気絶させた人間を縛りあげ、儂等は漸く一息付いた。
儂のアンチポイズンを掛けて見たが効果は無し。
更に、巳夜が持っていた幾つかの毒に対する解毒剤も該当する症状の物は無く、今の所『拘束』か『気絶』しか対処の方法が無い事が分かった。
「助けてくれて感謝する。俺は
彼等の中でも一際大柄な男。
盾を背負い長剣を腰に差す、黒人の男だ。
それが、儂等に対してお辞儀する。
他のメンバー三人は疲労も酷かったので、休憩がてらに気絶している九名の見張りをして貰っている。
「私は
「ジン・ウォードだ。ゴールドランク」
「
「え、武器屋……?」
自己紹介も早々に巳夜が彼等へ本題を斬り出す。
「それで、話してくれますよね? あれは何なんですか」
巳夜が無事な様子の騎士たちにそう質問すると、彼等はおずおずと話始めた。
「俺たちはこの階層に調査をしに来たんだ。新種の魔獣が発見されたって通報があったから」
この迷宮都市には三つの騎士団が存在する。
その中でもホワイトナイツは主に、迷宮都市内の治安維持を目的とした騎士団だ。
その業務には、ダンジョンの異常調査も含まれるのだろう。
「新種なんて、どうして突然……」
「分からない。けど通報通り、確かにそいつは居た。花とか草とか木の化物みたいな奴で、蔓に絡めとられた奴からああやって暴れ出す」
「暴れ出すってより、多分操られてるよな」
「あぁ、そうじゃな。彼等はお互いを攻撃している訳では無かった。無差別に攻撃する訳では無く、非感染者のみを襲うのだろう」
「なるほど……」
「だが今、俺達の副団長がそいつを追ってる」
安堵した様な表情でユーマは言う。
それほど、その副団長とやらは随分信頼されているらしい。
「白地騎士団の副団長っていやぁ……」
「うん。レジェンドランクの探索者で、しかも」
「そうだ。俺たちの副団長は『迷宮都市最強』って呼ばれてる。だから、そいつが倒されるのも時間の問題さ」
迷宮都市最強。
何故そんな人物が第二階層に居るのか知らぬが、勝手に退治してくれるというのならここで待って居れば良いだろう。
「そもそも倒せばもとに戻るのか? こいつ等」
「多分戻ると思うよ。ダンジョン内の魔獣の毒ってそういう系統の物がかなり多いから。まぁ、確証がある訳じゃないけどやってみるしかないし」
「だったら、副団長様が片を付けてくれるまでここで待っとくか? いつ暴れ出すか分からねぇこいつ等を都市に引き連れて戻る訳にはいかねぇし」
「そうだね。でも、その副団長さんと別れたのっていつどこでなんですか?」
「元々調査は森林エリアだったんだ。そこで魔獣と遭遇して、九人が毒牙に掛かった。副団長が魔獣に集中できるよう、俺たちはこいつ等を引き連れてここまで撤退しながら迎え撃ったって訳さ」
なるほど、相手は騎士団の同士。
傷つける訳にも行かず逃げたという訳か。
まぁ、その状況なら悪い判断では無いだろう。
森林から山の山頂まで逃げおうせるとは、疲れているのも納得じゃな。
だが森林からここまでなら急いでも数時間。
しかも距離を離し過ぎると囮の役割が熟せなくなる訳じゃから、追手を引き離し過ぎない様にゆっくり逃げた筈。
「それだけの時間を掛けて、まだ討伐されて無いんですか……」
「いやけど……副団長が無理なら俺やお前等でも無理だ」
ユーマが不安気な瞳を儂等へと向ける。
その様子に、巳夜が何か言おうとした、その瞬間。
「「「「「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオ」」」」」
一人や二人……ではない。
先ほどの騎士達でも無い。
そんな呻き声と共に、山を登る何十人もの集団が見える。
それが誰なのか、儂にも分かる。
この階層を探索していた
彼等が騎士達の様に感染し、襲い掛かって来ようとしている。
「なんだ……あいつら……」
「まさか、あの感染者が増えるケースって蔓に巻き付かれた時なんですよね?」
「いや、それだけじゃない。感染者に肉を抉られたりしても感染してた……」
「おい完全に囲まれてるぞ!」
「クソ、体力も武器もこっちにはないのに……まだ死にたく無いわよ私……」
残った騎士達も動揺している。
それは巳夜も同じだ。
「どうしたら……」
しかし、迅は違う。
「なぁリーダー、俺は何でもするぜ。お前が決めてくれ」
「迅君……でもこの状況じゃ……」
「じゃあ諦めんのか?」
その問いに優しさは無い。
責める様な鋭い視線が巳夜に刺さる。
迅は目で語っている。お前ならアイデアがあるだろう、と。
その脅迫にも似た期待に、巳夜は頭を上げて視線を返す。
「本体を倒すしかないよ」
「待ってくれよ! 奴が居るのは森林エリアだぞ!? どんだけ急いでも数時間かかる。それに、俺の部隊の連中は体力も回復して無いし、戦闘しながらの長距離移動なんてとても無理だ!」
「じゃあどうすんだよ隊長さん。こいつの案以上のモンがお前にあるなら行ってみろ」
「それは……だが……」
「決まりだ。俺一人なら隠密と速度で敵を無視して森林エリアに行ける。俺が親玉をぶっ殺すまで、耐えれるな巳夜」
「待って、レジェンドランクが手こずってる相手を一人じゃ……」
だろうな、それが妥当な判断だ。
しかし、迅も分かっているのだろう。
新種を討伐しても、毒が解かれる保証は無いのだ。
故に巳夜は、この状況でまだ感染していない他の騎士たちを見捨てられない。
「巳夜、迅、お前さんたち二人で行け」
「え?」
「は?」
「ここは儂が相手取ろう」
「ちょっと待って下さい。久我さんはそもそも
「そうだぜ爺さん。爺さんだけでこの数相手にすんのかよ?」
「いや、儂だけでは無いさ」
術式を起動する。
儂が先天的に有する概念属性。
それは『回復』だ。
「ヒーリング」
「なっ、傷が回復してる……?」
「回復系のアーツなんて、超レアなのに」
更に背負う鞄より、愛用の槌を取り出す。
それは迅の持つ短刀と同じ、付喪神が宿る槌。
入っている神は【鍛冶の神】。
これを持つ間だけ、儂は鍛冶術式を使用できる。
更に、幾つかの素材を奉納する事によって、他の生産術式も短時間だが使用する事を可能とさせる。
やはり、準備は怠るべきではないな。
儂の造った装飾品や武器、防具、魔法陣など、持ってきていた幾つかの物を消費し。
儂は更に術式を構築する。
「簡易武具製造ミスリルシリーズ。【長剣】【短剣】【大斧】【レイピア】【盾】【鎧】」
幾つもの武器と防具が、その場に現れる。
儂が持って来た少量のミスリルと、ここで得た鉄鉱石を素材をとして今作った品だ。
儂が工房で造る品よりは、各段に品質も効果も落ちる。
しかし、騎士たちの破損した武具に比べれば十分マシな代物だろう。
「武器屋を嘗めるでないぞ。武器も体力も有り余っておる騎士が四人も居れば、お前さんたち抜きでも防衛は可能よ」
幸いここは山頂だ。
地形も有利に働いている。
「儂の製作能力なら柵や単純なトラップの設置も可能じゃ。心配するな」
「爺さん……」
「久我さん……死ぬつもりという訳じゃ無いんですよね?」
「無論、全て倒す心持ちよ。いや、倒してしまってはマズいのじゃったか」
「そうですね。足止めに止めて置いてくれると助かります。迅君、行くよ。水操【ライドクラウド】」
雲の様に浮遊する水の板を創造し、巳夜と迅がその上に乗る。
あれで全員逃げるのは……
いや、ここに居る人数は全員で7名。
今の巳夜の力量では、その数を乗せるのは無理じゃろうな。
「爺さん、任せる。悪いな、こんな事になっちまって」
「いや、お前さんたちの責任では無い。それに良い体験になったと後で笑おうぞ」
「騎士団の奴等も、爺さんを頼む」
「あぁ、任せてくれ。これでも俺たちは騎士の称号を持ってるんだ。さっきは止める様な事を言ったが、君らの行動を見てて勇気づけられたし思い出した。俺達はそういう思いで騎士団に入ったんだってことを」
ユーマの言葉に他の者たちも賛同していく。
ヒーリングを掛けた途端、元気な奴等じゃな。嫌いでは無いぞ。
「もし副団長に在ったら俺の名前を出してくれ。そうすれば、話を聞いて貰えると思う。君らとは性格は合うと思うよ」
「分かりました、それでは」
「あぁ、武運を祈っとる」
「ここは俺達に任せてくれ」
「あぁ、頼んだぜ!」
迅と巳夜を乗せた水の板が、森林エリアに向かって移動を始める。
「さて、ユーマとやら。始めるとするか」
「はい」
「因みに私、マリって名前ね」
「僕はキュレーです。武器使わせていただきます」
「私、ハイネ……です。回復助かりました」
武器で他人を判断するのは武器屋の悪い癖だな。
しかし、状況が状況ゆえ致し方ないと自分に言い訳をしておこう。
「改めて、儂は久我道実、しがない武器屋じゃ。よろしく頼む」
さて、久方振りに、儂も刀を抜くとしようか。