砂糖堕ちハナエちゃんのお話   作:砂糖堕ちハナエちゃんの人

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第六話『戦争前夜』その6「Cleaning&Clearing」

 

 

 

 気が付けばカーテンの向こう側が明るくなっていた。

 

「"…………"」

 

 結局先生は一睡も出来なかった。目の前のベッドで眠る痛々しい姿のシロコを前に何もできず呆然としているだけだった。

 

"どうして…なぜ…何が…"

 

 ひたすら答えのない同じ考えの繰り返し、ひたすら自分を責め、悔やむ。時間ばかりが無駄に過ぎていた。

 

"私が居ない間に何かが起きた……?"

 

 シャーレの医務室でシロコを怪我の応急処置をした。しかし、シロコの負った怪我はシャーレの設備では完全には対処できなかった。"至急D.U地区内の救急病院へ搬送せよ"と診断機に表示に従い連絡を取ってみたが、シロコがアビドス出身のアビドス高校の生徒だと分かると病院側の態度が急変した。

 

 

『あ、アビドスっ!?……(ガチャッ、ツーツーツー)』

 

『申し訳ありません。当病院はアビドス人の搬送はお断りしているんです』

 

『アビドス高校………あーすみません。実はベッドが空いてないので受け入れられません』

 

『アビドスっ!?………しばらくお待ちいただけますか…(保留音が流れる)…もしもし、すみません。今担当医が居ないので救急患者は受け入れられないんです』

 

『(自動音声)おかけになった電話番号はお客様の都合によりお繋ぎすることが出来ません』

 

『ツーツーツー(話し中)』

 

 

 

"シロコがアビドス高校の生徒と判った途端に態度が急変する……?"

 

 電話では埒が明かないと直接病院を訪ね歩いてみるがどこも同じように断られるばかり。

 

"アビドス高校に対して畏怖感と嫌悪感を抱いてる……何故?"

 

 何故シロコがアビドス高校の生徒と言うだけで断るのか理由を聞いても言葉を濁し、酷く怯えた態度で追い払われてしまう。

 数件病院を周り、ようやく見つけたのは夜間急病当番医の個人開業医の小さな病院。

 その病院の院長と名乗る少し胡散臭い医師に遠回しに要求された6桁の数字が書かれた小切手を握らせ漸く受け入れて貰えた。

 

『うちの施設では完全な治療は無理です。紹介状を書きますので朝になったら改めて総合病院の方へ行ってみてください。大丈夫です、紹介状があれば入れて貰えるように手心を加えておきますので』

 

"特別製"だと言う紹介状を書くのに必要だと迫られ、さらにもう一枚同額の小切手を渡す事になった。

 

 

"でもこれでシロコを助ける事が出来る……"

 

 

そう安心した先生だったが……。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドド……

 

 

"………??"

 

 朝の静寂を破るような腹に響く重低音――ヘリの爆音が近づいて来る。少しずつ近づき、さらに高度も落としているようだ。どんどんと大きく近くなっていく。

 

 

"音がずっと同じ場所に居る……?この病院の真上に居るの?"

 

 

ヘリの音は遠ざかる気配はせず、ずっとすぐ真上で聞こえ続けている。まるで病院の建物の上でずっとホバリングし続けているようだ。

 

"何か嫌な予感がする"

 

 先生がそう感じ、立ち上がろうとした瞬間――。

 

 

ガッッッシャァァァァァァァァァアンンッ!!!!

 

 

 突然窓ガラスが割れ、カーテンを突き破り何かが病室へ飛び込んできた。

 

"……!?"

 

 それは重武装したメイド服の3人の少女達だった。

 

 

「やっほ~!!ご主人様っ久しぶり~」

 

「ご主人様、お久しぶりです。このような登場の仕方で驚かせてしまい申し訳ございません」

 

「よぉっ、先生。無事かぁ~?」

 

"アスナ!?アカネ!?ネル!?"

 

「あっ!カリンちゃんとトキちゃんも居るよ!あっちの建物の3階だよぉ~」

 

「おいっ!アスナ!お前なんで狙撃手の配置バラしてんだよ。意味ね―じゃねーか」

 

 彼女らはミレニアムサイエンススクールの凄腕エージェント集団Cleaning&Clearingだ。アリス達を巡るゲーム開発部での一件以来、付き合いがあり、何度も彼女らの戦闘指揮もしたことのある間柄だ。

 

「さっ、ご主人様こちらへ。危険ですので離れてください。リーダー、お願いします」

 

 先生の前に立ち、ゆっくりと数歩下がるアカネ。彼女に押されるように先生も後ろへ下がってしまう。

 

「おう。……お前が砂狼シロコだな。あたしらはお前んとこのリーダーに世話になった……いや散々煮え湯を飲まされたモンだが……悪く思うな」

 

 そう言うとネルがシロコに近づき銃を突きつける。他の二人も同じようにシロコに照準を合わせるかのように銃を構えるのであった。

 

"ま、まって!!みんな何をしているのっ!!どうしてシロコに銃を突きつけるの!?"

 

 ネル達の突然の行動に先生は混乱していた。何故C&Cの皆がシロコに銃を突きつける?どうして、まるで凶悪犯に対峙した時の様な目つき表情を浮かべている?

 シロコ達とネル達が敵対する理由がまるで見つからず先生は慌てふためく。

 

「せっ……先…生……!!」

 

「動くなっ!!……良いか、妙なことすんじゃねーぞ。おまえら砂漠の砂糖(サンドシュガー)ジャンキーは頭のネジが飛んでる分、何しでかすかわかんねーからな。アイツの同類のお前なら尚更だ」

 

「うっうぐっ……」

 

「シロコちゃん、大人しくしてれば大丈夫だからね。私達、シロコちゃんを"掃除"しに来たわけじゃないからね」

 

「砂狼シロコさん……無駄な抵抗はしないでください。我々の仲間が照準をあなたに合わせいつでも狙撃できるようにしてます。あなたがここで死ぬのは別に一向に構いませんが、ご主人様の前であなたの汚れた血を撒き散らしてご主人様を汚すわけにはいけませんからね」

 

 起き上がろうとしたシロコに思いっ切り愛銃を突きつけそのままベッドへと抑え込むネル。他の二人も鋭い眼光で構えた銃のトリガーへ指を掛ける。いつ発砲してもおかしくない状況だ。

 

 

"みんな!止めて!!シロコを撃たないでっ!!シロコは酷いケガをして満足に動けないの!今すぐにも治療が必要な状態なの!!"

 

 

「先生……普段のコイツなどんな奴かあたしらは知らねーが、今のコイツは先生の知ってるコイツとは全く違う。マトモじゃねーぞ」

 

「小鳥遊ホシノちゃんだっけ?あの子凄かったよね~。私達全然勝てなかったし、リーダーめっちゃ押されて負けそうになっててヤバかったもんね」

 

「うるせーぞアスナ。あたしは負けても無ければ押されてねー。アイツの支離滅裂な言動と行動にちょっと振り回されただけだ。次は絶対勝つ、何なら秒殺してやる」

 

 

 ネルとアスナがわいわい言い合う。先生は全く状況が掴めず混乱するばかりです。

 

"みんな待って……砂漠の砂糖(サンドシュガー)って何?ホシノと戦った?……どういう事なの???"

 

『それは私から説明しましょう』

 

「あっ!ノアちゃんからだ。えっとえっと……ホログラムオープン、スピーカー通話モードっと」

 

 アスナの持っていた通信端末から聞き覚えのある声がして、彼女が端末を取り出して操作する。すると空間に投影されたホログラム映像に一人の生徒が浮かび上がった。

 

"……ノア!?"

 

 その生徒は生塩ノア。ミレニアムサイエンススクールのセミナーの書記を務める生徒だ。

 

『先生はどうやらレッドウィンター事務局から何も聞いてないみたいですね……。はぁっ……態々沢山の資料を付けてさらに詳細のレポートを報告書に仕上げて送ったはずなんですが……まぁ良いでしょう』

 

"ノアっ!待って…レッドウィンター事務局に送った報告書とは何……今キヴォトスで何が起きてるの??"

 

『……どうやら一から説明する必要があるみたいですね。先生、お手数ですが彼女らと共にミレニアムサイエンススクールまでご足労頂けますか?』

 

"良いけど……それよりもお願い!シロコを助けてっ!!重傷を負っててすぐにでもちゃんとした治療が必要なの!!"

 

『………わかりました。シロコさんの事はお任せください。大怪我をしていると言う事でこちらの最新設備の整った医療施設へ入れましょう』

 

"ありがとうノアっ!!"

 

『お礼は結構です。私もシロコさんには用事がありますので。……それではC&Cの皆さん。シロコさんの身柄確保の上、ミレニアムまで護送お願いします。ホントは重犯罪者にする施しではないのですが……先生が居る手前仕方ありません。ベッドに寝かせたままそのままベッドごと護送をお願います。もちろん拘束用の首輪手錠足枷をお願いしますね。砂糖の禁断症状で暴れられると危険ですので』

 

「はーっ……わかった。ちゃんとやっとくよ。アカネ、頼んだ」

 

「了解ですリーダー。アスナ先輩。ご主人様の護衛お願いしますね」

 

「はーいっ、やった♪ご主人様のお隣だっ♪」

 

 そう言うとアスナとアカネが交代する。ネルが銃を突きつけたままのシロコに拘束用の装備品を持って近づくアカネ。

 

「……っ」

 

「動くなって言ってんがわかんねーのか!」

 

「……うぐっ」

 

「シロコさん。大人しくしてくださいね。ご主人様…先生に迷惑がかかるでしょう?」

 

 拘束具を見て逃げようと身を捩るシロコに容赦なく銃を押し付けるネル。抵抗を続けようとするもののアカネに釘を刺されると大人しくなった。

 シロコの首と両手首と両足首へ拘束用の道具が装着されて行く。

 

"アカネ、どうしてシロコに拘束具を付けるの?まるでシロコが犯罪者みたいじゃないの"

 

『みたいじゃない…じゃなくて犯罪者なんですよ彼女は』

 

 横からノアの鋭い声が飛ぶ。先生が見ればそこにはホログラム越しに殺気を放つノアの姿が写っていた

 

 

"犯罪者……?どういう事なの??"

 

『詳しくはこちらでお話します。先生、シロコさんは我々の保護下へ置きます。悪いようにはしません。ご安心ください。ですから今は私の指示に従ってください』

 

 

"わかった……"

 

 

 

 その後、拘束具を着け終わったシロコはC&Cのメンバーに周りをがっちり囲まれてヘリへと乗せられていった。先生は後から来た別のヘリへと登場する事になった。

 

 シロコと別れ際、彼女が何かを訴えかけて来てるような気がしたが…その内容を先生が掴む事はできなかったのであった。

 

 

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