異世界帰りの武器屋ジジイ   作:水色の山葵

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第10話 ジジイ、迷宮侵入

 

 ダンジョン。

 十数年前に突如発生し、その数は年々増して行っていると言う。

 現在確認されている数は九つ。

 

 その中の一つ。

 No.7【塔の多重界】が、この都市にあるダンジョンの名称だ。

 

「それでは久我さん、準備は良いですか?」

「うむ、必要な物は全て持った」

 

 後ろに背負ったリュックに触れながらそう言うと、迅も儂を追う様に言う。

 

「俺も問題ないぜ、リーダー」

「それじゃあ、行きますか」

 

 塔の下、入り口に面する場所に建てられた迷宮用の関所を通り抜け、儂ら三人は塔の内部へ入る。

 

 儂が提案をしてから凡そ三週間ほど。

 彼等の探索も順調な様で、儂を加えても問題なく護衛と探索ができると二人ともが判断できた様だ。

 

 それも彼等の思い上がりでは無いだろう。

 武器を手入れしていれば分かる。

 彼等の戦闘に危う気は無い。

 

「心配すんな爺さん。もし腰とか痛めても、俺が担いで運んでやるよ」

「絶対雑に運ぶから駄目だよ。ご心配なく、私が水操で運びますから」

「余り年寄り扱いするで無い。これでも多少は戦いの心得もある。ダンジョンなど若い頃を思い出すくらいじゃ……」

「あんたの若い頃にダンジョン無いだろ……」

「確かに……」

「なんじゃ、信じとらんな? 本当なんじゃぞ!」

「分かった分かったって。早く行こうぜ」

「む……釈然とせぬな……」

 

 話しながら儂らは塔に入る。

 塔自体はダンジョンでは無い。

 その入り口を形成する為の建造物だ。

 

 内部には1フロアごとに1つ、異空間への入り口が存在する。

 実際にはそれに入る事で、やっとダンジョン内に入れるという訳じゃ。

 

「第一階層が森林。第二階層が山岳。第三階層が海岸。第四階層が砂漠。第五階層が雪原。それ以降の階層は、この五つの階層である条件を満たさないと入る事はできません。私と迅君は条件を満たしてますが、当然久我さんはまだなのでこの五階層の中から階層を選択して向かう事になります」

「第二階層、山岳でいいんだよな?」

「うむ、鉱石系の素材が多いと聞いたのでな」

 

 儂の武器製作の技能は、金属武器に限らず数多の武器を製作できる。

 木製の杖等も製作可能だ。

 しかし、儂が最も得意な生産術式はやはり『鍛冶』である。

 

 ならば金属が多く採れるという山岳階層が適切じゃろう。

 

 塔内の階段を一つ上がり、二階へと移動する。

 塔の中は広間が一つあり、中央にゲートが存在するというシンプルな作りだ。

 それが上にずっと続いているらしい。

 

 一階と全く同じ構造。しかし窓から見える高さだけが違う二階。

 そこより、儂等はゲートへ踏み入る。

 

 

 青い空が一気に広がった。

 

 

 亜空門と同じ。

 創造空間への侵入。

 その感覚が確かにある。

 

 確かに儂等が入った場所は山岳地帯と言える場所だ。

 周囲は幾つかの山に囲まれている。

 その間に深い谷や川も見える。

 儂等が居るのは山の中腹辺りか?

 

 それと、目の前には異質な青いクリスタルがあった。

 

「これはなんじゃ?」

「結界石です。転移直後に魔獣の襲撃を防ぐ目的で置かれているんですよ」

 

 そう言いながら、巳夜が結界石と呼んだ石へ近づいていく。

 巳夜がそれに触れると、魔力の一部が石へと移動した。

 

「魔道具なのか……」

「アーティファクトだろ?」

「まぁ、どっちも正解です。魔力で稼働する道具ではありますけど、魔力っていう概念を普通の探索者はあまり把握してませんからアーティファクトって呼ばれてるんです」

 

 アーティファクト。

 儂の造る武器の様に使用者の魔力を扱う道具という事か。

 

「なるほど」

「迷宮由来のエネルギーと爺さんの武器に使われてるエネルギーは同じって訳か。そういやレスタもアーツと自分の力は根本的には同種とか言ってた気がする」

「アーツとな?」

「あぁ、迷宮で得られる異能力の事だ。種類は色々あるが、これを駆使して戦うのが探索者の基本だな」

「む、儂には良く分からん話じゃの」

 

 結界石に魔力を与え終わった巳夜が戻って来る。

 儂の見立てでは、残り時間が10時間程だったのが24時間程まで伸びて居る様だ。

 

「お前、毎回結界石に魔力渡してっけど、それボランティアだよな?」

「いいでしょ別に。効果時間が切れそうな時に周りに誰も居なかったら危ないじゃない。だから毎回魔力を最大までチャージする様にしてるの」

 

 それを聞いて迅は笑みを浮かべる。

 それは悪い笑みではなく、誇る様な笑みだった。

 

「そういうとこ、嫌いじゃねぇぜ」

「うるさいな。早く行きますよ、二人とも」

「照れんなよ」

「照れてないから」

 

 そう言い合いながら歩いていく二人の背中を儂は追う。

 雰囲気は思ったほど悪くない。

 ソリが合っていないのではと、少し心配もあったのだがな。

 どうやら杞憂だったらしい。

 

「気を付けろよ爺さん。結界石の効果範囲は周囲30メートル。それを出ればいつ魔獣に遭遇してもおかしく……」

「来たよ!」

 

 巳夜が杖を構えながら叫ぶ。

 風域で敵を察知したようだ。

 それに呼応する様に迅も短刀を取り出す。

 

 さて、お手並み拝見と行くか。

 

「ロックタートルだね」

 

 巨大亀。全長は3m強。

 甲羅は隆起する石で覆われている。

 そんな魔獣が山上から転がって来て、儂らの前で止まる。

 

 防御力はかなり高そうだが……

 

「俺に任せろ。巳夜は周囲を警戒しててくれ」

「分かったよ。先に譲ってあげる」

「けっ、言ってろよ」

 

 ゆらゆらとした足取りで、迅が亀に近づいていく。

 暗殺者が使う歩法だ。

 しかも練度がかなり高い。

 

 幼少より暗殺を生業としていた。

 その言葉に嘘が無いと示す様に。

 

 不規則な動きの中より、一瞬で加速する。

 

「クイックアーツ【加速(アクセル)】」

 

 呟く様な言葉と共に、迅の足に雷が纏わりつく。

 消える様な加速の先は、亀の上空。

 

 しかしどうするつもりだ?

 あの硬度に刃は立たぬ。

 かと言って落下の衝撃だけで破壊できるとも思えぬ。

 

 そう思っていた矢先。

 迅の拳に大量の魔力が集中するのが見えた。

 

 通常、魔力は一般人には見えない。

 だが、儂や巳夜の様にそれを扱う術者は他者の魔力をも見る事ができる。

 

 だからこそ、迅の拳が有する魔力が通常では見えない魔力を可視化させる程の高密度である事が分かるのだ。

 

「魔力集中。体内魔力を拳に纏い、破壊力を劇的に向上させる術じゃな」

 

 短刀、レスタの能力。

 それは使用者の魔力の代行操作。

 

 迅は魔力操作を殆ど行えない。

 しかしレスタが代行操作する事で、魔力による身体強化を自由に行える。

 しかも、迅の意識を一切割く事無くだ。

 

 じゃが、魔力を集中するのは繊細なタイミングが要求される高等技術の筈。

 既にそれを簡単に熟せるほど、レスタと迅が意思を通わせているという事か。

 

「末恐ろしいな……」

「どうかしましたか?」

 

 巳夜が儂を振り返ってそう聞く後ろで、迅の拳が亀の甲羅の上から叩き込まれる。

 

 巻き上がる風と共に、亀の背が、くの字に曲がる。

 

 巳夜も一見呑気に見えるが、風域は絶やす事なく展開され続けている。

 魔力の操作精度と集中力鍛錬の賜物だ。

 

 儂が、彼等と同じ事ができるようになったのは幾つの頃だったじゃろうか。

 少なくとも30は越えていた筈だ。

 

 それを1年足らずで物にしてしまう。

 生まれ持ったセンスと、努力の結晶。

 ラディアが期待するのも分かるな。

 

「いや、護衛が頼もしいと感心しておっただけじゃよ」

「えー、私まだ何にもしてないですよ?」

「そうじゃの。お前さんの力も楽しみにしとるさ」

「えへへ、見ててくださいね」

 

 そんな会話をしていると迅が戻って来る。

 

「ほい、ドロップ品」

 

 そう言いながら迅が儂に鉄塊を投げ渡してくる。

 

「ドロップ品? さっきの亀はどうしたのじゃ?」

「ダンジョンの魔獣は絶命すると肉体が消滅するんです」

「けど全部消滅する訳じゃ無くて、一部が残るんだ」

「ロックタートルは鉄鉱石を主食としてて、蓄えた鉄は重要器官の局所防御に使われます。今回はその部分がドロップしたって事ですね」

 

 確かに、迅が甲羅をカチ割った先程の魔獣の死体が消失しておる。

 

「っていうか、いきなり投げたら危ないでしょ」

「ちゃんとキャッチできたんだからいいだろうがよ」

「もし頭とかにぶつかったらどうするのよ。ちゃんと手渡しして、子供じゃ無いんだから」

「母ちゃんかテメェ。説教くせぇと将来ガキに嫌われるぞ!」

 

 こんな口喧嘩の最中も彼等に油断は無い。

 ここがダンジョン内だという事を忘れていない。

 心身共に警戒しているのが見て取れる。

 

 なるほど。儂の予想以上に二人は強いらしい。

 

「言い合っとらんで先に進まぬか?」

 

 儂はこの様な亀は見た事も無い。

 という事は、このダンジョンには儂の知らぬ素材が眠っていても不思議はない。

 ダンジョンという物に少し興味が湧いた。

 

 迅から受け取った素材を鞄に入れ、儂は歩き出す。

 予想はしていた事だが、この空間では亜空門は使えない様だ。

 やはり、ラディアの造る亜空間と同じ様に、ここは誰かが作った亜空間という事なのだろう。

 

 その支配者が認めぬ限り、空間的に外と干渉する事はできなさそうじゃ。

 

 しかし、さっきの鉄塊が3キログラム程。

 これならな数百個持っても問題はない。

 鉄を買う料金が浮くと考えるだけでも来たかいはあるという物じゃ。

 

「ちょっと待てよ爺さん」

「そうですよ。一応ダンジョンなんですから、私と迅君の真ん中を歩いて下さい」

「なら言い争っとらんで早く来るが良い。今魔獣に襲われたら儂死ぬぞ?」

 

 そう言うと、渋々と言った様子で二人とも儂の方へ駆け寄って来た。


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