「まさか、式に参加させずに体力テストとは。言い分は分からない事でもないけど、子供の晴れ姿を見に来た保護者には可哀想だよねぇ」
「昔から、そういう子だから。去年、一クラス全員除籍処分にしたのは伊達じゃないのよね」
「彼、インターンで色々あったんだっけ?今年の子達は大丈夫かな?雪花や轟少年は大丈夫だろうけど、緑谷少年は相澤君の目にどう写るか」
「師匠なら、弟子を信じていなさいな。それに、フルカウルだっけ?自損しないOFAの使い方を習得したんでしょ?」
「ああ、安定して扱えるのは3%、5%までなら自損せずに。それを見て、相澤君がどう判断するかだね」
本当は、雪花と一緒に挨拶をする筈だったB組の拳藤少女が、緊張に震えながら登壇する姿を眺めながら、娘の晴れ姿が見れなかった事を残念に思うオールマイトお父さんであった。
▼▼▼
「···何今の」
入学早々始まった、個性を使用して良しな体力テスト(最下位はヒーロー科除籍)。
最初の50m走は出席番号順だったから、私は八百万さんと一番最後。柔軟体操をしながら、皆がどんな個性を持ってて、どんな使い方をするか観察していると、葡萄みたいな特徴的な髪型の超背が低い男子と走った、緑色の髪色をした地味で平凡そうな男子に目を奪われた。
厳密には、彼が使った個性。走る前、ブツブツ何かを唱えると、赤い光が血管の様に全身に走り、それらが緑色にスパークしながら体を包み込んだ。そして、蹴りだした勢いでスターターをぶっ壊しながら、3秒55という記録で駆け抜けた。
「八木さん?どうかされましたか?私達の番ですけど···ご気分が優れませんの?」
「あ、うん、大丈夫だよ八百万さん。今走った子、緑谷君だっけ、彼の走りに圧倒されちゃっただけだから」
ジェットパックみたいなのを背中に装着した八百万さんが、心配そうに覗き込んできたけど、私は適当に誤魔化して配置に着く。
あの個性、似てる。平和の象徴に、No.1ヒーロー「オールマイト」に、お父さんに。力は足元にも及ばない程度みたいだけど、あの個性が放つ雰囲気は、何回か訓練で対峙した時にお父さんから感じたのと同じ様な···。
「取り敢えず、要観察の上で尋問かな、お父さんを」
実技試験でした様に、体に纏わせた雪を操作しての飛行で、八百万さんにちょっと遅れてゴール。雪を払いながら、競技の準備をする緑谷君を盗み見する。その力、見極めさせて貰うよ。
「アイツに何かあるのか?雪花」
「うわ!急に話しかけてこないでよ、焦凍。何かあるかは分かんないけど、ちょっとね。まぁ、そんな深刻な事でもないから、焦凍は競技に集中してなよ。総合一位取って冷さんに自慢してあげな」
「···そうか、集中力不足でミスって除籍なんて事になるなよ」
「余計なお世話だ、ばぁ~か」
焦凍の背中を突き飛ばして、何か目をキラキラさせる芦戸の視線を無視しながら握力測定の列に並んだ。
その後は、競技前に緑に発光して好記録を出す緑谷君を観察しながら、そこそこな記録で競技を終えていく。幅跳びとボール投げで無限の評価を貰ったから、最下位は無いと思う。
バイクに乗った八百万さんと、右で地面を凍らし左の炎の噴射を推進力にする焦凍の首位争いで盛り上がった持久走が終わり、結果発表を待つ私達。葉隠さんと緑谷君とペアを組んでた特徴的な髪型の男子、峰田君だったかな、が青い顔でいる。周りも、二人に同情的な視線を送っている。
まぁ、多分大丈夫だよ。二人の競技に対する姿勢を見れば、恐らく···
「ちなみに、除籍はウソな。君らの力を最大限に引き出す合理的虚偽」
ホラね。入試の実技試験みたいに、個性によって有利不利がハッキリ出るテストで、順位を基準にどうこうなんて合理的じゃない事、あの先生はしないから。見込みゼロって思われたら、容赦なく除籍だったろうけどさ。
さてと、鉄は熱い内に打てと言いますからな。皆が、自分の結果を確認したり、葉隠さんや峰田君を慰めたりしてる中、私は緑谷君の肩をちょんちょんとつついて手を握り、雪で覆ってから校舎の陰に向かって飛ぶ。
そこには、相澤先生を見送るお父さんとお母さんの姿。二人の前に着地し、未だに混乱の真っ只中にある緑谷君を二人の前に立たせる。
「お父さん!!私に異母兄弟が居たの??!」
「「「はい?」」」
「だから、斯々然々丸丸馬馬で、緑谷君はお父さんの個性を受け継いだ異母兄弟じゃないのかって聞いてるの!」
「「「はいーーー!!?!」」」
私は、今でも思う。この日の事を忘れたいと。
▼▼▼
「おーい、トムラ。雄英から仕事の依頼だぜ」
神野区の片隅にある三階建ての建物。一階はbarになっており、二階三階は崩壊ヒーロー「トムラ」の事務所兼自宅となっている。
担当していた事件の後処理も終わり、久方ぶりの休みという事で、日中から店主の作るカクテルを楽しんでいたトムラの所に、事務員として雇っているトカゲの姿をした異形系の青年が降りてきた。
「あ?体育祭はまだ先だろ?それに、ウチは去年やったばかりで、今年の警備は他の事務所が担当だろうが、秀一」
「知らねぇよ、アイスメイカーからの依頼だ。仕事内容はわかんねぇけど、OFAの後継者を見たくない?って伝えてくれって言われてよ」
「···分かった。だが、今は休暇中だ。また明日こっちから直接連絡するって言っとけ」
「へいよ、大将」
二階に戻っていくトカゲ青年の背中を見送りながら、トムラはグラスに残っていたカクテルを一息に飲み干す。
「OFAの後継者···か。マスター、おかわりだ」
「はいよ、何か嬉しそうだな」
「別に」
車椅子に座ったマスターが、個性の雲を器用に使って注文の品をトムラの前に置く。
「俺にどんな事をさせたいんだ?先生」
トムラ、もとい志村転弧は、かつて自分を救い導いてくれた恩師の顔を思い浮かべながら、グラスを傾ける。
「ただいまです、トムラ君」
「何事もなく終わったわよ、社長」
「俺達にかかれば簡単な仕事だったぜ。ピンチだったよ!!」
「おじさんは疲れたよ」
騒がしく帰ってきたサイドキック達。
彼らとの縁も、あの人が繋いでくれた物。今回の依頼で、少しは恩を返せるかな。
評価と感想をよろしくお願いします。