走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語   作:シャケサバ

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第5話 騒動のち友人?

『人の噂も七十五日』という諺を知っているだろうか?

意味は、世間がいろいろと噂するのは一時だけで、そのうち別の話題で盛り上がり忘れていくことです。

 

これだけを見ると、少し我慢すればと…思えなくもないが、よくよく冷静になると約2ヶ月と15日は長すぎない?

 

もちろんこれはあくまでも諺。

早く無くなることもあれば、いつまでも燃え続けることもある。

良い噂ならまだしも、悪い噂や人々の好奇心を揺さぶるような噂であれば、渦中の人からすればたまったものではない。

 

そしてこの手の噂話には、大抵長い尾ひれが付く。

『模擬レースで勝った』というだけの話が『雨風が強い中、模擬レースで勝った』となり、『雨風が強い中、模擬レースで勝った相手は幼い時からのライバルだった』などそれはそれは立派な尾ひれが付いたりします。

かくいう私も、喧嘩の仲裁をすると第三勢力と言われたり、話を聞いただけで黒幕だと言われたりしましたが……

 

噂話というのは、やはり話半分で聞くのが一番だと思っている、今日この頃です。

 

さて、長々と噂についてあれこれ言っていますが、トレセン学園ではとある小さな噂話が広がりつつあります。

 

それは「新入生がチームアルケスのスカウトをこっぴどく断った」と云ったものです。

新入生でアルケスのスカウトを断るとは中々ですね。まぁその人にも色々事情があったんでしょう。

 

「なぁなぁ、なんでアルケスのスカウト断ったん?」

「いや、あれは別にスカウトでは…」

「えっ!?でも先輩達が熱心に口説いてたって聞いたよ!」

「確かに全部冗談じゃないと思うけど…」

「それで受けるの?」

「いや、断りました……」

「「「なんで!!??」」」

 

まぁそれ私なのですが…

いや確かに断ったと言えば断りましたが、正式なものではないですし、知り合いの先輩が『ちょっとどう?』くらい誘い方なんですけどね…

しかもこっぴどく無いです。双方合意の上、納得しています。

しかしトレセン学園に入った新入生にとって、トレーナーやチームからのスカウトはとても重要な事であり、好奇心がくすぐられる内容です。

 

普通スカウトは、選抜レースが行われた後に行われる事が多い。その理由として、やはりレースで走っているところを見て判断するというトレーナーが多いからだ。

だけど、それ以前にスカウトすることが禁止されている訳では無いので、実際選抜レース前にスカウトされることもある。

『入学前からの約束』や『一目惚れ』などパターンは様々である。

 

そんな訳で、同期の中にふっと湧いて出たスカウト話に盛り上がりを見せているということだ。

 

そして私は、興味津々という感じの同期数人から質問攻めにあっている。

周りに助けを求めようとしても、誰とも目が合わない……

それどころか、目は合わないのに、耳がバッチリこっちを向いている…

 

救いはないのですかぁ……

 

「サクラバクシンオーさんとサクラチヨノオーさんとは、学園に入る前からのお知り合いでしたので、少し話をしていただけです」

 

事の発端はこうである。

 

昨日職員室から出た私は、グラウンドへ向かう途中でバクさんとチヨさんにお会いして色々話をしていた。その様子をたまたま見られていたらしく、それをスカウトと勘違いされてしまったということらしい。

 

ただバクシンオーさんの発言はスカウトになるのだろうか?

2人に聞いたら、トレーナーには話してないって言ってたし…

まぁ噂を楽しむ人からすると、その辺りの詳細はあまり気にしていないのだろう。

 

またこの話に登場したのがチームアルケスであるのも噂を助長する形となっている。

ダービーウマ娘であるサクラチヨノオーさん、スプリンターズステークスを連覇したサクラバクシンオーさん、そして次の天皇賞・春の有力候補であるサクラローレルさんが所属している有名なチームである。

そのチームに所属しているG1ウマ娘2人と親しげに話しているとなると、周りの同級生が色めき立つのも仕方ないのかもしれない。

 

「へぇ〜知り合いやったんや」

「でもチームに来て!っていわれたんでしょ?」

「ホントに入らないの?」

「知り合いもいるなら、入った後も楽そうだね」

 

う〜ん、面倒臭いなぁ〜

これで聞かれ続けるのも嫌だし、適当に逃げるか……

そう思い、席を立とうした時…

 

「…はぁ、さすがにもう止めとけ。彼女もも困ってるいるだろう」

「え〜でもグルーヴさんも気にならへんの?」「うんうん、だってあのアルケスだよ!」

「私も気にならない訳では無いが、もう先生が来てるぞ」

「エッ?」「ウソッ」「ヤバッ」「モドレー」

 

エアグルーヴさんの一言で、私の周りにいた人たちが一斉に席へと戻って行った。

てか、先生来てたんだ…

危なっ!?逃げなくて良かった。

 

「ありがとう、助かったよ」

「別に構わん、気にするな」

 

さすがクラス委員長……

ただこれが続くとなると嫌だなぁ…

 

その後も直接話を聞こうとしてくる人たちやそれに耳を立てる者、噂を聞きつけてならばこちらもとスカウトをしてくる先輩ウマ娘やトレーナー……

 

「はぁ教室でも廊下でもトラックでも…ホントにめんどい……そろそろ辞めてくれないかなぁ…最近自主練もちゃんと出来なくなってる。これはどうにかしないとな…」

 

自主練が終わり、寮へと向かって歩いていると、前から2人のウマ娘が歩いていた。

「ん?あれって、今噂になってる子じゃない?」

「噂?」

「アルケスのスカウト断ったってやつ」

「あ〜あったね、あの子なんだ」

 

ここでもかぁ…反応するとあれだし、さっさと帰ろう。

 

「こんな早く練習も終わらせて、なんか余裕って感じだね」

「まぁ実際スカウトあったなら余裕なんじゃない?選抜走らなくても良いんだし」

「それずるいなー、私たち必死で走ったのにさー何様って感じだわー」

 

えっ?待って…

そう思われてるの?

そんなつもり全く無いのになぁ

 

 

寮の自室へと帰ったが、私はさっき言われた言葉がずっと頭に残っていた。

 

「お疲れ様、何か飲む?私はココア飲むけど…」

「……」

「ルミナス?」

「えっ?あ、はい。なんですか?」

「……何か飲む?」

「えっと、先輩と同じ物でいいです…」

「ん、じゃあココアね」

 

そういうとキャラ先輩は手際よくインスタントのココアパウダーをカップに入れて、お湯を注ぐ。

 

「はい、ココア。それと…はい」

「っと、これは…キャラメルですか?」

「サービス」

「ありがとうございます」

 

貰ったココアを少し飲み、キャラメルを口に投げ入れた。

うん、甘くて美味しい。いやちょっと甘すぎる…

 

「今日は一段と疲れた顔してるね」

「あはは、ちょっと走りすぎちゃいました」

「……あんまり根を詰めすぎないようにしないとダメだよ」

「はい、分かりました」

 

「ねぇルミナス、一つ聞いてもいい?」

「なんですか?」

「『新入生がアルケスのスカウト断った』って話聞いたんだけど、これルミナス?」

 

驚いた…先輩のとこにまで話回ってるのか、すごい伝播力…良い話ならもっと良かったのに

 

「あ、はい。それ私ですよ。先輩の所にも来てるんですね」

「あんまり気にしてない感じ?」

「はい、特には」

「そっか、ルミナスが気にしてないなら、大丈夫かな。何か変な事言う人がいたら教えて、対処するから」

「対処って……心配しすぎですよ」

 

ただ周りが少しザワザワしてるだけで、特に害は無いし大丈夫だろう。

 

そこから数日が経ち、質問されることや何か言われる事も以前に比べると減ってきた。

 

まぁ噂話なんてこんなもんでしょ。

聞かれたとしても、こういう理由で断ったって言ってるから、その後話が広まる事も無いだろうし…

 

今日もいつも通り練習を終えて、寮へと戻る道で委員長と会った。

 

「お疲れ様」

「ん?あぁ、アクアルミナスか、そっちも練習終わりか?」

「うん、寮へ帰るとこ」

「そうか、調子はどうだ?」

「まぁまぁかな」

「何か調子が悪かったら言うんだぞ」

「なんでそんなに心配されてるか分かんないけど、大丈夫だよ」

「そうか、それなら良かった…」

「どうも」

「そういえば、ホームルーム後に渡された目標シートは出せたのか?」

「出したよ。4回再提出だったけど…」

「どうして、そんなことになったんだ…」

 

他愛のない会話をしながら、2人同じ道を歩いていた…

同じ道を……あれ?もしかして…

 

「委員長って栗東寮?」

「今知ったのか!?何回か廊下ですれ違っているが……」

「えっ…そうだったの?」

「はぁ……お前はもう少し周りを見た方が良いんじゃないか?」

 

そんな呆れた目でこっちを見ないでおくれ、委員長……

マジか…同じ寮だったんだ…

今度会ったら挨拶くらいはしておこう…

 

「ねぇ聞いた、あの子が断った子らしいよ」

「ふーんあれが?そんなに強そうに見えないけどね」

「なんか知り合い居るらしいよ」

「あーなるほど、要するにコネか」

 

わぁ〜まだ言ってる人いたよ…

飽きないのかな?それともそんなにトレセンって話題がないの?

 

「むっ、あんな言い方をして…少し言ってくる」

「いや別にいいよ、委員長。私は気にしてないし」

「だが!」

「いいのいいの、気にしても仕方ないしさ」

 

ほんとに、こういったことをいちいち気にしていれば、しんどくなる一方なのである。

ある程度は無視するのが一番!

 

「さっさと寮に戻ろう」

「よーするに本人も自信無いんでしょ!」

「そうかも、だとしたら誘った方もさ、残念というか見る目無いよねー」

 

………はぁ?

 

「……」

「ん?どうしたんだ?急に立ち止まって…っておい!」

 

残念?見る目が無い?

ふざけるな…あの2人は関係無いないでしょ…

 

「あの、すいません。今の言葉どういうことですか?」

「はぁ、いきなり何!?」

「さっきの言葉はどういう意味か聞いてるんです」

 

この2人の言葉に対して、私はどうしても許せなかった…

私に対してならまだしも、チヨさんやバクさんを悪く言うのは許せない…

 

「私についてコソコソ話してるだけなら別に放っておきましたが、誘って頂いた先輩まで悪く言うつもりなら容赦しません」

「なに急にマジになってんのさ、今まで全部無視してたのに」

「私自身は何言われても別に気にしてないので無視しましたが、お2人を悪くいうのでしたら話は別です!今すぐ先程の言葉を撤回してください!」

「待て、ルミナス!少し落ち着け」

 

一触即発の雰囲気の中、必死に止めようと委員長が何か言っているが、私自身止まるつもりは無い。

 

「そこまでだ…いい加減にしろ」

「「「「ーーっ!!」」」」

 

前にいる相手だけを見ていた私の横から、今まで感じたことの無い程の圧と共に気だるそうな声が聞こえてきた。

 

「ですが!」

「聞こえなかったか?いい加減にしろと言ったんだ…」

「……っ!」

 

先程以上の圧を私に向かって放つ。

私はそれ以上、喋ることが出来なかった。

 

でも私の怒りは収まることは無かった。

このまま両成敗でうやむやにされることがどうしても嫌だった。しかしどうすることも出来ない、行き場の無くした怒りを抑えることが出来ずにわなわなと震える手を強く握り締めることしか出来なかった…

 

「落ち着いて、ルミちゃん。それ以上力を入れると血が出ちゃうから…」

「えっ…」

 

だから落ち着いて…と私の横に来て、優しく諭すローレルさんの姿があった。

その言葉、姿を見て、私はゆっくりと強く握っていた拳の力を緩める。少し痛みがあり、掌を見ると爪が食い込んだせいか出血していた。

 

「おや?やっと落ち着いたかい、さすがはブライアン!効果抜群だね!」

 

この場を収めた生徒会副会長ナリタブライアンの後ろから、ひょこっと顔を出したのは頭に乗せたCBの付いた帽子が特徴の生徒会長だった。

 

「ミスターシービー会長…」

「全くターフは走るとこであって、ケンカをする所じゃ無いよ。走りで語り合うっていうのはカッコイイと思うけどね」

「はぁ…私はもう行くぞ」

「まぁまぁ待ってよ、ブライアン!止めたんだから、話を聞かないとね」

「アンタが止めさせたんだろ…」

「細かいことは気にしないの!…で何があったの?」

 

「えっと…」

「私が説明します」

 

私の横にいた委員長が答える。

 

「この場では、私は第三者の立ち位置だ。主観なく答える事が出来る。ルミナス構わないか?」

「うん、お願い…」

 

私は説明を委員長に任せた。

その間ローレルさんは私の手に濡れタオルを巻いて応急処置をしてくれていた。

 

「ありがとうございます、ローレルさん」

「うーんタオルで巻いたけど、ちょっと傷が深いな…早く保健室に行った方が良いかも」

 

余程力を入れていたらしく、掌の傷は少し深い傷になってしまっていた。

 

「手は大丈夫か?」

 

そこへ会長、副会長への説明を終えた委員長がやってきた。

 

「うん、ちょっと痛いけど…」

「気持ちは分かるが、それでこのように傷を作っては…」

「分かってる…ごめん…」

「いや、すまない…私もお前を責めるつもりはないんだ」

「はい、反省は後にするよ。まずは治療の為に保健室に行かないとね。ブライアンちゃん、この子を保健室連れて行っても大丈夫?」

「ん?あぁ」

「おや?怪我してたのかい?いいよ、そっちの子から事情も聞けたし、あとは任せて!」

「分かりましたー!よし、許可も貰ったし行こ!ルミちゃん」

「ルミちゃん……」

「あの…恥ずかしいのでルミちゃんはちょっと…」

「あぁーごめんごめん、これは2人の時ってことだね」

「なっ!?」

「変なこと言わないでください!」

 

この場をミスターシービー会長に任せて、私たちは保健室へと向かった。

消毒液をぶっかけられて、かなり沁みたけど傷は残らないと言われてとりあえず安心した。

 

「傷が残らないみたいで良かったね」

「そうですね」

「でもルミナス、こんな無茶はもうしたらダメだからね。理由もさっき彼女から聞いた。チヨちゃんやバクちゃんの為に怒ってくれたことはすごく嬉しいけど、それでルミナスが怪我をしたりしたらチヨちゃんもバクちゃんもそれに私もとても悲しい気持ちなるから…」

「はい…」

「私やブライアンちゃん、会長さんが近くにいたから、すぐに鎮静出来たけど…」

 

確かに今回は生徒会長やローレルさん達が来てなかったらどうなっていただろう…それに最初に委員長が止めようとしてなかったら…

 

「委員長も止めようとしてくれてありがとう」

「いや、私は…」

「私からもお礼を言わせて、本当にありがとう」

「い、いえ…」

 

「ところでルミちゃん、この子は?」

「えっと、私たちのクラスの委員長です」

「お名前は?」

「……えーっと委員長です…」

「まさか本当に出ないのか!?私はエアグルーヴだ!」

「……エアグルーヴさんです」

「……はぁ、エアグルーヴさんこの度は本当にありがとう。そしてうちのルミちゃんがホントにごめんなさい!」

 

後頭部を掴まれて、凄い勢いで頭を下げさせられる。

 

「い、いえ少し驚いただけですので…大丈夫ですよ、頭を上げてください」

「本当にごめんなさい、でも少し安心したよ!ルミちゃんにこんな立派なお友達が出来てたなんて」

「「友達…?」」

「うん…えっ?違うの?」

「えーっと、委員長はどう思う?」

「そうだな、まずは私の名前を覚える所からじゃないか?」

「みたいですよ、ローレルさん」

「いや、みたいですよじゃなくてね……グルーヴさん!ルミちゃんはこんな感じの子だけど、友達になってあげて!」

 

すごい必死で頭を下げるローレルさんとなんでこんなお願いをされてるんだと困惑しながらも頭を上げさせようする委員長。

なにこれ?

控えめに言ってカオスだ。

 

「いや、ローレルさん!なんてことを言ってるんですか!?そんなことしなくても友人くらい出来ますよ!」

「じゃあトレセン学園に入るまでに出来た友達は何人?」

「……人、ウマ娘のみですか?」

「もちろん」

「それ以外に何があるんだ?」

「い、いないです……」

「じゃあトレセン学園に入ってからは?」

「…いないです」

「こんな子だけどお願いグルーヴさん!」

「わ、分かりましたから、頭を上げてください!」

 

こうして私はトレセン学園に入って初めての友人?が出来たのであった。

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