砂糖堕ちハナエちゃんのお話 作:砂糖堕ちハナエちゃんの人
テレグラフ投稿版を読むことをお勧めします。
https://telegra.ph/%E7%AC%AC%E5%85%AD%E8%A9%B1%E6%88%A6%E4%BA%89%E5%89%8D%E5%A4%9C%E3%81%9D%E3%81%AE15-%E3%83%8E%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%83%A6%E3%82%A6%E3%82%AB-04-02
「ふーっ、ふーっ、ふーっ………」
肩で息押しながらゆっくりと銃を下げるノア。目の前には銃弾を浴び顔面を血に染めてのけぞった状態で動かなくなっている明星ヒマリが居た。
ヘッドレストはもちろんひざ元のカーディガンも血で染まっている。手持ちの銃弾すべて浴びせたからだ。
ぱちぱちぱちぱちぱち……
突然拍手が聞こえ、次の瞬間ノアの脳内に愛しいあの子の声が響き聞こえる。
【よくやったわ。もう十分よノア】
「【ユウカ】ちゃん♡」
少し前、生塩ノアの身体に大きな変化があった。早瀬ユウカを名乗る幻聴が聞こえるようになったのだ。
最初はユウカちゃんの幻聴が聞こえるくらい自分は壊れてしまったのかと思ったが、頭に響く幻聴(こえ)は違うと言う。
幻聴曰く早瀬ユウカの神秘の一部であり、砂糖に飲み込まれ消えゆく早瀬ユウカの人格から分離独立した存在だという。
最初は信じられなかった。しかし、頭に響くユウカの声は次々と自分とユウカの事を言い当てていく。
「幻覚は私の記憶で出来てるから答えられるのは当たり前」と言えば【じゃあ私が本物の早瀬ユウカだと言う証拠を見せてあげる】と言われ
頭に響く声の言われるままにユウカの私室に入り、暗証番号や机の引き出しの中身を次々と当てていく。
ユウカの知りたくなかった、知られたくないであろう赤裸々な事態に「もう良い!もう十分だよっやめてユウカちゃん!!」とノアはユウカの私物で溢れかえった部屋の真ん中で叫んでいた。
そして幻覚(こえ)の言われるまま、それを己の体内へと招き入れ受け入れてしまった。
それからノアの生活はがらりと変わってしまった。ノアを散々苦しめていた己の特殊能力──完全記憶能力由来の仲間たちが砂糖中毒で苦しむ姿や声がピタリと止んだのだ。
それだけではない、身体の疲れがすべて吹き飛び、力が無限に湧いてくるような感覚なり身体はあるで羽のように軽くなった。
ノアの中にいる【ユウカ】が言う。
【私はノアを支え、助けるためにここに居るの。あなたを苦しめていたものはすべて私が因数分解してあげたわ】
【ノア。私が導いてあげる。あなたがここですべき事を教えてあげる。私がノアを助けてあげる。ずっと一緒よノア】
それからノアは【ユウカ】の言われるままに動いた。すべてが上手くいった。もう頭に響く【ユウカ】の言葉に疑う事も異論も挟むことも無くなった。
私を護ってくれる私だけの【ユウカ】ちゃん、【ユウカ】ちゃんのためならなんでもしてあげるよ。
だからノアは凶行に走る。頭に響く【ユウカ】の声のまま、言われるままに──。
【ねぇ、私の言った通りでしょう。ヒマリ先輩はもうダメよ。完全に蒼森ミネに絆されて洗脳されてしまっているわ】
【きっとそのうち"砂漠の砂糖は用法容量守って適切に摂取すれば中毒にはなりません。ミネさんの元、みんなで砂糖を食べて幸せになりましょう"って砂糖を広めるつもりだったんだわ。悍ましい】
【ユウカ】が怒りで震えてるのがわかる。
「じゃ、じゃあ、【ユウカ】ちゃん。ヒマリ先輩が言っていた、対砂漠の砂糖の特効薬って……」
【よく聞いてノア。砂漠の砂糖は麻薬なの。脳内細胞と神経を完全に破壊するものなの。病原性ウイルスとは訳が違うのよ。脳髄を新品と入れ替えない限り治せないし、それはもはや別人になるから事実上不可能なのよ】
【ヒマリ先輩もどうかしてるわ。冷静に考えればそんな事誰だってわかるのに……「全知」が聞いて呆れるわ】
【砂漠の砂糖の特効薬を摂取したトリニティの生徒が暴れまわってるでしょう。あれが薬の正体よ。蒼森ミネは朝顔ハナエからの極秘指令で薬と称して人を暴走状態にさせる麻薬をばら撒こうとしたのよ。もしもあれを特効薬として皆が摂取していたら……今頃ミレニアムは滅んでいたでしょうね】
「私、危うく騙されるところだったよ。ありがとう【ユウカ】ちゃん。私を救ってくれて。ミレニアムを護ってくれて……」
【気にしないで良いわよ。貴方のためよ。それよりもノア、早くヒマリ先輩にとどめを刺しなさい】
幻覚ユウカの声に操られるかのようにノアの身体が勝手に動き出す。
【この女をこれ以上のさばらせるのは危険よ。リオ会長のように二度と表舞台に立てないように私たちの邪魔にならないように奈落の底へ突き落しなさい。右手にあるモノでね】
いつの間にかノアの右手には注射器が握られていた。それをゆっくりとヒマリの首へと突き刺す。プランジャーを押し込み、中の薬液を流し込むと意識の無いはずのヒマリの身体がピクピクと小刻みに震えるように動く。
やがてヒマリの身体から甘い砂糖のような香りが漂い始めた。
「ノア会長っ!!何事ですかぁっ!!」
そこへ重武装したミレニアムセミナー保安部の生徒がやって来た。
「明星ヒマリっ!?……ノア会長、いったいこれはどういう事ですか!?」
保安部の部長の生徒がノアに尋ねる。全弾打ち切りホールドオープン状態になったノアの銃と床に転がる無数の廃薬莢。
車椅子にのけぞり顔面血だらけになってヘイローが消え動かなくなっている明星ヒマリ。
明らかに異常事態だ。
驚き説明を求める保安部部長にたいしてノアは冷静に事態の説明をする。脳内に響く愛しい少女の紡ぐ言葉のままに──。
「皆さんに残念なお知らせです。明星ヒマリは隠れ砂糖中毒者であり、アビドスのスパイでありミレニアムの裏切者です」
「な、なんと!?」
「厄災の狐を招き入れ、ミレニアムの混乱のさなかアビドスへ逃げようとしていたようです。哀れなことに蒼森ミネらに見捨てられたようで発狂して私に襲い掛かってきて戦闘となりました」
「そんな、まさか……」
「残念ながら本当です。検査すれば明星ヒマリの体内から高純度の砂糖が検出されるでしょう。ミレニアム内では手に入らない純度です。これがアビドスのスパイの証拠です」
「おのれ、ヒマリめ、ミレニアムを騙して裏切りましたね……」「ゆるせない……」「ゆるせない……」
憎悪の籠った怨念を呟く保安部の生徒の様子に満足げに頷きノアは声を上げ宣言する。
「現時刻を以て明星ヒマリのミレニアムサイエンススクールにおけるすべての権限・称号・地位を剝奪します。この者を地下監獄へ収容しなさい」
「ハイッ!!」
「特異現象捜査部も現時刻を以て廃部とします。部室内の設備は機械・装備品・書類等すべてを破却しなさい!」
「例の特効薬はどうしましょうか?」
「あれもすべて廃棄処分しなさい。トリニティの暴れている生徒を見ればわかるでしょう。あれが特効薬の正体です。砂糖中毒者を狂暴化させてミレニアム内で大規模テロを行おうとした蒼森ミネの罠です」
「おのれ、蒼森ミネめ、騙したなっ!!」「なんだかんだ言って所詮はトリカスか……」
憤る生徒たちにノアは畳みかける。
「トリニティの生徒は信用してはなりません。徹底的に弾圧しなさい。蒼森ミネら裏切者は必ず見つけ出し処刑台へと送るのです」
「「了解!!」」
敬礼すると保安部の生徒は二手に分かれる。逃げたミネらを追撃する部隊とヒマリを車椅子から乱暴に引き摺り落とすとそのまま引っ張って地下監獄へ搬送する部隊へと。
やがて辺りは静まり返る。
「これで良い?【ユウカ】ちゃん?」
【ええ、さすがはノアね。文句なしの完璧~♪だわ】
二人きりの空間で自分と【ユウカ】と言葉を交わす。ノアにとって至福の時だ。
【お願いノア。私の仇を――、私たちの仇を取って。私は憎い。私は悔しいの。大切なノアを苦しめミレニアムをめちゃくちゃにするアビドスの連中が許せない無いの】
幻覚ユウカが囁く。ドロドロの砂糖のような甘ったるい声で、蛇のような長い舌でノアの耳を擽り、脳内を犯してゆく。
【アビドスを跡形も無く滅ぼして砂糖中毒者は一人残らず皆殺しにするの。生かしたら駄目。ミレニアムに逆らう奴らはみんな敵よ。砂糖中毒者よ】
【アビドスを滅ぼした後、小鳥遊ホシノ・空崎ヒナ・浦和ハナコ・朝顔ハナエを斬首して、4人の頭部で髑髏の盃を作り、4人の脳髄と血液で作った葡萄酒を満たして捧げるの】
【そうすれば私は肉体を取り戻して貴方の横に立てるわ。声だけじゃない、本物の早瀬ユウカとして】
【そして二人で幸せになりましょう。ノアの思いを全部ぶつけて、好きにしていいわよ。あなたの中に眠る汚い劣情も全部ぶつけて、二人で愛し合ってどろどろに溶けてしまいしょう】
「うん待っててね。【ユウカ】ちゃんの願い、全部叶えてあげるからね」
【ありがとう、愛してるわノア】
「私もだよ【ユウカ】ちゃん」
幻覚ユウカ【………ニチャァアア】