サルカズの傭兵に安息はない。サルカズとして、カズテルに生まれたその日からアタシには一瞬だって気を抜いたことはなかった。ヘドリーやイネスと共に行動する時も、あの小うるさいババアの時なんかは特に。
生まれてからずっとそうだったからなのか、いつしかアタシは安息というものを忘れてしまっていた。仮に覚えていたとしても、その日が来るのはおそらくアタシが野垂れ死んだ後。天国ってやつに行けたらの話。まぁ、サルカズは地獄がお似合いでしょうけどね。
だからなのか、その日もムカつくほど月が綺麗に空に浮かんでいる夜にどうも眠りにつくことが出来なかった。
別に、これが初めてという訳ではない。夜通し戦った経験だってあるし、こうして寝れなかったこともある。ただ、ここはどうも手持ち無沙汰になる。
暇を持て余して適当に端末をいじっていると、ふと食堂でチェンソーをよく使っていた暑苦しいフェリーンがラジオがどうのと話をしていたのを思い出した。
ラジオなんて聞く柄でもないが眠れない上に暇なのだ。
「確かこの周波数だったはず……」
『さて、ロドスの眠れナイトラジオのお時間がやってまいりました。気づけば今回で第五回、いやぁノリで始めたはずなのにこれが思いの外楽しくて五回も一人で喋ってるんだなと感じる今日この頃。皆さんはどうお過ごしでしょうか?』
スピーカーから聞こえて来たのは間抜けそうな声だった。顔は見る事ができないが声だけでわかる、コイツは私とは違う平和な世界しか知らないおめでたいヤツなのだと。
『このラジオは夜勤のオペレーターや、中々寝付けないオペレーターに向けてのラジオとなっております。ぜひ、作業のお供だったり寝落ち用にしてもらったりして下さい』
確かに、平和ボケした声だ。その声をしていたヤツらはアタシの記憶には居ない。居たとして、そう言う奴が真っ先に戦場では死んで行く。ここが戦場でもなんでも無い事は頭では理解出来ているが、どこまで行っても傭兵は傭兵。染みついた感覚は拭えない──筈なのに。
「どうしてこんなに落ち着けるのよ……ムカつく」
この気の抜けた声がアタシの張り詰めた心に僅かな気の緩みを発生させる。声が好みな訳では無いし、何か刺さる言葉があったわけでも無い。
アタシにもよく分からない。ただ、なぜだか気が抜けてしまう。一体、アタシはどうしてしまったのだろう。
アタシがそんな未知の体験をしているなんて梅雨知らず、スピーカーの向こう側でソイツは淡々と喋り続けていた。
『最近また一段と暑くなって来ましたね。いや、ただ地域的に暑いだけなのか? まぁどのみち暑いことには変わらないんで、水分補給には気を使っていかんと行けませんね。私は一度熱中症でぶっ倒れた時にケルシー先生から事前に「こまめな水分補給をするように」と促されていたにもかかわらず熱中症になったもんだから怒りを買って一週間三食全部ハイビスカスの料理だったのが懐かしいな……まぁ、なにが言いたいかと言うと暑い時期は水分をしっかり取らないと痛い目を見るって話です。
さて、ではパッパとコーナー行ってみましょう。最初のコーナーはこちらッ!──』
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『そんなわけで、ロドスの眠れナイトラジオ第五回目だったわけなんですが如何だったでしょうか?』
「……あら、もうそんな時間なの?」
天井を眺めながらラジオを聴き流しているだけだったが思ったよりも早く終わるものなのね。
十分そこらじゃ暇つぶしにも──
「……アタシの目が可笑しいのかしら、一時間も過ぎてるように見えるんだけど」
ふと、顔も覚えていないほど昔の誰かに『楽しい事は実際の時間よりも早く過ぎ去るものだ』と言われた事を思い出す。
まさか、アタシがこれを楽しんで聴いていたと? 柄にも無く気を緩めて何かを楽しむ事なんて今までない体験に若干の戸惑いを隠せない。
だが、実際に過ぎている時間より体感時間が短いのもまた事実。
『感想やリクエストなどあればペンネームを添えて送っていただけると幸いです。これまでのラジオは夜限定としてアーカイブを公開しているので気になる方はご覧下さい。さて、今回のロドスの眠れナイトラジオはここまで。それでは皆様、良い夜を』
「──ラジオね。なんだかすこし気に入らないけど悪くないじゃない」
気付けばアタシは端末を操作して第一回のアーカイブを再生しようとしていた。
「……明日、ちゃんと起きれるのかしら」
そんな適当なことを考えながら再生ボタンを押す、アタシの夜はまだ終わらないみたいだ。
Wの解像度が低いからWだと伝わっているのか不安……伝わっていると信じよう。
まぁ、滅茶苦茶不定期ではありますが気が向いたら書いて投下していくつもりなのでみなさま気長にお待ちいただけると幸いです。
それでは、良い夜を
お話の長さ
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こんくらいでええんやで
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もう少し長くしてもろて……