「……眠れない」
それは、珍しく夜中に目が覚めてしまったある日。
いつもは目が覚めても眠くてすぐにまた眠りに着くはずが、今日はどこか寝付けない。アーミヤやケルシー先生にはしっかり寝なきゃだめって言われてるけど、どうも眠れない。
目が冴えると分かっていても、タブレットに記録されている日記に目を通す。忘れてしまったことでも、このタブレットには全て記されている。だから、今の私が忘れていてもいつかの私がそれを教えてくれる。
しばらく眺めていると、様子を見にきたのかブレイズが部屋の中に入ってきた。
「あれ? 小猫ちゃん、眠れないの?」
「うん、なんだかうまく寝付けなくて」
「そっか……じゃあ、ラジオ聞いてみる?」
「ラジオ?」
突然出てきたそのワードに首を傾げていると、端末を貸して欲しいと言われたので日記を閉じて渡す。
しばらく端末を弄っていたかと思うと、そっと机の上に置く。
「ねぇ、さっきから何を──」
『さて、ロドスの眠れナイトラジオ、第四回目が始まりました。みなさま、いかがお過ごしでしょうか?』
ブレイズに声を掛けようとした矢先、端末から聞きなれない男の人の声が聞こえた。
ブレイズはいつのまにか私の隣に座り、目を瞑り端末から聞こえてくる声に耳を傾けていた。
『いやぁ、私はここ最近大忙しで前回の放送から間隔が空いてしまって大変申し訳ないと思っております。ただ、仕事上毎日は難しいので次回からは週に一回、一時間程度でお届けしようかと思ってます。それに伴い、第一回から今回までのアーカイブを夜中限定ではありますが聞けるようにしたいと思ってます。こんなベテランみたいなこと言ってますけど、まだ四回目なんですけどね』
誰と会話するわけもなく、ただ一人で喋っているだけ。その筈なのに、向き合って自分にだけ話しかけてくれている様な、そんな不思議な感覚になった。
『そう言えば、最近龍門で仕事をしに出向いたら近衛局の鬼のお姉さんにあったんですよ。あっちはオフ見たいだったので声を掛けずにいたんですけど、カッコいいバイクに乗ってたんです。いやぁ、あの時のお姉さんは絵になっててしばらく見とれちゃいましたね』
他愛のない、日常の断片。それこそ、私が日記に記す様なとても簡単な話。けれど、目を閉じればその情景が思い浮かんでくる。まるで絵本を読み聞かせる様な優しい声も相まって、いつしかラジオに聞き入っていた。
『さて、ここで一曲。龍門のよくわからないレコードから『皇帝は氷の上で舞う』をお聴きください』
「〜♪」
聞いたことない曲が流れ始めると、パッと目を開ける。
「どう? 面白いでしょ?」
「まだよく分からない……でも、悪くはないと思う」
「そんなもんでいいんじゃない? 少しずつ子猫ちゃんなりの楽しみ方を見つければいいよ」
「ブレイズはどう楽しんでるの?」
「え? アタシはこうして仰向けになって目を瞑るだけでも楽しめてるかな。エリートオペレーターとしていつもキビキビ動いてるけど、この時間だけはただのブレイズとして過ごせるから」
そう語るブレイズの横顔は、いつもよりとっても優しくて、とっても楽しそうだった。
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『さて、今回ロドスの眠れナイトラジオはいかがだったでしょうか? いやぁ、まさか前回に引き続き今度は近衛局のチェンさんのなりきりが出てきた時は驚きましたね』
ハッと気付いた時には、終わりそうになっていた。
長くも感じられたし、あっという間にも感じられた。本当に、ラジオは不思議。いや、このラジオだからなのかも知れない。
「ねぇ、子猫ちゃんもお便り書いてみたら?」
「お便り?」
「そう、感想とかでも質問とかでもいいからさ」
「……分かった、書いてみる」
ベッドから起き上がり、ブレイズの言うお便りを書こうとするけど突然眠気が襲って来てうまく書けない。
それでも、なんとか頑張って感想を書いた。
「これ、どうやって渡すの?」
「ドクターに渡せばこのラジオの人に届くよ」
「分かった、明日ドクターに渡す」
大切に、忘れない様に。
握り締めたらヨレヨレになっちゃうから、枕元に置いて目を瞑る。
『それでは、今回のロドスの眠れナイトラジオはここまで。それではみなさん、良い夜を』
その日は、いつもよりなんだか上手く寝付けなくて──いつもより、ちょっとぐっすり眠れた気がする。
次回の投稿は未定なので、気長に待ってもらえるとありがたいです。
お話の長さ
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こんくらいでええんやで
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もう少し長くしてもろて……