走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語 作:シャケサバ
私は自己表現が苦手である。
自分の思った事や考えていることを、人に伝えることが上手くない。
自分では上手くいったと思っても、相手からすると「どういうこと?」と思われることが多いのです。
現代を生きる上で必要なコミュニケーション能力がまだ足りないのでしょう。
ですが、日常生活においては、必ずしも自分の考えを表現することが正解とは限らない。
相手の考えに合わせれば乗り切ることが出来ることもある。
いわゆる協調性というやつです。
まぁ、相手に合わせようとし過ぎると「自分の意見をちゃんと持ちなさい」と怒られたこともあるわけですが……
自分の考えを持ちながら、他者の意見も理解する。
主体性を持って、協調性も持つ。
ちょっと難しすぎやしませんかね……
しかし世の中には必ず自分のことを話さないといけない時があります。
集団生活を始める上で、最初に必ず行うべきこととも言えるでしょう。
嘘をついてその場を乗り切ることも出来ますが、後々のことを考えると愚策と言えるでしょう。
そろそろこのお話のおさらい…というよりは結論ですね。
私は自己表現が苦手である。
だから私にとって、この時間は苦痛以外のなにものでもない。
「アクアルミナス...です。よろしくお願いします」
『・・・』
(えっ?まだ何か言わないといけないのかな?もう座ってもいいですか?先生‼)
座るに座れない空気の中、焦っていると先生と目が合う。
先生はこちらを見てニコッと微笑んだ。
先生、ありがとうございます。これでやっと座れ……
「夢や目標などもあれば一言お願いします」
終わらないどころか追撃がやってきた。
現実とは残酷である。
「うぅ...ゆ、夢は…えーっと、特に無いです。も、目標は〜強い人とたくさん走ることです!」
ざわざわ……ざわざわ……
えっ?なんかざわざわしてる…なんかヤバいこと言った?
「……」
「...ありがとうございます。それでは次の方どうぞ」
私の発言を聞いた先生が少し頭を抱えているように見えるけど、次へと話を進めた。
静まり返った教室、クラスメイトからの視線が集まる中、地獄のように感じた自己紹介タイムが終了した。
(はぁ……自己紹介なんて、個人で勝手やればいいのに...この時間嫌いだ)
その後も淡々とクラスメイトの自己紹介が行われていく。
『では、次の方自己紹介をお願いします』
「はい」
先生に指名された生徒が凛とした声で返事をする。
「私は……」
ボブカット、切れ長の目元、そこに赤いアイシャドウ…
あ~気の強そうなタイプだなぁ…
何気なく話してるのを見ていると、向こうと目が合った…気がする。
(ヤバっ…ちょっと見過ぎたかな……いやそんなつもりは無かったんだけど、たまたまそっちを見てただけだし……)
誰に対してでもない言い訳を考えながら、目を逸らす。
『では、最後に……』
そうして自己紹介タイムが終了した。
疲れた...…
んーよくみんなあれだけ話すことあるよなと思う。
同期達の自己紹介を聞いていてふと思う。
それにしても自己紹介の時はいつもこうなるなぁ…私、別に人見知りとかではないと思うんだけど、この辺りは昔から変わらないな…
ローレルさんみたいに…はやり過ぎか。ならチヨさんやバクさんみたいには………無理だな。
ただもう少し話せるようにはならないとダメだよね…
これでもヴィクトリー倶楽部に入った時よりかは話せてると思うけど…どうだろう出来てないかな?
いや少しは成長してるかな?
してると良いなー
さて、そろそろホームルーム時に配られた目標シートとやらに手をつけるか…
現実逃避をしようとする頭をブンブンと振って邪念を振り払う。
さっさと終わらせよう。
・・・
「うぅ〜思いつかない…」
どうしよう…とにかく適当に思いついたレースを目標にでもしてるか?でもこれをトレーナー達が見てたらどうしよう…
いざ走ってみたら実は距離適性がありませんとかで、『こいつ嘘書いてたのか!』とかで怒られもしたら……
でもマイル・中距離辺りを書いとけば…
ダメだ…ちゃんと書かないと……
椅子に座り直して、再び用紙に向かう。
「……ダメだ、どうしよう」
書くことができずにとうとう力尽きて、机に突っ伏す。
「………ス」
「……ミナス!」
「おい、アクアルミナス!!」
「ーーっ!?」
突然の大きな声に驚きながら顔を上げると、そこにはあの気の強そうな整った顔があった。
「何度呼んでも反応が無かったが大丈夫か?もしかして体調でも悪いか?」
「あっいや、大丈夫です」
「大丈夫ならいいんだが...」
(びっくりした…)
何度も呼んでたらしいけど、全然気づかなかった。
「私に何か用事ですか?えーっと…確か… 気の強そうな……えーっと……なんだっけ?う〜ん、あ!委員長だ」
「……はぁ、自己紹介をしたばかりなのだがな。確かに学級委員ではあるが、私の名前はエアグルーヴだ」
「ありがとう、委員長」
「…その様子だと他の子の名前も覚えてなさそうだな」
「えっと…それはーそのー」
「はぁ…」
止めて…そんな哀れみの目で見ないで…
「...…はぁ、まぁいいアクアルミナス、先生から職員室に来いと言われてたぞ」
あーはいはい、職員室ですか……職員室?
「...…えっ?なして?」
「知らん」
「理由は聞いてる?」
「知らん」
「本当に?」
「知らん、というか私が隠す意味が無いだろう」
「うん、それもそうだね」
「「・・・」」
何も悪いことはしてないんだけどなぁ。
「教えてくれてありがとう、行ってくる」
エアグルーヴにお礼を告げて、職員室に向かうために席を立つ。
「すまない、少しだけ良いだろうか?」
「ん、なに?」
突如エアグルーヴが私を呼び止めた。
「先程の自己紹介のときなのだが…」
「うん」
「その時に夢は無いと言っていたが…」
「う、うん」
「それは本当なのか?」
「まぁ一応本当…だけど…」
「そ、そうなのか…」
「な、何か気になることでも?」
「いや、なんというかだな…」
も、もしかして『夢も無い奴がなんでトレセンに来たんだ!』的なやつですか!?
「夢は特に無いんだけど、私はレースは好きだから…たくさん面白いレースが出来ると思ったからトレセンに来たの。ここだったら強い人達とたくさん走れるでしょ」
その言葉を聞いた委員長は驚いていたけど、その後、好戦的な笑顔を私に向ける。
「そうか、それなら私も楽しみだ」
(えぇ〜めっちゃやる気出してきてる…)
「もう行ってもいいかな?先生が呼んでるんでしょ?」
「あ、あぁすまない。時間を取らせてしまったな」
「いえいえ、それでは…」
さらに絡まれないように、早く行こう。