銅。鉄。
加えて少量の、金、銀、宝石まで出た。
ダンジョンというのは全く不思議な物だ。
こんな大量の貴金属が出土すれば、素材の価値が大暴落するのではないかとも思うが、世界に存在するダンジョンの数はたった「9つ」で、更に浅い階層で宝石や金が採れるのはこのダンジョン位の物らしい。
何はともあれ。
儂は望みの素材を手に入れられたし、ダンジョンでしか手に入らないような物も幾つか入手した。
そして、身内に死人は出ていない。
感染者の中の数名が魔獣や他の探索者との戦闘で死んだようだが、それは儂の知り合いでも何でもない者達だ。
冥福は祈るが、それ以上の感想は無い。
一件落着。
良かったと言える顛末では無いだろうか。
けれど今回の事で分かりたくなかった現実も見えた。
「ここまでか……儂はここまで……」
剣戟の。動きの。捉えの。
一つ一つが全盛期よりずっと劣化している。
強くなったのは武器の性能だけ。
これではやはり、剣士と名乗るには無理がある。
「歳には勝てぬな」
店中で孤独にそう呟く。
すると店の扉が開かれた。
「爺さん居るか?」
「お邪魔します、久我さん」
迅と巳夜だ。
二人が笑みを浮かべて入って来る。
「身体はもう良いのか?」
「あぁ、あの程度掠り傷だぜ」
「今日退院したばっかりの癖に」
「病院が大袈裟なんだよ」
迅は魔獣との戦闘で毒を浴びたらしい。
その毒自体は魔獣の討伐と共に消滅した様だが、その毒が身体に与えたダメージまでは回復していなかった。
その回復と経過観察を兼ねて今日まで入院していたのだ。
「久我さん」
改めてといった様子で、巳夜が儂を強く見つめる。
そのまま勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません! あんな事に巻き込んでしまって!」
「……悪かった、久我さん」
しおらしい態度でそう言ってくる二人を見ると、不意に笑みが漏れた。
「何も、お前さんたちが謝る事は無い。あの魔獣の出現は偶然であり、お前さんたちは力の限りを尽くし、その鎮圧を身を粉にして達成した。それ以上に何を求めよと言う?」
「久我さん……でも私たちは貴方の護衛を一時とは言え放棄しました」
「そうだ。あの時、あんただけを逃がすって手はあった」
ユーマたち騎士団の連中を放置し、巳夜の水操で儂等三人だけでトンズラする。
確かにそれは可能だっただろう。
だがそれは、儂が求める担い手の在り方とは違う。
しかし、それを言っても此奴等は納得せんじゃろうな。
「ならば、また護衛を依頼するから受けてくれ。ダンジョンという物に少し興味が湧いた」
「良いんですか? 私達で」
「無論。お前さんたち以上の適任者は居らん。それに儂はこうして無事なんじゃ、お前さんたちに不備など全く在りはしない」
そう言うと、やっと巳夜は頭を上げる。
「分かりました。なんでも言って下さい」
「俺も、次は緊急事態が起きても余裕で護れるようにもっと強くなっとく」
「ほう、それは心強いのう」
そう言って笑い合いながら、二人は今回の事件の話を少し語ってくれた。
あの感染者を作り出した魔獣。
パラフレシアという魔獣の上位種らしい。
儂は見て居らんが、二人が白地騎士団の副団長と協力して討伐した様だ。
その発生原因だが、今の所は不明らしい。
本来ならばあんな低階層にそこまでの上位種が発生する事は無いらしい。
原因究明には現在白地騎士団が尽力している様だ。
「なるほど、騎士団でも分かって居らんのか」
「そういう事です。私も立花さん経由で捜査状況を少し聞いただけなので、余り詳しい状況は分かってませんけど」
「あの女と連絡取ってんのか?」
「うん、メッセージアプリのID交換してるし」
「いつの間に……これが女子力って奴か」
「違うけど。まぁいいや」
「しかし、あの様な魔獣はあれ一体だけじゃったのだろ?」
「はい。その様ですね」
「ならばお前さんたちはやはり『英雄』では無いか」
低階層。
そこには多くの探索者が居る。
しかもまだ若く力の無い探索者たちが。
その多くが死ぬ危機だったのだ。
「でも全員救えた訳じゃないです」
「ま、俺は別に他人の命なんかどうでもいいけど、ダンジョンを進んで行けばああいう強い敵も出て来る訳だしその為にも鍛えとかねぇとな」
「二人とも、目指すところは高い様じゃな」
そろそろ、頃合いなのだろうか。
いいや、どうせ後になれば知る事だ。
ユーマたちには見せた力であるしな。
「お前さん達の武器。その第二段階について、少し話をしておこうか」
「え?」
「第二段階だ?」
武器に認められる事によって解放できる真の力。
その力について、儂は彼等に教えた。
「つまり、お前さんたちはまだ儂の武器の真価を発揮できてはいない」
「そんな力が、私の杖にも……」
「俺も全く知らなかった。レスタはレスタって名前じゃないのか?」
「答えはせんだろう。これで応えてくれるのならば、迅は最初からレスタの真名を教えられている筈だ」
「……みたいだな」
「対話を心掛け、より儂の武器を使い熟す努力をするが良いさ」
「はい」
「分かった」
うむ。良い返事だ。
二人とも今回の冒険で大なり小なり成長したらしい。
これなばら、武器の力を解放する日も遠くはないだろう。
「それと、これをどうするか聞きに来たんです」
「ん?」
巳夜が鞄から拳程のサイズの石を取り出す。
その中心には記号というか文字の様な物が描かれている。
そして、巳夜が触れた瞬間淡い赤い光を放った。
「なんじゃそれは?」
「【アーツストーン】です。ここのダンジョンから手に入る異能の原石。使用する事で異能を芽生えさせる力があります」
「ほう、その様な物が存在するとは……」
「私たちが上位種を倒すと同時に出現しました」
「ふむ、それで『どうする』とは?」
「【アーツストーン】ってのは普通、発生した魔獣の討伐に協力した奴しか使えないんだ」
「ならば、迅と巳夜のどちらか。いや、騎士団の副団長もか」
「通常ならその筈なんですけど……」
そう言いながら、巳夜が儂に石を手渡してくる。
どうして渡してくるのか気にはなったが、深く考えずに受け取る。
何も、変化はない。
「やっぱりな」
「だね……」
「なんじゃ、何も変わっとらんぞ?」
「そうなんです。使用可能者に反応して石は光る。だから私が触れたら光った訳で、なのに久我さんが触れてる状態でも光ってるんです」
「ん……? どういう事じゃ、良く分からん」
「多分だけど、あのゾンビ共との戦闘も『討伐協力』に含まれてるって事なんだよ」
「ユーマさんたちにも確認したんですけど、光りました」
「協会の規約によれば、この場合久我さんに優先買取権が存在します。なので、もしご自分で使いたければお譲りしますよ」
「ま、俺はアーツ一個持ってるし、レスタも居るしな」
いや、貰ってどうしろと……
討伐協力者しか使えぬのなら売却も難しい。
儂自身が使った所で、最早戦い疲れた老骨の身だ。
この石の力を十分に発揮できるとも思えない。
「要らんな」
「ですよね……」
「だと思ってた」
「という事じゃ。使い道は話し合って決めて良いぞ」
儂は石を巳夜に返す。
「んー、迅君?」
巳夜は石を迅に渡し。
「いや、止め刺したのお前だろ」
迅は石を巳夜に渡した。
「……超戻ってくるじゃん」
「ま、お前が使えって事だ」
「分かったよ。じゃあ遠慮無く……」
そう言いながら、巳夜は石を胸へ押し当て呟いた。
「セット」