「いやー、ゴメンねぇ。私の早とちりで、緑谷君には迷惑かけてさ」
「へ、あ、いや、全然!大、丈夫だよ!」
八木さんが、アハハ~と苦笑しながら僕に謝ってくる。
怪我をすることなくテストを乗り越えられた事に安堵していたのも束の間、僕がオールマイトの隠し子なんじゃないかと勘違いした八木さんに連れ去られ、僕とオールマイトの関係性をカミングアウトしたり、八木さんがオールマイトの娘だって衝撃暴露されたりと、怒涛の展開を終えて僕はもう疲労困憊です。
「でも、受け継いで1ヶ月ちょっとでそこまで使いこなせるなんて、緑谷君て凄いね」
「そ、そんな事ないよ。まだ、ほんの数%しか扱えないし、発動時間も短い。ちょっとオーバーするだけで自分の体を破壊してしまうし···」
「大丈夫大丈夫。お父さんだって、すぐに使いこなせた訳じゃない。焦らず、じっくりやっていけばいいんだよ」
「うん、ありがとう八木さん」
「頑張れ、平和の象徴の後継者!!ただし、No.1の座は譲らないからねっ!!」
「い゛っ!!!」
八木さんが、僕の背中を思いっきり叩いて、女子更衣室に入っていった。僕は、痛む背中を擦りながら、拳を握って気合いを入れ直す。僕だって負けない。どんな困難が待っていたとしても、託された思いと力を無駄にしちゃいけないから。
このすぐ後、飯田君と麗日さんに八木さんとの関係を問い詰められて、説明に苦しむという困難に見舞われるとは、この時の僕は露程も思っていなかった。
▼▼▼
「おい、ゆっ···八木」
「意外、人の名前覚えられたんだね、爆豪勝己君」
「うるせぇ、ちょっとツラ貸せや」
下駄箱で靴を履き替えてると、爆発君こと爆豪君が声をかけてきた。口調は相変わらずだけど、ちゃんと私の名前を言ったし、何かショックを受けてる感じ?あんま、覇気を感じない。
「ん~、あんま人に聞かれたくない内容?」
「···テメェとクソデクとオールマイト。こう言や分かんだろ」
「んげ、盗み聞きしてたの!?あちゃー、周りに人居ないと思ってたけど、焦って見落としてたかぁ。OK、ここじゃ何だから家来て話そう、歩いてすぐだから」
頷いて大人しく後ろを着いてくる爆豪君。クソデクってのは緑谷君の事だろう。テストの時も、緑谷君が好成績を出す度に変な驚き方をしてたし、何か因縁でもあるんだろうなぁ。ホント、初日から色々有りすぎだよ。
メールでお父さんとお母さんに事情を伝えて、出来るだけ早めに帰ってきて欲しい事を付け加える。
「お茶入れてくるから、適当に座って待ってて。机のお菓子は食べてもいいよ」
「···ああ」
素直な爆豪君て、何か調子狂うなぁ。そんな事を思いながら、温かいお茶を注いだ湯飲みを二つ持って、一つを爆豪君の前に置く。
「で、どこまで聞いたの?」
「クソデクがオールマイトの個性を受け継いだ事。テメェがオールマイトとアイスメイカーの娘だって事までだ。職員用休憩室に入ってから聞いてねぇ。あんな所で話し始めるんじゃねぇよ」
「盗み聞きする君もどうかと思うけど、次から気を付ける。それで、爆豪君は何が聞きたいの?」
「何でアイツが選ばれたんだ。無個性で雑魚で弱っちくて何も出来ねぇクソデクが選ばれたんだ!何で、俺じゃなくてアイツ何だよ!!」
感情が高ぶって、机を殴ろうと拳を振り上げ止まる爆豪君。流石に、人ん家だからと思い止まる理性は残ってたようだ。
「理由は君が今言った通り、無個性で雑魚で弱っちかったから」
「んだよ、それ···」
「ヘドロ事件、当事者の君なら説明する必要無いよね。彼、個性も持ってないのに、手をこまねいてるヒーローの制止を振り切って、君を助けに飛び出したんだってね。確かに凄いけど無謀だよ、下手すれば犠牲者が二人に増えていたかもしれない。でも、彼は何度だって同じ事をするんだろうね」
一度言葉を切って、お茶を一口。爆豪君は、事件の事を思い出しているのか、俯いたまま悔しそうに歯を食いしばっている。
「どんな状況でも、助けを求める声に反応して飛び出してしまう危険性と、確かなヒーロー性。だから、お父さんは緑谷君に個性を譲り渡した。個性を受け継いでいく個性"One For All"を」
「ワンフォーオール。受け継いでいく個性···」
「さて、私が話せる事はこれだけ。後は、お父さんから直接聞いて。帰ってくるまで、ゆっくりしてていいから。ついでに、晩御飯食べて行って。爆豪君て、嫌いなものとかある?アレルギーとか。後、何かリクエストあれば作るよ」
「ねぇよ。···辛いのを頼む」
「辛いのねぇ、りょ~かい。あ、トイレはあっちね。そっちの奥の部屋がお父さんとお母さんの私室で、向かいがお父さんの書斎だから入らないように。手前が私の部屋。今から着替えてくるけど、覗かないでね?」
「誰が覗くかぁあ!!!」
爆豪君をからかうのは、やっぱ楽しいねぇ。
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「わ~た~し~が~、帰ってきた!!」「ただいま」
「あ、おかえり~」「マジで家族なんだな。お邪魔してます」
雪花からメールを貰って超特急で仕事を終わらせてから、妻と一緒に帰宅すると、私のジャージを着て、お揃いのオールマイトエプロンをつけて、娘と一緒に料理をしている爆豪君の姿が目に飛び込んできた。
何だろう、そういうんじゃないのは分かっているんだが、エンデヴァーがホークスを苛める理由が何となく分かった。ゴメン、ホークス君。今度から、余り止めてあげられないかも。
「待たせてすまない、爆豪少年。娘から聞いている。私が何故、緑谷少年を選んだか。その答えを知りたいんだったね」
「···ッス」
「なら、まずはご飯にしよう。その後、私の書斎に来なさい。君が納得行くまで、話をしようじゃないか」
「ご両親には、私からも電話させて貰ったわ。泊まっていっても構わないから、遠慮せず聞きたい事は全部聞きなさい、爆豪君」
「···ッス!ありがとうございます」
「ご飯の準備はすんでるから、早く二人は着替えてきて。ほら、ちゃっちゃっとやるわよ、爆豪君」
「わぁってるよ!!」
娘に促されて、部屋に戻ってスーツから部屋着に着替える。扉越しに、娘と爆豪少年の軽快な掛け合いが聞こえてくる。
「凄い顔しているわよ、あなた」
「ううむ、今ならエンデヴァーと旨い酒が飲めそうだと思ってね」
「はい?」
「娘さんを僕に下さいと言われる世のお父さん達は、皆こんな気分なんだろうか」
「プッ!バカな事言ってないで、しっかりと生徒の悩み相談してきなさい、オールマイト先生」
結局、爆豪少年は泊まっていく事になった。例え生徒であろうと、ラッキースケベは許さんからな。
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