【完結】"無敵のデク"   作:大海

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前回が大人パート。こっちが子供パート。時系列はメチャクチャです。



番外編【 The Final 】B-part

 

・食堂にて

 

「お子様ランチが食いてえ!」

 

 昼休みの食堂にて。

 プロヒーローでもある、クックヒーロー”ランチラッシュ”によって作られた食事が無料で楽しめる、生徒らにとっても至福かつ楽しみの一つ。

 そうして生徒たちが集まっている中、メニューを選ぶ段階での食券を前に、ヒーロー科1年M組学級委員長は、堂々と宣言した。

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-M 学級委員長

 緑谷 出久

 

 

「無ぇーだろ、メニューに……てか、大勢の生徒が見てる前で、何を宣言してんだお前は?」

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-M 副委員長

 龍宮寺 堅(通称:”ドラケン”)

 

 

 あまりに堂々とした態度と、宣言した内容に、周囲の生徒たちが固まっている中で、ドラケンはそう冷静に返していた。

 

「お子様ランチが食えねーなら、二度とここには来ねぇ……」

 

 子供か……

 聞き分けが良いだけマシだが、ちょっとしたクレーマー染みた言い分に対して、他クラスの生徒たちは呆れるばかりだった。

 

 

「はーい、お待ち♪ ランチラッシュ特性お子様ランチだよー」

 

「「「「ランチラッシュ!?」」」」

「「「「ランチラッシュ!?」」」」

 

 食堂を出ようとした出久を引き止める形で、ランチラッシュがお盆を置いた。

 

「お客様の要望に応えてこその、クックヒーローだからねぇ」

 

「「「「ランチラッシュー!!」」」」

「「「「ランチラッシュー!!」」」」

 

 思わぬ神対応を前にして、見ていた生徒たちはランチラッシュへの畏敬の念を強めたと同時に、これで満足だろうと、出久を見た。

 

「……足りねぇ」

 

 が、出久は、そう不満の声を漏らした。

 

「一番肝心なもんが、この皿には無ぇ」

 

 そんなクレームを聞いた生徒たちは、すぐさま出されたお子様ランチを見た。

 エビフライ、ハンバーグ、山型に盛られたチキンライス、野菜は茹でたブロッコリーにプチトマト、デザートにプリン。

 店によっては、チキンライスがオムライスであることもあるようだが、少なくともその皿の上には、この場にいる雄英生ら全員がお子様ランチと認めるメニューが乗せられている。

 なにも足りないものなんてないじゃないか……

 生徒の誰も、何が足りないというのか、分からない。

 

「……おっと! 僕としたことが、確かに、肝心なものが足りなかったねぇー!」

 

 ランチラッシュも、しばらくお子様ランチを見て逡巡したが、足りない物に気づいたらしい。

 

「ほらよ」

 

 と、気づいたランチラッシュがそれを刺すよりも早く、隣にいたドラケンが、どこから出したのやら、つまようじの旗をチキンライスに刺した。

 

「わぁー♡ さっすがケンチン♪」

 

 直前までふて腐れた態度だったのが、一気に上機嫌に変わる。

 二人とも、自身の注文した料理を手に、席へと歩いていった。

 

「てかお前、真面目な優等生キャラはどうしたよ?」

「みんなが正体知っちまった以上、取り繕ったって意味ねぇーだろう」

「まぁ、そうだな……」

 

 

「負けた……僕が、ランチで負けた……」

 

 それ以降、昼休みが終了するまで、なぜかいつになく落ち込んでいるランチラッシュを、この日食堂を利用した生徒の全員が見たそうな――

 

 

 

「あー!! もうやってらんねー!! ウッせぇんだよデク!!」

 

 先ほど騒いでいた二人の片割れ。今度はデクではなくドラケンが声を上げ。

 何事かと、全員がその二人の座る席に注目した。

 

「ぐがー……すぴぴ……ふがー……」

「食ったらすぐ寝るの、いい加減直せって言ってんだろ」

「ムニャムニャ……もう食べられないよ……」

 

 うるさいって、いびきかよ……

 テーブルに突っ伏し、気持ちよさそうに寝息を立てている、出久の姿に、生徒たちはそう思った。

 

「たく……しょうがねーな」

 

 ドラケンは悪態をつきつつも、出久を背中に背負う。

 二人分の食器を片づけて、食堂を去っていった。

 

 

 余談だが、この日からしばらく、お子様ランチはほぼほぼデク専用メニューとなっていたものの、次第に他の生徒からの注文も増え、やがて人気メニューになったそうな。

 

 

 

ヒーロー科1-M 副委員長

 八百万 百(コードネーム:”クリエティ”)

 

 

「無敵のデクさん……可愛らしい♡」

「どったの、ヤオモモ?」

 

 

 

 

 

・1-M生徒の交流 その1

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-M

 林田 春樹(通称:”パーちん”)

 林 良平(通称:”ペーやん”)

 

 

「パーちん! ペーやん!」

「よぉー、天哉か!」

 

 教室で弁当をつついていた、パーちんとペーやんに掛けられた声。

 教室の外に立っていたのは、二人の共通の友人である、1-A生徒。

 

 

ヒーロー科1-A 学級委員長

 飯田 天哉(コードネーム:”インゲニウム”)

 

 

「聞いたぜ? お前が、天晴(インゲニウム)の名前継いだって?」

「ああ……二人にも心配を掛けてしまったが、俺は二度と、あのような過ちは犯さない。これからは、真に理想とするヒーローに近づくため、精進していくつもりだ!」

 

 典型的な優等生タイプの飯田と、見るからにバカで不良なパーちんとペーやん。

 あまりに真逆なタイプの三人なのに、なぜこんなにも仲が良いのやら……

 

「それにしても、二人とも、中途入学とは言えよく雄英に来てくれた!」

「おうよ。そのために、人生初ってくらい死ぬ気で勉強したからな」

「パーちんの脳ミソは干からびてんだよ!! カラカラだぞ!!」

「ハハハハ! 相変わらずペーやんは口が悪いが適格だな!」

 

 それは、この三人にしか分からないことながら……

 立場は違えど、命懸けの局面を共に乗り越えたこの三人の絆は、この先も長く続くに違いない――

 

 

 

 

 

・1-M生徒の交流 その2

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-M

 緑谷 被身子(通称:”渡我 被身子”)

 

 

「いやー♪ 響香ちゃんはツッコミが適格ですねー」

「いやいや、ヒミコがだいぶ変わってんだって……」

「アハハ……」

 

 昼休みの食堂にて。

 持前の明るさと物おじしない性格で、別クラスながら同じヒーロー科の女子とアッサリ打ち解けた様子の被身子は、食べながらの女子トークに花を咲かせていた。

 

 

「私、小さいころ、被身子って名前、女王卑弥呼みたいだって笑われたことがあったんです。それで傷ついてた私に、デクくんは、『なら、俺は今日からデクになる。兄貴の俺が木偶の棒だから、女王卑弥呼の方がずっと格好いいだろう?』って。元々は、今の家に来る前にいじめっ子に付けられたあだ名だったのを、敢えて名乗って私のこと慰めてくれたんです」

「素敵♡ 素晴らしいお兄様なのですね♡♡」

 

 元々は、A組副委員長である八百万百のリクエストで、M組学級委員長であり、元東京卍會総長”無敵のデク”の話を妹の被身子から聞こうということになった。

 

「それでですねー、デクくんたら、前から捨てろって言ってるボロボロのタオルケット、未だに握りしめてないと眠れないんですよー」

「まあ♡ あの強さの裏にはそんなに可愛らしい一面が……」

「あー……でもまあ、気持ちは分かるかも。ずっと持ってるのに何でか手放せないものってあるよね?」

「はい♪ 私もケンくんからプレゼントしてもらったコンバットナイフ、今も大切に手入れしてますから♪」

「いや、見せなくていいから。てか、なに堂々と刃物持ち歩いてんのさ?」

「ケロ……大切な物なのは分かるけど、銃刀法違反よ、ヒミコちゃん」

 

 とまあ、こんな感じで様々な話を聞きつつ、被身子も自身のことを語り、それに対する疑問点をA組女子がツッコむ。そんな構図ができあがっていた。

 

 

「デクくんは総長ですから、誰よりも強くなきゃいけなかったんです」

 

 全員があらかた食べ終わり、女子トークも終盤。

 ずっとハキハキと喋っていた被身子の口調が、優しいものに変わった。

 

「すごく強い敵を前にした時も、警察やプロヒーローに目を付けられちゃった時も、デクくんは強いところしか見せない。お母さんに捨てられちゃった日も、本当は大泣きしたかったろうに、泣いてる私を抱きしめて、必死に涙をこらえて。弱いところは全力で隠して」

 

 サラリと語られた重い話に、基本社交的でゴシップ好きな女子生徒たちも、口が閉じてしまう。

 

「けど、夜になると、いつにも増してタオルケットをギュッと握りしめていました……今も同じです。隊員の人が大ケガしちゃった時や、隊員の誰かが逮捕されちゃった時も、泣きたいのを必死にガマンして、お気に入りのタオルケットをギュッと握りしめないと眠れない。本当はそんな、弱い男の子なんです」

 

 誰もが、強い”無敵のデク”の姿しか知らなかった。

 だから、そんな話を聞いて、言葉を失うばかりだった。

 

「だから、そんなデクくんには、私や、凍矢君が必要なんです。いつか、張り詰めてる緊張の糸がプツっと切れた時は、私や、凍矢君がデクくんを支えるんです。私も、そうやって守ってもらってきましたから♪」

 

 たとえ、他人には重く、暗い話に聞こえようが、被身子は当たり前に、平気な笑顔で話して聞かせる。

 そんな被身子の純真な笑顔を前に、A組女子らは自然と微笑みを浮かべていた。

 

 そして同時に、話を聞いていた全員が思う。

 弱い姿をひた隠し、強い姿を周囲に示す。

 それはまさに、プロヒーローが、護り救けるべき人々を前にしての、あるべき姿だと。

 傷つき苦しむ様をひた隠し、笑顔を見せつけ戦い続けた平和の象徴(オールマイト)のように。

 無敵のデクは、総長であり、真にヒーローだったのだと……

 

 

(無敵のデク……緑谷出久さん……素敵♡♡ たまりませんわ~~~~~♡♡♡)

 

 

 

 

 

・1-M生徒の交流 その3

 

 ある日の放課後、M組の教室にて――

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-A

 切島 鋭児郎(コードネーム:”烈怒頼雄斗”)

 夜嵐 イナサ(コードネーム:”レップウ”)

 

 

「ごめん! あの時俺も神野にいたのに! なにもできなかった!!」

「自分もっす!! 無力な自分が情けねーっす!!」

 

「……いや、誰だよ?」

「急になんだ?」

 

 突然教室に入ってきたと思ったら、そろって頭を下げられる。そんな二人の光景に、M組の全員、呆気にとられた。

 

「ああ、悪ぃ。俺は、A組の切島。こっちは夜嵐。今言ったけど、実は俺らも、あの時、あの場にいたんだ。爆豪を救けるためにさ。みんなにも止められたけど、いても立ってもいられなくて……」

「けど、いざ行ってみると、目の前で敵が大暴れして、街を壊して……法律もあって、何もできない、しちゃいけないってのもあったけど、それ以上に、怖くて震えて、足もすくんで、何にもできなくなったんす」

 

「なにもしなかったのか?」

 

 二人の言葉を聞いて、出久が反応した。

 

「ああ……なにもできなかった」

「同じヒーロー科なのに、情けねーっす」

 

「そっか。何もしなかったか……ならよかった」

 

 ヒーロー科のくせに情けない。

 それでもヒーローの卵か?

 そんなことを言われるのも覚悟で二人はここに来た。

 

 本来なら、アソコへ行くことも禁じられていた。

 それでも、見てみぬふりも、ジッとしていることもできなかったから、アソコへ行ったのに……

 なにも、できなかったから――

 

 なのに、あの場で誰よりも行動していた張本人の言葉は、「それでよかった」。

 

 

「お前ら……あの時は、まだ仮免も取ってなかったろ?」

「お、おう……」

「だったら、止めてた周りのヤツらが正しい。単純に経験も実力も伴ってねぇから危ねぇし、そもそも、仮免も無しに個性を使ったら法律違反だしな。そんなことしたら、ヒーロー目指せなくなっちまってたかもしれねー。警察やヒーローが動いてるの知らなかったっていっても、お前らは信じて待つべきだったんだ――まあ、俺が言っちゃいけねーことだがな」

 

 二人に正論を言い聞かせつつも、出久もまた、自嘲する。

 

「俺は無個性だから、法律違反にはなりようがねぇ。ここにいる連中も、元々、失うもんがねぇ連中だ。だから法律破っていいってわけじゃねーが、将来有望なお前らとは違う。お前らは、俺らみてーになっちゃダメなんだよ」

 

「……」

「……」

 

「……けど、それでもコイツらみてーに、行動してくれたことは、スゲーことだって思う。だから――」

 

 出久は立ち上がり、二人の前まで歩いて――

 頭を下げた。

 

「ありがとう。かっちゃん――俺の幼なじみのことを思いやってくれて、ありがとう」

 

「緑谷……!」

「無敵のデクさん……!」

 

 他でもない、無敵のデクからの感謝の意を聞いて――

 ヒーロー科、どころか全校生徒の中でも特に熱い性格である二人は、1-M教室にて、男泣きを見せるのであった。

 

 

 

 

 

・1-M生徒の交流 その4

 

 ある日の放課後、M組の教室にて――

 

 

「緑谷、だったか?」

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-A

 轟 焦凍(コードネーム:”ショート”)

 

 

「お前、確か――」

「A組の、轟焦凍だ……」

 

「オォオオオラアアアアアア!! デクゥウウウウウウ!!」

 

 

ヒーロー科1-A

 爆豪 勝己(コードネーム:”バクゴー”)

 

 

「かっちゃん……今、コイツと話してるから……」

「半分野郎なんざ放っとけ!! 自主練すっから付き合えやー!!」

 

「おい……テメェ、デクの邪魔してんじゃねーよ」

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-M

 場地 圭介

 

 

「なんだぁ? ロン毛野郎……テメーこそ邪魔すんなゃザコが」

「俺がザコなら、デクに一撃で負けたあげく、敵にさらわれて助けられたテメーは、さながらか弱いピ〇チ姫か?」

「あ……?」

 

「あぁああ~~ん!!」

「ぅんんん~~ん!?」

 

 

「……で、何の用だ? かっちゃんと場地が仲良く話してる間に」

「あ、ああ……その、凍矢兄さんのこと、その、ありがとな」

「……」

「保護されてから、ずっとお前の家に世話になったって聞いた。だからその……ありがとう。親父も、お母さんもそう言って――」

「別に。家族なんだから。守るし助けるし、支え合うのなんて普通だろ?」

「そう、かもな……」

 

「それにだ。この際だから、これだけはハッキリ言っとくぞ?」

「なにを……?」

「昔はどうだったか知らんが、今、凍矢は俺のお兄ちゃんだ。血縁だろうがお前にはやらん」

「……」

「そもそも、見つけたのは俺と爺ちゃんだし……ただ、凍矢がど~~~~~~~しても、家に帰りたいって言うなら、俺も諦めるけど。ど~~~~~~~~~~してもだよ?」

(こいつ……もしかして、イジケてんのか?)

 

 

「上等だ!! 今すぐ表出やがれロン毛野郎がー!!」

「やってやんよ!! 泣き叫んでも知らねーぞロゼ〇タコラァアア!!」

 

 

「二人ともすっかり仲良くなっちゃって。微笑ましいな」

「……そうだな」

 

 

 

 

 

・ヒーロー科の授業風景 学科編

 

 雄英高校1-M教室にて……

 

「――と、まあこういった具合に、尊王攘夷派が密かに会合してたのを見つけ出して戦闘、集まってた攘夷派の九人が死んで四人を捕縛……逮捕することができた。この事件がきっかけで、御所焼き討ちの計画を未然に防ぐことができた新選組の名は天下に轟いたってわけだ。これが有名な『池田屋事件』の概要だな。これ、歴史好きの間でも人気な出来事だから、詳しく解説できたら歴女にモテるぞ」

 

 授業は社会科、歴史。

 理解しやすい解説。黒板に書かれた内容。加えて、時折付け加えられる冗談。

 生徒たちにとって非常に優しく、そして分かりやすい。

 加えて、生徒たちもそんな授業を面白いと思っているようで、居眠りやぼんやりしている生徒が一人はいそうな中、全員が黒板に集中、ノートを取っている。

 生徒にとっては理想の授業、教師にとっても理想の授業風景と言っていいだろう。

 

「ここまでで何か質問は……ほい」

 

 そして、途中で生徒からの質問も挟み、それに答える。それもまた、学校の授業ではありふれた光景の一つだ。

 

「ああ、授業の質問じゃねーけど……いや、授業の質問か」

 

 もっとも、そんなありふれた光景の中にも、必ずとは言わないまでも、ありふれない光景が一つは存在するもので……

 

「なんでデクが授業して、鬼塚はずっと座ってんだ?」

 

 教卓に立っている、学級委員長から、教室横に備え付けられた教師机に座る、担任かつ社会科教師を見ながら、副委員長はそう質問した。

 

「アハハハ! いーじゃねーか。俺より緑谷の方がお前らも分かりやすいだろう?」

「そりゃあ、まあ……ナポレオンが人の名前だってこと知らなかったり、『思う』を『重う』って誤字するヤツよりはるかにマシだがよ」

「この間なんか、徳川八代目将軍は誰かって質問したら、松平健て答えてたもんな!」

「俺たちの誰も知らない名前で、困ったよね?」

 

 ドラケンの質問に鬼塚が答え、ドラケンも納得し、それをスマイリーとアングリーが茶化して笑いが起こる。

 それをされた鬼塚は、怒りだすこともせず、むしろ一緒に笑っていた。

 

「それにだ。これは生徒にとっても良いことだぜ?」

「いいこと?」

「おうよ。人に教えると、伝えるために考える分、ただ教えられるよりもそのこと覚えやすいって阿部寛も言ってたからな。だから俺の授業じゃあ、俺じゃなくて生徒に教える方針にしてる」

 

「へぇー……割と考えてんだな」

「ウソです。絶対に楽しようとしてます」

 

 一虎は納得しかけたものの、被身子は即座に否定した。

 

 

「つーわけで、この次の授業は龍宮寺、お前にやってもらうから」

「はぁー!? 俺がぁ!?」

「わぁー!! ケン君の授業、受けてみたいです!!」

 

 重わぬ任命を受けて、ドラケンは声を上げるが、直前に苦言を漏らしていた被身子は、逆に大喜びではしゃいだ。

 

「副委員長だし、出席番号も緑谷の次の次だしな?」

「次の次なら、順番的に次のヒミコになるんじゃねーのか?」

「そこはほら、レディーファーストってやつよ?」

「だったら余計にヒミコの番じゃねーか!?」

 

 レディーファーストの間違った使い方に声を上げたちょうどのタイミングで、チャイムが鳴った。

 

 

「そんじゃあ、次の授業では、この事件の次のページから始めるから、龍宮寺はその授業の準備をしておくのが宿題だ。難しかったら他のヤツに手伝ってもらっても構わねー。俺に聞きにきてもいいぞ?」

「鬼塚に聞いたってロクな内容にならねーよ、絶対……」

「まあ、授業でおかしいところがあったら指摘すっからよ。緑谷が」

「結局デク頼りなんじゃねーか!!?」

 

 そんなやり取りもそこそこに、鬼塚は教科書等をまとめて教室を後にした。

 

 

「……普通ならとっくに教師クビだな。鬼塚」

 

 教卓から、緑谷の漏らした一言に、M組全員が頷いた。

 

「ケンくん♪ ケンくん♪ 早速、宿題やりましょー!」

「ぇえ、本当にやるのか?」

 

 被身子は一人大はしゃぎしながら、未だ動揺するばかりな彼氏とイチャつくのであった……

 

 

 

 

 

・ヒーロー科の授業風景 ヒーロー基礎学編

 

「え~……てことで、お前らにはこれから、コードネーム――ヒーロー名を決めてもらう。ちなみに、審査は……」

 

「私がします!」

 

 1-M担任、鬼塚の言葉の後で、登場したのは18禁ヒーロー”ミッドナイト”。

 横で鬼塚が鼻の下を伸ばし、たまたま通りがかった13号はコスチュームの下でハンカチを噛んでいた。

 

 

「……んじゃ、サクッと。まずは緑谷から」

「……そう言やぁ、仮免取得した後も、まだちゃんと名乗ってなかったのか」

 

 ホワイトボードを渡して五分ほど経った後、鬼塚が最初に呼んだ名前は出久。

 出久は思い出したように言いながら、立ち上がり、ホワイトボードを見せた。

 

「まぁ、今さら他に名乗りたい名前も無ぇしな……無敵の”デク”」

 

 その後、順に発表していった。

 

 

「逆鱗ヒーロー”ドラケン”」

 

「ポップアップヒーロー”スマイリー”」

 

「ソニックヒーロー”アングリー”」

 

「”パーちん”!」

 

「”ペーやん”!!」

 

「”三途春千代”……」

「苗字だけ変更……いいの?」

「ああ……」

 

「私もです! “トガヒミコ”♪」

 

 

 普段から通称があった者は、その通称をヒーロー名にあてていた。

 単純に面倒だというのもあるが、それだけ自身に対する愛称が気に入っていたということだろう。

 

 そして、そう言った愛称が無い者たちは……

 

 

「シンプルに……”猪八戒”」

 

「ブリザードヒーロー”サウザンドウィンター”!」

「読みやすいように、中点を入れた方がいいかもしれないわね」

「ならそうする。”サウザンド・ウィンター”」

 

「”カズトラ”……」

「あなたも名前ね……」

 

「”マグニートー”」

「うん……もう一度考えよっか?」

「なんでだよ!?」

 

 

 特に迷う素振りも見せず、アッサリ、サクッと決めていく。

 再考となった場地と。

 

「……」

 

 もう一人を除いて……

 

 

雄英高校 ヒーロー科1-M

 伊口 秀一

 

 

「なんだ伊口……まだ決まらないのか?」

「こういうの、あんまり考えたことなくて……」

 

 前の席に座る、かつての上司に当たる春千代からの問いかけに、伊口は思考を焦らせてしまう。

 

「……難しく考える必要はない。自分がどうありたいか。どういう存在か。それを考えることだ」

「どういう存在……?」

「そうだ……敵に心酔する家族に愛想が尽きて、それを捨てるために苗字を棄てる。みたいにな」

 

 重い……

 伊口やミッドナイトに限らず、クラスの大半がそう思った。

 

(どうありたいか……どういう存在か……)

 

 重い空気となってしまった教室内で、伊口は思考を再開する。

 

(考えてみれば、俺、今まで具体的にどうしたいかってこと、考えたことがない……故郷での扱いに耐えかねて引きこもってた時に、無敵のデクの動画見て、熱に浮かされて、実家を飛び出した。その後は、半端なことして捕まったところを、運良く東卍に入れてもらった……)

 

(その東卍が解散するって言われた時も、このまま終わっちまうのが怖くて、終わる時間を稼ぐつもりで雄英を受けた。落ちたらそれで終わろうって心の準備をしたら、受かってた……)

 

(空っぽだ……意思は軽薄。流されるだけ。そうやって、中身の空っぽな自分に、東卍のためだ、デクのためだって、無理やり理由を付けて)

 

(今はどうだ? なにが理由だ? 雄英のためか? M組のためか?)

 

(そうやって、何をするにも、何かのため誰かのためって理由付けて、言い訳探して、自分じゃなんにも考えねーで、ありもしねー中身の思考で、心も体もあっちこっち、グルグル、グルグル……)

 

 

(いいのか? これで――)

 

 

(いいわけねーだろ!!)

 

 

 しばらく思考してから、気がつけば、ホワイトボードにペンを走らせていた。

 

(誰かのため……何かのため……生まれつきなのか、親や村のせいか知らねーけど、多分、そういう性分なんだろうさ。そうやって、誰かや何かに乗っかってなきゃ、何もできねー小市民。それが俺だ。もう仕様がねー。性分は簡単には直せねー)

 

(なら、今はそれでいいさ。けど今だけだ。変われるかどうかなんか分からねー。一生変わんねーかも知れねー。けど、そうやって、乗っかるための誰かや何かを探してグルグル、見つけた後も乗っかってグルグル……そんな性分を、いつか、変えてやるために――)

 

 

「これが俺のヒーロー名だ!!」

 

 “スピナー”

 

 

 

「”エリック”!!!」

「うん……由来は謎だけど、やめとこっか」

 

 

 

 

 

・ヒーロー科の授業風景 実技編

 

 雄英高校。運動場γ……工業地帯型訓練場にて――

 

 

「さぁA組!! 今日こそ白黒つけようか!!?」

 

 

『えー……今日は、ヒーロー科合同の戦闘訓練を行う』

 

 一部のテンションの高い生徒の絶叫のもと開かれる授業。

 聞いての通り、二つあるヒーロー科が組対抗の試合形式で訓練を行うという授業である。

 

『なお、君たちも知っての通り、今年から、ヒーロー科が新たに新設されたので、A、B組に加えてM組も今回の訓練に参加することになる』

 

 マイクで拡大されたB組担任の言葉の後で、1年M組も姿を現した。

 

「……え? あれって?」

「マジっすか!?」

「あの格好……!」

 

 プロヒーローを目指すA組、B組は、それぞれ特注されたヒーローコスチュームを身に着けている。

 一方で、ゲストとして呼ばれた、一人の普通科生徒は、それが用意されていないため、ある程度の装備以外は体操着を身に着けている。

 M組も、そのどちらかだろうと誰もが思っていた。

 

 それが、彼らの姿は……

 

「”無敵のデク”さん♡♡♡」

「ヤオモモ……?」

 

 一部の生徒の中には、盛り上がり、テンションを上げる者もいた。

 だが、A組担任の相澤含め、怪訝な表情を見せる者もいた。

 

「鬼塚先生……なんですか? そいつらのその格好……」

 

 相澤が、そう問いかける。

 鬼塚は、特に悪びれることなく返した。

 

「今日が合同の戦闘訓練だって説明したら、コイツらが戦闘服は決まってるって持参してきたんだよ。まあ、新設されたばっかで、ちゃんとしたヒーローコスチュームや装備もできてねぇことだしな」

 

 言いながら、目を向けたM組生徒の格好……

 

 先頭に立つ緑谷出久は、くるぶしに届くロング丈の特攻服。それに、緑色のタスキを結んでいる。

 その後ろに立つ他生徒たちは、白のタスキを結んだドラケン以外、統一された特攻服を着ている。

 それは紛れもない、報道や映像で見た、東京卍會の特服そのものだった。

 もちろん、女子生徒である被身子も。

 

 

「今日は授業の一環ですよ。それに、もう東卍は解散したんでしょう?」

 

「そうだ。俺たちはもう、東卍じゃねえ」

 

 相澤の言葉に、出久が反論し、全員が一斉に、背中を向ける。

 

「俺たちは、ヒーロー科一年M組だ」

 

 

   『 一

     年

     M

     組 』

 

 

「経営科に行った元隊員が、今日のために仕立ててくれたんだってよ?」

「……いや、だからって、ヒーロー科の授業で、ヴィジランテ時代の格好するっていうのは――」

「いいじゃねーか、別によ」

 

 なおも説き伏せようとする相澤に対して、鬼塚は臆することなく、反論する。

 

「こいつらも、ちゃんとしたヒーローコスチュームが届けば、そっちを着ることになるんだ。それまでの繋ぎだよ、繋ぎ」

「いや、繋ぎって……」

「それにだ……見た目や性能はどうあれ、力を引き出すために着る。それが、ヒーローコスチュームってもんだ。だろ? イレイザーヘッド?」

 

 ちなみに、そう笑いかける鬼塚……グレートヒーロー”オニバク”のヒーローコスチュームも、若いころヤンチャしていた時に着ていたものに似せた、白の特攻服である。

 

「……まあいい。今さら着替えに行かせるのも非合理的だ」

 

 相澤も最後には諦めたように、そう締めくくった。

 

 

(まったく……生徒も担任も、とことん、型にはまらんというか何というか……)

 

(やっべぇ! 東卍の特服、前のとは違うみたいだけど目の前で見ちまった!)

 

(無敵のデクと東卍の皆さんとバトれるとか……テンションMAXっす!!)

 

(おお、あの女の子可愛い)

 

(特服女子高生……アリだな!)

 

(友人とは言え、華は持たせないぞ! パーちん、ペーやん……!)

 

(兄貴のことは感謝してるが、勝負は別だ……)

 

(無敵のデクさんと合同訓練……格好悪いところは見せられませんわ!)≡フンス

 

 

(やってやんよ……タイマンじゃ負けた。連合からも救けられた。クソデクには借りしかねぇ……今度こそ勝つ)

 

(この勝負が俺の――リベンジだ!!)

 

 

 そして、A組、B組、M組による、合同戦闘訓練が幕を開けた――

 

 

「一年M組!! 行くぞ!!」

 

 

「「「「応!!」」」」

「「「「応!!」」」」

「「「「応!!」」」」

 

 

 

 

 

・サポート科にて

 

「……」

 

 

雄英高校 経営科1-K

 三ツ谷 隆

 

 

「あ、あのさ、もしよかったら、俺にもその、作ってくんねーかな? 特服」モジモジ

「じ、自分も、もちろん、費用は全額負担しますんで、その……」モジモジ

「わたくしにも……できれば、その、無敵のデクさんと、おそろいで、20着ほど……♡」モジモジ

 

「はぁ……?」

 

 

 

 




ヒーロー科1-M Mの解釈はご想像にお任せします。



『八百万 百』
 ヒーロー科1-A 副委員長
 神野事件において、間近で東卍、および"無敵のデク"の雄姿を見ていた生徒の一人。
 自身がなにもできなかったクラスメイトのピンチに颯爽と現れ、自分がピンチになっても最後まで戦い続け、オールマイトさえ救けてみせた出久の雄姿に完全に虜に。
 1-M新設後、学校生活で見られる彼の一面や、友人になった被身子を通して彼のことを知るうち、どんどん夢中になっていった。


『飯田 天哉』
 ヒーロー科1-A 学級委員長
 ステインとの一件以来、パーちん、ペーやんとの関わりや連絡は控えていた。
 しかし、東卍が解散され、二人が雄英に入学したことで、晴れて二人との交流を再開するようになる。


『轟 焦凍』
 ヒーロー科1-A
 緑谷凍矢の実弟。
 本人としては、長男の記憶は姉兄ほどは無いものの、エンデヴァーが決定的に歪んだ理由が凍矢の死にあったこと、凍矢が生きていたことでエンデヴァーが自身の行いを恥じ、家族が少しずつあるべき姿に戻りつつあること感じた。
 そのことを含め、凍矢のことに関して出久に礼を言ったものの、家族愛をこじらせ気味な出久はむしろ、お兄ちゃんを取られるかもという懸念から焦凍を敵視。
 一方的にライバル視されるようになってしまった。


『切島 鋭児郎』
『夜嵐 イナサ』
 ヒーロー科1-A
 校内屈指の熱血コンビ。
 出久や東京卍會と同じように、あの場にいたにも関わらず、最後まで何もできなかった弱さと情けなさから、1-Mへ謝罪に行った。
 そこで罵倒を受ける覚悟もしていたものの、どころか慰められ、お礼も言われたことで、憧れの男に認められることを目指し強くなることを決意する。
 元々、東京卍會のことは熱い連中だと気に入っていたが、神野での東卍、特に、無敵のデクの活躍を見て完全にファンに。
 その熱狂ぶりは、ドンキに売られていた特攻服のパチモンをコレクションするほど。
 もう見られないと思っていたM組生徒らの特服姿を見た時は興奮し、その特服を仕立てたと言うサポート科の生徒のもとへ三人で押しかけ、困惑させていた。


『爆豪 勝己』
 ヒーロー科1-A
 オトモダチができました♪



ヒーロー科1-M

コードネームまとめ(出席番号順)


明司 春千代
 "三途春千代"

伊口 秀一
 "スピナー"

河田 ソウヤ
 ソニックヒーロー "アングリー"

河田 ナホヤ
 ポップアップヒーロー "スマイリー"

柴 八戒
 "猪八戒"

場地 圭介
 マグネットヒーロー "ジバ"

羽宮 一虎
 "カズトラ"

林 良平
 "ペーやん"

林田 春樹
 "パーちん"

松野 千冬
 ブリザードヒーロー "サウザンド・ウィンター"

緑谷 出久(学級委員長)
 無敵の "デク"

緑谷 被身子
 "トガヒミコ"

龍宮寺 堅(副委員長)
 逆鱗ヒーロー "ドラケン"


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