砂糖堕ちハナエちゃんのお話   作:砂糖堕ちハナエちゃんの人

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第四話「トリニティ襲撃勧誘作戦」 その3

 

※少し作中内時間が戻ります

 

 

ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……。

 

 私は無我夢中で学園内の敷地を走り続けました。

 

 どこも火の手が上がっていて大勢の生徒さん達が狂ったように暴れていました。

 

「グスッ…ううっ……」

 

 涙で目の前が滲み、恐怖で足がすくみ、何度となく躓き転んでは起きて走り続けました。

 

「ハァッ、ハァッ、……あそこに隠れようっ」

 

 学園の敷地の奥まで来ていた私は周りに誰も居ない静かな一角、今は使われていない古い講堂へ逃げ込むことにしました。

 倒れかかっていた仮設フェンスを潜り、追手が来ない様に傾いていたフェンスを起こして元の形にしておきます。

 講堂は窓や扉がどこも厳重に封鎖されていましたが、一か所、打ち付けていた木の板が外れかかっている扉を見つけ、無我夢中で板を剥がして鉄の扉に手を掛けます。

 鍵がかかっていなかったのか鉄の扉は大きな軋み音を上げてゆっくりと動きました。扉がガタつく音がドアレールが軋む甲高い音が大きく響き、周囲の森や他の建物に反響して広がっていくのがとても恐ろしくて、身体がギリギリ入る隙間だけ開けて身体を捻じ込みます。

 ドアの締める時、開ける時と同じくらいの音が同じ時間響くのが「ここに私が居ますよ。生きている弱い獲物がいますよ」と周囲にアピールしているようで怖くて怖くて、ただひたすら誰にも聞かれてない事を祈ります。

 ドアを締め切った所で身体の力が抜けてしまい、私はそのままそこへへたり込んでしまいます。本当はここじゃなくてもっと奥に、建物の奥に逃げ込まないといけないのにもう身体が言うこと聞いてくれません。

 真っ暗で埃っぽい空気が身体を纏います。

 

 

ハナエちゃん……。

 

 

 どこからか甘く優しい声が聞こえてくるような気がします。

 

 

「どうして……どうして……話が違いますよ……ハナコ様……」

 

 

 

 夕方、ハナコ様のお部屋に行き、聞かされた重大な話。もうすぐ悪い人たちが私達から砂糖を完全に取り上げ二度と食べさせないようにしようと動き始めている事。砂糖が食べられなくなり禁断症状が起きて苦しんでいる私達を捕まえてむりやり連れ去り人体実験や拷問をしようとしてる事。捕まればもう二度と生きて戻られないと言うのです。

 ハナコ様はそのような事態になることを憂い、皆を連れてトリニティを出ると仰いました。この砂漠の砂糖の楽園、アビドス自治区へ皆で行きましょうと。

 

 

『それでしたら、このままトリニティに残るのが良いのでは?ティーパーティーもシスターフッドも砂漠の砂糖を認めていてハナコ様とも仲が良いのですよね?ティーパーティーのセイア様ナギサ様がいらっしゃればトリニティの守りは盤石ではないのでしょうか?』

 

『確かに本来でしたらそうでしょう。しかしトリニティ以外には砂漠の砂糖を快く思っていない学園がまだまだ多いのです。とくにミレニアムサイエンススクールは。彼女らは自分たちの妄信する科学の優位が崩される砂漠の砂糖を妬み、握りつぶそうとしています。そのためにトリニティを潰しても構わないと思うくらいに』

 

『そんな……』

 

『そして残念なことにそんな彼女らに唆され妄言を信じ込み、トリニティを内部から切り崩そうとしている悪い人が居ます。ティーパーティーやシスターフッドの皆さんだけではその悪い人たちを抑え込むことが完全に出来ないのです。あのミレニアムが背後からその強大な力を使いトリニティを陰から操ろうとしています。そしてもう一つ、この砂漠の砂糖をトリニティから排除しようとしてる強大な集団が居ます。何だと思いますか?』

 

『そのような強い集団がまだトリニティにあるのですか?』

 

『ええ、それは"トリニティ救護騎士団"。ハナエちゃん、あなたが居る場所なんですよ……』

 

『そ、そんな……』

 

 私はショックを受けました。私の所属する救護騎士団、それがみんなを苦しめる元凶になってしまってるなんて……。砂糖で苦しんでいる子達を助けるのではなくて奪い取ろうとしているのだと。

 

『わたしは……みんなを……たすけるために……苦しんでる人を助けるために……』

 

 私がみんなを助けたくて入った救護騎士団がみんなを苦しめ地獄へと追い立てている。そんな現実に眩暈がしてしまいふらついてしまった所、ハナコ様に優しく抱き留められます。

 

『だから、ハナエちゃん。あなたの力が必要なんです』

 

『わたしの……ちから……?』

 

『はい。救護騎士団には私から何度も説得に向かいましたが、相手にされず門前払いされてしまいます。救護騎士団団長蒼森ミネによって……』

 

『ミネ団長が……ハナコ様を……』

 

『ええ、ミネさんはとてもご自身の信念を強く持ち、絶対曲げないお方。私の話に聞く耳すら傾けようとしません。砂漠の砂糖を妬む悪い人……ミレニアムの人達に洗脳されてしまったんです。恐らくはミレニアムの超先端の科学技術を用いた……そうでしね電磁波とでもいいましょうか。ミネさんはそれに操られているんです。それを救う事が出来るのはハナエちゃんあなただけなんです』

 

『私が……ミネ団長を……救護騎士団のみんなを……救うのですか?』

 

『その通りです。ミネさんと救護騎士団の結束力はとても強く、外部からの圧力には決して屈しません。だから内部から切り崩していくのです。仲間には疑いの目を向けませんからね。救護騎士団で唯一この世界の本当の真実を知り、砂漠の砂糖の真の素晴らしさを知っているハナエちゃんが皆さんの、ミネ団長の目を覚まして洗脳を解くのです』

 

『私に……そのような事が出来るのでしょうか』

 

『ええ、出来ますよ。ハナエちゃんの普段の態度と団員皆さんのハナエちゃんへの心証はそれは素晴らしいものだと知っていますから。もちろん砂糖への警戒心はあるでしょうから、とっておきの手を使います』

 

『とっておきの手、ですか?』

 

『今、ティーパーティーの皆さんが差し入れとして"ほんの少しだけ甘い"栄養ドリンクを配っています。救護騎士団へも配る予定なのですがその時はハナエちゃんが一緒に配ってください。何でしたら皆さんの前で飲んでみせるのも良いでしょう。ハナエちゃんが美味しそうに飲めば皆さんきっと安心して飲んでくれると思います。その栄養ドリンクには少し隠し味があって飲むと"とても素直"になるんです。これでハナエちゃんが砂糖の事をお話しても皆さんちゃんと言う事を聞いてくれますよ』

 

『ティーパーティーの人が配ってる栄養ドリンクを皆に飲ませる。セリナ先輩やミネ団長にもですか……』

 

『そうです。お二人にはハナエちゃんから必ず直接渡して目の前で飲んでもらってください。きっとお二人もハナエちゃんがくれたものなら安心して飲んでくれるでしょう。その後はこれを使ってください』

 

 ハナコ様が私にペンケースのような金属製の入れ物を差し出します。中を開けてみると薬液の入った注射器が3本ありました。

 

『これはミネ団長に掛かっている洗脳を解く薬が入ってます。ドリンクを飲ませてお話を聞いてもらえたらハナエちゃんが打ってあげてくたさい。もしもセリナちゃんも洗脳に掛かっているようならセリナちゃんにも同じように。洗脳が解けて世界の真実を知りきっと二人は幸せになりハナエちゃんに感謝してくれると思いますよ』

 

『ミネ団長とセリナ先輩の洗脳を解いて目を覚まさせる……この注射で……』

 

『はい、これはハナエちゃんにしか出来ない大事な任務です。引き受けてくれますね?』

 

 私がこくりと頷くとハナコ様は嬉しそうに笑みを浮かべて私に顔を近づけて唇を重ねます。私はいつものように腕をハナコ様の首へ回し抱き着きます。

 鼻先同士がぶつかるくらいの距離からハナコ様の綺麗な鼻漏れる熱く甘い吐息、私の唇を割って入って来てわたしの舌を絡めとるハナコ様の舌から流れ広がる濃厚な甘い唾液がビリビリと脳を焼いて行きます。

 

 数分続いたそれが終わり、私とハナコ様の唇が粘液の糸で一本の橋を作りながら私の唇から離れて行きます。身体は熱く燃え上がり、力が湧き出て来るような感じでした。

 

『ハァッ……ハァッ…、ハ、ハナコ様ぁ……』

 

『うふふ……準備は万端ですね。では良い知らせを待ってますね。続きはその後しましょう♡私からハナエちゃんへのご褒美です♡』

 

『はい♡ 頑張ります♡ ハナコ様ぁ……♡』

 

 私はハナコ様に見送られ大事な任務をこなしに救護騎士団へと向かいました。詰所の敷地の入り口前の通りでリアカーが故障して困っていたティーパーティーの子達を見つけて、良かった間に合ったと安堵して一緒に運ぶのを手伝いました。

 詰め所に戻ったところでセリナ先輩に怒られてしまい「せめて一言言ってから出ればよかったな」と思いました。その時先にセリナ先輩にお話して、うまく説得で来たら先に洗脳を解くお注射をして先輩と二人で差し入れを配り、ミネ団長の元へ行ければ心強いなと思っていました。

 ハナコ様の言う通り、救護騎士団の皆はとても警戒していました。ミネ団長が数日前に「皆が狂い暴れてる事件が多く起きているのはブラックマーケット製の危険薬物のせいだ」「それらは食べ物や飲み物に混ぜられて渡される」「不審な物は例え知り合いであっても絶対に受け取らない様に」と皆に訓示したからです。

 私は必死になって皆に説明しました。これは大丈夫な飲み物だと。リアカーを修理した時、ティーパーティーの人がお礼にと1本くれたのを飲んでみました。確かに少しだけ甘みを感じるくらいであとは普通の栄養ドリンクだったからです。あまりにも普通過ぎて「みんなこれで素直になれるのかな?」と少し気になったくらいでした。

 皆の前で気丈に説明して目の前で飲んでみせると皆さんやっと栄養ドリンクを飲んでくれました。どのくらいで効果が出るのか?どのくらいでお砂糖のお話をすればいいのか、様子を伺っているとセリナ先輩が飲んでない事に気づきました。どうして飲んでくれないのか、そんな怪しいドリンクでは無いのに。少し苛立ちを覚えているとミネ団長に渡してくると言ってセリナ先輩はドリンクの瓶を持って慌てて階段を駆け上がって行きました。

 私はセリナ先輩の後を追うべきなのかここで待って皆に砂糖の事を話すのか悩んでいる時でした。あの甘い香りが、濃厚な嗅いだことも無い様な強烈な甘い匂いが立ち込めてきたのは――。

 

 そこから先は地獄でした。みんな狂い苦しみ悶え、その後暴れ始めました。ここ最近続く騒乱事件で暴れる暴徒たちのような目をして――。

 何が起きたのか、私が何か間違った事をしてしまったのか、必死に皆を止めようとしましたがまるで私と言う存在が見えないかの様に振舞っていてどうする事も出来ません。やがて騒ぎを聞きつけて階段を降りて来たセリナ先輩を見つけると皆私なんて無視して一斉に先輩に襲い掛かり始めました。先輩の悲鳴と絶叫が聞こえて――、気が付けば私はその場から逃げ出していました。皆と止めないと――、セリナ先輩を助けないと、そして、そして、みんなに謝らないといけないのに……私は逃げ出してしまいました。

 

 

ぐすっ……ううっ……

 

 そして今私はこの講堂へ逃げ込み蹲っています。もう身体が震えていう事を聞いてくれません。

 

「た、たすけて……ゆるしてください……ハナコ様……」

 

 震える手でスマートフォンを取り出してハナコ様の電話番号を鳴らします。いつもならワンコールすら経たずに「はぁい♡どうしましたかハナエちゃん♡」と優しい声が聞こえてくるはずのそれはコール数が2桁回数になっても聞こえてきませんでした。数回かけ直しているとついには「端末の電源が入っていない」と無情の自動音声へ切り替わってしまいました。

 

「ぐすっ……ハナコ様……ハナコ様」

 

 きっとドジを踏んでしまった私はハナコ様を怒らせたのかもしれない、失望されてしまったのかもしれない、嫌われてしまったのかもしれない……。どんどんと暗い感情が湧き上がっていきます。

 

「助けて……ハナコ様……あぐっ!?ぐっ、ぁぁっ……」

 

 突然強烈な苦しみが湧いてきました。この衝動はとても心当たりがあります。砂糖が切れて禁断症状が起き始める時に感じる物です。

 

「どうして……お砂糖……ちゃんと、取ってたのに……」

 

 あの日、禁断症状で苦しんでいる時、初めて出会ったハナコ様にお砂糖を頂いて以来起きる事の無かった症状が私を再び襲い始めました。

 

 

ドジ…ノロマ……役立たず……お荷物のハナエ……

 

 

ぐぁん、ぐぁん、と頭痛がして……もう一人の私が囁いてきます。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ゆるして、ゆるして……」

 

藻掻きながら必死にうさぎさんポシェットの中から愛用のケースを震える手で取り出します。

 

 

ほら、はやく砂糖を取りなさい……それとも痩せ我慢して……狂っちゃう?

 

「いやぁ……それだけはいや……」

 

 なんとか注射器を取り出して、アンプルを折って中の薬液を吸い上げて行きます。

 

 

バカなハナエ、砂糖なしじゃ何もできないゴミハナエ……

 

 

 手首に巻いたリストバントを捲り、血管に突き刺しますがはずてしまいます。二回目も三回目も、上手く刺さらずいたずらに注射痕だけが増えて行きます。

 

 

「何で……どうして……いつもなら……上手くいくのに」

 

 

注射器もロクに扱えないなんて本当に役立たずね。救護騎士団辞めたら?貴女が居ること自体な迷惑なのよ……

 

 

「嫌だ、嫌だ、私は……私は!!」

 

 6回目でようやく血管に針が上手く刺さりました。すかさず注射器のプランジャーを思いっきり押し込むと薬液が――砂糖が私の血管に勢いよく入っていきます。

 

 

「あっ……くぅっ……ふぅ、ふぅ、ふぅ……」

 

 

あはは……その調子よ……その調子でどんどん……砂糖に溺れてしまえ…弱虫ハナエ………

 

 あざ笑うもう一人の私が静かに消えて行くのを感じて行きました。胸の苦しさも同時に引いて行きます。私は乱暴に注射器を引き抜き投げ捨てて、止血用ガーゼを当てて患部を強く抑えた後リストバンドを下ろしました。

 禁断症状が無くなり、動き出そうとしたとき、背中の鉄の扉の向こうに人の気配がすることに気が付きました、いつの間に来てたのでしょうか?サーッと背中が冷えて意識が明確化していきます。

 銃を構えてドアから離れようとした時でした。

 

 

「ハナエちゃん?……そこに居るの?」

 

 

 セリナ先輩の声が聞こえてきました。

 

「せ、セリナ先輩ですか……?」

 

 思わず声が零れてしまい、慌てて口をふさぎます。しかし既にもう遅かったようです。

 

「ハナエちゃん!?本当にハナエちゃんなの!?…ねぇお願い!ここ開けて!ハナエちゃん顔を見せてよぉっ!!」

 

 ドンドンと扉が叩かれます。私はどうすれば良いのでしょうか。

 

「ハナエちゃん!!ハナエちゃん!!お願いっここ開けてっ!!ハナエちゃんに会いたいの!お願いっ!!」

 

「あの……セリナ先輩お一人なんですか?……他に人は居ないんですか?」

 

 先程からセリナ先輩の声だけ聞こえるのですがどうなのでしょうか。

 

「……………」

 

「あ、あのセリナ先輩……?」

 

「……あ、う、うん、私一人だけだよ。ハナエちゃんが心配で探しに来たの。お願い、ここ開けて、私を中に入れて、お願いハナエちゃん!!」

 

 少し無言になったのが気になりましたが先輩一人こんなところに立たせておくのは危険なので私は慌ててドアを開きました。

 

「ごめんなさいっ!ハナエちゃん!!」

 

 ドアを開けた途端、思いっ切り頭を下げているセリナ先輩が見えて――。

 

「やはり、此処に居たのですね。探しましたよハナエ……」

 

「ミ、ミネ団長………」

 

 セリナ先輩の後ろ側、ドアの影からゆっくりとミネ団長が現れました。怒っているような悲しんでいるような見た事もない複雑な表情を浮かべていて――。

 

 

「少し、お話をしましょう。色々と聞かせて貰いますよハナエ――」

 

 

(つづく)

 

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