走る意味を探していた少女が碧の女王と呼ばれるまでの物語 作:シャケサバ
『サクラローレル、復帰宣言!来年の春天に向けて!!』
ニュースサイトにローレルさんの記事を見つける。
そこには怪我からの復帰に向けて語った記事と笑顔のローレルさんの写真があった。
うん、良い写真だ…
「良かったな〜、ローレルさん」
「はい」
「でもやっぱ骨折って結構時間掛かるもんなん?」
「程度や場所にもよりますけど、掛かるものは掛かります。それに入院やリハビリなどで怪我した箇所以外の筋力も落ちたりしますし、体のバランスを狂ったりしますから、元の状態に戻すのにかなり苦労します。加えてそこから更にレースに向けて仕上げないといけないので」
「やっぱそうなんやな〜、ウチはここまで大きい怪我したことないから、あんまり分からへんけど、気をつけなあかんね」
「どうしても防げないものもありますが、防げるものは防がないと…」
「ふぅーおまたせ!」
「長蛇の列だった…」
「少しでも遅れると、やはり食堂はかなり混むな…」
「ほな、みんな揃ったし食べよか」
お昼休み、いつものように食堂で昼ごはんを食べる。
今日のメニューは焼き魚定食、量も品質も完璧。これだけでも中央トレセンに入った意味があると思える。
美味しいサバの塩焼きに舌鼓を打っていると、
「見つけた!」
「ん?」
誰かがダッシュでこちらにやってきた。
「見つけたっすよ、アクアルミナス!次の選抜レースで私と勝負しろっす!」
「…ん?」
この子って……
「これってもしかして!」
「運命のライバル!!」
「的な展開!!!」
「…っ!いや違うこれは!」
「モグモグ…誰?」
「なぁっ!?」
「ウソやん!」
「ウソやろ〜」
「ウソ…」
「はぁ…やはりな…」
驚く3人、呆れる1人、そして…
「そ、そんな〜…っ、ぅぅ…」
目の前で泣きそうになってる子が1人。
なにこれ?私が悪いの?
「あの、えっと…」
「なんで覚えてないんすか!!」
「いや、その…」
「私のことをあんなめちゃくちゃにしてといて!!」
「私のこと!」
「めちゃくちゃに!?」
「したの?」
「いや、覚えてない」
なんかすごく誤解を生みそうな発言されてる…
「少し落ち着け…しかしルミナス、本当に彼女のことを覚えてないのか?」
「うーん…私の知ってる人にこんなすっす言う人いないんだよ」
「えっと、これはトレセン学園入って舐められないようにキャラチェンの為に付けた………っす」
「いや、知らんがな」
あとその語尾の人、学園内に数人はいた気がする。風紀委員長とか…
「それキャラチェンとしては弱くない?」
「うぐっ…」
「辛辣やな〜」
「純粋故の怖さ…」
「良い直球、これならスカウトも納得」
「お前は何の話をしてるんだ…」
「うぅ…なんでこんなことに…それもこれもアンタが覚えてないからっすよ!」
「そう言われてもなぁ…」
「なんで覚えないんすか…公衆の面前で私を辱めたくせに…」
「公衆の!」
「面前で!!」
「辱めた!!!」
ヒソヒソ…ヒソヒソ…
「ちょっと待って、これ以上喋らないで!周りからの私の評判がどん底になるから!」
えーっと誰だこの子…
前に会ったってことはトレセン学園に入る以前だから、ヴィクトリー倶楽部かな?
しかも喋り方変えたらしいから、前までは違う喋り方………詰んでね?
「うーん……思い出せない…いつ頃会ったことある?」
「初等部の時っす」
「初等部か…てことは倶楽部にいた頃だから…もしかしてヴィクトリー倶楽部にいた?」
「いない…っす」
「じゃあ、分かんない」
「諦めるのが早いっすよ!」
いやほぼノーヒントで子供の頃を思い出せって言われても無理だって…
「ルミナスの子どもの頃ってどんな感じなんだろうね?」
「あ〜どうなんやろうねー」
「想像するのも難しいな…」
「今、あんなんだしね…」
おかしい…なんか分かんないけど悪口を言われてる気がする。
「気のせいだ」
「普通に心読まないで、というか読んだ上で返事しないで、怖いから…」
「もしかして私ってそんなに印象薄いですか〜」
「語尾に『っす』が消えた…印象が薄いというか、単純に覚えてないんだよね」
「最後に会ったのは、初等部最後の大会です…」
「最後の大会…あーあれか」
「何か覚えてるの?」
「初めて勝った〜とかそんな記憶?」
「いえ違います、というか初めて勝った記憶は結構前なので、うろ覚えですね」
「最後の大会はトレセンに入る前の最後のレースなので覚えてます。私自身も怪我から復帰して最初のレースだったので…」
「確かにそういう時の勝ちって、なんか嬉しさがいつもと違うもんね!」
「割と怪我が多くて、そこまでレースとか大会とか出れてなかったので…」
「で、でも出場した大会は全部勝ってるはずだよね?」
「………そーだね。負けてないかな」
「えっ?無敗ってこと!?」
「出てないレースでは勝てたのに、アクアルミナスが出てきたらずっと勝てなかった…その雪辱を晴らす為にトレセンにも入ったんだ!だから選抜レースで勝負しろっす!」
「あ、『す』が帰ってきた」
「話の腰を折ってすまないが、選抜レースの出走順は抽選だから一緒に走るのは難しいぞ」
「……えっ!?」
「せやな〜、距離で振り分けはされるけど、中々一緒のレースになるのは確率低いな〜」
「うーん…だったら模擬レースでもしようか?」
「模擬レース…」
「そ、問題なければ、今日の放課後とかでもいいよ」
「…分かった!」
ふぅ…やっと開放された。
でも模擬レースが組めたのは良かった。そろそろ選抜レースも近づいてきたから、この4人以外と走りたかったからラッキーでもある。
さて、模擬レースの作戦は何でいこうかな…そもそもあの子の走り方覚えてないから、対策しようにも出たとこ勝負だし…ならやりたいようにやるのが一番かな?
「なぁ、ルミナス」
「どうしたの?」
「私達もその模擬レースに参加してもいいか?」
……えっ?走るの?
「そんな露骨に嫌な顔しないでよ…」
「そんなつもりは無いけど、てっきり向こうは一対一を望んでると思ってたから…」
「まぁ放課後会った時にでも、確認してみよう」
放課後になり、練習場に向かうと、そこには仁王立ちをしているウマ娘の姿があった。
「待ってたっすよ、アクアルミナス!」
「お待たせー」
「かるいっ!」
「まぁまぁ、今日はよろしく」
「むむむ…そんな余裕ぶっていられるのもこれまでっすから!」
「なぁ、少しいいだろうか?」
「…ン?…ヒッ!?、はい…なんですか…」
(なぜ私に対しては、こんな低姿勢なんだ?)
「グルーヴなんか怖がられてない?」
「私は何もしてないぞ!」
「潜在的なものがあんじゃない?」
「グルーヴって怖いもんね」
「本能的にグルーヴの怖さを感じた?」
「いや待て、なぜ私が怖い前提で話が進んでるんだ!それなら私ではなくルミナスの方を恐れるのが自然ではないのか!」
「いや、私は優しいし…」
「ルミナスはねぇ…」
「ルミナスはなぁ…」
「ルミナスは…」
「ねぇ、なんか私の評価バグってない!?そんな言われる事してないと思うけど!」
「そ、それでなんですか…?」
脱線しかけた話をなんとか戻そうとする………まだ名前聞いてなかったや…とりあえずスーさんとしておくか。
スーさんが話を戻す。
「あぁ、すまない。この模擬レースなんだが、私達4人も走っていいだろうか?」
「それなら、別に構わないですよ…」
「急なお願いで申し訳なかったが、感謝する」
というわけで、模擬レースの参加者が増えた。まぁ私としても問題ないので、特に何も言わない。
ただそうなると、残る問題は……
「距離はどうする?」
「元々2000mで考えてたんだけど…」
「2000か…」
レースをやる上で距離というのは、とても重要になる。ウマ娘にはそれぞれ得意な距離、すなわち距離適性が存在する。
短距離は1200~1600
マイルは1601~2000
中距離は2001~2500
長距離は2501以上。
100m、200m伸びたり短くなるくらいと思われるかもしれないが、この差は感覚的にかなり大きい。
かくゆう私もマイルと中距離は問題無いけど、1400の短距離や2500の長距離となるとどうしても苦手である。
走れないことは無いが、勝つのは断然難しい。それどころかレースになるかも怪しいところ…練習次第で適正は伸ばすことが出来るが、今はひとまず置いといて…
「2000m、中距離だけどエトワールは大丈夫?」
「う、うん!大丈夫!私だってクラシック走るんだから中距離も走れるようにならないとダメだしね!」フンスッ!
やる気は十分みたいだ、フンスフンス言ってるし…
「じゃあ2000mで大丈夫だよ」
「分かった、じゃあみんな準備して30分後に始めるっす」
話がまとまると各々30分後の模擬レースに向けてストレッチなど準備を始める。
一方私はというとカメラの設置場所を探していた。
「うーん中々良い場所が見当たんないな。せっかくの機会だから撮っておきたいけど、諦めるしかないかな…」
「あれ?こんなところで何してるの?」
「ん?………確か以前練習を覗いてたサブトレさんでしたっけ?」
「あぁ覚えてくれてたんだね」
久しぶりだねといって、近づいてくる。
てか、なんでこんな所に居るんだろう?と思ったけど、割とトレーナーって色んな所に居るって言ってたし、気にしない方がいいのかな…
「なんでこんなところに居るんだ?って顔してるね」
「……そうですね」
「まぁ、隠す必要も無いから言うと、目的は君達の模擬レースだよ」
「そうなんですか?でも模擬レースといってもなんの実績も無いデビュー前のウマ娘の模擬レースなんて見たいものですか?」
「そりゃもちろん、スカウトする時に各ウマ娘の情報はあればあるだけいいからね
しかも今年の新入生で注目されてるウマ娘が模擬レースをやるとなれば、見に来るトレーナーやウマ娘も多いと思うよ」
「なるほど…」
注目されてるウマ娘ねぇ…まぁ大方エアグルーヴだろう。
まぁいいや、とりあえず話切り上げて私も準備しないと…撮影したかったなー………あれ?もしかしたら…
「サブトレさん」
「なんだい?」
「レースの様子って撮りますか?」
「え?一応撮るつもりでいるけど…」
「でしたら、撮った映像を私にもくれませんか?」
「撮った映像を…あぁいいよ」
「ありがとうごさいます。断られたどうしようかと思いましたが、良かったです」
「…ちなみに断ってたらどうしてたんだ?」
「そうですね…撮影許可を出さないつもりでした」
「やることエグイな…」
「では、よろしくお願いします」
サブトレさんに撮影のお願いして、立ち去ろうとすると、ちょっと待ったと止められてしまった。
「なんですか?」
「撮影する代わりに一つ教えて欲しいことがあるんだ」
「なんでしょう?」
「君達の名前を教えて欲しいんだ」
「そんなのサブトレなんですから、データベースとかで調べればいいんじゃないですか?」
「いちいち照合するのが手間だからね」
「はぁ…わかりました。前髪が右目に掛かってる鹿毛の子がエアグルーヴ。アスターの花を髪飾りをつけてる黒鹿毛でボブの丸っこい髪型をしてるのがドリームアスター。透明なクリスタルの耳飾りをしてる青毛のロングヘアがロードクリスタル。セミロングの芦毛がアンエトワール。そして…栗毛の髪を結ってる子が……」
「栗毛の子が?」
「…スーさんです」
「……名前は?」
「…スーさん」
「よく名前知らない子と模擬レースやることになったな…」
「挑んできたのとなりゆきで」
「とりあえずスーさんね」
「そして私がアクアルミナスです」
「君が…アクアルミナスか」
「じゃあ私は戻ります」
「あぁ、助かったよ。レースがんばれよ」
サブトレさんのエールを受けて、私はみんなの元へと戻る。
「じゃあそろそろ始めよっか」
「スタートはどうする?」
「そうだ…1対1で走るつもりだったから考えてなかった…」
「コインを落としてスタートする方法もあるが、それでも走らない人がやった方がいいだろう」
新たに発生したスタート問題に頭を悩ませていると、
「なんだい、なにか面白そうなことになってるじゃないか」
「「アマさん!!」」
そこに現れたのはヒシアマゾン先輩だった。
私は多分初めましてかな?確か美浦寮の寮長だったはず。
「同期で模擬レースとは燃えるじゃないか!ん?なにかあったのかい?」
「実は…」
かくかくうまうまと事情を説明すると、
「なんだい、そんなことで悩んでたのかい!だったらアタシがゴールに立っとくよ、スタートは…おーい誰がスターターやってくれる子はいるかい?」
ヒシアマゾン先輩が声を掛けると、ササッと1人やって来て、スターターを快く引き受けてくれた。
そして準備が整い、模擬レースが始まる。
スターターの合図とともに一斉に飛び出す。
私はスタートと同時にスピードを上げる。
横で私を見て驚いているエトワールを尻目にグングンとスピードを上げてハナを奪う。
自分のやりたかった事を目の前でされてしまったエトワールが必死にハナを奪いにかかる。
ある程度まで行くと、私はスピードを緩めてエトワールにハナを渡して後退する。
レースは中盤、ハナを奪ったアンエトワールを先頭にロードクリスタルとスーさんが続く、そしてその後ろをエアグルーヴが走り、先頭から後退した私がその後ろにいる。ドリームアスターは私の後ろを走っている。
チラチラと私の方を確認してるのが見える。恐らく一気に後退した私の様子を見たいのだろう。
前ではスーさんとクリスがポジション争いを強めている。私は横のグルーヴと後ろのアスターに牽制をしつつ、少し外に自分の位置を持っていく。
第3コーナー辺りで先頭のエトワールが徐々に落ちてきて、スーさんとクリスとの距離が縮まっていく。
それを見て私を含めた後方3人も速度を上げる。
開いていた隊列が一気に縮まっていく。
第4コーナー手前で先頭がエトワールからクリスに入れ替わる。
エトワールもなんとか食らいついているが、かなりキツそうだ。
そしてここで私の後ろにいたアスターがスパートを掛けて、1位集団へと混ざっていく。
私とグルーヴは置いていかれた形になったが、私はグルーヴに牽制を入れながらレースを進める。
そして最後の直線手前で私は大きく外に出て、スパートを掛ける。
それを見て、少し遅れてグルーヴもスパートを切る。
一気に先頭集団との差を縮めて、抜きに掛かる。
私が上がってきたの見て、スーさんもスパートを掛けるが垂れてきたエトワールを避けながらの為にタイムロスが起きる。
ラスト400mで先頭に立ったが、グルーヴとスーさんが懸命に追いかけてくる。
ラスト200m
「はあああぁぁぁぁぁ」
ゴール手前、猛然と追いかけてくる姿を見て、以前走ったあるレースを思い出す。
(あの時もこんな感じで追いかけてきてたな…だけど、今回も勝つのは私だ!)
1位で私はゴール位置に立つヒシアマゾン先輩の横を通った。
周りで観ていたウマ娘やトレーナー達から小さいながらも歓声が上がる。
思い出した…あの時も最後、抜け出した私を必死追いかけた子がいた。
確か名前は…
「はぁ…はぁ…はぁ…くそっ…」
「お疲れ様、良いレースだったよ」
「くっ……つぎは…次は絶対に負けないから!」
「…いや次勝つのも私だよ。アストラルスカイ」
「ぐぬぬ…ってあれ?えっ?…えっ!?ウソっ……今名前、私の名前呼んだ!?覚えてたの!?」
「いや、さっき思い出したよ」
なんかアワアワしてるけど、どうしたんだろう?
「じゃあ、私はちょっとエトワールが心配だからそっち見てくるよ」
こうして突然挑まれて、始まった模擬レースは私の勝ちで終わることが出来た。
1着 アクアルミナス
2バ身差
2着 アストラルスカイ
クビ差
3着 エアグルーヴ
1/2バ身差
4着 ロードクリスタル
1バ身差
5着 ドリームアスター
2バ身差
6着 アンエトワール
やっぱレース描写は難しい…