砂糖堕ちハナエちゃんのお話 作:砂糖堕ちハナエちゃんの人
ヒーラーアリスの旅立ち(ヤク墜ち先生の人(仮)氏)
https://telegra.ph/%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%97%85%E7%AB%8B%E3%81%A1-09-20
ミネは走った。怒りと苦しみ、そして自分の無力さと不甲斐なさに身を締め付けられる衝動に突き動かされるように走っていた。
(どうしてこんな事にっっ!ハナエが何をしたと言うのですか!!)
ヒマリから見せて貰った【作戦コードMSS-TSOCC-20210204】の内容は悍ましいものであった。
確かにハナエが犯した罪は重い。例え魔女ハナコらに唆され洗脳され本人の自由意思では無いと言え、犯罪に加担したのだ。
連邦生徒会の下、法と秩序によって公平に裁かれ、最悪は矯正局へ入れられる事になってもミネは受け入れハナエが罪を償い一日でも早く復帰できるよう支えるつもりでいた。
だがこれは何だ?司法機関でも何でもない一学園一個人が圧倒的な武力を持って、法ではなく私情でハナエを裁こうとしている。
いや裁くのではない、これではただの人殺しである。一方的な虐殺行為である。
こんなことあってはならない。このような蛮行は絶対に阻止せねばならない。
(早く、こんな愚かな行為を止めさせなければッッ――!!)
固い決意に思わず目をつぶるミネ。そのためか、いつの間に廊下の曲がり角に差し掛かってる事に気づかず、角から現れた小柄な生徒に思いっきりぶつかってしまった。
「きゃあっ!?!?」
「うわあっ!?!?」
ぶつかった衝撃で後ろへ吹き飛び転がるミネ。相手の生徒は小柄な体格とは裏腹に全速力で走ってきたミネとぶつかったにも関わらず吹き飛ばされる事無くその場に留まり尻餅をつく程度であった。
「あぅぅぅぅ~~すみません!怪我は無いですか――ってし、師匠ぉっ!?!?」
「ううっ…ごめんなさい。私こそ前を見て無くて……そちらこそ怪我はありませんか――ってアリスッ!?」
お互いの正体を叫ぶ二人の声がぴったりとハモる。なんとぶつかったのは天童アリスであったのだった。アリスもまさかぶつかった相手がミネとは思わずオロオロしていたが突然何かを思い出したのか表情を変える。
「はっ!?これは噂の"曲がり角でぶつかった相手は運命の転校生"イベント発生フラグ!?もしかして、師匠が正式にミレニアムに転入して来てくれるシナリオルートですか!?うわーん!せっかくの伝説的イベントルート分岐に遭遇したのに食パンを咥えるを忘れてましたぁー!!これではせっかくのフラグが台無しですぅぅぅぅぅぅ!!」
「アリスッッ!!!」
「ひ、ひゃいっ!?」
突然大きな声を上げ、両肩をしっかりとミネに掴まれ硬直するアリス。鼻と鼻が触れるくらいにミネが顔を近づけると「はわわわ…ダメです、まだフラグ成立してないのにダメです師匠ぉ…」と赤面して慌てふためいているアリスに構わずミネは口を開く。
「お願いです!私をミレニアムのセミナーの場所へ連れて行き生塩ノア会長に会わせてくださいっっ!!」
深々と頭を下げる。勢いと衝動で飛び出したものの、ミネはセミナーの部屋の場所を正確には知らなかったのだった。
「えっ!!ええっ!?べ、べつにアリスは構いませんが……。師匠はノア先輩に何か大事な用事があるのですか?」
しろもどろするアリスにミネは告げる。悍ましい計画の事を――。
~ミレニアム・セミナー棟。大会議室~
もう夜も遅い時間にも関わらず、広い会議室にはミレニアムのセミナー所属の生徒が大勢集まっていた。
皆、興奮気味でどこか浮かれ立っているが、それには訳がある。今日はミレニアムにとって大きな、そして良いニュースが二つもあったからだ。
一つは、ミレニアムで治療中のトリニティの生徒――蒼森ミネの身体から強力な対アビドスサンドシュガー抗体が見つかり、完成度の高い治療薬及びワクチンが作れる事が判明した事。
一つは、レッドウィンターから帰国したシャーレの先生をミレニアムが一番先に接触し、アビドス勢力から保護すると言う名目でミレニアム内に連れ帰り囲い込めたこと。
キヴォトス全土を巻き込み地獄絵図と変えた今回の砂漠の砂糖事変。この事件を解決する唯一かつ強大な力を二つともミレニアムが手に入れ支配できたのだ。
これは対アビドス戦争に勝利するだけではなく、戦後のミレニアムの発言力や影響力は凄まじい物となり、もうミレニアムに逆らえる学園は無く、連邦生徒会すら支配下に置ける、それだけの力をミレニアムは手にしたのだ。
さらにシャーレの先生保護作戦時に捕獲できた砂狼シロコの存在も大きい。身内に甘くお人よしな小鳥遊ホシノを封じ込める有効な人質になるだけではく、シロコの口から明かされた"小鳥遊ホシノは砂漠の砂糖の毒性と危険性を十分認識しており大切な身内には一切与えてなかった""大切な身内を厳重に保護し中毒者から隔離し、ミレニアムから略奪した非汚染食料を専用の料理人を雇って与えている"という情報はミレニアムに強い衝撃を与えたのだ。
「小鳥遊ホシノは砂漠の砂糖を麻薬と知りつつキヴォトスに広め多くのミレニアム生徒を傷つけ苦しめたのに、自分の身内だけは砂糖を一切与えず中毒者らから守り大切に保護している」
この衝撃的なニュースにミレニアムサイエンススクール学内のアビドスに対する憎悪の炎は爆発的に膨れ上がった。
「小鳥遊ホシノを絶対に許すな」「アビドスなんて跡形も無く滅ぼせ!」「アビドスの奴らと砂糖中毒者(ジャンキー)は皆殺しにしろ」とシュプレヒコールが響き渡り、スタディ・エリアではあちらこちらでアビドス高校の学校旗や校章やホシノらの写真が焼かれ、それらの言動行為を少しでも諫めよとするなら「アビドスのスパイ」「隠れジャンキー」などとレッテルが張られ銃撃や砲撃の的にされ、夕刻には物言わぬ血濡れのてるてる坊主として街灯や街路樹に生徒が吊るされる光景が広がっていた。
結果、学校内にしつこく残っていた対アビドス穏健派は遂に一掃され、ミレニアムサイエンススクールは反アビドス強硬派へと一致団結する事となった。
このような状況下では少々羽目を外し気味とはいえ、セミナーにとって追い風が吹く状況で、すっかり皆浮かれきっていたのである。
まだ勝つどころかアビドスとの戦争すらしていないのにすでに完全勝利凱旋モードになる生徒が相次ぎ「勝ったな!風呂入って来る」「勝ったッ!第3部完!」とセミナーの仕事を放り投げ帰宅しようとする者や、対アビドス戦勝記念冊子「Vやねん!ミレニアム」を勝手に印刷発行配布する者が出てくるなど、すっかり緩み切ってしまっている始末。
そんなセミナーの生徒達を前に生塩ノアは厳しく釘をさす。こういう時程、気を引き締めないといけないと。
その時だった。セミナーの大会議室、その重厚なドアが大音響とともに爆破破壊されたのは。
ドアの破片が飛び散り土煙が充満し会議室がパニック状態になる中、ノアだけは冷静に立ち込める土煙の向こうを睨むように見据えていた。
「まったく……トリニティには入室時にドアをノックし、静かに開けると言う習慣が無いのですか?伝統と格式の淑女の学園が聞いて呆れますよ、――――蒼森ミネさん」
「それはこちらの台詞です。ミレニアムセミナー、生塩ノア会長」
少しずつ晴れてくる土煙の中からゆっくりと現れる蒼森ミネ。
「それで、ドアを破壊するほどの大事なご用件とは何でしょうか?」
「この恐ろしい計画はなんですか!!あなたがたは、いったい何を考えているのですか!!」
ミネが叫ぶと同時に横に居たアリスがタブレットを操作する。大会議室のすべてのモニターに例の計画――『作戦コードMSS-TSOCC-2021020 アビドス絶滅計画』の内容が表示され、室内がどよめきざわつき始めた。
「それを見せたのはヒマリ先輩ですね……。恩人とはいえ部外者に最高機密を簡単に晒すとは、まったく情報リテラシーはどうなっているんですか」
他のセミナー生徒に極秘計画を見られる結果になっても動じず、少し呆れるように溜息をつくノア。
「良いから答えてください!!なぜこんな残虐な事を!こんな事許されるわけないでしょう!!」
「先に一線を超えたのはアビドスです!麻薬をばら撒き多くの罪なき生徒を苦しめアビドスと言う砂地獄へと引き込み、それだけでは飽き足らず捕虜への虐待や人体実験までしてるではないですか!!」
「だからと言ってこんな非人道的なやり方で攻撃するなんて間違ってますっ!!」
「もう止めてください!!ノア先輩っっ!!」
「……アリスちゃん」
ミネの横に居たアリスが前に出てノアに声を掛ける。
「退学や逮捕ならわかります。皆さん、それほど悪い事をしてきましたから。でも、その、絶滅計画ってなんですか!?もしかして、アビドスに居る人達全員殺してしまうのですか!?そんなのダメです、それだけは絶対にしちゃいけない事です!」
「――アリスちゃん」
「アリスは知っています。これは、誰かを殺して、ひとつの学園自治区を滅ぼして解決する話じゃあありません!確かに悪い事に対する罰は大事です。でも、それはあくまで法で定められた罰を公正に執り行う事に意味があるのです!誰かを処分する。報復する。そんな事で終わる話じゃなくて、もっと長く、根気強く向き合って―――」
「いい加減にしなさいっ!!天童アリスッッ!!!」
アリスの言葉を遮るように大声を上げるノア。その表情には憎悪の炎で渦巻いている。
「さっきから聞いていれば日和見めいた綺麗ごとばかり。あなたは悔しくないのですかっ!!憎くないのですかっっ!!砂漠の砂糖はあなたの大切なゲーム開発部を破壊し、モモイちゃんミドリちゃんユズちゃんを狂わせ傷つけたのですよっっ!!まさかあの地獄を忘れたと言うのですかっっ!!!」
――荒れ果てた部室。踏み躙られ壊されたゲーム機やゲームソフトの残骸が散らばる床。
お姉ちゃん!!私の砂糖盗んだでしょっっ返してよっ!!
うるさいっ!!ミドリが私よりも多く砂糖取ったからでしょっっ!!
――互いに銃を向け撃ち合う姉妹。そこにいつもの姉妹喧嘩の空気はない。
殴ったなっ!!もうお前なんかお姉ちゃんでも何でもないっっ!!死ねぇモモイッッ
やったなぁ!?もうあんたなんか妹でも何でもないっ!!私の敵よっっ殺してやるぅっミドリィィッッーーー!!
――愛銃を投げ捨て、もみ合い殴り合う姿は、まるで理性を失った獣のようで。
だめです、モモイ、ミドリ……やめて……やめてください。ゆ、ユズ……お願いです。モモイ達を止めて――ぎゃああっ!?!?
アリスちゃん……お砂糖だして。食べても何とも無いアリスちゃんなら食べなくても平気だよね。さぁ早く出してよ持ってる砂糖全部っ――。
ユ…ユズ………。
――いつも陰ながら見守り、いざと言う時は仲裁に入る少女も瞳が曇っていて。
そーだよ。そもそもアリスちゃんがもっと砂糖出せば済む話なのよね。コイツ等ぶっ殺す手間省けるし
モモイ……?
さっきから頭の中で声が聞こえるの。アリスちゃんを倒せ、倒せば砂糖をもっとあげるって
ミ、ミドリ……?
裏切者のAL-1S(アリス)。使命を放棄しお人形(テクスチャ)遊びに耽る愚かな王女……
ユズ……?何を言って………??
――三人の少女がゆらりと動く。ゆっくりゆっくり、アリスを追い詰めていく。
出せ、出せ、出せ、砂糖出せ
しね、シネ、死ネ、砂糖置いて死ね
きえろ、キエロ、消えろ、王女擬き(ガラクタ)
やめっやめてくださいっ!モモイっミドリっユズっ!!!だめですっ!!おねがいですっ目を覚ましてぇ!!
――腐ったどす黒い廃糖蜜のような瞳が、吐き気を催すヘドロのような甘い香りが、アリスの大切な物をすべて塗りつぶし押し流していく
「…………」
俯き僅かに震えるアリス。そんなアリスの姿を見て満足げに微笑むノア。
「ふふっ、悔しいですよね?許せないですよね?さぁ、アリスちゃんも――」
「――それでもっっ!!」
「!?」
目じりに涙を浮かべながら顔を上げ声を絞り出すアリス。
「それでもっっ!!アリスはこんな事認めませんっ!!こんな事許してしまったら、もう元の平和なミレニアムには戻れないですっ!そんな変わり果てたミレニアムを目を覚ましたモモイ達に見せたくありません!きっととても悲しみ苦しむと思いますっ!!自分達を責めると思いますっ!それはきっとユウカだって――!!」
「黙りなさいっっ!!ユウカちゃんを騙らないでっっ!!あなたにユウカちゃん何がわかるのっっ!!」
ノアが激昂して叫ぶ。
「アリスちゃんならわかってくれると信じていましたが………やはりあなたは私達の敵のようですね……アリスちゃん……いえ、このキヴォトスを滅ぼす魔王、AL-1Sッッ!!」
「あ、アリスは……ちが……魔王なんかじゃ……」
力無くし崩れるようにその間にへたり込むアリスをミネはとっさに抱きしめ支える。何度呼びかけてもうわごとのように何かを呟くだけで反応は無い。
「いい加減にしなさいっっ!!ノア会長!!……あなたにはどうやら強度の高い救護を今ここで処置しなければならないようですね」
アリスの身体をそっと壁に持たれさせると、足を一歩後ろに下げ腰を落としノアを見据え身体を構える。
「救護?ああっ、ただの暴力のことですか?ほんと野蛮ですね。あの"チェンソー使いの小娘"の上司なのも納得です。」
「ハナエの事を侮辱しましたね!もう許しませんっっ!」
ミネは力を溜め、羽を羽ばたかせて高くジャンプすると、ノアへと飛び掛かる。
「救護ぉぉぉぉおおお!!!」
ノア目掛けて突進するミネ。しかし、ノアは不敵な笑みを浮かべたまま、両腕を下ろし身体を力を抜き構えすら取らずミネを見つめている。その様子にミネが何か違和感を覚えた瞬間だった。
(えっ……?)
ノアの姿がぐにゃりと歪み、身体に無数の蛇が巻き付いている姿に変わる。そして彼女の半歩後ろに控える菫色の髪をツーサイドアップした少女の姿がぼんやりと幻覚のように浮かんでいた。
(これは一体……??)
ノアの身体の異常事態と後ろに居る謎の少女に思わずミネの意識が逸れてしまう。だがそれも一瞬だった。
「駄目ですよミネさん。敵(患者)を前によそ見をするなんて」
底冷えするようなノアの声が響くと同時に腹部に衝撃と鈍い痛みが走る。
ミネの拳はノアに届かず、彼女の身体が九の時に折れ曲がる。いつの間にか愛銃を構えていたノア。彼女の銃の先がミネの腹部へと食い込んでいた。
「か、は………」
ミネの口から空気が漏れ吐き出される。
「おやすみなさい、ミネさん。ハナエちゃんは私達がしっかり"可愛がって"あげたあとに、ちゃんと貴方の居る地獄へ送り届けてあげますからね」
ノアの銃が火を噴き、ミネの意識を根こそぎ刈り取っていった。
(つづく)