砂糖堕ちハナエちゃんのお話   作:砂糖堕ちハナエちゃんの人

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※アリスせんせー氏のRABBITシリーズの概念を一部お借りしております。時系列的には「RABBIT Oasis」後半舞台裏のイメージになります。
※アリスせんせー氏の世界とよく似て異なっている全く無関係な別次元並行世界になります。


第六話『戦争前夜』その3「零れ落ちたもの」

 

 

「ハナエッッ!!!」

 

ハナコ様に支えられてアビドス高校の校舎へに戻ってきた私を執務室のドアの前で不安そうに落ち着きが無さげな感じでウロウロしていたヒナ様が血相を変えて駆け寄ってきました。

 

「いったいどうしてこんな事に……ハナコッ!ハナエに何があったの!?」

 

「ハナエちゃんに頼まれて、ホースちゃんをハナエちゃんの頭に突き刺して砂糖水を流し込んだんです。ハナエちゃんが特別な能力を使うのに自分だけだと力が足りないから私の力を貸してほしいって……」

 

「ハナエッ!!あなたなんて無茶なことをっ!!早く医務室へ行って…!」

 

「ヒナ様……私は大丈夫です……それよりもホシノ様に……報告と謝罪を……」

 

「そんなの…後で良いじゃないのっ!」

 

「駄目ですっ……私のミスですから……ホシノ様に……早急に報告をしないといけないんです……お願いしますっ……ヒナ様っ」

 

「………わかったわ。でもちょっとでも具合悪くなったらすぐに連れて行くからね。ハナコも良いわね?」

 

「わかりましたヒナ様……」

 

「ええ、そうします。ハナエちゃんが嫌がっても連れて行きますからね」

 

ハナコ様に加えてヒナ様にも支えて頂き、私はホシノ様の待つ執務室のドアをくぐったのでした。

 

 

 

「ホシノ様……大変申し訳ございませんでした!!」

 

執務室に入るなり、私は全身全霊で床に顔を押し付けて土下座をしました。シロコさんとミヤコさんを見失った事は既に無線で連絡してあります。

それでも入室した時、見た事無い表情を浮かべて執務机に座っているホシノ様を見てしまった瞬間、たまらず床に頭をぶつけて何度も謝罪します。私の犯したミスではこんな謝罪程度では釣り合わないかもしれませんが、今の私に出来る事はこれだけでした。

 

「ハナエちゃん……。ハナエちゃんはよくやってくれたよ。だから顔を上げて……」

 

「ホシノ様……」

 

「まだ諦めるのは早いよ……ミヤコちゃんを信じて待とう……」

 

「はい……」

 

私は、ハナコ様に支えらてて起き上がりヒナ様に手を取って貰ってソファーに座らせてもらいます。

今はただ、ミヤコさんからの連絡を待つのみ。その時間がとても長く気が遠くなりそうになる感じがしました。

 

『ザザッ……こ…こちら……ザザッ……RABBIT1……本部……応答お願いします……』

 

その時、無線機から雑音混じりにミヤコさんの声が聞こえて来て、執務室に居た全員が私も含めて顔を上げて反応します。

 

「こちら本部!RABBIT1、状況を説明しなさい!シロコはどうしたの!?早く答えなさいミヤコッ!!」

 

無線に飛びついてマイクに叫ぶヒナ様。少しの沈黙の後、ミヤコさんからの返答がありました。

 

 

 

『……すみません。……RABBIT1、対象を補足のち交戦状態に入り……その結果武装を奪われ……対象をロストしました』

 

 

 

ドカンッ!!!!

 

 

「ホシノ、だめぇっ!!!!!」

 

「ホシノさん!やめてえぇぇぇ!!!!」

 

 

物凄い衝撃音がして大きくて重たい執務机が小柄なホシノ様の足で軽々と蹴り上げられ宙に舞い、ヒナ様とハナコ様の悲鳴と絶叫が響きます。

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ~~~~~!!!!!!!!!!」

 

 

そして怒り狂ったホシノ様は獣のような咆哮を上げ、愛銃のショットガンを弾が無くなるまで乱射し続けました。

 

 

 

 

 

 

 

バキィッ!!!!

 

 

骨と肉を撃ちつける鈍い打撃音がホシノ様の銃の乱射で荒れ果てた執務室に響きます。ヒナ様が愛銃の重機関銃を振りかぶりミヤコさんの側頭部に命中して彼女の身体が錐もみ状態になりながら部屋の端へと飛び壁に叩きつけられます。

ヒナ様がすかさず近づくと壁にもたれて倒れてるミヤコさんの胸倉を掴んで持ち上げます。すでにヒナ様の銃撃を弾倉一つ分浴びたミヤコさんは抵抗できずされるがままです。

 

「ミヤコッ!!あなた何をしでかしたか分かっているのっ!!武器を持たない丸腰の相手に散々手こずって時間かけた挙げ句……武装を奪われ逃げられるなんてっ!」

 

「…………」

 

「手足が折れたり千切れたり急所やられて行動不能になるレベルの重傷負いその結果取り逃がすならまだしも、今のあなたはどう見てもほぼ無傷じゃないの。ハナエを見なさい!!あの子、血だらけになりながら脳を破壊する寸前まで自分の身体を痛めつけてまで必死にあなたたちを指揮して誘導したのよっ!!それなのにあなたはよりにもよってっっ!!!」

 

「…………」

 

「何がSRTとか言う連邦生徒会直属の特殊部隊養成校のエリートですって?聞いて呆れるわっ!!あなたの様な塵屑レベルが小隊長勤まるようじゃ廃校になるのも納得できるわねっ!!!」

 

「………キッ」

 

「何よその目はっ!!ああ、気に入らないっ!気に入らないわっ!!!役立たずの雌兎がっ!!ホシノに気に入られて可愛がられて飾られてるだけの木偶人形の分際でっ!!!」

 

自分の母校の事を悪く言われた怒りで睨み上げるミヤコさんの顔面に容赦なく愛銃の銃床を振り下ろして打ち付けるヒナ様。戻ってきた他のRABBIT小隊の皆さんも助けるどころか、ニヤニヤと嘲笑いながらミヤコさんが甚振られているのを見ているのみです。

 

「……もうそのくらいにしときなよヒナちゃん」

 

殴打と呻き声がしばらく続いた後、アビドスサンド・ソルトの鎮静剤を4本打ち漸く落ち着きを取り戻し倒れ込むように私に抱き着いて胸に顔を埋めたままのホシノ様が呟きます。

 

「ホシノッ!?貴女どうしてそこまでミヤコの肩を持つのよ!!この小娘にそこまでして一体どんな価値があるって言うのよ!!今だ頑なに砂糖を受け入れない!!私達に対する反抗的な態度!!こんな役立たず、さっさと砂糖漬けにして脳破壊して操り人形にでもすればいいのよ。私なら徹底的にやるわ、鬼怒川カスミのようにねっ!!!」

 

怒りの余りに一気に吠えるように捲し立てるヒナ様。そんなヒナ様にも動じずホシノ様は淡々と受け答えしていきます。

 

「ありがとうヒナちゃん……怒れないおじさんのために代わりに怒ってくれて……。でもね……ミヤコちゃんはおじさんなりに使い道が考えてあって敢えてそうしてるんだ。そこは汲んで欲しいなぁ?」

 

「だけどっ!!」

 

「………ヒナちゃん」

 

「……くっ……わかった……わ」

 

少し強めなホシノ様の言葉にヒナ様が振り上げていた愛銃をゆっくりとおろしました。

 

「ヒナちゃんありがとう……おじさんの気持ち汲んでくれて……。さて、ミヤコちゃん?」

 

ホシノ様の声にビクリッと身体を震わせるミヤコさん。

 

「今日の事については色々言いたいことがあるけど……もうおじさん精根尽き果ててね……口と頭が回らないんだ……。まぁ、とりあえず地下の懲罰房へ一晩入っててくれないかな。おじさんね、今はもうミヤコちゃんの顔も見たくないし、声も聴きたくないし、気配を感じるのも存在を意識するのも苦痛なんだ。ミヤコちゃんがおじさんと同じ空間に居るのも同じ空気吸って、ミヤコちゃんの吐き出した息が混じってる空気がおじさんの肺に入るのも嫌で耐えられないレベルなんだよ」

 

「…うっ……申し訳……ございませんでした」

 

「黙れ喋るな雌兎。今私が言った言葉が理解できなかったのか?二度も同じ事私に言わせるな。…はぁっ……ヒナちゃん……お怒りとお疲れの所悪いけどソレ、懲罰房まで持って行って……」

 

私の胸に顔を埋めたまま、ヒナ様に指示を出すホシノ様。力なく持ち上げた手でシッシッと追い払うようなジェスチャーをします。

 

「わかったわ」

 

ヒナ様が頷くとミヤコさんの髪の毛を掴んで乱暴に引っ張り上げてそのまま引き摺りながら部屋を出て行きかけたところで「ああそうだ…」とホシノ様が呼び止めます。

 

「ヒナちゃん、道中好きにして良いけど手加減はしてよね。マコトちゃんにしたような乱暴は駄目だよ。ミヤコちゃんはボクシングジムのサンドバッグでもゲームセンターのパンチングマシーンでもないからね。頑丈なゲヘナの子とは身体の造りが違うからさ、ほどほどにしときなよ」

 

「善処するわ……」

 

ホシノ様に声を掛けられて振り返らず答えるヒナ様。そのまま髪の毛を引っ張りながらミヤコさんを引き摺って退出しました。

 

「ふぅ……ちょっと心配だなぁ……。ハナコちゃん、悪いけどヒナちゃんについて行ってあげて。ヒナちゃんがミヤコちゃんを必要以上に甚振りそうだったら全力で止めてね。必要ならハナコちゃんのホース使って抑え込んだりハナエちゃんの鎮静剤も使っていいから。ハナエちゃん、まだ鎮静剤残っていたよね?」

 

「はい、あと1本ならありますが……」

 

「じゃあ、それハナコちゃんに渡してあげてね。おじさんはもう大丈夫だから」

 

「わかりました。ハナコ様、これをお持ちになってください」

 

ホシノ様に言われて、鞄の中にある残り一本のサンドソルトの鎮静剤と注射器の取り扱いにまだ慣れてないハナコ様の為にペン型の注射器を渡します。

 

「ありがとうハナエちゃん。ではホシノさん行ってきますね」

 

「うん、お願い~~~」

 

パタパタと出て行くハナコ様を見送っていきます。

 

「さて、RABBIT小隊の残りの皆ありがとう。シロコちゃんは残念だったけど、皆のおかげでノノミちゃんとアヤネちゃんとセリカちゃんは無事連れ戻す事が出来たからね。頑張ってくれた3人にはおじさんから特別の御褒美を上げよう~」

 

「やったぁあああーーー!!」

 

嬉しそうに飛び跳ねるサキさん達。

 

「今日はおじさんも草臥れたし、サキちゃん達もお疲れだと思うからご褒美の内容はまた後日教えるから楽しみにしててね。ごめんね、悪いけど今日はもう帰ってくれないかな?明日は一日フリーにしてあげるからゆっくり休んでね」

 

「「「了解!!」」」

 

どんなご褒美が貰えるのか楽しみだなとワイワイと騒ぎながらサキさん達が退出していきます。

気が付けば静まり返ったボロボロの荒れ果てた執務室には私とホシノ様だけが残りました。

 

「…………」

 

「…………」

 

私の呼吸とホシノ様の呼吸の音がやけに大きく聞こえる気がします。

 

「ホシノ様……その…申し訳ありませんでした」

 

何だか場の空気に耐えられなくなった私は何か喋ろうとして必死に頭を回して…出てきたのは謝罪の言葉でした。

 

「もうそれは良いって言ったじゃん。ハナエちゃんは本当に頑張ってくれたよ。ハナエちゃんが居なかったら……きっとおじさんは後輩みんな失っていたかもしれないからね。シロコちゃんだけで済んだのは幸いだと思う事にするよ」

 

「ですが……」

 

「うーん……じゃぁ…おじさんの優しい言葉も受け入れてくれないくらい罪悪感に苛まれてるハナエちゃんにおじさんが罰を与えよう」

 

「罰……ですか?」

 

思わず背筋が凍りそうになります。ホシノ様が私に与えてくださる懲罰とは……。

 

「うん……任務失敗してシロコちゃんを失う羽目になったハナエちゃんには………身体ボロボロの医務室行きのハナエちゃんにはおもーいおもーいおじさんを背負ってとおーいとおーいおじさんのお部屋までおんぶして運ぶ任務を与えよう」

 

「えっ……?ホシノ様をおんぶして運ぶだけですか?」

 

「うん。ほら早く早く~。ヒナちゃんとハナコちゃんが帰ってくるまでに出発しなさーい」

 

私の背中を優しくポカポカと叩くホシノ様。その寛大なご慈悲に涙がでそうになりながらもホシノ様をおんぶして私達は執務室を後にしたのでした。

 

 

 

「ここがホシノ様のお部屋…ですか」

 

ホシノ様を背負って暫く歩いたのち、私はホシノ様の道案内で寮の部屋まで来ました。

 

「はい、これ鍵ね。部屋入ってすぐ右側に部屋の灯りのスイッチがあるからね」

 

背中からホシノ様の腕が伸びて私に鍵を差し出してきます。それを受け取り解錠してドアを開けて室内に入ります。部屋の灯りが灯ると……そこには普通の学生寮の部屋が広がっていました。

 

 

「これが……ホシノ様のお部屋ですか……」

 

意外とあまりにも普通な部屋なので思わず立ち止まってしまいます。

 

「あ、今ものすごく失礼な事考えたでしょ?」

 

ホシノ様のむすっとした声が聞こえ、足で小突かれてきます。

 

「あう……すみませんホシノ様」

 

「もう~、ヒナちゃんもハナコちゃんもそしてハナエちゃんもおじさんの事なんだと思っているんだよぉ~。おじさんは神様じゃないんだよ。こう見えてもハナエちゃん達と同じ女子高校生なんだからさぁ~」

 

ぶつくさいうホシノ様をベッドサイドへ下ろします。「おじさん疲れて動けないから着替えさせて~」と言うので制服を脱がせて用意されていたパジャマに着替えさせてもらいました。

 

「ありがとう~。このままお布団で寝かせてよぉ~」

 

「かしこまりました」

 

パジャマ姿になったホシノ様を抱っこしてベットに寝かせて掛け布団を駆けると「ありがとう~」と言いながら頭まで布団をかけるホシノ様。

手が空いた私はふと部屋を見渡します。

 

 

ごく普通の高校生の一人部屋にありきたりな家具や内装。学校の教科書に戦闘教練の本や武器の本に加え机の上には砂漠の砂糖について記された複数のノートと実験器具。

ベッドの脇の壁にはセロテープで補修されたボロボロのポスターに沢山のメモ用紙に対策委員会の皆さんや先生と並んでる写真の貼られたコルクボート。

 

そして……。

 

「この人が……」

 

 

ベッド横のサイドテーブルに置かれた目覚まし時計の隣に置かれた大き目な写真立てが目に入り、思わず手に取って眺めてしまいます。

そこには今とは髪型が違う鋭い視線の向ける昔のホシノ様。

そのホシノ様の頭を優しく抱いて満面の笑みでピースサインをする見知らぬアビドス高校の制服を着た女性。

きっとこの人が……ホシノ様の……大切な人……心の拠り所にして私達でさえ踏み込めない深層心理の奥底に居る人……この人が……

 

「ユメ先輩……さん?」

 

「ハナエちゃん」

 

突然はっきりとした声が聞こえて振り返ると布団から顔を出したホシノ様が凄まじい殺気を放ちながら私を睨んでました。

 

「その写真に触るな」

 

「も…もうしわけございませんでしたっ!!!」

 

慌てて写真立てを元に戻しホシノ様に頭を下げて謝罪をします。

 

「……さっきもいったでしょ。おじさんも普通の女の子なの。……プライバシーってものがあるんだよ。あんまり触れたり見て欲しくないなぁ~」

 

「すみません……」

 

「もういいよ……ハナエちゃんおやすみ」

 

「お、おやすみなさいませ…ホシノ様」

 

再びホシノ様が頭まで布団を被ったのを見届けると謝罪の意思を込めてもう一度深く頭を下げた後、部屋から退出しようと背を向けた時でした。

 

「ひやぁああっ!?!?」

 

突然後ろから何かに腕を掴まれて後ろに引っ張られました。振り返ると布団の中からホシノ様の腕が伸びていてそのまま物凄い力でベットの中へ引きずり込まれました。

 

「ほ…ホシノ様っ!?」

 

布団の中に入るとそのままホシノ様が私に抱き着いてきます。ぐりぐりと私の胸の谷間に頭を捻じ込ませると両手両足でがっしりと私の身体を抱きしめてホールドします。

 

 

「……ごめん。やっぱり一緒に居て。おじさんのプライバシー侵害した罰だよ。このままおじさんの抱き枕になって一緒に寝て。良いね?」

 

「……わかりました」

 

「ありがとうハナエちゃん………おやすみ」

 

「はい…おやすみなさいませホシノ様」

 

左腕でホシノ様の背中を優しく摩り、右手で私の胸に埋まっているホシノ様の後頭部を撫でます。少しするとホシノ様のヘイローが消え寝息が聞こえてきました。

 

「ホシノ様……」

 

やがて…ホシノ様の寝息と心臓の鼓動に眠気を誘われて私もゆっくりと眠りの世界へと旅立っていきました。

 

意識が消える直前、あの写真立てに居たユメ先輩さんが私の前に来たような気がしました。

 

 

 

 

"ごめんねハナエちゃん。ホシノちゃんの事、どうかよろしくね"

 

 

 

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