走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語 作:シャケサバ
「うーん、仕掛けた位置が早すぎたかな?たまたま上手くグルーヴを抑えられたけど、失敗してたら多分先にスパート掛けられて、苦しい展開にはなってたかなー」
今日の模擬レースの映像を観ながらつぶやくウマ娘が1人。
寮の中にある談話室でパソコンの画面を見ながら反省中のアクアルミナス。
観ている映像は、サブトレーナーが撮ったものを約束通り貰ったもの。
「さすがはサブトレさん、上手に撮れてる。個人に焦点を絞らず、全体を上手く撮ってるから、レース展開が分かりやすい。
視点が一つしかないのが残念だけど、こればっかりは仕方ない」
(ただこのレースは勝てたけど、運要素も多くて、恐らく次に同じ勝ち方をするのは難しい。しっかり反省点を見つけて次に生かさない。しかし…)
「ふわぁ〜…眠い…」
レースして、ご飯食べて、お風呂に入って、寝るには一番良い状態である。
(だけど記憶が鮮明な内に振り返りはしたいし…)
「ただ如何せん、眠い…」
「あれ?ルミナス、こんなとこにいたんだ」
「んにゃ…?あぁキャラ先輩」
「あはは…すごく眠そうだね」
「眠い…ですけど、もうちょっと観ておきたいんです」
「ん?それって…今日の模擬レース?」
「そうですよ」
「あぁ、これトレーナーが見に行ってたみたいだよ」
「へぇーそうだったんですね。サブトレさんも言ってましたけど、意外と注目度高いんですね…」
「そりゃーね、在校生と違って新入生の走りを見られる回数は少ないからね。特にレースとなるとウマ娘によっては選抜レースまで見れないこともあるから、貴重なんだよ」
「そんなもんなんですね」
「ところでルミナス、サブトレさんって誰?」
「誰?と言われましても、名前は分からないです」
「…どのトレーナーの下にいるとかは?」
「分かんないです」
「……まさか…オトコ?」
「ヤンデレ彼氏みたいな言い方しないでください…いや男性ですけど…」
「情報が男性しかないけど、それ本当にトレーナー?」
「一応バッジは付けてましたよ」
「じゃあさすがにトレーナーだね」
「だと思います」
「はぁ…ルミナスの警戒心の無さには驚かされるよ」
「学園内でトレーナーバッジがあれば大丈夫じゃないですか?不審者ではないでしょうし」
「甘いよ、ルミナス。トレーナーの中に変な人がいるんだよ」
「それ、どうしようもないじゃないですか…」
「だから相手がトレーナーとはいえ、多少なり警戒しとかないとダメだよ。トレーナーの中には、突然ふくらはぎを触ってくる人もいるって噂があるから…」
「とんだ変態もいるんですね、今度から気をつけます」
「さて、ルミナスにトレーナーの危険性を教えたところで、今日の模擬レースは勝ったの?」
「勝ちました。2バ身差です」
「良かったじゃん」
「でも難しいレースでした。次やっても厳しいです」
「ふーん、でも負けるとは思ってないんだ」
「そうですね、負けるつもりはないので」
ルミナスが自信を持って答えると、キャラメルステップは少し難しい顔をしたが、ルミナスの顔を見てすぐに元に戻る。
「顔になにか付いてます?」
「いや、驕ってないかなって心配したけど、大丈夫そうだなって」
「驕れる人も久しからず、ですよ」
「良い心掛けだね」
本当にそんな余裕なんてない…まさしくルミナスの本音であった。
今回走った4人もだが、まだまだ戦う相手はたくさんいる、こんな所で満足などしていられない。
「それで映像観て、反省会? 」
「そうですね、会と言っても1人ですが…」
「だったら、私にも見せて」
「いいですよ」
「私は見れなかったからね、後はなんか面白いものが見つかれば嬉しいけどね」
「面白いものって…」
こうして2人でのレース鑑賞会が始まる。
(まぁ、私としては反省会だけど…)
「ではスタートから再生しますね」
「よろしくー」
映像の再生ボタンを押すと、スタートの場面が流れる。
スタートして数十メートル走ったところで、キャラメルステップが突然映像を停止させる。
「えっ?どうしました?」
「ねぇ…ルミナスって……逃げなの?」
「…映像止めるほど、気になることなんですか?」
「いや、ルミナスの練習してる所を見た事あるけど、逃げの走り方をしてるようには見えなかったから…」
「昔、逃げで走ってたこともあるので出来るって感じです」
「へぇーいいねー、作戦の幅広がりそう」
「今回は明確な意図を持って、逃げにしましたけど、私は前よりも後ろから走りたいので、これっきりかもしれません」
「ふーんそうなんだ、でも走れて損はないね」
「それはそうです。じゃあそろそろ再生しますね」
気を取り直して、映像を再生する。
映像は、アクアルミナスが先頭で走る様子が映す。
「それで逃げを選択した明確な意図ってなに?」
「エトワール…逃げで走ってる子を早めに潰す為ですね」
「……なるほど」
「あの子はまだ中距離が苦手でスタミナも十分ではないので、序盤で体力使わせる目的で逃げにしたというよりはスタートからハナを取る事を意識しました。そしてエトワールがハナを奪い返してきた時にすぐ下がりました」
「確かにそう見えるね」
更に映像は進み、レース中盤。
「この辺りは探り合いって感じだね、牽制し合ってるみたい」
「そうですね、この辺りは特に何も起きないですよ」
「ネタバレはダメだよ…」
「この辺りで何か起こすのはミスターシービー会長くらいですよ」
「あぁ…菊花賞のやつね」
「実際この時、ルミナスは何してたの?」
「横と後ろへの牽制と外への位置取りです」
「まぁ、そうだよね…」
少しガッカリした様子で返事をするキャラメルステップ。
(一体どんな答えを期待してたんですか?)
そして第3コーナーに差し掛かる。
「逃げの子落ちてきたね、それを見て後ろの2人が詰めてきた。これも狙い通り?」
「おおよそは」
「おっ!一番後ろの子がスパート掛けてきたね」
「これは少し予想外でした。仕掛けるにしても早いなと思いました」
「そして4コーナー辺りでルミナスがスパート掛けて一気にちぎると…」
「タイミングは良かったと思います。これより遅かったら横にいた子が先に仕掛けていたでしょうし、前2人にも出遅れるところでした」
「最後はそのままゴールイン…っと、ルミナス的には狙い通りの完璧な展開?」
「大体は狙い通りでした」
「これ反省点ある?」
「反省点といっても、こういう時はこう考えようとか、こう意識しようとかそういうことです」
「……」
「先輩?」
(入学したばかりの子がここまで考えて、レースしてるのは凄い…というかちょっと怖いな…どうやったらこの時期にここまでやれるようになるんだろう?)
「ん?…あぁごめんごめん。どしたの?」
「いえ、先輩から見てどうでしたか?」
「んー特に問題は無いように思えたけど、ねぇルミナス、いつもこんなに考えて走ってるの?」
「…走ってる時はここまで冷静には出来ないです。さっきのはレース中に思ったことをより詳しく補完したって感じです」
「中々ここまで考えて走るのは難しいのにルミナスはスゴいね」
「ありがとうございます、でもまだまだですよ。先輩の方が凄いですよ」
謙遜しながらこちらを褒めるルミナスを見て、可愛いなと思って頭を撫でまくるステップ。
その後もレース映像を観ていたが、隣で船を漕ぎ始めたルミナスを見て、「今日はここまで…」といって彼女を部屋まで運ぶのであった。
「ふわぁ〜眠い…」
授業が終わり放課後。
いつもならジャージに着替えて練習をするところだが、今私は制服を着て学園を散歩している。
そう、今日はオフである。
ここ最近は模擬レースがあったり、選抜レースに向けて、練習を詰め込んだりしていたので休みを……っとキャラ先輩に強く言われたのでオフです…
「といっても、やることないんだよな。みんな練習やチーム見学するって言ってたし…」
練習に向かうグルーヴに「手伝おうか?」って声掛けたら「今日は休みじゃないのか?」と言われて「ヒマだからさ」と返すと「…たわけ、それでは休みの意味がないだろう…この際、趣味でも作ったらどうだ?」と諭されて断られてしまった。
ちなみにグルーヴの趣味は花を育てることらしい。
なんとも乙女チックである。
しかし趣味か…
確かに自分には趣味と呼べるものが無い。
読書はレースや走りに関する本しか普段読まないし、ウマチューブなどの動画は途中からレース関連のものしか観なくなるし、体動かすスポーツ系は、怪我の危険性があるから嫌だし、歌やダンスはウイニングライブの為に授業でやってるし……あれ?もしかして、私走ることしか考えてない?
これは確かにマズイかもしれない…
いやでも競技者なんだから、これくらいは大丈夫かも……
「それはダメだね、ルミちゃん」
ダメだった。
「絶対に無いとダメとも思わないけど、あった方が良いかもね。ストレス解消とかにもなるしさ」
ヒマだったので、入院中のローレルさんの元に行って趣味が無い話をしたら開口一番ダメ出しを食らってしまった…
「ホントに無いの?これやったら落ち着くとか楽しいとか…」
「走ってる時は楽しいですね、落ち着く時は…」
「まさか無いの?」
「最近でしたら、同室の先輩がココアとキャラメルをくれて、その時は落ち着きます」
「キャラメルとココアをくれる先輩……」
「どうかしました?」
「ううん、なんでもない…にしてもそれだけかぁ…お姉ちゃんは心配だよ~」
「そんなに心配ですか?ちなみにローレルさんの趣味はなんですか?」
「私?私はお料理とフランス語の勉強かな」
「料理ですか…」
「あとね、サラダをわんこそばのように食べるのが得意だよ!」
「なんですか、それ…」
「ルミちゃんもこれくらいスラッと自己紹介出来ないとね」
「ハードル高いですねー、今度から頑張ります」
「ルミちゃん、最近私のこと軽くあしらってない?」
「…そんなことはないです」
軽くあしらってるつもりはないけど、ただからかいが多くて、まともに対応しようとすると大変なんですよね…って、待ってください、その目はやめてください!怖いからやめて!謝りますから!!
「全くお姉ちゃんに対して、そんな対応はダメだよ」
「ごめんなさい…」
ローレルさんと話していると、病室の扉が開き、1人の男性が入ってきた。
「失礼するよ、ローレル。おや?今日は友達が来てたのかい?」
「あ!トレーナーさん、こんにちは!えーっと、この子はアクアルミナス、妹です!」
「違います!?はぁ…初めまして、中等部のアクアルミナスです。ローレルさんとはトレセンに入る前のクラブで一緒でした」
椅子から立ち上がって、ローレルさんのトレーナーに挨拶する。
「これはご丁寧に、私はアルケスのチーフトレーナーの建川です。よろしくね」
この人がアルケスのトレーナー。
礼儀正しく、落ち着きのある雰囲気、それに渋い声。これがいわゆるイケおじと言うやつかー。
というか、病室に来たってことは、ローレルさんと話があるだろうし、私は退散しますか…
「では、私はそろそろ失礼します。ローレルさん、また来ます」
「え?あ、うん。またねルミナス」
颯爽と部屋を出たまでは良いが、新たな問題が発生する。
「どうやって時間を潰そうか…もういっその事、もう部屋で寝るのもありかもしれない」
そう思って病院から出ると、駐車場に1人で立っている男性がいた。
よく見るとそれは知っている顔だった。
「サブトレさんじゃないですか」
「ん?君はアクアルミナス…か」
「どうしたんですか、こんな所で?」
「たまたま病院に用事があって、うちのチーフトレーナーと一緒に来たんだが、こちらの用事が先に終わったから待ってるんだよ。君の方は……怪我ではなさそうだね」
「私は先輩のお見舞いです」
「先輩?」
「サクラローレルさんです」
「ローレル!?……あぁ、そうか…あの子たちが言ってたのは君の事だったのか」
ローレルさんの名前を出して驚いたサブトレさんだったが、急に納得したような顔でこちらを見る。
「なんですか、急に」
「いや、今言ったチーフトレーナーはローレルが所属するチームアルケスのトレーナーだよ」
「その方なら、先程病院で会いましたよ。確か……たて……」
「建川トレーナーだよ」
「そう、その方です。…ということはサブトレさんはアルケスにいるんですね」
「そういうこと。だからローレルやチヨノオー、バクシンオーがよく誰かの話で盛り上がってるのを見てたんだけど、それが君の事だったと今分かったってことさ」
あの3人が…一体どんな話をされてるのか気になるけど、なんか怖いな…
「なるほど…ところでサブトレさん、チーフトレさんを待ってるということは、今お時間はありますか?」
「ん?あぁ待ってる間なら時間はあるよ」
「でしたら、少しお話しませんか?」
「それは別に構わないけど…今日は練習お休みかい?」
「はい、今日オフなんですが、どう過ごしていいか分からなくて、この後は部屋で寝るくらいしか考えてなかったので…」
「君って子は……なんか残念だね」
「いきなり中々の事を言いますね…」
「まぁいいよ、それで何を話すんだい?」
「では、サブトレって何をしているのですか?」
「サブトレーナーの仕事かい?それを説明するには、トレーナーとサブトレーナーの違いを言った方がいいかな。まずその違いは分かるかい?」
トレーナーとサブトレーナーの違い…
よくあるのは年数の違いだけど、だとしたらよく聞く新人トレーナーの意味が分からなくなる…ということは!
「優劣ですか?」
「君も凄い事を言うね…まぁあながち間違っては無いけど…要は担当持っていなくて、誰かに師事しているトレーナーのことだよ。新人トレーナーや経験の浅いトレーナーは中々ウマ娘達との契約に漕ぎ着けることは難しい。我々トレーナーはウマ娘を育てる事が仕事だけど、契約をすることが出来ないと仕事も出来なければ、経験を積むことさえ出来ない」
「新人さんは契約するのが難しいんですね」
「そうだね、ウマ娘側からしても右も左も分からない新人トレーナーよりもある程度経験しているトレーナーの方が安心出来るだろ?」
「ふむ…なるほど…」
「まぁ新人ながら担当契約をして、勝たせるなんて離れ業をやってのける天才っいうのもいるもんだから、一概に新人全員がとは言えないんだ」
「そんな人もいるんですね」
「そっ、でもあくまでもそんなのはひと握りだ。だからベテラントレーナーやチームを持ってるトレーナーに師事して補佐をするサブトレーナー制度があるんだ。そこでトレーナーから教えを受けたり、実際にウマ娘と対峙して経験を積めるってわけさ」
「ということは、サブトレさんもアルケスのトレーナーさんに師事してるからサブトレーナーになった訳というですね」
「そういうこと、僕も最初はスカウトしたりしてたんだけど、何回も断られてね。ウマ娘としてもリスクが大きいことは避けたいだろうからね。それでまずは自分が成長しないとってことで建川トレーナーに教えを乞うことにしたんだ」
「アルケスに入って、長いんですか?」
「3年目だね」
「…そろそろ担当持ったらとか言われないんですか?」
「あはは、実は今日それを言われてね。今度の選抜レースで探してこいってさ」
「っ!そ、そうですか」
「だから次の選抜は見に行くつもりだよ。まぁ、そこで担当を持てるかは分からないけどね」
「なるほど…それは良い事を聞きました」
「それはどういう意味かな?」
「サブトレさん、私と契約しませんか?」
私はそう言って右手をサブトレさんに差し出す。
しかしサブトレさんは、その手を取らずに何も言わず、私の方を見る。
「なんのつもりだい?」
「別に他意は無いですよ」
そう答えると、サブトレさんから先程までの笑顔は消え、真剣な表情でこちらを見つめる。
「冗談でもないと?」
「こんな事で冗談を言うつもりはありません」
「そうか…お誘いはありがたいが、ことわ…」
「それと!」
「……なんだい?」
「今すぐ契約したいと言っても難しいのは理解しています。これは、いわゆる予約というやつです。返事に関しては、レースを見てから判断して貰って構いません」
「……」
「選抜レースで実際に私の走りを見て、担当してみたいと思ったら、私と契約してください。そう思わなかったり、他に担当したいと思う子が出てきたら、私はキッパリと諦めます」
私の提案を聞いたサブトレさんは、少し頭を抱えながら疑問を口にする。
「…君の気持ちは分かった。それと確認したいんだが、なぜ僕なんだ?選抜レースは何も担当を持っていないトレーナーだけが見に行く訳じゃない。担当を既に持っているトレーナーやチームを持つトレーナー達もスカウトをしている。レースで良い走りをしたら、僕なんかよりも経験や実績のある優秀なトレーナー達からスカウトを受けることになるかもしれない。それでも君は僕がスカウトすると決めたら受けるのかい?」
「はい、そうです」
私は何の迷いも無く答えると、サブトレさんはとても驚いた様子で更に私に尋ねる。
「なっ…何故だ?君は何故頑なに僕を選ぼうとするんだ?嫌という訳では無いが、流石に意味が分からない」
困惑した表情でサブトレさんは私に聞いてくる。
「私がサブトレさんと契約したいと思った理由は2つあります」
私はサブトレさんの顔の前に指を二本立てる。
「1つ目は、以前私が友人達のサポートしている時に、あなたは一目見ただけで走っている子の特徴やクセ、課題点などをピンポイントで見抜きました。その観察眼はとても素晴らしいと思いました」
「それなる君も相当出来ていたと思うけど?」
「それでもやはりトレーナー達には劣るので、その目という武器はとても頼りになります」
自分の目を指差しながら笑う。
「そして二つ目の理由ですが…」
そうこの二つ目が自分の中での決め手ではある。
「それは私の直感です」
「えぇ?」
理由を聞いたサブトレさんからなんとも腑抜けた声が聞こえた。
「直感って、つまり勘だろ?そんな適当な理由で本当にいいのかい?」
「色々理由を作ることは出来ますが、こういうのが一番大事だと母から教わりました」
私が大切にしているお母さんからの教えの1つである『最後に信じれるのは自分の第六感!』がまさかこんな場面でも役に立つなんて思わなかった。
少し呆れているように見えるのは気のせいかだろうか…?
考えているであろうサブトレさんに対して、私は何も言わずに彼からの回答を待っている。
しかし断られたらどうしようか?
それはそれで仕方ないとして、選抜レースで新たに探すしかあるまい…
「……はぁ、分かったよ」
少しして、ようやく彼の口が開く。
「とりあえずレースで君の走りを見てから判断させてもらう。それで問題無いね?」
「はい、それで大丈夫です。ちゃんと予約したので、私の走りをしっかりと見ていてくださいよ」
「分かってる。ちゃんと見させてもらうよ」
サブトレさんからの言質を取り、大満足の私は感謝を告げて、寮へと帰ろうとした時に、ある事に気づいて足を止める。
「ん?どうしたんだい?」
「一つ聞き忘れた事がありました」
くるりと振り返って、サブトレさんの方を向く。
「サブトレさんの名前をまだ知りませんでした。教えてください」
「名前…そういえば一度も名乗っていなかったね。僕は榊だよ」
「さかき…さかき……榊…うん、多分覚えました」
「そこは確実に覚えていて欲しいところだね…」
「これから幾度となく聞いて、口にする名前なので大丈夫です」
「……あはは、少し気が早いんじゃないか?」
「ふふ、私はそうは思ってないですけどね。では私はこれで失礼します。選抜レース楽しみしといてください」
寮への帰り道は驚く程に足取りが軽かった。そんな所をキャラメルステップ先輩に見られてかなり驚いた様子で問い詰められたことは言うまでもない。