客相手に金で身体を売っている、そのための店だ。

 

 そんな店にいる女たちの、働く理由は様々だろう。

 単純に金のため……

 生活のため……

 家出や失業、加齢などにより最終的に行き着いた……

 

 動機や事情はどうあれ、いずれにせよ、好きでもない男たちに体を捧げるこういった店で、好きで働く女というのは、少数派と言っていいだろう。

 

 

 今日が初出勤となるこの女性も、好きで働いているわけじゃない。

 単純に生活のため、男のために、金払いの良いこの仕事を、男に勧められるままに選んだ。

 

 それなりに恵まれた、普通の人生を歩んできた。幸せだと思っていた。

 それがある日、呆気なく壊れ、そこからは、転落の一途。

 それでも、全てを捨てて、長年の苦難の時を耐えたことで尊き出会いを果たした。

 

 彼と一緒なら、またやり直せる。彼の言葉なら、信じられる。

 そんな彼を支えるためなら、身体を売るくらい、なんてことない。

 幸いなことに、それなりに歳は取ってるけれど、貧しくひもじい時が長かったこともあって、スタイルも顔も若い娘には負けないだけの美貌を維持できている。

 

 いつまでこんな仕事をしなきゃならないかは分からないけれど……

 お金さえ貯まれば、また昔みたいに、幸せな日々が待っているに違いないから……

 

 

 希望と彼への愛情を胸に、彼女は、透け透けなネグリジェ姿で、指定された部屋に入り、座礼した。

 

「ご指名ありがとうございます。インコでございま……」

 

「よ。久しぶり」

 

 目が合った客の言葉に、インコ……引子は言葉を失い……

 

「元気そうだな――お母さん」

 

 目の前の客が、何者かを思い出して……

 

「ウソ……い、出久……!?」

 

 絶句し、固まった。

 

 

 

「……」

「調子はどうだ? て、こんな店で働くくらいだし、聞くまでもないか」

 

 用意されたベッドの上に並んで座り、会話する。

 緑谷出久は、何のけ無しに近況を聞いていた。

 緑谷引子は、真っ青な顔を伏せていた。

 

「……い、出久、どうして、この店に……?」

 

 気まずく、震える声で、絞り出した質問がそれだ。

 

「こ、この店、入れるのは18歳以上で……出久は、まだ、その……」

「この店、俺の親友の店だよ」

 

 出久は、平然と質問に答えた。

 

「父親は誰か知らねーけど、母親が風俗嬢で、2歳の時にこの店に残されて消えたんだと。俺なんかよりよっぽど悲惨だよな?」

「……」

「それで、その後はこの店の店主と、風俗嬢たちに育てられながら、この店手伝ってたんだってさ。実際、ここには何度も遊びにきてる……その店で偶然、母さんが働くって聞いた時はマジに驚いたけどさ」

「……」

 

 顔は、とても見られない。それでも息子がウソを言っていないことは、声色で分かった。

 

 

「……それで、何の用よ?」

 

 ここが息子の友達の店で、自分は偶然そんな店を選んで雇われた。

 それも、信じられないし最悪だが、問題は、なぜコイツが目の前にいるかということ。

 

「母親の大切な仕事の邪魔してまで、何の用よ? まさか、今さら親子に戻りたいだなんて言わないわよね?」

 

 二人以外に誰もいない。そんな空間も相まって、引子は、包み隠さず本音を語った。

 

「誰のせいで、私がこんなことしてるか分かってんの? アンタが無個性だから、私の人生壊れたんじゃない。アンタが生まれてきたから、私の家庭が壊れたんじゃない! 人の人生メチャクチャにしておいて、今さら息子ヅラして、母さんなんて気安く呼ばないでよ……!」

「……」

 

 出久の顔に、悲しみとか、苦痛とか、言われて浮かべそうな感情は無かった。

 あるのは……否、何も無い。母の叫びと涙に対して、何の感情も向けてはいない。

 

「親父にそう言われたのか? 自分たちが壊れたのは、俺のせいだって?」

 

 そんな無感情な顔に対して、出した声には明白な、憐れみの情がこもっていた。

 そして、それを聞いた引子の顔を見て……出久は確信する。自身の考えが正しいことに。

 

「素敵な信じられる男性に勧められたから、ここで働くことにしたって聞いて、まさかとは思ったけどな……アンタ、顔は綺麗だったけど、モテるって感じじゃなかったものな。男に取り入るってタイプでもなかったし。大方、偶然再会したクソ親父に、家庭を壊した『無個性』のクズなんか忘れて、もう一度やり直そう……そんなこと言われたんだろ? アンタ、何だかんだ、あの男にクビッタケだったものな」

 

 やめろと言われたから、母と呼ぶのは止めにした。

 そんな母が浮かべた顔は……

 憎々しげに、涙を浮かべた目を向ける。

 その顔が、出久の言葉が正しいことを証明していた。

 

 

「再構築おめでとう……まあ、せいぜい一度裏切って、再会した後も奥さんをこんな店で働かせる男と、幸せな人生を歩むこった」

 

 そんな顔を向ける母に、最後の親孝行として、そんな言葉を投げかけて。

 そのまま部屋を、後にした。

 

 

 後に、結局引子が信じた男――出久の実父には別の女がいて、引子を働かせていたのはその女に貢ぎ、最終的には引子を棄てて駆け落ちするためだったことを知り、二度目の修羅場を迎えることなど、出久には関係のない話である――

 

 

 

 

「もういいのか?」

「おお。教えてくれてありがとな、ケンチン」

 

 この店に住む親友……

 ドラケンに礼を言って、簡単な会話を済ませた後は、その店を後にした。

 

 

 

「……あ、おかえりなさーい♪ デクくーん♪」

 

 まだ家にも着いていない段階で、そんな陽気な声が聞こえた。

 

「よぉ……おかえり」

 

 続いて、そんな静かな声も。

 

「ただいま。ヒミコ。凍矢」

 

 自身の妹と、兄。今の出久の家族は、快く出久を迎え、家に向かって歩き出した。

 

 

「母親との会話はどうだった?」

「別になにも? 息子ヅラすんなって泣かれて終わりだ」

「そうかい……」

「……凍矢こそ、せっかく家に帰れたのに、またウチに戻ってきてよかったのか?」

「……おう」

 

 短く答えた凍矢も、自身の『家族』のことを振り返った。

 

 

 死んだとばかり思われていた長男。

 そんな凍矢が生きていたと知った家族は、当然だが、ひどく驚き、ショックを受けていた。

 

 まず、父親は、自身をないがしろにしていたことを、泣きながら土下座して詫びてきた。

 入院中だった病院から抜けてきた母親も。

 その後は、思いきり抱き締められて、号泣された。

 妹も、上の弟まで抱き着いてきて。末の弟は、さすがに混乱してか見ていただけで。

 

 その後は、話をした。

 凍矢は今まで何をしていたか。どこにいたか。

 あの日、何があったのか。

 

 その後は、お互いに対する本音。

 あの時言えなかったこと。

 

 そして、この先どうしたいか……

 

 もちろん、実の両親や本当の兄弟たちは、凍矢が戻ってくることを望んだ。

 今までしてきたことを償わせてほしい。

 そして、失った家族の時間を取り戻したい。と。

 

 そんな家族に対して、凍矢は……

 

「悪ぃけど、今の俺の家族は、出久たちだから」

 

 それが、轟凍矢が選んだ答えだった。

 

 

 いつでも帰ってきていい。

 そんな言葉だけはありがたくいただいて、凍矢は、緑谷凍矢として帰ってきた。

 それまで諸事情で染めていた黒髪を、地毛である白髪に戻して……

 

 

「私たち、生みの親というものにとことん恵まれませんね」

 

 そんな凍矢の両親を知らない被身子は、そんな事実を吐き捨てた。

 

「だな。けど少なくとも、『家族』には恵まれてるだろ?」

 

 そして出久は、被身子の言葉にそう返した。

 

「ああ。間違いねぇ……俺たちは、幸せ家族だ」

 

 確信を込めて、凍矢が言う。

 

 親に拒絶され。見放され。棄てられ。

 とてもじゃないが、普通とは言い難い人生を押しつけられて。

 傷ついた。絶望もした。泣きもした。

 そんな苦しみを歩んできた末に出会い、兄妹に……家族になれた。

 

 胸の痛みを抱えながらも、だからこそ、見捨てられる辛さは知っている。

 だから、見捨てない。決して離れ離れにならない。

 そんな、血の繋がり以上の強い絆が、この三兄妹には結ばれていた。

 

 

「そう言えばデクくん、私のお兄ちゃんに会ったんですよね?」

「渡我イザナか? “黒川 イザナ”って名乗ってたみたいだけど……」

「はい! 黒川は確か、父方の性ですね? 私のこと、何か話してました?」

「なにも。いきなり殺しに掛かられて、ヒミコの話するどころじゃなかった」

「お前に可愛い妹はやらん! てことかもな」

「モテモテですね~、私」

「それなら俺よりむしろケンチンだろ。てか、そんな理由なら凍矢も恨まれんだろ」

「おぉーこわ……そん時は出久が守ってくれ」

「そこは弟守るって言えよ! お兄ちゃん――」

 

 被身子。出久。凍矢。

 三人兄妹の会話は、一人自宅で待つ祖父の声に迎えられるまで続いた。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

『寮のバウッバウバウッ!! 慣れバウバウグルル生活バウ!!』

 

『アオーーーーーーーーーーーン!!!』

 

 

 月日は流れて、雄英高校のグラウンドにて開かれた、二学期始業式。

 そこで、定番と言っていい校長先生からの長い話をされ。

 生活指導のプロヒーロー”ハウンドドッグ”先生からありがたい話をされて。

 

 真面目な話や、まだまだ知らない雄英の一面を知ったことで、多くの生徒が混乱したり気を引き締めたりしている中。

 

 

『それでは続けて、新たに連絡事項があります』

 

 終わったという空気が流れ始めていた始業式の場を、再び静寂が包む。

 生徒たちの視線が、再び正面に向けられた。

 

『オールマイトの引退を受けて、今後はそれに伴い、敵の活性化や犯罪件数の増加が予想され、各所ではヒーローの戦力増強が叫ばれております。そこで我が雄英高校でも、新たな人材育成の増強を急務という結論に至り、実戦を知る人材を新たに迎え入れることとなりました』

 

 難しい話ながら、要するに、戦力を増やすために人を新たに増やすと言うこと。

 それを理解した生徒の中には、新しい先生でも雇ったのか? そう思う者もいた。

 それもまた、間違ってはいない。

 だが、その言葉の意味する所を、知っている生徒たちもいた。

 

 

『1年M組、前へ』

 

 1年M組。

 雄英での学生生活の中、聞いたことのない単語が聞こえた。

 それに疑問を持った後には……

 

「うわ……」

「なに……?」

 

 何人かの生徒は、現れた者たちのガラの悪さに声が出た。

 

「おい、あれって……」

「うそ……!」

 

 そしてそのすぐ後には、彼らの先頭を歩く人物を見て、息を呑む。

 加えて、全く別の反応を示す者もいる。

 強い視線を向ける者。不敵に笑う者。表情を輝かせる者。

 

 

『それでは、1年M組代表、緑谷出久、朝礼台へ』

 

 呼ばれた生徒――緑谷出久は、言われた通り、朝礼台の上で、マイクを握った。

 

 

『1年M組、学級委員長……知っている人もいるようなので、敢えて名乗ります――元、東京卍會総長”無敵のデク”こと、緑谷出久です』

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「今日はもう一つ、話がある」

 

 東京卍會の解散。それを宣言したあの日。

 長く続いていた歓声が止んだタイミングで、デクは、そう語り掛けた。

 

「東卍が解散した後、どうするか――俺は、雄英高校ヒーロー科に行くことになった!」

 

 

「「「「えぇー!!?」」」」

「「「「えぇー!!?」」」」

 

 

 隊員らの誰もが、目を見開き驚愕した。それも当然だろう。

 天下の雄英。オールマイトの母校にして、多くのトップヒーローを輩出した日本最高のヒーロー育成高校。

 そんな名門校なだけに、入学さえ困難な狭き門でもある雄英に、まだ夏休みの最中であるこんな中途半端な時期に、それも、不良……法律を散々破ってきたヴィジランテチームの総長が、だ。

 

「この理由も、さっき言った通りだ。人質の少年と、オールマイトを救けた功績、今まで敵と戦ってきた実績を認めて、だってよ……まあ、最初は断ったけどな」

 

 そしてまた、驚愕。

 雄英に入る。落ちこぼれである不良にとって、これほど美味しく、誇らしい話もない。

 まして、出久が高校ではテストで学年一位を取るほどの優等生であることはチームの誰もが知っている。自分たちはともかく、彼なら雄英でもやっていけるに違いない。

 そう確信した。なのにそれを、断った。

 

「当たり前だ……敵と戦ってこられたのも、かっちゃんを救け出せたのも、全部、お前らがいてくれたからだ。俺一人じゃなにもできねぇ、無個性のただのガキの俺が、お前ら残して雄英になんて、どうして行けるっていうんだ?」

 

「「「「……」」」」

「「「「……」」」」

 

 疑問の次は、感動を感じた。

 東京卍會総長”無敵のデク”。常に自分を、無個性だ、無力だ、そう見下げ果てていた。お前たちがいるから戦える。自分一人じゃなにもできない。だから便りにしている。そんな激励が、自分たちに力をくれていたのは事実だ。

 

 だから今度は、怒りを覚えた。

 いくら無個性でも、そんな事実を感じさせない力を、アンタは持っているだろう? 示してきただろう? なのに、ようやく認められたそれを、自分自身で否定して。

 幼い時分とは言え、デクが、元々はヒーロー志望だったことを知っている隊員もいる。

 だから余計に許せなかった。

 夢が叶うのに、その道を、自分たちを理由に断つなんて――

 

 ただ、デクはあくまで、最初は(・・・)断っただけだ。

 

「だから、代わりに条件を付けた。もし俺が雄英に入るとしたら、それは、お前たち東卍全員と一緒だって。お前らの中には、俺みたいにヒーロー志望だったのが挫折したヤツだっていたからな」

 

 感動と、怒り。そういった感情がないまぜになっている隊員たちに向かって、デクは話を続けた。

 

「けどまあ、当然、無理な話だ。100人もいるし、そもそもお前ら、俺と違って雄英に入るほど学力ねーだろ?」

 

「「「「……」」」」

「「「「……」」」」

 

 当たっているだけに、反論できなかった。

 

「そもそも、ヒーローとか雄英に興味がねーヤツや、今の学校が気に入ってるヤツだっているだろう。成人したヤツや、俺と同い歳で働いてるヤツだっている。だから、それを望んで、且つ、雄英には入れるヤツならってことで、条件が許された」

 

 どういうことかと、隊員たちが疑問を覚えた時――

 

 

「私が説明に来たー!!」

 

 

「ぅえ!? あれって――」

「オールマイト!?」

 

 

「鼠なのか熊なのか――その正体は、雄英高校の校長の根津さ!」

 

 

 トゥルーフォームのオールマイト。そして、校長を名乗るスーツ姿の生物が現れた。

 

「東京卍會諸君! 突然しゃしゃり出て何だが、まずはお説教だ……ダメじゃないか!! ヒーロー免許も持っていない身で危険な現場に赴いたあげく、許可も無しに個性を使用して! 君たち自身の命や法律違反だけじゃない――もし、君たちの行動が原因で死傷者を出したとしたら、その責任はどう取るつもりだったんだい!?」

 

「「「「……」」」」

「「「「……」」」」

 

 他ならぬ、オールマイトに叱られて……

 全員、そのことは不良ながらに分かっていた。デクやドラケン、各隊長らからも口酸っぱく言われてきたし、動く時も、周囲の人間を巻き込まないことには何よりも注意を払ってきた。

 チームが起こしたことの責任は、チームが取る。

 その絶対の約定を胸に、全員がバカなりに、責任を持って行動してきた。

 おかげで、今まで自分たちのせいで、民間人にケガ人を出したことは一度もないが……

 それでも、立場も経験もはるかに上な、立派な人に言われると、いくらできたと思っていても、ダメだったのかと考えてしまう。それは、大人、子供関係なく人のサガだ。

 

「とは言え……少なくとも、今日まで君たちの行動によって死傷者が出たことは一度もない。どころか、君たちのおかげで助かったという人たちも大勢いる。立場上、敵との戦い以外は積極的に行うことはできなかったろうが、災害救助に当たる姿の目撃証言もある。戦闘も救助も、並のプロヒーロー以上の強さと手際だったという声もね」

 

 怒られて、反省した。

 だが、そのすぐ後に褒められて、顔を上げた。

 

「君たちのしてきたことは決して許されない行為だ。残念ながらそれだけは事実だ……そんな事実を認めた上でだ。今日まで本当に、多くの非難や否定の言葉を受けながらも、数々の敵と戦い、人と救け、神野ではオールマイトと我が校の生徒を救けてくれたこと、雄英高校の校長として、改めてお礼を言わせていただくのさ」

 

 オールマイトからの説教と賞賛の後に受けた、総長に続いての、お礼。

 それも、雄英の校長という、自分たちとは別世界に住む人。

 それを受けて、隊員らは再び混乱に包まれた。

 

 

「さて……すでに知っているかもしれないが、オールマイトは先の戦いで力を使い果たして、事実上引退した。今後は敵の活性化や、更なる強敵の出現も考えられる。それに対抗するために、”無敵のデク”君にはどうしても、我が校でヒーローを目指してほしいと考えた」

 

 他でもない、雄英の校長、そして、オールマイトが認めている。

 隊員らは改めて、自身らがついてきた男の偉大さを知った。

 

「そして、彼の言う通り……彼個人の力もさることながら、真に注目すべきは、彼を慕いついてきた君たちを統率する力。それこそが、東京卍會の真の強さであり、”無敵のデク”君の力の源だと分かったのさ」

 

 そして今度は、自分たちが褒められる。

 嬉しさと、むずがゆさを感じた。

 

「だから、君たちのことも迎え入れようと思ったが……緑谷君の言った通り、ただ迎え入れるというわけにはいかない。数が多すぎるうえ、高校の成績や、いくつもの実績を残してきた緑谷君とは違って、君たちを雄英に迎え入れるに相応しいかを判断する材料が少ないからだ」

 

 それを聞いて、出久は悔いることになった。

 彼らを守るためとはいえ、証拠の画像や映像が残らないよう立ち回ってきたのが、こんな形で裏目に出るなんて……

 

「そこで! 緑谷君とは別に、新たに入試試験をセッティングする。筆記試験と実技試験、その二つを突破した、最大19名の生徒を、改めて我が校のヒーロー科へ迎え入れるのさ!」

 

 つまり、この場にいる誰もが雄英の入試に挑戦できて、うち19人までが合格できる、ということ。

 

「ちなみに、20名以上の合格者が出た場合は、より獲得点数の高い合格者を生徒に迎えることになる。そして、この試験で、一定数以上の合格者が出れば、新たに君たちのためのヒーロー科クラスを新設するつもりだが……もちろん、筆記も実技も、雄英の名に恥じないだけの難易度であることは覚悟してもらう。加えて、君たちの多くは高校生だ。筆記試験も、それに見合うだけのレベルになる」

「ちなみに俺は、受けてみて筆記も実技も合格したぞ」

 

 そりゃあ、アンタなら余裕だろうよ……

 隊員の誰もが、総長に対してそう思った。

 

「そして、今言った通り、すでに緑谷出久君の入学は決定している。加えて緑谷君には、我が校のヒーロー科生徒が夏休み中に受ける、プロヒーロー仮免試験も受けてもらう予定だ」

 

 サラっととんでもない発言を聞いた後で……

 再びデクが、前に出た。

 

「東卍は今日、解散した。俺も、お前たちも、新しい道を行くことになる。けどもし、こんな俺に、もう一度ついてきてくれる気があって、そのために挑戦しようって思ってくれるヤツがいるのなら――」

 

 そしてまた、頭を下げた。

 

「俺と一緒に――雄英に入ってくれ!!」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「ああは言ったけど、ぶっちゃけ、俺以外、一人も入学できねーとばかり思ってたんだけどな。まさか合格者が、それも、本当に一クラス新しく作るだけの人数合格するとは……」

 

 

ヒーロー科 1-M学級委員長

 緑谷 出久(通称:”無敵のデク”)

 

 

「まあな。言われた通りついてきてやったんだ。せいぜい感謝しろよな」

 

 

ヒーロー科 1-M副委員長

 龍宮寺 堅(通称:”ドラケン”)

 

 

「今後ともよろしくなー、デク!」

「俺もスマイリーも、無事に合格できたもんね!」

「ぶっちゃけヤバかったけどな……」

 

 

ヒーロー科 1-M

 河田 ナホヤ(通称:”スマイリー”)

ヒーロー科 1-M

 河田 ソウヤ(通称:”アングリー”)

ヒーロー科 1-M

 羽宮 一虎

 

 

「……ま、ガキのころからの腐れ縁だ。付き合ってやるよ」

「パーちんの脳ミソはミジンコ以下だからな!」

「おうよ!」

 

「……お前らに至っては、どうやって筆記を突破したんだ? いや、マジで」

 

 

ヒーロー科 1-M

 場地 圭介

ヒーロー科 1-M

 林 良平(通称:”ペーやん”)

ヒーロー科 1-M

 林田 春樹(通称:”パーちん”)

 

 

「俺らが必死に教えたんだよ」

「そういうことだ……すでに試験を受けたデクは、力を貸すことを禁じられていたからな」

 

 

ヒーロー科 1-M

 松野 千冬

ヒーロー科 1-M

 明司 春千代(通称:”三途 春千代”)

 

 

「私も手伝いましたー♪ それに、シュウくんも実は勉強ができるんですよ?」

「シュウ、くん……!」

「……てか、伊口はともかく、なんでヒミコまでちゃっかり試験受けてんだよ?」

 

 

ヒーロー科 1-M

 緑谷 被身子(通称:”渡我 被身子”)

ヒーロー科 1-M

 伊口 秀一

 

 

「まあ、ヒミコの強さは俺も知ってるし、神野でも助けられたみたいだけど……」

「今回は俺だったけど、デクに変身されたらマジでデク以外は手がつけられねーからな」

「私、強いですから♪」

 

 強いのはお前じゃなくて、デクとドラケンなんだけど……

 一同はそう思ったものの、そんな強さを引き出すことも強さだと思い、呑み込んだ。

 

 

「タカちゃんも受かるだけの力はあったんだけどな……あの時、校長と話して、経営科の編入試験受けて合格しちまったし」

 

 

ヒーロー科 1-M

 柴 八戒

 

 

「まあ、元々服飾志望で、自分の店持ちたいって言ってたしな……」

「本人たちの意思だ、仕方がない。ウチの隊長も、受験を辞退したからな」

「ムーチョか……まあ、アイツも18歳で普通に働いてたもんなぁ。飛田は歳もあったけど、東卍で満足したって言ってくれたし。ラブラバは飛田の就活手伝いながら、将来は雄英のサポート科受けるって言ってたっけ?

 

 と、改めて見渡してみても……

 東卍の隊員としては頼りになるが、始業式で生徒たちが示した反応の通り、雄英の生徒というには、かなり疑問な13人である。

 

 

「ただまあ、受かった後や、始業式でも説明があったが、合格して終わりじゃねえ。M組は今年度限りの、言っちまえば補欠。スタートが遅れてる分定期テストを受けて、雄英でやっていけるってことを証明しなきゃならねえ。それで結果を残しつつ、一年生が終われば、二年のA組かB組に振り分けられるが、成績が振るわなきゃ普通科行き。最悪、二年になる前に除籍される……そのことをお前ら、忘れんじゃねえぞ」

「ケンくんもね♪」

 

 副委員長の言葉。それに即座に返すヒミコ。

 そんな二人のやり取りに……

 

 クラス全員が身を引き締め、同時に、癒された。

 

「ただ、そんな補欠で問題児が集まったクラスは、誰が担任してくれんだ?」

「確かに、そこは気になるね? スマイリー」

「雄英だし、プロヒーローの誰かだろうけどな……」

 

 

 

 

 同じころ、職員室にて……

 

「しかし、ヒーロー科クラスの新設だけでも前代未聞なのに、そのクラスの担任として新たに雇い入れたこのヒーロー……大丈夫なんですか?」

 

 新たに雇った教職員の資料を手に、ヒーロー科1-A担任の相澤消太は、校長に尋ねていた。

 

「プロデビューして一年目。にも関わらず、サイドキックとして雇っていたプロヒーローとトラブルを起こし、事務所のクビに加えて、実質無期限のヒーロー活動停止処分……」

 

 そんな情報だけでも、かなり問題ある人物であることが分かる。

 

「高校中退後、大検取得を経て大学のヒーロー科に入学。在学中に免許を取得してプロヒーローになった。それはいいんですけど……聞いたことない大学ですね?」

 

 いくら雄英と言ってもヒーロー科だけでなく、普通科にサポート科、経営科もある。また、ヒーロー科にしても、ヒーロー免許を取得できないまま卒業する生徒もいれば、途中挫折したり、ヒーロー以外の道を見つけだす生徒もいる。

 そういった生徒たちの進路のために、ヒーロー科はもちろん、様々な道を選べるよう、ある程度の大学の名前は教師の知識として持っている。

 それでも、聞いたことがない。そんな相澤に、校長は、笑いかけた。

 

「それは無理もない。今でいうFランク、昔は五流大学なんて呼ばれていたレベルの大学だからね。わざわざそんな大学を卒業後の進路に選ぶ生徒は、雄英にはいないだろうさ」

「……そんな大学の、ヒーロー科ですか?」

「そう……しかも、その大学にはヒーロー科こそあるけど、歴代でもプロヒーローとしてデビューを果たしたのは、彼一人。そんな彼も、その大学や、ヒーロー免許の筆記試験は替え玉を使ったという噂だ」

「……」

 

 相澤としても、学歴で人を判断するような愚かなマネをする気は無いし、大学入試はともかく、ヒーロー免許の筆記試験はカンニング対策もかなり厳しいから、その噂はガセだとして……

 

「……仮にも雄英の教師に、どうしてそんな男を?」

「確かに、問題ある人物でもある。しかし、彼ほど1年M組に寄り添うことができるヒーローもまた、いないと僕は考えている。彼ならきっと、M組に、そして、雄英に見事なジャーマンスープレックスを決めてくれるはずさ♪」

「なんです? ジャーマンて……」

 

 校長の考えを理解するのは難しい……

 だから、それ以上は言わず、手元の資料に目を戻した。

 

優羅志亜(ゆうらしあ)大学ヒーロー科、ねぇ……」

 

 

 

 

 ガララ パシャッ――

 

 場所は戻って、1年M組のクラス。

 そこのドアが、力強く開かれた。

 入ってきた、金髪、白スーツにノーネクタイのその男は、黒板に文字を書いていく。

 

 カッ カッ カッカッ カッカッカッ

 大げさな音を立てつつ、全てを書き終えたようで、タバコの火をくゆらせながら、反り返り、顎を上げ、大いに突っ張ったそんな姿勢で、グラサンの下からメンチを切った。

 

 

「今日からこのクラスの担任になる、グレートヒーロー”オニバク”こと、鬼塚(おにづか) 英吉(えいきち)22歳だ!!」

 

 

『 夜 露 死 苦 』

 

 

 

 




実際、彼らの担任が務まるヤツなんて他にいないと思う。
他に候補がいるとしたら、極道ヒーロー"やんくみ"か、もしくは触手ヒーロー"殺せんせー"か……

にしても、デクと他隊員らの不公平感よ。



ヒーロー科 1年M組(13名)

出席番号順

明司 春千代
伊口 秀一
河田 ソウヤ
河田 ナホヤ
柴 八戒
場地 圭介
羽宮 一虎
林 良平
林田 春樹
松野 千冬
緑谷 出久(学級委員長)
緑谷 被身子
龍宮寺 堅(副委員長)


経営科 転校生
三ツ谷 隆


サポート科 志望
相場 愛美



『鬼塚 英吉』
 1年M組担任 プロヒーロー"オニバク"(活動停止中)
 見た目、性格ともに元ネタそのまま。個性有り。
 かつては暴走族の総長でもあったワル。
 特に将来の目的もなく替え玉受験で大学へ行き、「女にモテそう」という理由でヒーロー科に入る。
 そこで、本番のみ謎に発揮された学力と空手部主将にまで上り詰めた戦闘力から、大学史上初のヒーロー免許取得に至る。
 その後サイドキックとしてデビューしたものの、雇い主であるヒーローとトラブルを起こし事務所をクビに。加えて、実質無期限のヒーロー活動停止処分を受ける。
 結局自分にはヒーローなんて……トラックの運ちゃんへの転職を考えていた時、トラブルの様子を見ていた根津校長に声を掛けられ、1-M担任となる。
個性:本気で個性が思いつかんキャラその3




あと、番外編を二話ほど投稿して本当に終わりです。


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