走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語 作:シャケサバ
中央トレセン学園へ入学して数ヶ月、ついに選抜レースの時期がやってきた。
選抜レースとは、トレーナーと契約をしていないウマ娘のみがエントリーできる学園主催のレースである。
芝とダートに分けられて、そこから更に短距離、マイル、中距離と分かれてレースが行われる。年に4回開催されるトレセン学園の一大イベントの1つである。
出走するウマ娘は、選抜レースで自らの実力を示し、トレーナー達へ向けてアピールする絶好の場所である。
トレーナー達は、その走り・パフォーマンスを見て、共に歩むウマ娘を見つけてスカウトする。
このレースの結果次第では、自らの今後が決まってしまう、と言っても過言ではない重大なイベントである。
トレーナーからのスカウトは普通選抜レース後に行われることが多く、過去には逆スカウトなんてものもあったらしいけど、大半はトレーナーからのスカウトが多い。
ちなみに私のやったことは、紛れもなく逆スカウトにあるが、普通は余程の自信が無い限りしないらしい…
まぁ、私の場合は自分に自信があるとかじゃないけどね。
そうしてトレーナーと担当契約を結ぶことが出来たウマ娘のみがトゥインクル・シリーズの舞台で走ることを許される。
しかし選抜レースを走ったからといって、必ずしもトレーナーと担当契約が出来るという訳では無い。そもそもトレーナーとウマ娘では、圧倒的にトレーナーが少ない。だからレースで勝利することや印象に残る走りをしないと契約どころか目にも入らないなんて状況にもなる。
ここまで来れば、ウマ娘達がこの選抜レースにどれほどの心血を注いでいるかが理解出来るだろう。
そしてトレーナーとの契約が出来ずに学園を辞めてしまう子も決して少ない人数ではない。競争に勝てなければ去るしかない。それも中央トレセン学園の厳しい所でもある。
「いよいよか…」
選抜レースを翌日に控え、自室のベッドに腰掛けながら、明日のレースの資料に目を通す。
「緊張してる?」
「いえ、それほど…」
キャラ先輩が声を掛ける。
実際緊張はそれほどしていない。というか前日から緊張してたら身が持たない…
過度の緊張から寝れなくて睡眠不足とかなったりする人もいるけど、今のところ大丈夫だろう。
「それは良かった。そうだ、明日は応援に行くからね」
「ご自身の練習はいいんですか?」
「トレーナーが見に行くからってオフになったんだよ。だから可愛い後輩を応援しようと思ってね」
「…ありがとうございます」
先輩の言葉に少し照れくささを感じるが、こうやって応援してくれるのは素直に嬉しいものだ。
「そうだ、明日朝練はするの?」
「軽く体を動かす程度にしようと思ってます」
「そっか、無理しちゃダメだよ」
「はい、分かってます。じゃあ私はそろそろ寝ますね」
「うん、お休み。少しだけ明かりつけてるけど、私もすぐ寝るから」
「はい、分かりました」
選抜レース当日の朝、私はいつも様に朝練を行う。朝練といっても、今日は普段と違って軽めの調整を行うだけである。
もう少し体は動かしたいけど、ここで疲労を貯めてしまってレースに支障が出てしまうこともあるので十分注意しなければ…
「それにしても、毎日朝練やってる人多いよなー、その辺も中央トレセンが名門である所以なのかも」
いつからそこにいたんだろうと思うくらいに朝早くからトレーニングをしているウマ娘が多い。私も朝5時とかにグラウンドに来たことあったけど、それでも何人かいたし…
「おや?今日も早いですね。ルミナスさん」
「ん?あ、おはようございます。ブルボンさん」
「はい、おはようございます」
話しかけてきたのは、ミホノブルボンさんである。
特に関わりがあった訳では無かったが、ある時朝練を手伝う事があり、そこから会ったら話をするくらいの仲になったのである。ただ自分は後輩なので話をして貰ってると言った方が良いかもしれない。
「今日は選抜レースでしたね、調子はいかがですか?」
「悪くないです、絶好調とまではいきませんが…」
「調子の良い状態でレースに挑むのが最適ですが、常にその状態で走れるとも限りません。なので、その時にどう走るかを学ぶことも大切です」
「ふむ、確かにその通りですね。ありがとうございます」
「オペレーション『アドバイス』…を実行しましたが、しかしこれくらいことでしたら、ルミナスさんでしたら、すでに考えているのではと思います…」
ブルボンさんの顔は俯き、耳も倒れている。私が「いえ、教えて下さりありがとうございます」と声を掛けると耳はシュッと立ち、尻尾が若干揺れているのが見えた。
ブルボンさんは、何を考えてるか分からないや感情が読めないなどと言われているのを耳にするが、よく見ればそこまで難しいものでは無い。
あと何気に私の評価ちょっと高くないですか?
「オペレーション『アドバイス』成功しました。ステータス『平常』に戻ります」
あ、 なんか戻ったみたい…
平常に戻ったらしいブルボンさんが、もう一つ聞きたいことがあると言って、ポケットから何かを取り出した。
「昨日、バクシンオーさんからこちらを頂いたのですが…」
「えっ……」
ブルボンさんの手の中にある物を見て、私は言葉を失う。
「これを…貰ったんですか?」
「はい」
「バクシンオーさんから?」
「はい」
「ブルボンさんにですか?」
「はい、そうです。これが何を意味するのかルミナスさんは分かりますか?」
「えーっと……」
私は改めてブルボンさんの手の中にある…単三電池を見て考える。
「何かブルボンさん持ってる物で電池が切れた物があったとかですか?」
「いえ、ありません。そもそも私が触ると機械が壊れてしまいます……」
「なるほど……えっ?、、えっ!?」
「なので、その線は薄いと思われます」
「あ、あぁ…そう、なんですか…」
「なぜバクシンオーさんは、差し入れに単三電池をくれたのでしょうか…」
「…なぜなんでしょうね?」
「そもそも私に必要なのは、単一電池なのですが…」
「なるほど、単一ですか……ん?えっ?」
「…ロボジョークです」
訳が分からず、ブルボンさんの方を見ると無表情でピースをしている。
してやったりという目をしている事だけはハッキリと分かった。
何気にこの人、ノリが良いんだよな…
「では、私はそろそろ失礼します」
「えっ!?電池は?」
「あれはロボジョークです。ミッション『緊張をほぐす』コンプリートです」
状況が飲み込めずにポカンとしていると、ブルボンさんからバクシンオーさんが心配していてお願いされていたという。
「ということは、その為にわざわざ私の所へ来たんですか?」
「いえ、会えたのはたまたまです。バクシンオーさんからも運良く会えたらと言ってましたので」
何ともアバウトなお願いだけど、バクさんらしいと言えばらしい、あとブルボンさん優しすぎない?
「これに関しては、断っても良かったと思いますよ、ブルボンさん」
「いえ、そんなに大変な事ではありませんので、それに私もあなたのことは知っています。ですから私も応援したいと思っていましたので」
ここで、その微笑みはずるい…
この人を見て、感情表現が薄いとか分かりづらいって言ってる人の目は節穴だなと感じさせられる。
ここでブルボンさんと別れて、朝練を終える。そして寮の自室へと戻るとそこには、ジャージ姿でベッドに腰掛け、頬を膨らませてジトッとした目で私を見る先輩がいた。
「ムスー」
「なんでちょっと怒ってるんですか?」
「ムッスー」
「えー…なにこれ?…あ、もしかして」
「!」
「お腹減ってるんですか?」
「ムッスー」
これは多分外したな…
わざわざジャージ着てるということは、先輩まさか…
「朝練誘わなかったからですか?」
その言葉に先輩は大きく頷く。
えぇ…それでこんな膨れてるの…?
「朝練と言っても、練習とは呼べないくらいにちょっと体動かしただけですよ?」
「…それでも誘って欲しかったなー」
「というか、先輩オフですよね?」
「オフだよ!オフだけど、後輩から誘われるってのは、先輩として嬉しいものなの。ルミナスが私を誘ってきて、『えーオフなんだけどなーでも後輩の為に一肌脱ぎますか!』ってシチュをやってみたかったのに!」
「……先輩…めんどくさいですね…」
「あー言ったなー!言ってしまったな!分かってても先輩にそういうことは、言っちゃダメなんだよ!」
さっきまで頬を膨らませていたかと思えば、今はプンプンという文字が頭の上に出ているかのような怒り方をしている。朝から元気なお方である…
とはいえ、これ以上先輩の機嫌を損ねるのもさすがにマズイのでそろそろ謝っておこう。
「すいません先輩、謝りますから機嫌を直してください。私に出来ることならなんでもしますから」
「む〜……ん?ん!今なんでもって言ったね」
典型的な言質の取られ方をされてしまったが、先輩のお願いは朝食を一緒に食べるというものだったので助かった。
朝食を食べ終えて、選抜レースの会場へと向かうと、出走そうするであろうウマ娘達が入念な準備を行っていた。
ただ私は会場にいるトレーナーの多さに驚いた。トレーナーはウマ娘に比べて少ないとは聞いているが、いざこうして集まるとかなりの人数がいるように思える。
そんなトレーナーの横を通る度に、ジッと見られてすぐにリストを確認して、何かをボソボソと言っている。ウマ娘の耳をもってしてもなんと言っているかは分からないけど、恐らくウマ娘の状態や調子を見極めているのだろう。
見られるというよりは品定めされている感覚に慣れるのに時間の掛かるウマ娘もいるだろうなと私は思った。
そんな中、私も準備をしていると先に来ていたエアグルーヴから声を掛けられる。
「おはようルミナス、調子はどうだ?」
「おはよグルーヴ、まぁまぁかな?」
私はマイル、グルーヴは中距離を走るので、今日の選抜レースで当たることは無い。それもあってかお互いにリラックスした状態で話をする。
「なんか色々と声を掛けられてるらしいね」
「む…知っていたのか」
「たまたまね、風の噂ってやつだよ」
「まぁありがたい話ではあるが、選抜の走りを見てからと話してある。そういうお前はどうなんだ?どこからか話はあったんじゃないのか?」
「私?いや特に無いよ」
「っ!そ、そうなのか!?」
グルーヴが驚いたような顔でこちらを見ている。
私に話が無かったことは、それ程驚くようなことではないと思うけど…
「いや、すまない。てっきり何件か話があると思っていた…」
「いいよ、気にしてもないし」
「…私はお前をこの世代の一番だと思っている」
「えっ?」
……何言ってんの?この子
なんで私の評価そんな高いのかが、本当に分かんないな。
「そう言ってくれるのはありがたいけど、それは無いと思うよ。それにまだ走りを見たことない同期だって沢山いるんだから…」
というかなんでそう思ってたんだろう?サブトレさんと話してた感じでは、この世代はエアグルーヴが最注目ってことだったけど…あれかな?自分では周りからの評価は分かりにくいってやつかな?
「ん?なんだ?」
「いや、別に何も…」
「おはよグルーヴ、それにルミナス」
グルーヴと話している所にアンエトワールがやってくる。
いつものような明るさは鳴りを潜めて、落ち着いた様子だ。だけど体調が悪いとかそういう感じではなさそうだ。
「ルミナス…」
「…なに?」
「今日は絶対にアタシが勝つ!」
「…!」
そう宣言して、エトワールは走り去って行った。
これはいわゆる宣戦布告というやつだ。
エトワールは私をライバルとして見てくれている。それが私にとってとても嬉しい。
これだからレースは楽しい。
ふと隣を見ると、グルーヴがこちらを見て苦笑いをしている。
「何笑ってるの?」
「いや、ずいぶんと好戦的な顔をしているなと思ってな」
「…まぁね、宣戦布告を受けた以上、私もちゃんと応えないと…じゃあそろそろ行くよ、グルーヴの結果も楽しみにしてるよ」
私はグルーヴと別れ、選抜レースに向けて意識を集中させる。
『さぁ選抜レースも短距離を終えて、マイルも第4レースまで来ました!』
『いずれも好レースが続いていますので、この組にも期待したいですね』
学内のレースではあるが、実況と解説が付くくらいなので、やはり注目度は高い。
選抜レースもちょうど折り返しといった所だろうか。
勝者の喜び、上手くいった者の期待、敗者の嘆き、失敗した者の悔しさ、様々な感情が入り乱れるが、そんな中で選抜レースは粛々と行われている。
走っているウマ娘はもちろんの事、それ見ているトレーナー達の目も真剣そのもの、レースが終わって、すぐに声を掛けに行く人、メモを取ってその場に留まる人、ただじっと静観している人とトレーナーだけ見ても実に様々な動きが見て取れる。肝心のサブトレさんの姿は見えなかったけど、どこかで見ていることだろう。
『マイル第4レース出走者の方々は、ゲート近くに集合してください』
アナウンスを聞いて、私を含めた出走者達がゲート近くへと集まる。
その中にエトワールの姿もあったが、互いに言葉を交わさずに係員の元へと向かった。
係員に促されて奇数番からゲートへと入っていく。しばらくして、私も促されてゲートへと入る。
ウマ娘の中にはゲートが苦手な子も一定数いる。入りたくないウマ娘と入れたい係員の間でせめぎ合いが起きて時間が掛かることもある。
狭いし、窮屈だから気持ちは分からなくもない。まぁ、私は気にしてないけど。
「あーいたーグルーヴや〜」
「ん?あぁクリスタルか、お前もレースを見に来たのか?」
「せやで〜なんたってエトワールとルミナスが一緒に走るさかいなー」
「アスターは一緒じゃないのか?」
「アスターは順番早いから、もう調整しとるよ。まぁどっかで見てると思うよ」
『各ウマ娘ゲートイン完了、出走の準備が整いました。』
1番 ユメノグローリー
2番 アクアルミナス
3番 スマートプリンス
4番 ニューミラクル
5番 マキノミステリー
6番 キャッツワルツ
7番 アンエトワール
8番 マジックブルース
『今ゲートが開いて、スタートしました!』
『出遅れなどは無いみたいですね。各ウマ娘良いスタートです』
『7番アンエトワールがかなり良いスタートを切っている!グングンと集団からリードを取ります』
『1600m、マイル距離とはいえ、スタミナには注意しなければいけません』
アンエトワールが上手く飛び出して、一気にハナを奪っていく。
そんなアンエトワールを横目で見ながら、アクアルミナスは想定していた位置取りを狙う。
『さぁ7番のマイプレンティが4バ身、5バ身とリードを広げていきます!』
『彼女の脚質には合っていますが、少し掛かっているかもしれません』
(アンエトワールが大逃げに近い走りを選抜レースでやってくるのは、さすがに想定外だな…)
どんどん集団を突き放していくアンエトワールの後ろ姿を見て、周りのウマ娘達は明らかに動揺している。
落ちてはず?そのまま行かれる?自分のペースは遅い?今のペースで間に合うか?
アンエトワールの走りが各ウマ娘の不安を増幅させている。
(この感じだと、そろそろ焦って動くかな…)
するとアクアルミナスの前を走っていた2人がこれ以上離されないようにとペースを上げる。それを見て、横にいた2人もそれに付いていくようにペースを上げていく。
アンエトワールがこれを狙っていたかは分からないが、結果として4人のペースを乱すことに成功した。
アクアルミナスより後ろにいる2人は、この展開に対して、どうすれば良いか迷ってる感じだ。
レースを見ているエアグルーヴとロードクリスタルの2人もこの展開に驚く。
「まさか大逃げをやるとはな…」
「エトワール大丈夫かな…?」
「分からんな…大逃げは相手の意表を突くことが出来る。実際後ろを走ってる者中には用意していたレースプランを完全に崩された者もいるだろう。しかし……」
「その分、スタミナ消費も激しいよな…」
「ああ、序盤から相手を突き放す為に、脚を使うからな、終盤にガス欠なんてこともありえる」
『レースは中盤に差し掛かり、先頭を行くのはアンエトワール!』
『順調に走っています』
『その後ろ4バ身差で1番ユメノグローリー、4番ニューミラクル、、3番スマートプリンス、8番マジックブルースが懸命に前を追いかけています』
『先頭の走りを見て、少しペースを上げています。ただスタミナが持つか心配ですね』
『そしてさらに3バ身差で2番アクアルミナス、6番キャッツワルツ、5番マキノミステリーの3人が追いかけている展開です』
『先頭から離されすぎると追いつけなくなりますので、どこかでペースを上げないといけません』
実況の言葉が聞こえたのか、後方の2人がペースを上げた。
『さぁ後方の2人もペースを上げてきました!レースは第3コーナーから第4コーナーへ向かいます。依然先頭は7番アンエトワールです』
『少し疲れも見えますが、最後まで頑張って欲しいです』
『後ろも懸命に追いかけていますが、2番アクアルミナスが少し遅れているか?』
『…彼女は一貫して自分のペースを守っていますね。しかしこれで先頭に追いつけるのでしょうか?』
「エトワールは順調っぽいけどル、ルミナスは大丈夫なんかな?」
「作戦かも知れんが、離されすぎると当然勝つのは難しくなる……さぁお前ならどうするんだ?ルミナス」
(……そろそろかな?)
第3コーナーでついにアクアルミナスがスピードを上げる。一気に前との距離を詰めていく。
「「きた!!」」
『ここで最後方にいた2番アクアルミナスが上がってきた!前との差どんどんを縮めていきます!』
『先頭の大逃げに対しても、自分のペースを崩すこと無く、脚を溜めていました』
『先頭7番アンエトワールが最終コーナーに差し掛かる!後ろから2番アクアルミナスがすごい勢いで追い上げてきた!』
『先頭の大逃げにペースを狂わされたのか、他のウマ娘達はついていけてないですね』
『最後の直線残り400m、勝負は7番アンエトワールと2番アクアルミナスの一騎打ちになりました。その差は4バ身!』
残り400m…
スタミナは…問題ない
脚もちゃんと残ってる
後はエトワール……お前を捕まえるだけだ!!
「ハァ……ハァ……ハァ……」
上手くいった!
スタートもペース配分もレース展開も全部予定通り!
みんなのペースを崩して、スタミナを削って追いつけなくする…あんまり賢くもないアタシが必死で考えた作戦!
あと少しで…あと少しで勝てる!
最後の直線まで来た!
なのに……
どうして……
なんで……
なんでアタシのすぐ後ろにいるの!?
アタシの作戦が読まれてた?
まさかバレてた!?
マズイよ…脚はもう限界だし、体力的にもかなりキツイ…
でも…でも最後まで絶対諦めない!
勝つのはアタシだ!!
絶対に負けない!!
このレースはアタシのもんだ!!!
「はああぁぁぁぁぁああああああ!!!」
『7番アンエトワール必死に粘っている!残り200m!』
『2番も来ました!』
『2番アクアルミナスが迫る!迫って来て並んだ!並んだ!!』
「「負けてたまるか!!」」
『ゴーーーール!!』
『勝ったのは……2番アクアルミナス!!最後の最後で差し切りました!』
『素晴らしい末脚でした!スパートまでペースを乱すことなく、レースを進めていました』
『7番アンエトワールも惜しかった!ですが素晴らしい走りを見せてくれました!』
『3着は………』
「ハァ……ハァ……」
勝った……
レースを見ていたトレーナーやウマ娘達からの拍手や声に頭を下げて応える。
「負けた……っ……、ぅぅ………負けた……負けちゃった……」
振り返るとそこには悔し涙を流すエトワールの姿があった。その他の子達も同じ様に悔しさを滲ませている。
「……」
声を掛けようとする気持ちをぐっと抑え込む。恐らく今どんな言葉を掛けても相応しくない言葉になるだろう…
どう取り繕ったところで、それは勝者からの言葉になってしまう。勝負とはこういうものだと自分に言い聞かせながら、私は最大限の敬意を持って、お辞儀をする。
「すごい走りだった!君ならG1を勝つ事が出来る!」
「一緒にクラシック三冠を目指さないか?」
「メジロラモーヌ以来のティアラ三冠を取れる逸材だ!」
私は今トレーナー達からスカウトを受けている。あの手この手とあらゆる言葉を掛けてくる。
自分のことを評価してくれているので、もちろん悪い気分はしないけど、申し訳ない。私は約束の答えを真っ先に聞かないといけないのだ。
話しかけてくるトレーナーを掻き分けながら目的の相手を探すと、後ろの方に悠然と立っている姿を見つける。
なんか余裕があるように思えるけど、それなら癪だな…
ようやくたどり着いて「なんか余裕ですね?」と軽く毒を吐くと「いやー行こうと思ったら弾かれちゃった」と軽く笑われた。やっぱちょっと腹立つな…
多数のトレーナー達がいる中で、私はサブトレさんに向かい右手を伸ばす。
「約束通り、私の走りを見せました。どうでしたか?あなたの…榊さんのお眼鏡にかなうものでしたか?」
「……」
「以前も言いましたが、私はあなたがどんな答えであっても、受け入れるつもりです。ですので断る場合は躊躇無く断ってください」
中々答えが出ないことで、少しづつ不安が募っていく。断られた時のことを考えていない訳ではないけど、この手を取ってもらえる事が一番ありがたいけど…
周りも少しざわつき始めた時、榊サブトレーナーがゆっくりと口を開く。
「…最後にもう一度確認するが、本当に俺でいいのか?ここには俺よりも経験もある実績もある優秀なトレーナーがいる。それでも君は……」
「もちろん、私はトレーナーなら誰でも良い訳じゃない。あなたがいいんです」
そう言うと、彼は周りを見回して、少し苦笑いを浮かべながら私の手を取った。
「分かった、俺も覚悟を決める。これからよろしくなアクアルミナス!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。榊トレーナー」
こうして私は、無事にトレーナーと担当契約を結ぶことが出来たのだった。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
ようやく…トレーナーとの契約まで来ました。