走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語   作:シャケサバ

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第15話 ”2回目”のメイクデビュー

チヨさん達と話をした翌日、授業を終えた私は、いつも通りトレーナー室へと足を運ぶ。

扉の前に着くと、中からキーボードを叩く音が微かに聞こえる。

「落ち着け、落ち着け」と小さな声で唱えながら、軽く呼吸を整える。

 

意を決して扉を3回ノックする。

すると中から「どうぞ」と声がする。

部屋に入る許可を貰い、私はゆっくりと扉を開ける。

 

「失礼します」

「授業お疲れ様、ルミナス」

 

当たり前だが、部屋の中にはトレーナーの姿があった。最後に会ったのはレース当日の夜以来。

会ってないのは1日だけなのだが、随分と久しぶりに感じる。

そういえば、トレーナーと担当契約してからは、休日もトレーナー室に行ってたから、丸一日会ってないことは無かった気がする。

 

「どうしたの?扉の前に立ち止まって」

「えっ?あ、はいすいません。失礼します…」

 

扉の前で立ち止まってた私を不思議に思い、トレーナーが声を掛ける。

 

「少しだけ待っててくれるかな?あとちょっとで終わるから、そこのソファにでも座っててもいいよ」

「はい、分かりました」

 

トレーナーに促されて、私は机の前のソファに座る。

そしてトレーナーの邪魔をしないように、静かにトレーニングの準備を始める。

カバンからジャージを出そうとした時にふと考える。

 

──今日は何をやるんだろう?

 

いつもなら自分もトレーニングを考えて、練習前にトレーナーとすり合わせて決めてたけど、今日のこと何も考えてなかった…

部屋でミーティングなら制服のままで良いけど、トレーニングするならジャージに着替えておいた方が良い。

しかし今作業中のトレーナーに聞くのは、止めといた方がいいだろう。

 

そんなこんなで何も出来ずにモヤモヤしていると、トレーナーが作業を終えたようで、ノートパソコンを置いている机から私の前にあるソファに座った。

前に座ったトレーナーを見て、私は姿勢を正して座りなおす。

 

お互いに何か話をするわけでもなく、時間が過ぎていく。

トレーナー室の空気が張り詰めているのを感じる。

私から何か話した方が良いのだろうか。それともトレーナーからの言葉を待つべきだろうか。

と、とりあえず天気の話でもしようかな…

 

「ト、トレーナーさん、今日は良い天気…」

「君に言わないといけないことがある」

 

トレーナーの一言で、部屋の空気は一気に緊張感が増す。

少し世間話でもして、場の雰囲気を温めようして、意を決して話した話題は儚く飛ばされてしまった。

 

「なんでしょうか?」

 

声がうわずりそうになるのをなんとか抑えて、冷静を装いながら私は返事をする。

ふとトレーナーの方を見ると、とても不安そうにしている。それを見て私の不安も増していく。

 

(一体何を言われるのだろう?も、もしかして「やっぱりキミとは合わない」で契約解除とか…──っ、ダメだ、トレーナーを信じるって決めたんだから!)

 

「本当に申し訳なかった!」

 

トレーナーはソファから立ち上がり、深く頭を下げている。

再び部屋に静寂が訪れる。

外を走っているであろうウマ娘の掛け声がよく聞こえる程に静かである。

 

「────ん?えっ?ト、トレーナー、も、もう一度言ってもらえますか?」

「必要であれば何度でも言うつもりだ。本当に申し訳なかった」

 

私の聞き間違いでは無いようだ。

トレーナーは謝っている。しかも私に対して謝っている。

 

───なぜ!?

 

これがトレーナーの謝罪に対する私の素直な気持ちである。

確かにチヨさんやアルダン先輩からは待てば良いと言われたけど、この答えは想像していなかった。

むしろ…契約解除を申し出されること覚悟していたくらいだったのに…

 

「ルミナスが怒っているのは理解している…しているつもりだ」

 

私が何も言わないことをトレーナーは私が怒っていると認識したようだ。

実際は驚きすぎて、言葉が出ないだけである。

 

「俺が自分に自信が持てなくて、そればかりか君を疑うようなことも言ってしまった。今回の件は全てにおいて俺の責任だ。本当に申し訳なかった」

 

トレーナーの心からの謝罪だった。

何一つの混じり気のない謝罪だと感じた。

 

「……っ、…よかった」

 

ふとそんな言葉が私の口から漏れる。

強ばっていた体から力が抜けていく。

 

「トレーナーから…見限られた…わけじゃ…なかったんだ…」

「ル、ルミナス、それはどういう…」

「トレーナーが…私に失望して…契約を解除するんじゃないかって……そう…思っていました」

「そうだったのか…俺としては、君からそれを言われるかもしれないと思っていたよ」

「そ、それだけはありえないです!絶対に!」

 

それだけは絶対に無い。

実際何の根拠も理由も無いが、それだけはハッキリと言うことが出来る。

私がトレーナーから離れるとしたら……いや考えるだけ無駄だ。

 

「即答だな…でもルミナスはそのくらいの覚悟を持ってくれていたのに、俺の覚悟はまだまだこれから甘かった。覚悟を決めたつもりだったのにこのザマだ。それに君を、アクアルミナスというウマ娘を全く理解出来ていなかった」

 

そこからトレーナーの反省の弁が続く。

レース前後、そして取材後の態度など反省しきりであった。

 

「自分の中で勝手にアクアルミナス像を作って、勝手に裏切られた気になっていた。でもそれは実際に目の前にいる君を全く見れていなかったということだ」

 

要するに私はトレーナーの中にいた私の虚像に負けたのである。

なんとも悔しいことである。本物がすぐ側にいると言うのに…まぁそういうことでは無いだろうけど…

 

「しっかり反省する。だからもう一度チャンスをくれないだろうか」

 

そういって頭を下げるトレーナー。

ふむ、これは一つしっかりと言ってやらねばならない。

 

「トレーナー、何を言ってるんですか?」

「…なにって」

「私には意味が分かりません」

 

机をバンッと叩き、トレーナーの方に身を乗り出し、少し語気を強める。

 

「なぜトレーナーだけが悪いで話を進めているんですか?」

「いやそれは…」

「今回の事は、私にも当然責任があります。私もちゃんとトレーナーと話をしないといけなかったのに、それが上手くいかずに選択を誤りました。よく皆さんから私はコミュニケーションに難があると言われていましたが、正にその通りになってしまいました…」

 

トレーナーだけに責任があって、トレーナーだけ謝るなんてありえない。私にも責任はある。

チヨさんやアルダン先輩は「そうじゃない」と言うかもしれないけど、それだとやっぱり私自身納得がいかない。

 

「だから私にも勿論反省点があります。であれば今回の件は両者に反省すべき点があり、おあいこではないでしょうか?」

 

私の言葉トレーナーは少し驚いた表情を見せる。

トレーナーとしては、予想していない事だったのだろう。

 

「昨日、チヨノオーさんとアルダンさんに言われました。相手と信頼関係を築くにはもう少し時間が必要ではないか、そして私がトレーナーに自分の考えや思いを押し付けているだけなんじゃないかと…」

「ルミナス…」

 

だから私も反省しなければならない。これからトレーナーと共にトゥインクル・シリーズを戦っていくには片方が速くても遅くてもいけない。同じスピードで進んでいく必要がある。

 

「私たちはお互いをもっと知る必要があると思います。互いの考えや言動などをです。ですが、これらは早くやろうと思っても出来ることではありません!物事には時間が必要になることもありますから…それに!」

 

私はソファから立ち上がり、座っているトレーナーを見る。

 

「私はトレーナーとの契約を解除するつもりは一切ありませんので、そのつもりでいてくださいね!」

 

と、力強く宣言をさせてもらった所で、話を戻しましょう。

 

「とりあえずトレーナー、ここからまた始めていきましょう」

「本当に…俺は君からの信頼の重さに潰されそうだよ…でもその信頼に応えられるように頑張るよ」

「一緒にです」

「ああ、共にな」

 

こうしてトレーナーと仲直り…認識の再確認という方が合ってるのかな?とにかくお互いの問題点を話し合いをすることが出来た。

 

「正直言うと、もう少し拗れると思っていました」

 

ここは直接トレーナーに聞いてみるのが、一番手っ取り早いので聞いてみましょう。

 

「はは…俺はそんなに長引かせるつもりは無かったけど、実は昨日…ローレルにこっぴどく怒られてしまってね…あの子怒るとあんなにも怖いんだね…」

 

その様子を思い出したのか、トレーナーの顔が段々と青ざめていった。

まぁでもああいったタイプの人が怒った時が怖いのは同感。ヴィクトリー倶楽部の方たちは普段ほとんど怒ることは無いですが、怒らせてしまうと…これ以上思い出そうとするのはやめよう。

 

「ローレルさんは怒ると怖いですよ。というかローレルさんに会ったのですね」

「たまたまね。元々先輩に用があったんだけどね」

 

話を聞くと、トレーナーは先輩のトレーナーさんに相談をしに行った所、トレーナー室にはローレルさんとバクシンオーさんがいたらしく、その中で今回のことを話したらローレルさんがキレたらしい…

いや、怖すぎない?

 

「『もし先にルミちゃんが謝るようなことがあれば、今度こそ本気で怒りますからね』っと釘を刺された…いや違うな、喉元にナイフを突きつけられたような感覚だったよ」

「そ、それは災難でしたね」

「でも怒られただけじゃなく、意味のある時間だったことは間違いないよ。気づけたこともあったし、ローレルやバクシンオーからルミナスの事も聞けたからね」

「えっ?な、何を聞いたんですか?」

 

あの2人は一体何を話したんだろう?あの人たちのことだから変なことは言わないと思うけど…

 

「何ってヴィクトリー倶楽部にいた時のルミナスのことだよ」

「一番恥ずかしいやつじゃないですか!?トレーナーさん今すぐ忘れてください!」

「いやいや、お互いを知るっていうのはこういうことでもあるだろう?」

「そうかもしれませんが…いや違います!それは必要のない情報です」

「必要かどうかは俺が判断することだ」

「なっ!?いたいけな少女の黒歴史を利用しようとするなんて、極悪人にも程がありますよ!」

「誰が極悪人だ!」

 

傍から見れば、実にしょうもない言い合いをしているが、こういった時間は今まであまり無かったので、少し楽しくなっている自分がいる。

 

「冗談はさておき、それでもローレルやバクシンオーからの話は君を知るのにとても役立ったよ」

「役に立ったのであれば良かったですけど、納得は出来ないです…」

 

少しむくれた顔をトレーナーに向けて抗議をしてみたが、それを見たトレーナーは少し笑うだけだった。

 

「さてルミナス、今回の件はこれで一段落付けて、本来しないといけない話に戻そうか」

 

トレーナーが真剣な顔で私に言ってくる。私の方も待ってましたと前のめりにトレーナーを見る。

 

「そうですね、私もそろそろ本題に入ろうと思っていたところです」

「ほう、ルミナスもか。気が合うじゃないか」

「あたり前田のクラッカーです」

「古いな…年代じゃないでしょ…」

「ばっちゃがいってました」

「ば、ばっちゃ?」

「はい、ばっちゃです」

「……まぁいい、本題に入ろう。ずばり」

 

「次のレースについてだ!」「今日の練習のことですね!」

 

「「・・・」」

 

「やっぱり相性はまだまだだな…」

「伸び代に期待しましょう…」

 

トレーナー室には、先程まであった重々しい空気は消え去り、時折2人で笑いあったりするような温かな雰囲気へと変わっていた。

その後次のレースについて、それに合わせた今日からの練習について、これからの予定について、もちろん前回レースの振り返りも行った。

互いに自分の考えや思ったことをぶつけ合った。白熱しすぎたせいか気づいた頃には周りが暗くなり始めていた。

門限もあるので、この時間からトレーニングは難しいということで、今日は解散となり、私はトレーナー室を出た。

 

(体を動かすことは出来なかったけど、これほど充実した一日は久しぶりだったな…)

 

ふと立ち止まり、トレーナー室の扉を見る。数時間前には不安な気持ちで一杯だった自分が立っていた事を思い出す。

でも今はその時の不安な気持ちは一切無く、晴れ晴れとした気分だった。

私は内心ウキウキで寮へと帰った。

 

 

「~~~♪」

「何やら随分とご機嫌だな」

「おや、グルーヴですか。そう見えますか?」

 

寮のロビーで過ごしていると、エアグルーヴが私の前に立っていた。

 

「鼻歌をうたっているところを見れば、誰だってそう思うだろう」

「なるほど、確かに今日はとても充実した時間を過ごせましたので、気分が上がっているのは認めましょう。ですがグルーヴ、私は単に気分が良いから鼻歌をうたっているという訳ではないですよ」

「……そうなのか?」

 

少し面倒くさそうな顔をするグルーヴをよそに私は話しを続ける。

 

「ウイニングライブに向けた練習が主な目的です。曲を頭に入れるには、何気ない時に聞いたり、歌ったりするのが良いらしいので」

「ん?『Make debut!』ならもう歌えるんじゃないのか?」

「今歌ってるのは『ENDLESS DREAM!!』です」

「………ほう」

 

グルーヴは言葉の意味、いや曲の意味を理解してくれたようだ

『ENDLESS DREAM!!』がウイニングライブで披露されるのは「朝日杯フューチュリティステークス」「阪神ジュベナイルフィリーズ」「ホープフルステークス」「全日本ジュニア優駿」の4つのGIのみである。

 

「おや?気が早いとか言わないんですね」

 

正直グルーヴなら「気が早すぎるぞ、たわけ」くらいは言ってくるかもと思ったんだけど、予想は外れたみたいだ。

 

「いや、お前ならそれくらい当たり前にやると思っているからな」

「いつもいつも高い評価をありがとう」

「ふん、本心なのだかな」

「ん、何か言った?」

「いや、なんでもない」

 

いつもいつもグルーヴからの評価が高すぎる気がする…

いや別に悪いことではないんだけど、高すぎてもマークがキツくなるだけだから嫌なんだけどなー

 

「それでなにがあったんだ?」

「トレーナーさんと再び新たな一歩を踏み出したのです!」

「・・・?」

「どうかしましたか?」

「すまない、どう反応して良いものか分からなくてな…」

「博識のグルーヴにも分からないことがあるんですね」

「そうだな、特にお前に関することは分からないことだらけだ」

 

はて、私はそんなにも分かりにくいだろうか?

あと博識といった事をスルーする辺り、自覚がありだな。まぁテストの順位は上位にいるけど。

 

「それで何か用事でもありましたか?」

「ああ、デビュー戦勝利おめでとう」

 

そう言うと彼女は、私の前にマグカップを置く。

 

「ココアですか?」

「安心しろ、糖質オフだ」

「ふふ、お気遣いありがとうございます。ところでなぜココアを?」

「む?お前の同室のキャラメルステップ先輩が「ルミナスならココアが好きだよ、あとキャラメルも」って言っていたのでな。違ったのか?」

「いえ、2つとも好きですよ」

「そうか、それなら良かった」

 

彼女のくれたココアに口をつける。

 

(アイスココアだ。美味しい…)

 

「最近どうだ?」

「そうですね…」

 

その後、隣に座ったグルーヴと消灯時間まで様々な事を話した。

意外と長い時間話したが、やはり同期といったところか話題が尽きることは無かった。それどころかまだまだ話を続けることが出来るくらいだった。

 

それから1ヶ月後

順調にトレーニングを続けていた私たちの姿は中山レース場にあった。

 

「2回目だけど、パドックには慣れたかい?」

「まだ緊張しますが、大分慣れました。応援してくれる方の声援を聞くのはやっぱり良いですね」

 

お父さんに肩車してもらってたウマ娘の子とたまたま目が合って、手を振ったら喜んで手を振り返してくれたのは嬉しかったな。

 

「さて、それじゃあレースの最終確認といこうか」

 

そういうと、トレーナーはコース全体図を写したパッドを渡して、私は座ってそれを見る。

 

「作戦は昨日言った通り好位追走、先頭集団から少し後ろを狙う形で行こうと思う」

「はい、問題ありません」

 

前回はスタートを失敗して、追込みたいな形になったから後ろから様子見しながら差し切る展開になったけど、今回は無難にスタートを決めて好位つまり逃げの後ろ辺りでレースをする作戦である。

 

それからコースの特徴や予想されるレース展開を話していると、控え室の扉がノックされて係員から招集を受ける。

手に持っていたパッドをトレーナーに渡して、部屋を出る直前にトレーナーの方に振り返る。

 

「何か一言無いんですか?」

「今から言うつもりだったんだよ」

「ふふ…それではお願いします」

「…レースを楽しんでこい!ルミナス」

 

 

【中山レース場 第9レース サフラン賞】

 

『美しい青空が広がる、中山レース場。ターフも絶好の良バ場になりました!』

『本日の第9レースサフラン賞、まもなく出走となります』

 

『1番人気は4番フェルト、前走は素晴らしい走りを見せ、見事デビュー戦を勝利しました。2番人気は……』

 

今日のレース、私は6番人気らしい。

前回のデビュー戦が8番人気だったから…何はともあれ自己ベスト更新である。

前走で勝った子もいるし、気を引き締めていかないと。

ゲート前に立ち、心を落ち着かせる。

 

油断はしない

慢心もしてない

でも…

 

負ける気はしない!

 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了。出走の準備が整いました。いよいよスタートの時を迎えます』

 

 

『今スタートしました!各ウマ娘素晴らしいなスタートを切りました!』

 

『大きな出遅れも無く、まず4人のウマ娘が前に行き、先頭集団を作っています』

『5番アクアルミナスは、前回のレースではスタートの出遅れで後方からのレースでしたが、今回は先頭集団の後ろ、前の方で走っていますね。本来の走り方がこちらなのかもしれませんね』

 

『さぁ各ウマ娘最初のコーナーに入ります!ここから3コーナーまでは下り坂となります!』

『中山レース場1600mはスタート直後の坂を上がるとすぐにコーナー、そこから急な下り坂になります。ペースが速くなりやすいので、ペース配分が大事になりますが…』

 

レース全体はどうしてもハイペースになりやすい分、ある程度ついて行かないと最後で追いつけなくなる。

それに逃げが4人だから恐らく叩き合いのハイペースになる可能性は高い。

でもここまでは予想していた展開だし、私自身も想定通りの走りを出来てる。

 

『レースは第3コーナーに入りますが、かなりハイペースで進んでいます。これはどう見ますか?』

『先頭集団の4人がお互いをかなり意識しています。その結果、想定以上にハイペースとなっていますね。これは後方のウマ娘にもかなり影響を及ぼしていると思います。後方は離されすぎないようにペースを上げているので、全体的にかなり乱れています』

 

『レースはかなり混戦になっている状態で第4コーナーに差し掛かりますが、おっっと!ここで5番アクアルミナスが外からスパートを掛けて、先頭集団へと猛然と迫っています!!』

『…常に先頭集団の後ろに付きながら、前に行くタイミングを探っていましたね』

 

『最終コーナーでアクアルミナスが前に出ました!しかし各ウマ娘懸命に喰らいついています!さぁしかし中山の直線は短いぞ!うしろの娘たちは間に合うのか?』

『先頭集団のハイペースによって、各ウマ娘ペースを乱されていた分、ラストスパートに勢いが無いですね』

 

『先頭はアクアルミナス、これは強い!後続を突き放していきます!』

『最後の坂を超え、先頭アクアルミナス!今ゴールイン!』

『ペースを乱されることなく、好位追走の形を取り、圧巻のレース内容でした』

 

『1着5番アクアルミナス、2着は4番…』

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…よし!」

 

勝った、勝った!勝った!!

トレーナーと組んだレースプラン通り!

狙い通りの走りで勝てた!

 

ゴール後、徐々に減速して立ち止まる。

そして巻き起こる歓声を全身に受ける。

 

「ルミナス!!」

 

歓声の中から聞き馴染みのある声が聞こえる。声の聞こえた方を見ると、トレーナーがこちらに向かって大きく手を振っているのが見える。

それに対して、手を振り返すのが少し恥ずかしいと思った私は、トレーナーに向かってVサインを送った。

トレーナーもそれを見て、Vサインを送り返す。

 

なんかこっちの方が恥ずかしい気がする…

 

ウィナーズサークルに着くと、観客席に向かって深く頭を下げる。

デビュー戦の時に比べて、名前を呼んでくれる人が多くなった気がする。

観客席から声援に手を振りながら、控え室へと向かおうとすると、小さなウマ娘と目が合った。

 

(さっきのパドックで手を振ってくれた子だ!)

 

「応援ありがとね」

「おねえちゃん!すごいはやかった!!すごかったよ!それとね、それとね!」

 

興奮冷めやらぬ様子でレースを観た感想を一生懸命身振り手振りで教えてくれる。

ここまで喜んでくれるのなら、勝って良かったと心から思えてくる。

 

「わたしもおねえちゃんみたいにはやくはしれるかな?」

「なれるよ、絶対」

「ほんとに?」

「うん、ちょっとずつでも練習を続けていったらね」

「わかった、がんばる!」

「あとね、一番大事なことを教えるね」

 

少女は身を乗り出しながら、ワクワクした様子で私の次の言葉を待っている。

 

「それはね、走ることを好きになること。これを忘れないでいたら、必ず出来るよ」

「うん、がんばる!ルーちゃんがんばるね!」

「うん、ルーちゃん。頑張ってね」

 

最後にその子の頭を撫でて、控え室に向かう。

ルーちゃんのご両親が申し訳なさそうな顔でやり取りを見ていたけど、「気にしないでください。私も楽しかったので」と伝えておいた。

これは気遣いではなく、心からの本心である。

 

控え室に戻ると、トレーナーがハイタッチで出迎えてくれた。

 

「おめでとう、ルミナス!」

「ありがとうございます、トレーナーさん」

「狙い通りだったね」

「はい、ただ思ったよりもハイペースになりましたね」

「そうだね。想定の範囲内ではあったけど、よく落ちずに付いていってくれたよ」

 

レース展開としては、トレーナーと組んだプラン通りだった。4人のウマ娘による逃げ、後ろを気にしないハイペースになると予想していたが、あそこまでの競り合いをするとは思っていなかった。

 

「あれのおかげで、私の方も後ろを気にせずに付いていくことに集中出来ましたね」

 

「何はともあれ、トレーナーさん。正真正銘2人の勝利のです」

 

課題や反省点はあるが、2人で話し合いながら練習をして、ミーティングをして、レースプランを組んで、その通り勝てたのだ。これは紛れもない2人で掴んだ勝利に違いない。

 

「ああ、これからどんどん勝っていこう!」

 

再びトレーナーとハイタッチを交わして、お互いを労った。

 

「そういえば控え室に帰ってくるのに、少し時間が掛かっていたけど、何かあったのかい?」

 

シャワーを浴びて、ライブ衣装に着替えてくつろいでいた所にトレーナーが問いかける。

 

「あぁ、それはですね。聞いてください、トレーナーさん」

「ん?」

「小さい子は最高ですね!痛っ!?」

 

言い終わるや否やトレーナーからチョップを喰らう。

 

「なんてことを言うんだ、君は…」

「暴力反対ですよ!トレーナーさん!」

「頭が痛いのはこっちの方だよ…はぁ…」

 

大きめのため息をつくトレーナー。

 

「何か勘違いをしていませんか?私は別にそういった嗜好がある訳ではありませんよ」

「………本当かい?」

「その間はなんですか?えっ?ホントに違いますよ!私はあの様に純な気持ちを持った方が好きなんですよ」

「まぁ、子どもは特に純粋だからね」

 

そういうことですよ、トレーナー

なんですか?その納得してあげましょうって顔は!?

 

そんなこんなトレーナーと過ごしていると扉がノックされ、スタッフからライブ準備の指示を受ける。

 

「おや?もうそんなに経ったのか」

「では、行ってきます」

「ああ、楽しんでおいで」

 

 

ステージの一番前、中央に立つ。

目の前には観覧用の席があり、ライブを見に来た人達がいる。

座っていたり、立っていたり様々な見方をしている。

 

私は前回のライブで見た光景をよく覚えている。

楽しむよりも緊張が上回ったけど、それでもよく覚えている。

 

トゥインクル・シリーズでの初めてのレース、初めての勝利、初めてのウイニングライブ

とても良い気分だった。

 

でも…トレーナーはそうではなかった。

それを知ったのは、全てが終わった後だった。でもそれが私は悔しかった。

2人で心から喜ぶ事が出来なかったら、意味が無い。

 

だから今日のレースを勝つことが大事だった。

レースに差は無い。それでもこのレースには勝たなければいけなかった。

勝つ意味があった。

トレーナーともう一度、ここから進むために勝利が絶対に必要だった。

 

だから私はこの光景を目に焼き付けないといけない。心に刻みつけないといけない。

そしてトレーナーにも…

 

「…トレーナー、しっかりと見ていてくださいね」

 

その目に焼き付けましょう!

その心に刻みつけましょう!

この先、一生忘れることのないウイニングライブにしましょう!

 

これが…

 

私の…

 

トレーナーの…

 

私たち2人の…

 

 

”2回目”のメイクデビューだ!

 

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