砂糖堕ちハナエちゃんのお話   作:砂糖堕ちハナエちゃんの人

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第四話「トリニティ襲撃勧誘作戦」その6

 

 

 

ミネ団長とハナエちゃんの死闘が続きます。

 

(ああっ……ミネ団長……)

 

ホースに縛られ吊るされて高い位置から見守る事しか出来ない私の目の前で続く互角で長い闘い。しかしすこしずつ事態は変化していました。

 

「~~~~!!」

 

ミネ団長のシールドバッシュを軽々と躱すようになってきたハナエちゃん。最初の頃はミネ団長に翻弄されチェーンソーにも振り回され気味だった動きはミネ団長の攻撃と行動パターンを読むようになり洗練され無駄な動きが無くなって来ました。

 

「このぉっ!!!」

 

そしてミネ団長。徐々に疲労が溜まって来てるのか動きが鈍くなり始めていて気が付けばハナエちゃんに翻弄されつつ何とか攻撃を躱すのが精いっぱいの様に見えてきました。ミネ団長の美しい純白のロングスカートの制服もあちこち無惨に引き裂かれその下からに覗く白い素肌には血が滲み、垂れて流れてるような切り傷やかすり傷が見えるようになってきていました。

 

「ミネ団長後ろっっ!!」

 

私は思わず叫びます!!ミネ団長のシールドバッシュをフェイントをかけて躱したハナエちゃん。床に深く突き刺さったシールドを引き抜くためにミネ団長に生まれた一瞬の隙をついて背後に回りながらチェーンソーを振り下ろしてきました。

 

 

ザシュッッ!!!!

 

 

「あ"ぐぅっ!!!」

 

ミネ団長の肩を羽ごとチェーンソーの歯が切り裂きます。咄嗟にミネ団長が身を捻ったため、深く刺さる事は無かったものの団長の綺麗な青い翼と長い髪が切り裂かれ、切り裂かれた肩の傷口から零れた血とともに破片が宙を舞います。団長の青い羽は度重なる攻撃で何度もズタズタに切り裂かれ血で染まり汚れた無惨な姿へと変わり果てていました。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

肩で息をして罅だらけのシールドを杖の様にして身体を支えているミネ団長。もう限界が近そうな雰囲気がしています。

 

 

「…………」

 

ハナエちゃんは無表情のまま、チェーンソーを何度も空ぶかしします。まるでミネ団長を挑発するかのように……。

 

「はぁ~あっ、そろそろ飽きて来ましたね。もう終わりにしましょうか♡」

 

まるでつまらないテレビ番組を見ているような感じでハナコさんが喋り、手をパンパンと叩きます。

 

「ハナエちゃん、遊びは終わりです。さっさと片づけてくださいな♡」

 

ハナエちゃんがハナコさんの言葉に反応したのか、腰を低くして構えると一気に距離を詰めて来ました。

 

「団長っっ!!」

 

私が叫ぶと同時に団長がシールドを構えます。

二人がぶつかり合い激しい衝撃音と響き渡ります。

 

「せいっ!!!」

 

激しくぶつかり合っていたシールドを一瞬だけずらして構え直すミネ団長。するとシールドに激しくぶつかっていたチェーンソーが弾かれ思わずハナエちゃんはよろけます。

 

「甘いですよハナエェェッ!!」

 

バランスを崩したハナエちゃんをシールドで逸らし、ハナエちゃんの背後に回り込むと思いっ切りシールドを背中へと打ち込むミネ団長。全力で突っ込んで来ていたハナエちゃんは自分の作った勢いに加えミネ団長のシールドを背中に打ち込まれた衝撃が加わり、吹っ飛ばされて凄まじい勢いで床にぶつかり、床を引き裂きえぐり取りながら突き進み途中でやっと止まりました。

 

床にめり込み動けずに藻掻くハナエちゃんにミネ団長は止めを刺すべく構えます。

 

「はぁぁぁぁぁぁああああああーーーーー!!!!」

 

ミネ団長が咆哮を上げ力を溜めます。物凄い力がミネ団長の周りに集まり、足元の床が砕けて抉れ空気が振動し電撃が走っているような幻覚すら見えてきます。

 

(ミネ団長……自分に残ってるすべての力を出してハナエちゃんにぶつける気なんだ)

 

止めたくても止める事も出来ず、私はただ、二人の無事を祈るしかありません。

 

 

「誇りと信念を胸に刻み!最後のその瞬間まで!戦場に救護の手を!」

 

 

まるで呪文のような自分を鼓舞するようなそんな叫びを上げて限界まで自身の力を引き上げるとミネ団長はシールドを構えって最後の攻撃へと出ます。

 

「ハナエェェッ!!受け止めなさいっっ!!全力で参ります!!!」

 

今までで最高のすさまじい勢いでシールドバッシュを繰り出したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間はまるで高速度カメラのスーパースローモーションの様でした。

 

 

ミネ団長が高く天井まで飛び上がり、オーラを纏った盾を全力で振りかざします。

 

 

その先に居るハナエちゃんは床にめり込んだまま藻掻き続けてます。

 

 

ミネ団長がシールドを構えて落下攻撃態勢に入りました。もう彼女を止める手段はありません。

 

 

ハナエちゃんがようやく床から抜け出してミネ団長の方に振り返りチェーンソーを構えようとします。でも今からではもう間に合いません。

ミネ団長の攻撃がハナエちゃんに決まり、ハナエちゃんはそのまま床にシールドごとめり込み沈む……………そのはずでした。

 

 

ミネ団長のシールドがあと少しで当たる瞬間、ハナエちゃんが嗤いました。口の両端を釣り上げて嘲笑うかのように見えました。

 

 

するとぐにゃりとハナエちゃんの姿が揺れて消えてしまったのです。まるで蜃気楼のようにです。

ミネ団長が目を大きく見開いたのが見えました。

 

 

消えたはずのハナエちゃんは"居ました"。ミネ団長の攻撃がギリギリ当たらない場所に――、まるで最初からそこに居たように。

 

 

ミネ団長の顔が歪んだように見えました。もう今からでは攻撃を止める事も落下位置を修正できることも出来ません。

 

 

ミネ団長が着地しシールドが"誰の居ない場所を"空しく抉ろうとした瞬間、ハナエちゃんはミネ団長目掛けてチェーンソーを大きく斜めに薙ぐりました。

重力と質量保存の法則に従って高速移動するミネ団長の動きと正反対の向きから動いたチェーンソーの歯は双方の力を効果的に最大限利用し、その威力を発揮しました。

 

 

バァアアアアン!!!と凄い音がしてミネ団長のシールドが――、私達救護騎士団を護り続け、その力と団結の象徴であったミネ団長の盾が二つに引き裂かれ粉々に砕け散りました。

 

 

そして、そして。砕けたシールドを易々と貫通して通り抜けたチェーンソーの高速回転する無数の刃が――、ミネ団長の身体を斜めに大きく引き裂いたのです。

 

 

そのまま地面に着地するはずだったミネ団長の身体が再び宙を舞いました。仰け反り力なく両腕を投げ出して吹き飛んでいくミネ団長の身体。その身体の正面から真っ赤な大きな血しぶきが大輪のように咲きます。

 

 

ゆっくり、ゆっくりとミネ団長の身体が床に叩きつけられていきます。夥しい血を噴き出しながら――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「団長……いやぁああああ!!ミネ団長ぉぉおおおおお!!!!」

 

私の絶叫がボロボロの講堂に響き渡ります。

 

私は必死に藻掻きここから脱出しようと試みます。こんなところでホースに巻かれて宙に浮いてる暇なんてありません。早く早くミネ団長を助けに行かないといけないのに!!!!

 

「あははははははははは!!!無様、まさにあっけないくらい無様ですねミネさぁぁぁぁぁあん!!!!あははははは!!!」

 

隣でハナコさん、いえ魔女が勝利の高笑いを上げています。

 

「あ"っ……あ"あ"あ"っ!!ガハッゴホッ!ゲホッ!!」

 

血だらけのミネ団長が激痛にうめき声を上げます。激しく咳き込み、その口からも真っ赤な血が溢れ出始めました。

 

「ミネ団長っ!!!いやあああミネ団長ぉぉっ!!離してっ離してっ!お願いいいっ!!!」

 

私は必死に懇願します。

 

「あはははは…はぁはぁはぁ、笑いが止まりませんわ。うふふふっ、さぁ!ハナエちゃん!!ミネさんに止めを刺しなさいっ!!彼女に砂漠の砂糖の素晴らしさと有難さを教えるんです!!あのだらしない身体に直接ねっ!!!!!」

 

こくりと頷くとハナエちゃんがゆっくりと斃れてるミネ団長へ近づいて行きます。その手には1本の注射器が握られていました。

 

「やだ…だめぇ!!!ハナエちゃんやめてぇえええ!!」

 

私の懇願も空しく、ハナエちゃんは聞く耳を持たずにミネ団長の傍へ行きます。

 

「…………」

 

ハナエちゃんはしゃがみこむとミネ団長の頭、前髪を乱暴につかむとそのままミネ団長の上半身を持ち上げ始めました。

 

「あ”っぐっっ!!…ハナエ……お願い……や…やめて……たすけ……て……」

 

ミネ団長が苦しそうにハナエちゃんへ懇願します。涙を流し、恐怖で顔を歪めるミネ団長、私が初めて見る表情でした。

 

「あははははははっ!!聞きましたかミネの情けない命乞いをっ!!!ねぇミネっ!!あなたもそんな弱弱しい女の表情が出来たんですねっ!あはははははははは」

 

ハナエちゃんに完全に持ち上げられたミネ団長の上半身、力なくぶら下がるミネ団長の両腕からは夥しい血が伝って床へ滴り落ちていました。

ミネ団長のボロボロで血だらけの長いお下げを腕で払いのけると露になった団長の首筋へ注射器の針が宛がられます。針が触れたに気づいたのかミネ団長の目が見開きました

 

 

「やだ……お注射……やだぁ……は、ハナエ……おねがい……ゆるし……」

 

ミネ団長が泣きながら言いかけた所でハナエちゃんが勢いよく注射器の針を根元までミネ団長の首へと深々と突き刺し、プランジャーを一気に押し込みました。

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ーーー!!!!!」

 

ミネ団長の絶叫が激しく木霊しました。

 

ハナエちゃんが乱暴に注射器を引き抜き、首の注射痕からは血が勢いよく吹き出します。返り血を浴びても全く気にしない様子の無いハナエちゃんは掴んでいたミネ団長の前髪を無造作に離します。何十本も千切れたミネ団長の水色の髪の毛がパラパラと散って舞います。ハナエちゃんの手の指に絡みつき残ったミネ団長の大量の頭髪をまるでゴミを払うかのように服の袖で拭うハナエちゃんに怒りすら湧いてきます。

 

「あ"あ"っ!!ゲホッ!!ガホッ!!あ"ぎぃぃぃ…ぐぅぅぅ……苦しいよぉ…熱いよぉ……たすけ…ゴホッガハッ……」

 

大量に流し込まれた砂糖の暴力的な力が身体の中で暴れているのかミネ団長が激しく藻掻いてます。その度に引き裂かれた身体の傷口から血が溢れ出し、団長の純白の制服を真っ赤に染め上げ、吸い切れなくなった血が床へと零れてひろがり真っ赤な水溜りを作っていきます。

 

 

「うふふふふ…あはははは…あはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!」

 

魔女が狂ったように笑い始めました。

 

「やった!やったやったやった!!!遂にっ!遂にっ!!ミネをやった!!ミネを殺った!!ミネを犯ったわっ!!!あはははははははは!!!これでっ!!これでっ!!救護騎士団はもう終わりだっ!!!救護騎士団など粉砕だっ!!!私を止める者はもう居ない!!ティーパーティーもっ!!!シスターフッドもっ!!全部潰したっ!!!この腐りきったトリニティに私を止めることが出来る者はもういない!!!この学園は私の物だっ!!!この学園は私の物だっ!!!私が支配したのだっ!!!私が支配したのだっ!!!私が打ち取ったんだぁあああ!!!ぎゃははははははははは!!私にも落とせる!!私にも落とせる!!私にも学園(くに)が堕とせる!!私一人でも学園(くに)をひとつ打ち滅ぼすことが出来るのよぉぉぉぉっ!!!これでっ!!これでっ!!ホシノさんに!!!ヒナさんにっ!!!顔向けができるっっ!!並べられる!!!二人と肩を並べられるっ!!!!!!もう足手纏いじゃないんだっ!!ホシノさんとヒナさんを引っ張る足手纏いじゃないだっ!!!私もお二人の隣に立てるっ!!一緒に立つことが許されるんだっ!!!武力も無い!!戦闘力も無い!!!知力もないっ!!!砂糖に溺れお二人よりもたくさん砂糖を食べてるのに同じくらい役に立てない極潰しじゃなあもう無いんだよっ!!!わたしはこれでお二人の正式なパートナーにっ!!戦友になれたのよぉぉぉぉ!!!ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」

 

もう既に何をしゃべっているのかわからないくらい発狂している魔女。その時でした

 

「………!!」

 

私を拘束していたホースがいつの間にか緩んでいる事に気が付きました。私は必死に藻掻き続けているとずるっとホースの拘束から抜け出す事が出来ました。

しかしそこは建物の二階に相当する天窓のそばの足場の何もない空間。私は投げ出され、そのままろくに受け身も取れずに床へと叩きつけられてしまいました。

 

「ガハッっ……」

 

口の中に鉄の味と匂いが広がりねばついた液体が溜まってきます。気持ち悪さに吐き出したそれは真っ赤な血でした。

 

「ゲホッガホッ……ミネ……団……長……」

 

それでも私は立ち上がり進みます。体中が悲鳴を上げているのを無視してよたよたとふらつきながら少しずつ少しずつミネ団長へと近づいて行きます。

 

バシャッ、ベシャッ……

 

私の足に纏わりつくのが汚れた砂糖水から赤黒い粘り気のある水になった時。やっとミネ団長の元へとたどり着けたんです。

 

「ミネ団長……いや…死なないで……死なないでくださいミネ団長……」

 

激しく身体が痙攣していて、血で染まったミネ団長の腕はとても冷たく感じました。

 

「せ……りな………にげ……な……さい」

 

光を失いつつあるミネ団長の瞳、それは私を捉えてました。たどたどしく喋る口からは血の塊が溢れ出てていてミネ団長の言葉をかき消そうとしてます。

 

私を捨てて逃げなさい。ミネ団長はそう訴えかけてます。

 

「いや……いやです!!私はっ!!ミネ団長を見捨てるなんて出来ません!!このまま見殺しになんて出来ません、だから…だからっ!!!」

 

私のやる事はただ一つ。もうそれしかありません。

 

 

 

「私はっ!!ミネ団長を救護しますっ!!!」

 

 

 

ミネ団長のボロボロになった制服を脱がし傷口を露にします。鋏を使おうとしましたが、元々無数の切り傷で穴が沢山開きボロボロになった挙句に大きく引き裂かれてしまった団長の制服は既に服としての意味を成して無く、簡単に剥ぎ取る事が出来ました。それが悔しくて悔しくて溜まりません。

溢れて来た涙を拭うと腰のポシェットを開けます。そこには簡易救急キットが3人分入って居ました。いつもは1人分しかないのですが出発直前にミネ団長から「念の為3人分持って行きなさい」と言われて持っていた分です。

 

「…………」

 

ミネ団長が私が簡易救急キットを取り出してるのを見て目を少し見開き、弱弱しく首を横に僅かに振るのが見えます。

 

 

(わかってます、わかっていまよ、ミネ団長)

 

 

この簡易救急キットは出先で擦りむいたとかちょっと切ってしまったとかの軽傷な傷を治すものです。今のミネ団長のキズにはあまりにも無力なのは分かってます。

 

(でもっでもっ、でも諦めたくないんです)

 

例え、止血パッドの幅が傷口の幅より小さくても。例え止血パッド全部繋いだ数よりも傷口が長くても。私は諦めたくないのです。

 

止血パッドを貼ります。直ぐに血で真っ赤に染まり、止血パッドの許容量を遥かに超えた出血により粘着力を失い溢れ出る血に剥がされ押し流されても……私は諦めずに治療を続けます。

 

2枚目、駄目。………5枚目、駄目。最初の一人分の簡易救急キットを使い切り、二人分目のキットの容量がすさまじく減っていきます。

 

(やっぱりだめ……なのかな)

 

すでに1.5人分使い切って一つも貼れていない止血パッド。ミネ団長の受けた傷の深さの前に簡易救急キットでは全く役に立ちません。

 

「やだ……ぐすっ…ううっいやだよぉ……」

 

涙がどんどん溢れて視界を滲ませ手元が見えなくなります。何度も何度も袖でこすっても涙は止まってくれません。これでは手元が見えず救護活動が出来ません。

 

「誰か……お願い誰か……私に……私に力を貸してください……ミネ団長をお救いしたんです。おねがいします、おねがいします……」

 

私は何かに縋る様に必死に祈り続けました。涙を拭い、決して治療の、救護活動の手を止めない様にしながら――。

 

 

 

 

 

 

キヴォトスに生きる生徒達には皆、強い力が宿る不思議な器官のような物を胸の奥に秘めている。それは器官と言っても臓器のようなものではなく美しい宝石のようなものだった。

 

神秘と呼ばれるそれは彼女ら一人一人の名に宿る神名文字と呼ばれる言霊を介し、少女たちの強い祈りや気持ち、心によって、強く共鳴し、彼女らの頭上に輝くヘイローと共に奇跡の力を呼び起こし行使するものである。

 

少女たちの強い願いによって起こされる奇跡の数々。少女たちに眠る力を呼び起こし、深い傷を癒し、戦闘能力も何十倍へと高め、一発の銃弾の威力を百発分に千発分に一万発分に増幅させ、さらには隕石を降らせ、ドローンや攻撃ヘリや戦車、さらには遠く離れた場所に居るはずの部下や仲間を召喚するなど、枚挙のいとまもないのである。

 

そして目の前の少女、鷲見セリナ。彼女の神秘もまた彼女の「師の命を助けたい」と言う強い祈りの心に強く共鳴し奇跡を起こそうとしていた。

彼女は気が付かない。彼女の頭上に浮かぶヘイローが強く輝き、眩い光を放っている事を。

彼女は知らない。彼女のヘイローから溢れた光が、彼女の胸の奥の神秘が放つ桜色の光が、周囲に満ち溢れている事を。

 

 

 

 

少女の祈りは今、まさに奇跡を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

ゴトンっと音がして私の片方の腕に何かが当たる感触がしました。ふと振り向けばそこには「集中治療セットA」「緊急治療セットB」とラベルの貼られた見慣れた赤い合金製のケースが二つ置いてありました。

 

「どうしてこれが……?」

 

それは沢山の医療道具を詰めた私専用の大きな救急箱。私が救護騎士団の活動で大規模な救護活動現場へ向かう時に持って行く、普段はけっして持ち運ばない専用の箱。

 

何故、どうしてこれがここに……?そんな疑問よりも私は縋るような気持ちでその救急箱を開けます。

 

「これは……!」

 

最初に目に飛び込んだのは沢山の輸血パック。ラベルに「蒼森ミネ」と書かれたそれはミネ団長の血液型にピッタリと適合する理想的な輸血製剤で今一番欲しかった物です。

次に目に飛び込んだのはミネ団長の身体を無惨に引き裂いた裂傷を縫い合わせるための「野外緊急縫合手術キット[フルセット]」でした。内容物を確認するとミネ団長の傷を縫い合わせるのに十分な量が確保されてます。

他にも――、他にも――。私がミネ団長を救いたいと思い必要で欲しいと願った医療道具が欲しい分だけまるで図ったかのように揃っていたのです。

 

「できる……これで出来る。ミネ団長をお救い出来るんだっ!!!」

 

嬉しくてうれしくて――、でも、もう涙も出ません。床に激しく打ち付けた身体の痛みも頭と口から流れ出ていた血もいつも間にか跡形もなく消え去ってました。

 

私は何度も深呼吸をして、改めて横たわれるミネ団長へ向き合います。

 

(落ち着いて……落ち着くのよ鷲見セリナ。道具は十分ある。時間も十分ある。油断せず慢心せず、ミスをせずひたむきに救護に集中するの)

 

目を閉じてトリニティ総合学園に入学して救護騎士団のへ加入して皆を助けるために勉強し活動してきた日々を振り返ります。己の中に蓄えれた沢山の知識経験……それを余すことなく記憶の底から引き上げ呼び起こします。

 

「ミネ団長、必ず、必ずお救いします。どうかわたしを信じてください」

 

もはや反応すらしなくなった団長を私は信じて再び治療活動へ戻りました。

 

 

 

 

 

鷲見セリナはひたすらひたむきに作業へ打ち込む。

 

彼女は気が付かない。彼女のヘイローと神秘がより強くさらに輝き始めた事を。

彼女は知らない。彼女を取り巻く2色の神秘の力の光の渦。

それが彼女の身体を支えている事。一部の光の渦が彼女の必死に動かしている利き腕ともう片方の手に流れ込み彼女の腕を支えている事を。決して間違えないように、決して狂わぬように。

 

鷲見セリナは奇跡を奏でる。一人の命を救うべく奇跡の詩を奏で続ける。

 

 

 

 

 

 

最後の傷へ止血パッドを貼ります。ふたつの救急箱の中身をすべて使い切り、残った小さな裂傷には簡易救急キットの止血パッドを有効利用しました。

 

「出来た……」

 

あれだけ溢れていたミネ団長の出血は完全に止まりました。

 

「まだ……最後の確認を……」

 

救急箱の底に"偶然"残っていた救護度判定機。患者さんの容態を簡易検査してトリアージするための携帯機器。私はそれを取り出して、中のセンサーをミネ団長の身体へと付けて行きます。頭部・胸部・腹部。最後にクランプ式センサーを綺麗に消毒液で拭ったミネ団長の人差し指に挟み込みます。

機械の電源を入れて立ち上げて、診断ボタンを押します。暫く待って「ピピッ」と判定結果が出ました。

 

「やった……助けれた……私……ミネ団長を助けれたんだ……」

 

モニター画面に表示された診断結果とバイタル値、決して安全域とは呼べないものの危険域は脱したことを示す数値を見て私は安堵しました。

 

(あ、あれ……)

 

安堵したとたん、身体に力が入らなくなってしまいました。まるで一生分の力を使い果たしたみたいで身体の中が空っぽになったようです。強烈な睡魔に襲われそうになり思わずミネ団長の胸の上に倒れ込みそうになりました。

 

(バカバカバカ!セリナのバカ!まだ寝ちゃ駄目でしょう!!)

 

頭を何度も振り気力を出して眠気を追い出します。まだ終わってません。あくまで危険域を脱しただけでミネ団長は予断をまだ許さない状態です。

 

(すぐに移動して救急車の手配を。この傷なら聖トリニティ総合病院が対応できるはず。救急科に今すぐ連絡しなきゃ……)

 

私が次の行動についてかんがえを巡らせてると後ろから拍手とともに優しい声が聞こえてきました。

 

パチパチパチパチパチ……。

 

「うふふ、ミネ団長、無事に救えたようですね。さすがですセリナちゃん♡」

 

「ありがとうございます。これで無事ミネ団長の命をお救い出来ました!ミネ団長は必ず助かります!!」

 

「それは本当に良かったです♡ ――じゃあ、次はセリナちゃんの番ですね♡」

 

「はいっ!…………えっ!?」

 

 

 

次はセリナちゃんの番ですね

 

 

 

その言葉の意味が分からず私は固まってしまいます。そして……

 

「……っ!!!」

 

私は大変な過ちを犯してました。今自分が置かれていたはずの状況を完全に忘れていたんです。

 

ミネ団長は戦いの最中、倒れた事。

 

私がそこへ無我夢中で飛び込んだこと。

 

まだ戦いは終わってない事。

 

そして、そして――。

 

その諸悪の根源の巨悪党が私のすぐ後ろにいる事。

 

私は完全に失念していたのでした。

 

「うっあああああっ!!!」

 

咄嗟に傍らに置いた愛銃に手を伸ばそうとして、ホースによって銃は外へ弾き飛ばされ、伸ばした腕にもホースが容赦なく巻き付き絡み取られてしまいます。

 

「あああああああっ!!!」

 

両手両足にホースが絡みつき、私は大の字で空中へと貼り付けにされます。

 

「嫌ッ離してっ離してよぉっ!!」

 

必死に藻掻きますがビクともしません。

 

「ありがとうございますセリナちゃん。ミネさんの命を救ってくださって」

 

「何を言ってるんですかっ!!ミネ団長を殺そうとしてたくせにっ!!!」

 

私は目の前に居る魔女、浦和ハナコへ吠えます。

 

「そうですね。私は確かにミネさんを殺そうとしました。でもそれは間違っていたんです。ミネさんが死んだらハナエちゃんを縛る枷が無くなってしまいますからね。うふふふ……」

 

「何をっ……」

 

「セリナちゃんはミネさんを救いました。ですがミネさんに打ち込まれた砂漠の砂糖までは除去できてないんですよ。だ・か・ら♡ たとえ命が助かってもミネさんはもう砂漠の砂糖無しでは生きれない可哀相な女の子になっちゃったんです♡」

 

「そ、そんな……」

 

私は力が抜けそうになりました。ミネ団長の命は助けてもミネ団長自身はもう砂糖に囚われてしまぅたのだと……これじゃ意味が無い……私は目の前が真っ暗になりました。

 

「うふふ……ご安心くださいな。ミネさんは私が責任をもって砂漠の砂糖漬けにしてアビドスで飼いますから。ハナエちゃんと幸せに暮らせてあげますよ♡」

 

「でもでも♡それだと一人セリナちゃんが残されてしまいますね。一人ぼっちの可哀相なセリナちゃん♡でも安心して♡あなたも砂漠の砂糖に目覚めれば三人仲良くずっと暮らせますよ♡うふふふ……」

 

「ひぃいっヤダヤダ嫌だぁ!!!砂漠の砂糖なんて要らないっ、あんな、あんな人間を破壊する悪魔の砂糖なんて絶対に要らないっ!!」

 

私は必死に抵抗します。しかし、浦和ハナコはそんな私を許そうとはしません。

 

「駄目ですよ。我儘言ったら。もうお話は終わりですね。ハナエちゃん、セリナちゃんにもお砂糖お注射してあげてくださいな♪」

 

そう言うとハナエちゃんがゆっくりと私に近づいてきます。

 

「やめて!やめてよっ!!ハナエちゃん!ハナエちゃん!!お願いっ!!目を覚ましてよぉっ!!」

 

私は何度も何度もハナエちゃんへ呼びかけます。今のハナエちゃんは操られているだけ。きっと、きっと彼女の身体の奥底には本当のハナエちゃんが眠らされているんだと。私はその奥底のハナエちゃんへと呼びかけ続けます。

 

床に横たわるミネ団長を無造作にまるでカーペットか何かの様に踏みつけながらこちらに近づいてくるハナエちゃん。ついには私のすぐ目の前まで来ました。

 

「……………」

 

ハナエちゃんのどす黒い底なし沼のような瞳が私の眼前に来ます。まるですいこまれそうなその瞳に視線を奪われてると

 

ニチャァアアア……

 

またあの不気味や笑みを浮かべ、ハナエちゃんは私の頭を、前髪を乱暴に掴みました。

 

「止めてっ…痛いっ痛いよハナエちゃん……」

 

前髪をまるで引き千切るんじゃないのかと思うくらい強く掴まれ頭を左右に揺さぶられます。

 

ブチブチブチ……と揺れる視界と共に私の髪の毛が千切れて抜けて行く音が頭に響きます。

 

「ハナエちゃん……お願い止めてよぉ、痛いよぉ……」

 

泣きながら訴えますが反応がありません。何度か左右に頭を揺すられた後、思いっ切り右肩へ頭を押し付けられました。首が折れそうでとても痛みます。

 

「ひいっ!?」

 

ハナエちゃんの人差し指がゆっくりと私の首筋を撫でてていきます。その指の動きに私は心当たりがありました。

 

(血管を探してるの!?)

 

やがて一か所で指が止まるとそこを強く押し込まれます。目印の跡をつけてるようにです。彼女の爪が皮膚にめり込み痛みが走ります。

 

ニチャァアアア……

 

もう一度はなえちゃんが嗤うとゆっくりと本当にゆっくりとあの注射器が私の視界へ入ってきました。

 

「やだっ!!やだっやだっやだっ!!ハナエちゃん!ハナエちゃん!!お願いっ止めてっ!!注射はやめてよっ!!目を覚まして!!お願い!!ハナエちゃん!!!」

 

「あはははははは、もう諦めなさい鷲見セリナ。あなたはもうおしまいなのよ。大丈夫怖くないですよ。チクッとしてふわっとしたらもう後は天国ですから。三人でアビドスで幸せに暮らしましょう♡」

 

「ハナエちゃん!!!ハナエちゃん!!おねがいっ!!おねがいだからっ!!あううっ!!」

 

チクリと首に針先が触れる感触がしました。

 

(もう……だめだ……)

 

絶望に支配されて、私は抵抗するのも騒ぐのもやめてしまいました。静かに目を閉じて……チクチクと刺激をしてくる針が、注射器が、私の皮膚を突き破り血管に入り、あの砂漠の砂糖を流し込まれるのをただ待つだけとなりました。

 

(ごめんなさい………わたしはもう……)

 

恐怖と疲労感からもう意識を投げ出してしまおうとしてゆっくりと深淵へ沈んでいく私の意識。

 

 

 

その時微かに「伏せろっ!!」と声が聞こえた気がしました。

 

 

 

ドッッッッカカカカカァアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!

 

 

 

突然激しい衝撃と爆音に襲われて、私の身体はまるで木の葉の様に宙を舞いました。両手足を縛っていたホースも前髪を掴んでいたハナエちゃんの手も離れて、私は宙を暫く舞った後、激しく床へと叩きつけられました。

 

二度三度四度……もう数えるのも嫌なくらい叩きつけられ転がっていきました。やがて何かに当たり止まると大量の粉塵を細かい小さな瓦礫が降り注いできました。

 

 

(…………)

 

どのくらい時間がたったのでしょうか。爆発の轟音と降り注ぐ瓦礫の音が止むとボロボロの床を伝って何か戦車が近づいて来る音が聞こえてきます。それと人の歩く音と気配も……

 

 

「けほっ、けほっ、けほっ……。ちょっとヒフミぃ!!何やってんのよ。何本気で6ポンド砲撃ち込んでるのよ、それも水平射撃するなんて!!」

 

『だっ、だって、アズサちゃんが大丈夫って……』

 

「だいじょうぶだ。炸薬は25%まで減らしてるから問題ない」

 

「何が"炸薬は25%まで減らしてるから問題ない"、なのよっ!!どう見ても大問題でしょ!?講堂吹き飛んでるじゃないっ!!!」

 

ワイワイガヤガヤと声がして粉塵の煙の向こうから一台の戦車と二人の生徒さんが現れました。

 

「はぁーっ、とにかく無事で良かったわ。大丈夫セリナ?」

 

私の元へやって来たのは下江コハルさん。

 

「もう大丈夫。あとは私達に任せて……」

 

その後ろには白洲アズサさんが……。

 

「ハナコちゃん、お願いですっ!!もうこんな事やめてくださいっ!!!」

 

戦車から飛び降りて来た不思議な意匠のぬいぐるみ……たしかペロロ様と呼ばれるペンギン(?)のような生き物のリュックを背負った生徒、阿慈谷ヒフミさんが悲痛な声を上げます。

 

「ごめんね、セリナ。うちのバカハナコが救護騎士団に迷惑かけたみたいで……」

 

すまなそうに謝るコハルさんが私の前に庇うように立ちます。

 

「セリナ。早くミネを連れてここから逃げるんだ。もうこれ以上はセリナたちは関わらなくて良い。ここから先は私達の問題だから……」

 

同じく私の前、コハルさんの横に立ち銃を構えるアズサさん。

 

 

 

「コハルちゃん……アズサちゃん……ヒフミちゃん………」

 

 

その三人を前に浦和ハナコは酷く動揺していて……表情が悲しみと苦しみでグチャグチャになっていて、ついさきほどまで私達を蹂躙していた魔女の面影は全く無くなっていました。

 

「ハナコ……ちゃん……」

 

ヒフミさんが一歩踏み出します。ジャリッと音が響いて。

 

「ひぃっ!?駄目ッ…お願いっ!!それ以上近寄らないでっヒフミちゃん!!!」

 

浦和ハナコが悲痛な叫び声をあげ……。

 

「あっ!!!」

 

咄嗟にホースを伸ばして何かを勢いよく引き摺ってきました。

 

「ハナエちゃん!?ハナエちゃん!!ハナエちゃんっ!!!」

 

ヘイローが消え気を失っているハナエちゃんを捉えたホースが浦和ハナコ前へやってきます。彼女は意識のないハナエちゃんの後ろに隠れるようにして楯のように構えてハナエちゃん越しに銃を構えます。

 

「ハナコッ!!!あんた何考えてるのよっ!!あんた自分が今やってるのか分かってるのっ!?」

 

コハルさんの怒声が飛びます。

 

「やめてっ!!ハナエちゃんを返してっ!!ハナエちゃんをかえしてよっ!!」

 

私はハナエちゃんを取り返そうと必死に前に出ようとして後ろからヒフミさんに羽交い絞めにされます。

 

「駄目っ駄目です!!前に出ちゃだめですよセリナちゃんっっ!!」

 

「離してっ!!離してよっヒフミさん!!ハナエちゃんがっ!!ハナエちゃんがっ!!」

 

「セリナッ!!早くミネと離脱をするんだ。ハナエは大丈夫。私達が必ず救う。だから今はミネとともに撤退してくれっ」

 

アズサさんから悲痛な叫びが私へ届きます。

 

「アズサちゃん……どいてください。私はハナエちゃんもミネさんもセリナちゃんも失うわけにはいかないんです。必ず3人を奪い連れて帰らないといけないんですよっ」

 

浦和ハナコが震える声で叫びます。その瞳に邪悪な光は無く、うっすらと涙すら溜まっていました。銃は小刻みに震え、まともに撃てるのかさえ分からないくらいに。

 

「どかない。私は、私達は絶対にハナコを止める。それが同じ補習授業部としての使命だから……」

 

アズサさんが銃を構えたままゆっくりと前へ出ます。

 

「……アズサちゃん、動かないでください!!!皆さんもです!!い、良いですか……もしもそれ以上動けば…動けば……ううっ……こ、この子のっ!!ハナエちゃんのっ!!首を捩じ切っって、彼女を殺しますよっ!!!」

 

浦和ハナコがもう一本ホースを呼び出すとぐったりと頭を下げているハナエちゃんの首に巻き付き引っ張ります。カクンとハナエちゃんのかおが起き上がり正面を向き、さらに引っ張られ斜め後ろに傾きます。その顔には無数の涙の痕がありました。

 

「ハナコッ!!」

 

「アンタ何ふざけてんのよ!!いい加減にしなさいっ!!バカハナコっ!!」

 

「やめてっ!!ハナコちゃん!!!」

 

「ハナエちゃんっ!!いやぁああああハナエちゃんを殺さないでよっ!!」

 

補習授業部の人達の怒声が響き、私が三人を振り切ってハナエちゃんを助けようと飛び出しかけたその時でした。

 

 

 

 

『はぁ~い、みんなぁ~そこまでだよぉ~』

 

 

 

 

 

緊迫して一触即発状態の場には不釣り合いなのんびりとした声が響き、ミレニアムサイエンススクールのロゴが入った一台の大型通信ドローンが飛び込んできました。

 

 

その大型通信ドローンは私達の周りを数周ぐるぐると周ると、私達の丁度中心部辺りで止まり空中でホバリングしながら通信用立体ホログラムを描き始まます。

そこには一人の桜色の髪に左右の瞳の色が違うオッドアイの女の子が気だるげな感じで佇んで居ました。

 

「ホシノ……さん?」

 

浦和ハナコが驚いたように呟きます。

 

『ハナコちゃん、任務ご苦労様。もう作戦無事完了したから戻って来て良いよ~』

 

「まってください!!まだ、まだ終わってません。あと、あともう少しなんです!!」

 

まるで懇願するかのようにホシノさんに縋る浦和ハナコ。その姿に二人の力の上下関係がわかる気がします。

 

『もう十分だよ。時間切れだから早く戻っておいで。ハナコちゃん達以外のトニリティの子、もうみんなアビドス行き最終列車に乗ったよ』

 

「ですが、まだ、まだお約束を果たせてません!!救護騎士団を完全に潰し、蒼森ミネら3人達を砂糖漬けにして連れて帰る約束がっまだですっ!!」

 

『もう良いよ。そこに居る………ええっと、ハナエちゃんだっけ?その子一人だけでも十分大手柄だよ。ハナコちゃんが頑張ったおかげでトリニティは壊滅状態。当分は休校になると思うからそれで良いよ。おじさんなんて意気揚々とミレニアムへ乗り込んだらコテンパンにされて尻尾撒いて逃げたんだよ?セミナー潰すどころかユウカちゃん奪い返されちゃったし……。結局自力脱出したハレちゃんだけだよ。ゲットできたのは。だからさそんなダメダメおじさんに比べたらハナコちゃんは十分戦果を挙げたよ、ヒナちゃんも喜んでたよ………』

 

「まだですっ!!まだ足りません。お願いです。時間をっ……最後のチャンスをくださいっホシノさんっ!!!」

 

『はぁーっ、ハッキリ言わないと分からないかなぁ~?ハナコちゃん傷つけたくなかったんだけどなぁ~……。仕方ないや。ハナコちゃんハッキリ言うよ。もうキミ無理でしょう?これ以上闘えないでしょう?おじさんには丸見えだよ』

 

「そんなことありませんっ!!まだっまだ戦えますっ!!!」

 

『嘘は良くないなぁ~。そこの補習授業部の皆、全然ダメージ入ってないじゃん。ハナコちゃん二度も戦ったんだよね合計一時間くらいかな?それなのにどうして3人とも無傷でピンピンしてるのかぁ~』

 

「そ、それは……」

 

『それからもう一つ。――私の知ってる浦和ハナコと言う少女は意識を失い動けなくなった生徒を人質に取って楯として使う肉壁戦闘なんて卑怯な戦い方絶対にしない。ましては人質の子の首に手を掛けて"近づいたら人質を殺すぞ"なんて脅し絶対にしない。私が認めないし許さない。ねぇ、貴方は本当に浦和ハナコちゃんなの?実は偽物だったりしない?』

 

それまでのほほんとした表情で喋っていたホシノさんが目を細め、声のトーンを落として喋り始めました。その瞬間ホログラム越しに凄まじい殺気と圧力を感じ、思わす腰が抜けてしまいへたり込んでしまいました。他の皆さんも同様にホシノさんの殺気と圧力に圧倒されて動けなくなっているようです。

 

『この際言っておくよ。今"ソレ"を止めれば今回は見逃す。けど今後そんな手段使ったら私は許さないから。例え砂糖で人格と心を破壊して廃人にしようとも、アビドスに逆らい、アビドスと私達に危害を加えようと命奪おうとする相手であっても、その相手が同じ生徒なら命を取るのだけは絶対に認めないし許さないからね。わかった?ハナコちゃん??』

 

ホログラム越しにショットガンを構えて突き付けるホシノさん。怖ろしい殺気と圧力がさらに一段と強まります。

 

「はい……わかりました。大変申し訳ございませんでしたホシノさん」

 

項垂れた浦和ハナコ。ハナエちゃんの首を引き千切ろうとしていたホースをゆっくりと離していきます。

 

『うんうん、分かってくれてよかったよ。ごめんね、何だかハナコちゃんイジメたみたいで。もうおじさん怒ってないから安心して良いよ』

 

「ありがとうございます……ホシノ……さん」

 

『じゃあお話も済んだし帰ろうよ。早く帰らないと怖い怖いミレニアムの子達がやって来るよ。ハレちゃんからの情報でね、おじさんがヘマしたせいでミレニアムは一足早くに体制立て直して落ち着いたみたいでさ、トリニティに救援部隊を送ったそうだよ。ほぼ無傷の治安維持部隊におじさんが手も足も出せなくてに一方的に袋叩きにされた怖い怖いC&Cのオマケ付きでね。ホント何なんだよあの子達~、おまけにトキちゃんなんてロボットと合体するし……いつからキヴォトスはマンガやアニメの世界になったんだろうね~』

 

「…………」

 

『さてさて、そんな怖い怖いミレニアム特盛セットにハナコちゃんは勝てるかな?おじさんが全く勝てないのに……袂を分かち、心置きなく叩けるはずの補習授業部の子達すら倒せないハナコちゃん、何秒持つかな?……………ごめん、ごめん。言い過ぎたよ。だからハナコちゃん、お願いだから早く戻ってきて。おじさん、ハナコちゃんとの次の再会が刑務所の面会室の強化ガラス越しとか、死体袋の覗き窓越しなんて絶対に嫌だからね。ちゃんと生きて五体満足でアビドスで再会しよう。抱き合って喜びあってスイーツパラダイスで凱旋パーティしようよ。シズコちゃん達も無事合流できるみたいだし百夜堂の餡蜜フルコースも追加だよっ』

 

「……わかりました。浦和ハナコ、アビドスへ帰投します」

 

『うんうん、了解。じゃあ今からだと最終列車には間に合わないから、この間の打ち合わせで言っていた緊急事態発生時の脱出ポイント、そこへRABBIT小隊のヘリを急行させるから、そこまで頑張って走ってね。じゃあ待ってるから』

 

浦和ハナコと打ち合わせしていたホシノさんがクルリとこちらを向きます。

 

『……という事で。ハナコちゃんはおじさんちに帰るから。補習授業部のみんなと……ええっと君は救護騎士団の子かな?初めまして~。君たちにはハナコちゃんが散々散らかしちゃったトリニティの後片付けを頼むね~。ああ、そうそう、君たちも心変わりしてお砂糖欲しくなったらいつでもおいで。おじさんお砂糖たくさん用意して待ってるから。それじゃあ、またね~~~ばいばい~~~。3,2,1、……ドンッ♪』

 

ホログラムのホシノさんが笑顔で手を振りながら別れの挨拶をしたと思ったら早口でカウントダウンをして最後にドンと言った瞬間。突然大型の通信ドローンが眩い光を放ちます。

 

私達はその光の濁流と少し遅れて身体に襲い掛かってきた激しい電撃と衝撃により一瞬で視界と意識を刈り取られてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが私の身体をゆっくりと揺らしていて、私は少し意識を取り戻しました。

 

「あっ!!気が付いた?よかったぁ~…。リーダーっ!!このピンク髪の子、目を覚ましたよっ!!」

 

目の前には大きなお胸のメイド服を着た女の子が見えます。私はこの人に抱きかかえられてるようでした。

 

視線を向ければ、リーダーと呼ばれた、小柄でメイド服を着てその上に派手なジャンバーを着た、正実のツルギ先輩みたいな鋭い目つきをした子がこちらに振り向きます。

 

「わかった、アタシはこいつらからもう少し事情聴取してっから、アスナはそいつをさっさとヘリに積んで来い」

 

「了解~」

 

そう言うとメイドさん……アスナさんと言う方は私を抱きかかえたまま歩いて行きます。焼け落ちた廃講堂を出ると大勢のミレニアムサイエンススクールの制服の子達が居ます。

 

「あ、あの……アスナ…さん?」

 

「あれ?自己紹介したっけ?ああ、さっきのリーダーとの会話聞いていたんだね。私は一之瀬アスナ、ミレニアムサイエンススクールでC&Cって言う"お掃除屋さん"のエージェントしてるのっ、よろしくねっ」

 

この人が……この人たちが、あの浦和ハナコのボスのホシノさんが勝てなかった人達……。そんな凄い強い人達が来てくれた、本当に助けに来てくれたんだ。そう思うと安心感が広がっていきます。もう大丈夫だと……。

 

「わ、私は鷲見セリナと言います。……あのアスナさん、ミネ団長は……救護騎士団団長の蒼森ミネは無事ですか……?」

 

私の気になった事。それはミネ団長の事でした。治療は成功したもののその後激しい爆風に晒されてしまい見失ってしまいました。ミネ団長は……。

 

「蒼森……ミネ……?……ああっ!あの救護のカッコイイおねーさんでしょ?セリナちゃんと同じ腕章のマークつけた。大丈夫だよっ!その人なら別動班の子達が回収したから。もう既にヘリに乗ってるんじゃないかな?もちろん命に別状はないよ。何だかしっかりと適正な医療措置が既にしてあったって、うちの救護部の子達が感心してたよっ」

 

「そうですか……よかった……本当に良かった……」

 

ミネ団長は無事。それを聞いて一安心したところで強烈な睡魔に襲われ始めました。

 

「あれ?あれれ~?お~い、セリナちゃ~ん?」

 

アスナさんが私に呼びかけて来ます。

 

「すみません……アスナさん……私……もう眠くなって……」

 

「了解~。じゃあこのまま救護ヘリまでお届けするから、セリナちゃんは安心して寝てて良いよっ」

 

「はい……すみません……ありがとうございます……アスナ……さん」

 

段々重くなりゆっくりと閉じて行く瞼。周りの音が段々と遠く小さくなってきました。

 

「おやすみなさい……よく頑張ったね……小さくて可愛い勇者さんっ……」

 

アスナさんが何か言ってるような気がしましたが、もう私には答える気力は残ってません出した。

 

瞼が落ちて意識が闇に沈む瞬間、大きなヘリの音と回転してるローターの羽がうっすら見えた所で私の記憶は終わりました。

 

 

 

 

 

学園を破壊尽くされ、ハナエちゃんを始め多くの物を奪われたこの戦いは私達の完全敗北で幕を閉じました。

 

でもこれは、のちの大きな戦争のきっかけになる始まりの事件になるとはこの時は、全く思ってませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

(終わり)

 

 

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