走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語   作:シャケサバ

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第7話 「If winter comes,can spring be far behind?」①

「あぁーつかれた……」

「大丈夫?」

「だらしないぞ…ほら支えてやるから肩を掴め」

「うへ〜ありがとう…」

 

初めての合同練習から数日が経った。

その日以降、機会があれば共に練習こともあり、その代わりに1人で練習する時間が減ってきた。

ただ別にこれは悪いことではない。そもそも私達は個人戦のタイムトライアルをやる訳ではなく、何人もの相手も一緒に走るレースをやっているのだから対人の練習が出来ることは寧ろ良いことなのだ。

もちろん、個人で練習する時間は必要だけど、相手がいる練習は出来るなら出来るだけやっておいて損は無い。

そんな感じで今日はエトワールとグルーヴの2人とプール練習をしていた。

 

「エトワルはもうちょっとスタミナつけないと」

「そんなすぐにつくもんじゃないよ……」

「だから反復してスタミナ練習する必要があるの」

「しんどいと思うが、必要なトレーニングだ」

「うえぇ…」

「でも1人で黙々とやるよりはマシでしょ?」

「それはそう…1人だったら絶対途中でやめてる」

「それもどうかと思うけど…エトワルはスピードはあるから、それを自由に使えるスタミナが必須だから」

「は〜い…」

「ん?どうしたの、グルーヴ」

 

エアグルーヴが何か言いたそうな感じで私の事を見てくる。

 

「いや少し気になってたんだが、エトワルってなんだ?」

「エトワル?エトワールの事だけど」

「なぜその呼び方なんだ?」

「イントネーションはエトアルと同じ」

「論文で複数の著者名を略すラテン語みたいな呼び方だな、ちなみにあれはエタールの方が読みとしては近いぞ」

「…なにそれ?」

「じゃあサトテルと同じ」

「誰だ?」

「良い感じに打ってくれる人」

「いや誰だ!?」

『かっとばせー!!ですわーー』

 

今なんか聞こえたような…

空耳かな?

 

「まぁとりあえずエトワルはエトワールの事だよ」

「まぁアタシとしては魔改造されてなかったら良いよ…」

「まぁいいや、エトワールはもう少しプールトレーニング増やさないとね」

「や〜だ〜これ以上泳いだらアタシふやけるー」

「大丈夫、塩かけて適度に水抜きするから」

「なにやだこわい!?」

「料理に使う前の野菜の下処理のようだな…」

「餃子作る時の白菜やキャベツにオススメだよ。水抜きしないと焼いた時に皮がベチョってなるから」

「なんで急に餃子の話になったの?」

「だってグルーヴが野菜の話したから」

「元をたどればお前が塩で水抜きと言ったからだ」

「ん?私のせいなの?」

「そうだと言っているだろう」

「うわ〜日本一くだらない言い争い…」

「とにかくエトワールはまずスタミナ」

「わぁ、急にきた!」

「私には何か無いのか?」

「えっ?無いよ」

「そ、そうなのか…」

「グルーヴそんな落ち込まなくても…」

「だってグルーヴは自分でちゃんと考えてトレーニングメニューとか決めてるし、私から何か言うことも無いでしょ?それに私が言ったことが全部当てはまる訳じゃないから」

「アタシに対してはめっちゃ言うじゃん…」

「エトワールにだってそこまで細かいことを言うつもりは無いよ。ただ大雑把に言ってもスタミナが足りないから…」

「分かりましたよ!そんなに言うなら泳いでやらー!」

 

勢いよくプールに飛び込むエトワール。

それじゃあと指示を出したら「おに〜あくま〜」と恨み節を言いながら泳いでいった。

 

「行っちゃったねー」

「行かせたの間違いじゃないか?」

「そんな人聞きの悪い…自発的に行ったんだよ」

「あっ!ここに居たんや〜」

「今日はプールだったんだね」

 

グルーヴと話していると、ロードクリスタルとドリームアスターの2人がやってきた。

 

「今日はジムトレーニングじゃあ無かったのか?」

「そうそう、ちゃんとやってきたで〜」

「まだ続けようと思ってたんだけど、『まだ身体が成長に追いついてないから無理は禁物だよ』ってメジロライアン先輩からストップを出されたから…」

「それだったら、仕方ないね」

「2人は休憩中?」

「ああ、本当はエトワールも休憩していたんだが、さっきまた泳ぎ始めた」

「はえ〜頑張ってるな〜」

「課題はスタミナだもんね」

「じゃあ私たちももうひと泳ぎしますか」

「ウチら手伝おか?タイム測ったり」

「それは助かります、お願いします」

「うん、任せて〜アスターもええか?」

「問題無いよ、じゃあボクはグルーヴのタイムを測るよ」

「ああ、分かった。よろしく頼む」

「エトワールはええの?」

「エトワールはタイムじゃなくて泳ぎきることが目的だから大丈夫」

 

その後休憩取りつつ、1時間のプールトレーニングが終わった。

 

「さすがに疲れたな…」

「お疲れさんやね」

「もうムリ…」

「さすがのルミナスもグロッキー」

「私は2人程スタミナは無いの…」

「でも話せるだけマシなのかな…エトワールが……」

「エトワール大丈夫?」

「………」

 

エトワールはうつ伏せで倒れている。

 

「へんじがない。ただのしかばねのようだ。」

「……コロスナー」

「あっ生きてる」

「動けそう?」

「ムリ~」

「まだダメそうやな〜」

「だがプールサイドでずっと寝転んでる訳にはいかないだろう。とりあえず更衣室まで運ぶしかないか」

「やったらウチとアスターで連れていくから2人は先に着替えてき」

「分かった。行くぞルミナス」

「りょう〜か〜い」

「こっちもこっちでダメそうだな…」

 

ダウンしているエトワールとクリス、アスターを残してプールを後にする。

そしてフラつきながらも更衣室へと辿り着く。

 

「長い旅だったね、グルーヴ…」

「はぁ…何を言っとるんだ、こいつは…」

 

そんな大層なため息を吐かないでよ…

さすがに悲しくなる。

 

「それにしても少し泳ぎ過ぎたかも…身体がダルい…」

「大丈夫か?」

「今日はもう終わりだから、ゆっくり休んだら大丈夫…なはず…」

「休むのだったら、しんどいかもしれないがさっさと着替えてしまった方が楽だぞ」

「それもそうだね、サクッと着替えよ…」

 

ブーブーブー

「ん?ルミナス、電話じゃないか?」

「あれ?ホントだ…チヨさんから?」

 

携帯の画面にはサクラチヨノオーの名前が映し出されている。

 

「なんだろう…もしもし?」

『あっ!ルミナスさんですか?』

「はい、ルミナスです」

『えっと、今少し大丈夫ですか?』

「…はい、大丈夫ですよ」

『落ち着いて聞いて…』

『チヨノオーさん!!!』

「うぇっ!」

 

急な大声に耳がやられる。

隣にいたグルーヴもダメージ受けてる…

いや私に対してそんなに睨まないで…

というか何があったの?バクさんの声に聞こえたけど…しかもかなり怒気を含んだ声だったような?

 

『ルミナスさん』

「あれ?バクさんですか?」

『はい、そうです』

「どうしたんですか?いつもと雰囲気が……」

「ローレルさんが怪我をしました」

「………えっ?」

『骨折です』

「こっ!?骨折…ローレルさん…ローレルさんは大丈夫なんですか!!」

「今、病院で治療を受けています」

「わ、私もすぐに向かいます!」

「いえ、今日はもう遅いので明日にしましょう。それに病院の面会時間も過ぎています」

「ですが!」

「そのルールが分からないルミナスさんではないでしょう?」

「……っ、分かりました…」

「では、失礼しますね」

 

電話が切れた…

ローレルさんが怪我をした。しかも骨折…

 

「ルミナス…大丈夫か?」

「…うん、大丈夫」

 

「やっと着いた…」

「ほら、着いたで…ってどないしたんや?」

「いや、その…だな…」

「ローレルさんが怪我したって連絡が来たんです」

「ローレルさん…ってあのサクラローレルさん!」

「そうですよ」

「今年の春の天皇賞の有力ウマ娘やん!怪我しはったの?」

「程度は分かんないけど、骨折みたい…」

「うそやん…」

「天皇賞は無理そうだね」

「日数的に出走は出来ないでしょう」

「箇所や程度にもよるだろうが、難しいだろうな」

「今回の天皇賞は残念ですが、ローレルさんなら大丈夫です。あの人はどんな困難にも負けない不撓不屈のウマ娘なので」

 

私は自分にそう言い聞かせる。

そうしなければ、不安に飲み込まれてしまいそうになる。

 

「明日お見舞いに行くの?」

「はい、今からだと遅い時間ですし、面会時間も終わってるみたいなので」

「あんまり気を落としすぎたらダメだよ、ルミナス」

「大丈夫です。落ち込む事なんてしませんよ。一番しんどいのはローレルさんですから…」

 

先に上がると4人一言告げて、私は練習を終わって寮の自室へと戻った。

 

「ただいま戻りました」

「おかえり」

「お疲れ様です、先輩も戻られてたんですね」

「まぁね…って目赤いよ?」

「えっ?…あぁ、目にゴミが入りまして…」

「ちゃんと洗った?」

「…はい、大丈夫です…」

「そういえば、ローレル怪我したみたいだね」

「っ!知ってたんですね…」

「練習中だったらしく、病院に行くとこを見たって子から聞いた」

「私はバクさん…バクシンオーさんから聞きました」

「どんな怪我だったの?」

「詳しくは分かりませんが、骨折みたいです…」

「骨折か……」

「…明日お見舞いに行ってきます」

「うん、分かった……あんまり動揺しないんだね」

「動揺してますよ」

「そうは見えないけど?」

「平静を装ってるだけです。怪我した人に動揺してる姿を見せるのは良くないので…」

「今ここにはいないよ」

「今から作っとかないと、崩れてしまいそうなので…」

「……無理しないようにね」

「………はい」

 

そして翌日を迎えた。

私は授業を終えてから、その足で病院へと向かう。

途中お見舞い用の花を買いに花屋によってガーベラを買った。確かグルーヴが『ガーベラの花言葉は『希望』と『前進』だからお見舞いには最適だ』って言ってた。

元々何も持っていく予定無いって言ったら、『何を考えてるんだ、たわけ!』ってめっちゃ怒られた…

 

そして病院に着いた。

ここに来るのは3年振りだ…

ローレルさんの病室は何処だろう?とりあえずナースステーションに行って教えて貰おう。

 

「おや?もしかしてアクアルミナスさんかい?」

「ん?えと、そうですけど…」

 

突然横から声を掛けられた。

白衣着てる…お医者さんだ。

あれ?この人どっかで見たことあるような…

 

「お母さんの件以来だから2年…いや3年振りかな?」

 

3年振り……あぁ思い出した…

 

「あの時は、母が大変お世話になりました」

「お母さんについては、我々の力不足で本当に申し訳なかった…」

「謝らないでください。先生含めて皆さん力を尽くしてくれたと思っていますから」

「……そうか」

「こうして覚えていてくれているだけでもありがたいことですし、あれは誰も悪くありません。悔しいですが、仕方ないことだったんです。だから先生も気にしないでください」

「すまないね、気を遣わせてしまって…ところで今日はどうしたんだい?」

「今日は先輩のお見舞いに来ました。そうだ先生、サクラローレルさんの病室はご存知ですか?」

「サクラローレル…サクラローレル……昨日来た子かな…」

「はい、昨日骨折で病院に運ばれたウマ娘です」

「あの子なら治療終えて、確か五階の病室にいるはずだよ」

「五階ですか、分かりました」

「ここから奥のエレベーターがあるから、そこから行けるよ」

「奥のエレベーター…あれですね、教えていただきありがとうございます。では先生、失礼します」

「あぁ、お元気でね」

 

私は先生にお礼をして、教えて貰った通り奥のエレベーターから五階へと向かった。

 

「えーっとサクラローレル…サクラローレル…あった!」

 

扉横のプレートにサクラローレルの名前を見つけた。他に誰の名前も無いから、一人部屋のようだ。

コンコンと病室の扉を叩く。

 

「はい?」

 

中からローレルさんの声が聞こえた。

 

「アクアルミナスです。今入っても大丈夫ですか?」

「ルミちゃん?うんいいよ!」

 

中のローレルさんから許可を貰ったので、部屋へと入る。

 

「失礼します」

「いらっしゃいルミちゃん、ベットの上からでごめんね…」

「怪我をされたのですがら、気にしないでください」

「お見舞いに来てくれたんだね!」

「来ない訳には行きませんよ。バクさんやチヨさんは来てないんですか?」

「2人は少し用事を頼まれちゃったみたいで、少し時間が掛かるって」

「そうですか…お加減いかがですか?」

「うん、大丈夫だよ。治ったらまた走れるみたい」

「それは良かったです」

「うん…」

「……とりあえず花、花瓶に差しときますね」

「うん、ありがとう。へぇー、ガーベラ買ってきたんだね」

「同期の子がこれが良いって勧めてくれたんです。前に私が委員長って呼んでた子です」

「あぁ、エアグルーヴさんね」

「よく覚えてますね…」

「えっ、普通のことだと思うけど…相変わらずだねルミちゃんは」

 

そう言ってローレルさんは笑った。

普段と変わらない感じに少しホッとした。

 

「ねぇルミちゃん、ガーベラの花言葉って知ってる?」

「グルーヴから聞いたのは『希望』や『前進』でしたね」

「うん、その通りだね。ガーベラは色それぞれにも花言葉があるんだよ」

「そうなんですか?それは知らなかったです」

「しかも本数によっても変わるって知ってた?」

「本数…」

「うん、1本だと『一目惚れ』3本だと『愛しています』だったかな?」

「えっ!?そ、そんな感じの花言葉なんですか!?」

「ルミちゃんが持ってきたのは……8本だね〜」

(1本で一目惚れ…3本で愛してる…8本だとなんだ……てか何でそんな愛の言葉シリーズなの!?)

「8本はね〜『あなたの思いやりに感謝』だってさ」

「…普通だ」

「良い言葉だけどね、ガッカリした?」

「そんなことはないですけど…なんか1本目や3本目みたいな感じだと恥ずかしいじゃないですか…」

「ルミちゃんも恥ずかしがることあるんだね」

「……私をなんだと思ってるんですか?」

「でもルミちゃん会った時から、そんな感じだったもんね」

「そうでしたか?」

「遠慮のない、無愛想な感じ」

「………そうですか」

「今も少し残ってるけど、でも変わったと思うよ。お友達も出来てるみたいだしね」

「でもまだまだですよね、ローレルさんから見ても…」

「そうだね、でも少しづつでも変わろうとしてるでしょ?」

「それはまぁ…でもまだ以前言われたことの答えは難しいそうです」

「まだ1ヶ月も経ってないよ?んーでもそこまでちゃんと考えてくれてるんだね」

「それはローレルさんから言われたことなので…」

「そっか…」

「ローレルさん?」

 

なんだろう?

ふと見せる暗い表情…

最初は怪我したことでだと思ってたけど、何か違和感が……?

 

「ねぇ、ルミナス」

「はい」

「ルミナスの走る意味、私があげようか?」

「………え?」

 

 

「ねぇルミナス、私の為に走ってみるのはどうかな?」

 

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