砂糖堕ちハナエちゃんのお話   作:砂糖堕ちハナエちゃんの人

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第五話「砂蛇様」その2「ヘリの機上にて② / ミレニアムへ落ち延びて」」

 

 

セ…リ…ナ……せん……ぱ……い……。

 

 

 

 

誰かに呼ばれたような気がして沈んでいた意識を浮上させてゆっくりと目を開けると、そこはヘリの中でした。

 

「あっ!セリナちゃん目が覚めた~?おはよ~~!」

 

見上げれば、メイド服に包まれた大きな胸とその向こうにアスナさんの顔が覗いてます。私は毛布に包まれてアスナさんの膝を枕にして寝ていたようです。

 

「お、おはようございます…アスナさん……すみません…私……」

 

アスナさんに迷惑を掛けているのではと慌てて起きようとするのを「気にしないで私は大丈夫だよ。セリナちゃんはまだ無理しちゃだめだよ」と手で制して私は再び膝の上に頭を乗せました。

身体の下にも毛布が二重に敷いているようで硬いヘリの座席から伝わる冷気と振動が和らいでいます。

アスナさんから渡されたアルミパウチのゼリー飲料を両手で持って啜っていると「セリナちゃん、何だかラッコみたいで可愛いね」と頭を撫でてくださり何だかとてもくすぐったかったです。

 

 

 

暫くしてヘリのエンジン音が少し変化しはじめました。アスナさんに聞くと「そろそろ到着みたいだよ」と言われたので優しく背中を支えて貰いながら起き上がりました。

窓の外にはトリニティとは違った近未来的な高層建築が立ち並ぶ風景が広がり、ミレニアム自治区に来たんだなと実感が湧きました。

 

 

「セリナちゃん、大丈夫?無理はしないでね?」

 

「だっ、大丈夫ですっ……わっ!わわっ…!?」

 

「ほら、無理しない」

 

「す、すみません……」

 

ヘリがミレニアムサイエンススクールの一番大きいグラウンドへと降り立ちました。私をお姫様抱っこで下ろそうとしたアスナさんに丁重にお断りを入れて自分でタラップを降りようとしたのですが、よろめいてバランスを崩してしまい、私の方を振り向いたアスナさんに正面から抱き着くような格好になってしまいました。

そのままゆっくりと地面に降ろしてもらうと私の手を繋いでエスコートするように歩き始めます。周りにはミレニアムの学章(マーク)の入ったヘリが何機も止まっていて続々と人が降りていました。

 

「あっ!」

 

私の乗っていたヘリの隣に降り立ったヘリからはミレニアムの医療部門の子達とともに三台の医療用ストレッチャーが運び出されていて、そこに寝かされていた3人の生徒の姿が目に入りました。

 

「ミカ様!?……それにナギサ様にセイア様まで……」

 

トリニティのトップであるティーパーティ。そのホストである3人全員が意識を失い、急患として運び込まれていました。学園を司るトップ3人全員の喪失に私達の学園はこれからどうなるのか不安が溢れて来ます。

 

「すみません~~!!道を開けてください~~っ!!緊急最優先の重篤患者が通ります~~っ!!」

 

その時、焦りを浮かべた表情で声を上げて人の波を掻き分けて走るように医療部門の子達が引っ張っているストレッチャーが私達に近づき目の前を通り過ぎようとしました。素肌が見えないくらい厳重に巻かれた包帯に血が何か所も滲み、点滴のパックや人工呼吸器など生命維持装置が何台も備え付けられた物々しいストレッチャーに横たわる瀕死の患者さん。その包帯から見える血と泥で汚れた見覚えのある美しい空色の髪が視界に入った瞬間、私はアスナさんの手を振り払い駆け出していました。

 

「ミ、ミネ団長っ!ミネ団長ぉぉぉぉぉおおお!!」

 

見間違えるはずはない。その人はミネ団長でした。走って追い付くとストレッチャーに縋りつくようにして走りながら寄り添います。

 

「団長っ!!団長っ!!ミネ団長っっ!!」

 

昨晩の薄暗い月明りの下で極限状態の中で診た時とは違い眩い朝日の照らす青空の下のミネ団長は私の想像以上に痛めつけられ深い傷を多数おっていて、生きているのが不思議なくらいの状態でした。備え付けられた生命維持装置のモニターの数値はギリギリ危篤状態から外れているもののかなり危険な状態だと伝えてました。

 

「ミネ団長っ!!死なないでっ!!目を開けてっ!!私を呼んでくださいよっ!!ミネ団長ぉっ!!」

 

「あなた何やってるんですか!?この患者さんは大変危険な状態なんですよ!これから緊急の手術も控えているんです!邪魔しないでください!すぐに離れてくださいっ!!」

 

私はミネ団長のストレッチャーにしがみ付こうとしますが、ミレニアムの医療部門の子に遮られてしまいます。

 

「こら、邪魔しないの」

 

「あ、アスナさん……」

 

さらに後ろからアスナさんに抱きかかえられるようにしてミネ団長のストレッチャーから引き離されてしまいました。

 

「大丈夫、セリナちゃんがしっかり応急処置してくれたから大丈夫、ミネさんは必ず助かる。だから、あとは私達(ミレニアム)に任せて……ねっ?」

 

「………はい。お騒がせしました……」

 

私とアスナさんを交互に見た後ミレニアムの医療部門の子達は再びストレッチャーを押して駆けて行きその後ろ姿が建物の中へ消えて行くのを私達は見送りました。

 

 

 

「……セリナさん!?セリナさぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

すると後ろから私を呼ぶ声が聞こえたので振り返ると、人混みを掻き分けてこちらへ走って来る一人の生徒さんが目に入りました。

 

「……セ…ナ…さん?」

 

その人はゲヘナ学園の3年生で救急医学部の部長を務めてる氷室セナさんでした。セナさんは涙を浮かべながら駆け寄ると私に強く抱きついてきました。

 

「セリナさん!!セリナさん!!生きてるっ!生きてるっ……死体じゃないっ!!生きてる本物の鷲見セリナさんだっ!!」

 

普段の落ち着いて冷静沈着な雰囲気はどこにもなく、私よりも少し背が低いせいもあってセナさんが離れていた母親に駆け寄る幼い子供のように見えてしまいます。

 

「良かった……セリナさんがご無事でよかった……。ゲヘナから脱出したミレニアムの救助ヘリの中でトリニティが壊滅したと――救護騎士団は全滅だと聞かされ……破壊され焼けて崩れ落ちた救護騎士団の施設の空撮映像を見せられた時は……セリナさんの死体を検死する作業をする事をも覚悟していました。だから…生きているあなたを見つけられてよかった。セリナさんの死体を見なくて良かった…です」

 

私の胸に顔を埋めて泣き崩れるセナさんを落ち着かせようとして彼女背中に腕をまわしかけて気が付きました。セナさんの救急医学部の制服があちこち焼け焦げてボロボロで布地の破れた部分から見える素肌には止血パッドが何枚も貼られている事。彼女からは焼け焦げた匂いと土埃と汗と血に匂いがしていた事でした。それとセナさん以外に救急医学部の生徒さんの姿が見えない事にも……。

 

「あの…セナさんの救急医学部は……?ほかの部員の皆さんは……?」

 

「………救急医学部は…昨晩……私一人残して……全滅しました。皆、あの砂漠の砂糖に犯され、残った砂糖未摂取の無事な部員達も…反乱武装蜂起した空崎ヒナ風紀委員長とその一派にやられてしまいました……マコト議長と万魔殿の人達とともに私を庇って……」

 

「そんな……」

 

 

"セナ部長っ!!お逃げくださいっ!!" "ここは私達が食い止めます!!いまのうちに万魔殿のセーフハウスまでお逃げくださいっ!!"

 

"部長さえ生き残れば、救急医学部は必ずまた復活できます。生きて…私達の分まで生き延びてください!!"

 

 

"トリニティは陥落しゲヘナももう終わりだ。ここは我々万魔殿が引き受けよう。セナ、お前はこの秘密地下通路から逃げろ。救援要請を出したからミレニアムからの救助部隊が来てくれるはずだ。そのままミレニアムまで逃げ果せるんだ"

 

"空崎ヒナはお前を探し執拗に狙っている。何か重要な訳が――、このゲヘナすべてと釣り合うくらいの価値がお前にあるようだ"

 

"つまり、お前を無事逃がせば奴の勝利条件を潰しその顔に泥を塗ることが出来る"

 

"キキキ…砂漠の砂糖に溺れ、毒物をばら撒き学園と自治区のすべて手中に収めたと盲信し、ゲヘナの皇帝気取りの驕りたかぶってるアイツの顔(メンツ)を潰せるならこの羽沼マコト、喜んで命賭けようではないか!"

 

"私はイブキを護ってやることが出来なかった……せめて、お前だけでも護らせてくれ……頼む……氷室セナ……"

 

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

まさかセナさんの救急医学部も私達の救護騎士団と同じ道をたどってしまったなんて……。

 

「しかしセリナさん達が無事だと聞いて安心しました。まだ、私達は負けていない。必ず挽回できるはずだと思いました」

 

顔を上げるセナさん。まだ涙は残っているもののその瞳には強い意志の光が灯っていました。

 

「でも……ミネ団長が………」

 

「ミネ団長の容態と状況は先程ミレニアムの医療部門の方たちから聞きました。諦めてはいけません、私達で力を合わせて救護すれば必ず助かります」

 

「………」

 

「それにミレニアムの医療技術は私達よりも数段上でかなり先を行っています。砂漠の砂糖についても解析研究が進み、すでに特効薬の開発にも着手できてるとか……私も色々学ばせてもらおうと思っています」

 

「セナさん……」

 

「セリナさん、必ずミネ団長をお救いし、あの悪魔の砂糖に必ず打ち勝ちましょう!!私もお手伝いします。一緒に頑張りましょう!!」

 

「はい!セナさん!よろしくお願いいたします」

 

私とセナさんは熱い握手を交わします。

少し前、ヘリの中でアスナさんから教えて貰ったことがあります。それは連邦生徒会がトリニティとゲヘナの無期限休校を発表した事、生き残った両校生徒で希望者はミレニアムサイエンススクールへ一時編入出来る事を。

セナさんはミレニアムサイエンススクールへの一時編入を希望して医療救護について学ぶそうです。私もご一緒させてくださいとお願いしてたら快諾してくださいました。

私もセナさんに負けないように、ミネ団長を一日も早く完治出来るように頑張る事を心に誓うのでした。

 

 

「………ところで、セリナさん」

 

「はい、セナさんどうされましたか?」

 

先程から誰かを探すようにきょろきょろと辺りを見渡し続けているセナさんが気になって声をかけようとしたらセナさんの方から声がかかりました。

 

 

 

 

「朝顔ハナエさんはどちらにいらっしゃるのですか?」

 

 

 

 

ああ、ああああああ………。

 

 

私は大切な事を忘れてました。

 

 

「――っ!?セリナさん!?どうされました!?セリナさん!?」

 

 

どうして、忘れていたのでしょう?いえ、きっとワザと忘れていたんです。認めたくない己の過ちから――、残酷な現実から目を逸らしたかったから――。

 

 

「!?セリナちゃん!!どうしたのっ!?しっかりしてセリナちゃんっ!!」

 

身体の力が抜けて、私はまっすぐ膝から崩れ落ちました。

 

地面にぶつかる寸前でアスナさんが私を抱きしめてくれました。戸惑うセナさんの顔が見える視界がどんどん暗くなっていきます。

 

「セリナさん!!大丈夫ですか!?セリナさんしっかりしてくださいっっ!!」

 

「セリナちゃんしっかりしてっ!!誰かっ!!急いで担架かストレッチャー持って来てっ!!」

 

アスナさんとセナさんの声がどんどん遠くなり私はついに意識を手放してしまいました。

 

 

 

 

 

私は失敗しました。

 

 

私は師を完全に助ける事が出来ず、大切な後輩――ハナエちゃんを護る事が出来ず手放してしまったのでした。

 

 

 

 

 

 

ご…め…ん…ね……ハ…ナ…エ…ち…ゃ…ん………。

 

 

 

 

(つづく)

 

 

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