走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語   作:シャケサバ

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第6話 収束と練習

噂によって始まった今回の騒動は、ミスターシービー会長によって収束した。

私もあとで事の顛末を聞いたのだが、会長の『そんなことしてるヒマがあったら、走ったらいいのに…』の一言で終わったらしい。

正論すぎてぐうの音も出ない言葉である。

そしてあの一悶着によって集まった多くの野次ウマも会長の発言を聞くこととなった。

会長の言葉がどんどん人から人へと伝わっていき、『あの噂を話すと生徒会が介入してくる』という新たな噂話になった。

それによって私の所に来る人もほとんどいなくなり、事態が終息したという訳である。

「へぇーそんなことがあったんだ!」

「大変だったね、ルミナスとグルーヴ」

「まぁ私としてはその後の方が大変だったがな…」

「なーなールミナスさん、手は大丈夫なん?」

「正直利き手なので、あんまり大丈夫じゃない…握ろうとしただけで痛いし…」

「ヤバいじゃん!黒板の字書けないじゃんか!」

「心配するとこそこなん!?いや確かに大事なことやけどね…」

「板書に関しては、先生からノートパソコンの使用を許可して貰ったから大丈夫」

「いいなー漢字書かなくていいから楽じゃん!」

「食事とかお風呂とかどうするの?」

「食事は左手で掴めるものを食べてますよ、サンドイッチとかそういうのを。後はフォークで刺せるものかな」

「そうなんや〜ウチが食べさせたろか?」

「遠慮する…」

 

食事については、ローレルさんが『ルミちゃんが怪我の間、私も栗東寮に行く!ヒシアマちゃんに連絡するね』って言ってたけど、その後駆けつけてきたキャラメルステップ先輩と同じ栗東寮の委員長がやるって事で話はまとまった。

 

「寮では世話を掛けるね、委員長」

「私は別に構わんが…そろそろ委員長呼びはやめんのか?」

「確か何でずっと委員長呼びなん?」

「だって委員長でしょ?」

「それはそうだけど…ねぇ?」

「じゃあさぁ、アタシの名前は?」

「口調が軽いから…ギャル」

「おい…」

「ウチは?」

「京都っぽい話し方だから…ミヤコ」

「うそやん…」

「ボクは?」

「アスター」

「なんでボクだけ覚えてるの…」

「あるゲームの好きなキャラがアスターだったから覚えてた」

「覚えてくれてたけど、理由聞いてあんまり嬉しくないな…」

「てか、全然名前覚えてないじゃん!!」

「会ってまだそんなに経ってないんだから、仕方ないでしょ」

「そういうもん?」

「そもそもみんなの名前なんてすぐに覚えれないでしょ?」

「アタシは一通り覚えた」

「ウチもある程度やな、まだ話してへん子もいるから全員じゃないけど…」

「名前は覚えた」

「私も一通りは覚えたな」

「ウソでしょ…」

 

なんでそんなすぐに覚えれるの?

なに、これが地頭の差ってやつなのかな。

私なんて顔と名前が一致するのにかなりの時間を要するのに…

 

「みんなすごいねー」

「…ルミナスはもう少し頑張ったら?」

「じゃあ覚えてもらう為に改めて自己紹介するね、アタシはアンエトワール!」

「ウチはロードクリスタルっていうんよ〜長かったらクリスでもええよ〜」

「覚えてくれてたけど、一応ボクも言っとく。ボクはドリームアスター」

「エトワールに、クリスに、アスターっと…うん、覚えれるかは分かんないけど分かった」

「本当にこいつは大丈夫か?」

「さすがに大丈夫だよ、グルーヴ」

「そうか、私の名前も忘れられてると思ったがな…」

「さすがに忘れるとローレルさんから怒られそうだから…えっと名前はフルネームで呼んだ方がいい?」

「いや別に気にしてないかな?でもエトワールの方が友達っぽくて良いかも」

「友達…」

「えっ?もしかして嫌やった?」

「ううん、そんな事ないよ」

「ウチもクリスでええよ」

「ボクも大丈夫」

「アタシらもルミナスって呼んでるし大丈夫っしょ!アタシはたまにアクルミさんって呼ぶ時あるし」

(アクルミさん?アクアルミナスでアクルミ……マジか…)

「そんな風に呼んでたのか…」

「それは知らなかったなー」

 

「ところで3人は何か用事があったんじゃないのか?」

「あ、そうだった!すっかり忘れてた!」

「今日の朝礼でシンボリルドルフ副会長から注意があったやろ?それでウチらもそれで騒いでたし、ルミナスさんに謝ろ思てな」

 

そういえば、今日の朝礼で言ってたな…

『噂話などで盛り上がることは構わないが、出処の分からない噂で個人を責める道具に使うことは断じて許さない』だったかな。

さすが生徒会対応早いな〜とは思った。

私個人としては、その後2人から謝罪と言葉の撤回もあったから、それ以上はいいやと思ってたけど…いかにもウマ娘の幸福を謳う副会長らしい行動だな。

 

「だからルミナスさん、ごめんなさい」

「「ごめんなさい」」

 

そう言って、3人は頭を下げて私に謝る。

 

「別にいいよ、噂自体は特に気にしてなかったから、3人とも気にしなくていいよ」

 

カツサンドを食べながら返事をする。

謝られる側として食べながら聞くのはどうかと言われるかもしれないが、私の方は全く気にしていないことを態度で示すためにこれくらい緩い対応の方が良いでしょ。

カツサンド美味しい…ウマウマだわ。

 

「…はぁ、まぁ3人とももういいんじゃないか?ルミナスが怒ったのも噂そのものではないのだからな」

「そゆこと」

「うん、ありがとう」

 

これにて一件落着かな?

良かった、良かった。

やっぱカツサンド美味しい…もう一個食べようかな

 

「でさ、ここからは話変わるんだけど、ルミナスって走れる?」

「ん?怪我してるのは手だから走ることは出来ると思うけど…どうだろう、一応養護教諭と教官に確認した方が良いかも?」

「そうだな、個人だけの判断よりかそちらの方が確実だろう」

「放課後確認してくるか…それがどうしたの?」

「ウチらと一緒に練習せえへんかな?と思ってな」

「ルミナス、いつも1人だから…」

「そ、それは言わなくても…いいんじゃないかな〜」

 

確かに学園入ってから、1人でしか練習してないけど…

 

チュー

「うん、私は別に構わないよ。あっこのオレンジジュース美味しい…」

「すまない!それは、私も参加しても良いだろうか?」

 

突然横にいたエアグルーヴが机をバンと叩いて、立ち上がり声を上げる。

急なエアグルーヴの行動にビックリしてオレンジジュースが気管に入った…

 

「ケホッケホッ」

「あーすまない、驚かせてしまったな…」

「大丈夫?はいティッシュ」

「ありがと…ケホッ」

「別に大丈夫だけど、グルーヴがそんな食いつくと思ってなかった」

「いや、その、わ、私も1人で練習するより効率的だと思ってだな…」

「…効率なら1人じゃない?」

「ルミナス…少し静かにしろ」

「はい…」

 

なんで私が怒られてんの?

 

「じゃあ決まり!今日は5人で練習だー」

「「お〜」」

「テンション高いね、この3人…」

「いつも低いルミナスには丁度良いんじゃないか?」

「私はフラットのつもりだけど?」

「そうなのか?いつも低血圧の寝起きみたいなものだと思っていたが…」

「そんな風に思ってたんだ…でも今は少しテンション高いよ」

「むっ、そうなのか?もしかして皆と練習出来るからか?」

「デザートのプリンが美味しかった」

「はぁ…貴様というやつは……」

 

そして放課後、約束通り5人で練習を始めようとしたが…

 

「まさかこうなるとはねぇ…」

「大丈夫?ルミナス」

「大丈夫、痛みが強い訳じゃないから。ただ少し握るだけでも痛みが出るから走ってる時に邪魔になる感じ」

「うーん、治るまでは走らん方がええのかもね」

「残念…」

「まぁ今回はサポートに徹するよ」

「すまないな、ルミナス」

「別にいいよ、こういうのも慣れてるから」

 

私は持参したノートパソコンに練習メニューを書き込んでいく。

えーっと今日は4人で並走メインで最後レースだったかな…

本数とかちゃんと数えないと…無闇やたらに走ったら怪我しちゃうし、タイムは…ウマホ使いたいけど撮影したいから誰かの借りようかな?でもタイム差とかも見たいから、ストップウォッチ借りてこよ。

 

「ごめん、ストップウォッチ借りてくるから並走の準備しといて…」

「えっ?ちょっと…そんな本格的な感じなん?」

「行っちゃったなー」

「なんかすごいパソコンカタカタしてたけど、何してたんやろ?」

「ちょっと見てみよ」

「アスター!勝手にはマズイって!」

「なにこれ…」

「うわーすごい細かいな〜」

「どれどれ?わぁすごい!」

「結局お前も見るのか…そういうのは勝手見ない方が…」

「でもこれアタシ達のデータだよ?」

「なに…我々のか?」

「ほら」

 

アンエトワールはノートパソコンを持って、エアグルーヴへと見せた。

 

「もう少し丁寧に扱え……ってなんだこれは…」

 

そこに写っていたのは、アクアルミナスの情報ではなく、エアグルーヴやエトワール、クリスやアスターのデータだった。

 

(私の距離適性…マイルA、中距離B、短距離D、長距離F。マイル中距離は問題無く走れる、短距離は走ろうと思えば…長距離は現状難しいがトレーニング次第。脚質は先行差し。)

「どこでこんなにも…」

 

ストップウォッチ借りようとしたのに、たづなさんが全然見つからなくて遅くなってしまった…

 

「お待たせって、どうしたの?」

 

みんなパソコン見て固まってる…

別に変なことは書いてないと思うけど。

 

「パソコン見てたんだ」

「ごめん!勝手に見ちゃって…」

「ん?勝手に…というかそれ後で4人に個別で送るやつだから見ても問題無いよ。むしろ説明が省けたから楽できた」

「ウチら一人一人に?」

「そう、今日練習も含めたやつをね。あぁでも適正とかは想定と推定で書いてるから間違ってる可能性があるから注意しといて」

「いつの間にこんなデータを集めてたんだ?」

「いつって教官トレーニングの時とかにだけど…」

「そんな短時間で分かるもんなの!?」

「1回だとそんなに分かることは多くないよ。そんなことより早く始めよう」

 

時間は有限なんだから…

ストップウォッチ借りに行ってて、時間ロスしたから、早くしないと…

 

「ストレッチ終わってるだろうし、まずは数周軽く走ってきて、スピードそんなに出さなくていいからね、ジョギング程度で」

 

さて、4人が走ってる間に私も準備しないと…ビデオカメラとか借りれれば良かったけど、全部貸出中だとは思わなかった。

 

今日のメニューは1600m並走トレーニング。2人ずつ並走して、200mごとタイムを測定して、最後200mで1人がスパートを掛ける。これを交互に行ってワンセット。これを4人で繰り返す。

間にちゃんと休憩を入れないといけないから…スポーツドリンクは各自で用意してるけど、途中で買いに行くことも考えないといけないから、そのスケジュール調整もしておこう。

 

黙々と準備をしていると身体の温まった4人が帰ってきた。

 

「じゃあ並走トレーニング始めようか。まずエトワールとグルーヴ、アスターとクリスのペアでやるからよ」

「はーい」「わかった」

「うん」「ええよ〜」

「そして1組が走ってる間、身体を冷やさないように、軽いストレッチメニューをやってもらうから」

「えっ?走ってない時もなんかやるの?」

「と言っても、歩きながら主に上半身のストレッチをするだけ」

「うへ〜教官でもここまでやんないよ…」

「じゃあ1組目始めるよ」

 

説明を終了して、ようやく並走トレーニングが始まった。

最初は順調にこなしていた4人だったが、次第に疲れが見え始めた。

 

「はい、ここからスパートー」

「はあああぁぁぁー」

 

うーん、落ちてきてるな…

200mのラップタイムも落ちてるし、予定より早いけど、休憩にした方が良いかな…

 

「じゃあ一旦休憩しようか」

「……」

「分かった」「分かった〜」「うん」

「エトワール、大丈夫?」

「…う、うん大丈夫…多分」

「スポーツドリンク飲んでもいいけど、飲み過ぎないようにね」

 

4人が休憩してる間に、軽くまとめておこう。

アンエトワール:スピード〇、スパート◎、スタミナ△

ロードクリスタル:スピード〇、スパート△、スタミナ〇

ドリームアスター:スピード△、スパート△、スタミナ◎

エアグルーヴ:スピード〇、スパート〇、スタミナ〇

 

こんなところかな…

後は課題点でも書いとくか。

 

「僕の評価も大体同じだけど、四番目の子のスパートは二重丸でも良いと思うよ。それともこれは個人評価ではなく相対評価なのかな?」

「いえ、個人評価のつもりですよ。四番目…委員長に関しては、本気で走ってたら二重丸でしたけど、ある程度抑えてるみたいなので…」

「へぇーそこまで分かってるのか」

「勘ですけどね」

「だとしたら良い勘をしてるね」

「ありがとうございます……というか誰ですか?」

「やっと聞いてきたね。そのまま会話が始まったからどうしたものかと考えたよ」

 

ヒヤヒヤしたよーと笑いながら話してくる成人男性。

ここが学園外であれば、事案発生かもしれないが、残念ながらここは学園内…だとすればある程度予想はつく。

 

「トレーナーですか?」

「サブだけどね」

「それで私に何か用ですか?」

「いや、練習している姿があったから気になっただけだよ。そしたらかなり詳細なデータを作成していたからね、ところで君はサポート科の子かい?」

「違いますよ、競技者の方です。今日は怪我で満足に走れないので、アシスタントをしてます」

「アシスタントというよりかは、トレーナーって感じだったけどね。ところでそのデータはどうするの?」

「4人に渡しますよ」

「渡しちゃうの!?それは勿体なくないか?君も競技者ってことはあの子たちは対戦相手になるかもしれないのに?」

「…そうですよ。」

「しかもご丁寧に課題点まで書いちゃって…自分だけのものにしておいた方が良いと思うけど」

「お互いデビューしていたら、そう考えるかもしれません。ですが、まだしていませんし…それに一緒に走る頃には、このデータでは戦えませんから支障ありません」

「まぁそれもそうか…」

「それに…」

「それに?」

「彼女たちは大切な友人なので」

「……そうか、それならこれ以上は何も言えないね」

「そうですか、そろそろ休憩が終わるので行ってもいいですか?」

「それは邪魔をしちゃったね、じゃあお詫びに君が書けてない4人の課題点を教えてあげるよ」

 

そういうと4人の改善点を書いたメモ用紙を私に渡してきた。

トレーナーが立ち去った後、中を確認するとそこには確かに私が書けていなかった箇所の改善点があった。

 

「サブとはいっても、さすがは中央のトレーナー…」

 

少し休憩時間伸びてしまったし、早くみんなの所へ戻ろう…ってなんか目をキラキラさせてるのが1人いる……

 

「ねぇねぇルミナス!今の人は?」

「サブトレーナーらしいよ」

「やっぱトレーナーだったんだ!ってサブ?」

「ルミナスに用があったのか?」

「いや、練習してるのをたまたま見てたらしい。それで私の事をサポート科の生徒だと思って話しかけたみたい」

「へぇーそれでなんて人やったん?」

「そういや名前聞いてなかった」

「話聞く限りだと、スカウトって感じでもなさそうだしね」

「まぁ気にせず、練習再開しようか。並走の続きして、その後インターバルを挟んでレースまでやるから」

 

突然現れたサブトレーナーについて考えてもどうしようもないし、今は練習の方に集中しないと…

その後は予定通りに並走を行い、模擬レースを行った。

 

「お疲れ様、全員グルッと一周歩いていて、その後ちゃんとストレッチすること」

「はーい」

「今日の練習も含めたデータは明日には渡せると思う」

「明日……そんな急がなくてもいいんじゃないか?」

「それだと明日からのトレーニングに生かすことが出来ないでしょ?こういうのは早ければ早い方が良いに決まってる」

「それは理解出来るが、大変なんじゃないか?」

「これくらいならすぐ出来るから大丈夫」

「なんかルミナスってトレーナーみたいやな」

「うん、トレーナー目指すのもアリなんじゃない?」

「ウマ娘のトレーナーか…色々ややこしそうだね。ただ今は走ることを優先したいから、それに関しては、引退した時にヒマだったら考えるよ」

 

(トレーナーか…)

考えたことも無かったなぁ。

今やってるデータ作りだってレースに勝つ一環として始めただけで、特に意識はして無かった。

 

「…そんな未来も面白いかもね」

「何か言ったー?」

「別に何も…って早く一周歩いてきて!乳酸溜まるから」

「ごめん!行ってくるー」

 




おまけ

「でもルミナスのデータスゴいねー!」
「確かに凄く細かく書いてあった」
「なぁなぁ一つ気になったんやけど…」
「どうしたんだ、クリス?」
「あそこまでデータ集めてるんやから、実はウチらの名前ちゃんと知っとんたんちゃう?」
「ハッ!確かに!」
「その可能性はある。じゃあ名前覚えてないフリをしてたってこと?」
「何か隠したいことでもあるとか…」
「なになに、気になる話やな〜」
「残念だがそれは無さそうだ」
「えー何でそう思うの?」
「実はあれを見た時に名前の欄を見たんだ」
「ホンマに〜どうやったの?」
「名前の欄に書かれていたのは、私たちの名前ではなく、ルミナスが付けてたあだ名の方だった…」
「うわ〜」
「なんか残念やな〜」
「ボクだけ合ってるけど、やっぱり嬉しくないなー」
「細いのか粗いのか分からんな…」
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