走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語 作:シャケサバ
「今度から提出物はしっかり確認してから出してくださいね」
「はい…」
職員室に呼び出された私は先生から叱られていた。
「提出物もそうですが、宿題などでも書き忘れやケアレスミスなど確認不足が見られます。二重チェックは大事ですよ」
「…はい、すいません」
一つ一つの的確な言葉が突き刺さる。
でも自分のミスなので、何も言うことは出来ない。
「宿題などは同室の方やお友達などにチェックしてもらってもいいかもしれませんね。もちろん答えを教えて貰うのはダメですが…」
「…善処します。」
(流石にそれは恥ずかしい……)
「…出来る限りではなく確実にやってください」
「…ハイ」
(先生、厳しい…)
「…これからは気をつけて下さいね」
「分かりました」
(やっと終わった…)
「それと…」
(終わってなかった!?)
「現段階で人生を賭けるような夢や目標は無くても構いません。急いで見つける必要もありませんので…ですが、短期的な目標や手が届きやすい目標をその都度立てていくことをお勧めします。漠然とした目標の中で走るよりは練習が捗ると思います」
「…分かりました」
(ものすごく私の事を考えてくれてる…)
「それにお節介かもしれませんが、色んな事を話せる友人を作ることもオススメします。何かと楽ですから」
「そ、そうですね……」
「私でしたらいつでも相談には乗りますので、何かあったら話に来ても構いませんよ。トレーナーや教官と違ってトレーニングの相談は難しいかもしれませんが…」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
「では、練習頑張ってください」
最後は笑顔で送られて職員室を出る。
先生って意外と優しいな、最初は厳しいと思ってたけど…いや厳しいことには違いないか
さて、少しだけ走ろうかなぁ…
そう思って、私はグラウンドへと向かった。
一方、職員室…
「んーちょっと言い過ぎたかな…」
彼女は無気力という訳では無いですが、少し抜けている印象がある…
まだ入学したばかりの生徒だし、もう少し様子を見てみるかぁ…
「あれが噂のアクアルミナスですか?」
「……はぁ、驚かさないで下さい」
「申し訳ありません。そんなつもりはなかったんですが…というかあんまり驚いてないですよね?」
「…副会長ともあろう方が盗み聞きですか?」
「いえいえ、これは偶然です。邂逅遭遇、用事があって職員室に来たところに、話がたまたま私の耳に入ってきたんです」
「…職員室という場所とウマ娘の聴力を考えれば仕方ないか。ここで話してた私の落ち度だな」
「そこまで気にしなくても大丈夫でしょう。それに本当に聞かれたくないことでしたら、ここで話さないでしょう」
「それもそうだね」
「彼女はどうですか?」
「ん?私は大丈夫だと思うけど」
「それは良かったです」
「彼女の境遇には同情する所はあるよ。だからといって彼女を特別視したり、腫れ物に触るような扱いをしてしまっては、意味がないでしょ。それに彼女は一トレセン学園の生徒であって、それ以上でもそれ以下でもない」
「なるほど、確かにその通りです」
「理事長からもある程度聞いてるけど、些か過保護な気がするよ…」
「そこは理事長の優しさじゃないですか?」
「はぁ…それも分かってるけど、しかもあの子自身人に頼るのが苦手そうだから難しいの」
「この短期間でもうそこまで見抜いてるんですか?」
「はぁ…教師を舐めてもらっちゃ困るね」
「ふふ、そんなつもりは無いですよ」
「ルドルフ、生徒会である前に先輩なんだから、何かあったら助けてあげなよ」
「もちろん、そのつもりですよ。というか先生、なぜ彼女と私とで口調が違うのですか?」
「あなたに対して丁寧に話す必要が無いからだけど?」
「そ、そんなはっきり言いますか……」
ジャージに着替えて、準備万端
今日は少ししか出来ないけど、何しようかな…
まだトレーナーと契約してないから、練習メニューなどは自分で考えないといけないけど、如何せん知識がまだまだ浅い分同じような練習になってしまう。
そろそろ図書館で調べたりした方がいいかな?
「おや?そこにいるのは!」
悩んでいると、前方から聞き覚えのある声がする。
顔を上げると……
「ルミナスさんではありませんか!」
「うぉっ!」
顔を上げると…目の前に顔がある。
これぞまさにバクシン
いや怖すぎる…
「いやーお久しぶりですね!ルミナスさん!」
「お久しぶりでっ…ちょっ」
「元気にしていましたか!私ですか?私はもちろん元気です!」
「やっ、まって…」
「なにせ学級委員長ですから!」
「やめっ… うぷっ…」
「トレセンでまた一緒に走ることが出来るとはとても嬉しいです!さぁさぁいざ共にバクシンしましょう!」
(ダメだ…もう限界が…)
「あー!バクシンオーさん、これ以上揺らしたらルミナスさんがマズイことになりますよー!」
「ちょわっ!?それはいけません!」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
本当にマズイことになるところだった。
「大丈夫ですか?ルミナスさん」
「ギリギリ…ですが…なんとか大丈夫です。助かりましたチヨさん」
両手で肩を掴まれて、かなりの勢いで揺らされて吐きそうにはなりましたけど……
チヨさんの手を借りて何とか立つことが出来た。
「失礼しました、つい嬉しさのあまり!」
「元気にしてましたか?ルミナスさん」
「お陰様でなんとかやれてます。」
先程から勢いフルスロットルでバクシンバクシンしているのが、サクラバクシンオーさん。
そして隣で心配してくれているのがサクラチヨノオーさん。
ローレルさんも加えて、誰が言ったかサクラ三人娘と言われている…らしい。
トレセン学園に入る前に所属していた地元の競走クラブでお世話になった方々です。
「元気なのは良いことです!元気がなければバクシンすることは出来ませんからね!元気が無いのであれば元気を出すためにバクシンしましょう!」
「ハハハ…どちらにしてもバクシンでは…」
「上手くやれているのか心配していたので安心しました。そういえば、ローレルさんにはもう会いましたか?」
「先日お会いましたよ」
「そうですか、ローレルさんもかなり心配そうにしてましたから」
(何故か私はかなり心配されているらしいですが、そんなに頼りないのかな?先生にもそんな感じに言われたけど…)
「皆さんが以前から私のことを心配してくれているのはとてもありがたいですが、私でしたら大丈夫ですよ」
「うんうん!あの頃に比べてルミナスさんは成長しています!でも私たちは先輩なのですから、分からないことがあれば、気軽に頼ってくれても良いんですよ」
「もちろん!私も全力でサポートしますよ!」
「ありがとうございます」
この2人…いやローレルさん含めて3人は何でも1人でやろうとする私を見つけては手助けしてくれたので、頼もしい先輩です。
「ところで、ルミナスさんはトレーナーさんはもう決めましたか?」
「いえ、まだですよ」
「ええぇー!いやいや、バクシンオーさんさすがに早すぎますよ!?まだ選抜レースすら行われていないのに…」
トレーナーかぁー
入学したばかりで考えても無かった。
「なるほど!それもそうですね!うっかりしていました!」
うっかり…
まぁバクさんなら……無くはないか
「では、私たちのチームはどうでしょうか?」
「「えっ?」」
自分のいるチームへ入るように提案をするバクさんとそれに対して私と一緒に驚くチヨさん。
チヨさんまで驚く側なんだ…
「皆さんのチームですか?」
「はい!私やチヨノオーさんにローレルさんもいますよ!」
チーム名は覚えてないけど、確か3人一緒のとこにいるって言ってたっけな…
バクさんの顔を見ると、ニコニコと笑顔であるが目は真剣そのものである。
バクさんとしては割と本気で言ってるぽいなぁ
チヨさんが止めて来ない辺り、同じ考えなのかな?それとも単にどうすればいいか分からず固まってるのかな?
んー正直トレーナー探しも省けるし、他が選抜レースに向けて練習してる間にトレーナーからの練習を受けれるから良い事づくめなんだよなぁ〜
「チームは何人くらいいるんですか?」
「私とチヨノオーさん、ローレルさん含めて6人います!」
「ちなみにトレーナー2人とサブトレーナーもいますよ」
「このお話って、トレーナーさんは知っているんですか?」
「いえ、知りません!!」
「えぇー知らないんですか!?」
知らないってことは、正式な勧誘では無いって事ですね。だったら…
「非常にありがたい提案ですが、今回はお断りします」
「ふむ…」
「チヨさんも言ってくれたように、私はまだ選抜レースすら走っていません。選抜レースで走って、様々な意見を聞いてから考えたいと思っています。」
お2人が誘ってくれたのに、少し生意気なことを言ってしまっただろうか…
2人が何も言ってこないとこで私の中の不安がどんどんと膨れ上がってくる。
「むむむ…それなら仕方ありません、ルミナスさんの選んだことですので、私は受け入れましょう!」
「いやバクシンオーさん、聞くのが早すぎますよ!しかもトレーナーさんも知らないなんて…後で何を言われるか…」
納得してくれたみたいでホッとした…
「お断りしたので、何か言われると思ってましたが…」
「そんなに怯える必要は無いですよ、ルミナスさん。こちらが急かしてしまっただけですし、ルミナスさんの考えも別に間違っていませんから」
「ありがとうございます。そう言って貰えると助かります」
「ただルミナスさん!気になったらいつでもチーム見学に来てくれても良いですからね」
「それは是非来てください!」
「分かりました。機会があれば伺います」
ところで2人のいるチームのトレーナーさんはどんな方なんだろう?
疑問に感じたので2人に聞くことにした。
「ちなみにチームのトレーナーさんはどのような方なのですか?」
「「トレーナーさんですか?」」
2人はその質問を聞き、考え始めた。
「うーん」「そうですねー」
「すばり!私を1200m×3の長距離を勝たせてくれたトレーナーさんです!!」
「??」
「そうですね、トレーナーさんはおたまで私がお鍋のような関係です!」
「………」
(………ん?)
えっ…どうしよう?どう反応すればいいのか分かんないくらいに訳が分からない!
1200m×3が長距離?トレーナーがおたまでチヨさんがお鍋?
これどう反応するのが正解なんですか!?
助けてくださいローレルさん!
「…なるほど、ありがとうございます」
私はこれ以上何も考えないことにした。
その後、チヨさん、バクさんと少しばかり話をした。
2人がトレセンに入ってから、中々話す機会が無かったので、この感じは久しぶりです。
「おや、少し話しすぎたみたいですね」
「そうですね、もういい時間ですね」
「確かにもう暗いですね」
そろそろ失礼しますと2人に告げて、私は寮へと戻ることにした。
今から練習を始めてしまうと、中途半端になってしまう気がしたので、自主練は今日はやめておきましょう。
寮の自室の扉を開ける。
「ん?おかえり、今日は早いね」
「お疲れ様です、先輩」
部屋に入ると青鹿毛のセミロングを揺らしながら同室のキャラメルステップ先輩が迎えてくれた。
「今日は色々あったので、自主練を休みました。先輩は勉強中ですか?」
「そう、トレーナーから次に走るレースの情報貰ったから、サラッと読んでた」
「次走なんでした?」
「マイラーズカップ」
「マイラーズ………京都ですか?」
「うん、その後安田記念」
私の同室相手であるキャラメルステップ先輩はG1勝利こそまだ無いが、現在のマイル界を盛り上げている1人である。
京都まではさすがに行けないけど、テレビの前でしっかりと応援しよう。
「調子はどうですか?」
「まぁまぁ良い感じ」
「良い感じなんですね」
「まぁまぁだけどね」
「ところで…」
「はい、なんですか?」
気づくと先輩が何かを言いたそうにこちらをずっと見ていた。
「ルミナス、なにかあった?」
「いえ、特には…」
突然の質問に驚いた。
「うーん、上手くは言えないけど、なにか悩んでるって感じ」
「悩んでるという程では無いのですが、少し先生からの呼び出しがあったので…」
「また?」
「ナチュラルに『また』って言わないでください……」
「今度は何やった?」
「…提出物の不備です」
「…はぁ、今度から私が見ようか?」
「いえ、大丈夫です。次から大丈夫ですので…」
「そう?でも本当に気をつけること、いい?」
「はい…」
次やったらマジでアウトだな…
これくらいは1人で出来ないと、他の人に迷惑を掛けたくないし…
「ねぇルミナス、ご飯食べた?」
「まだです」
「私もまだだから、食堂行こ」
「分かりました、支度します」
着替えを素早く済ませて2人で食堂へと向う。
「先輩、私は頼りなく見えますか?」
「急にどした?」
「いえ、最近色んな人からよく心配をされているみたいで、周りからはそう見えてるのかなと思いまして…」
「あぁ〜なるほど」
「私そんな感じなんですか?」
「心配されるのは嫌?」
「嫌という訳では無いですが……」
「まぁルミナスは少し抜けてるとこがあるからみんな心配すると思う」
「うっ…」
そんな事ないですと言い返したいけど、言い返せる自信が無いな……
「ルミナスの気持ちも分かるけど、それならちゃんとした姿を見せないと」
「…そうですね」
「でもそれば別として、ルミナスはもう少し他人を頼るべきだよ」
「頼るですか…」
「うん、友達でと先輩でも先生や教官でもいい、自分だけだと難しい時は頼ること」
「…はい」
「頼ることは恥ずかしいことじゃないって事は忘れないで」
「分かりました」
「うん、じゃあ早く食堂に行く。今日のオススメはダブル人参ハンバーグらしいから」
「ダ、ダブル…人参ハンバーグ…」
「中々無いレア」
「ところで人参とハンバーグ、どちらがダブルなんですか?」
「両方」
「それは…すごいですね」
「すごいでしょ」