八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

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第九十七話「乙女の聖戦~Valentine~#1」

 

 

 

 

「さぁ男共!女子からの義理チョコだ!持ってけ!!」

 

 2月14日。雄英高校も例に漏れず、甘い匂いに包まれていた。朝から、男女問わずソワソワしていたり、下駄箱を開けて項垂れる男子がいたり、机やロッカーの中を物色して項垂れる男子がいたりと、色々である。

 

「ありがとう!女子の皆!ありがたく頂かせてもらう!!」

 

 取り敢えず、朝一で女子から男子への義理チョコを配布。後は、各々のタイミングを見計らって、本命の相手に渡すだけである。因みに、女子で一番ソワソワしてるのは、A組は響香、B組はレイ子である。

 さて、皆どんな感じでバレンタインを過ごすのかなぁ。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「はい、ミル。Happy Valentine!」

「天喰君も、ハッピーバレンタイン!!」

「ありがとうなんだよね!メル」

「あ、ありがとう、波動さん」

 

 お昼、ミリオに伴われてやってきたのは、メリッサ·シールドさんのラボ。昨日、波動さんに「明日は、楽しみにしててね」と言われていたので、ある程度予想は出来ていたけど、だからと言って緊張しない訳ではない。

 だって、今年は「通形君にはメリッサさんがあげるんでしょ?だから、私は天喰君にだけだよ?」と宣言されてしまったから。しかも、クラスの皆が居る前で。ああ、今思い出しても胃が痛い。

 

「ほらほら、開けてみて」

「ミルも」

「う、うん」

「じゃあ、開けてみるんだよね」

 

 結ばれたリボンを丁寧にほどき、包み紙を破らない様に慎重にめくり、生唾を一回飲み込んで、箱の蓋をそっと開ける。

 

「···っ!」

「わお!」

 

 そこに入っていたのは、俺。厳密には、デフォルメされたヒーロースーツ姿の俺の形をしたチョコ。その下に、LOVEと書かれたハート形のチョコも。ミリオの方も、デフォルメされたミリオにLOVEと書かれたハート形のチョコ。

 

「これは凄いね!食べるのが勿体ない位だよ」

「う、うん。このまま、溶けないようにして永久保存したい」

「チョコは食べ物だよ?飾りじゃないよ?」

「私達の気持ち、ちゃんと食べてくれなきゃ悲しいわ」

「···えっ?き、き、気持ち?!?」

「それは、食べない訳にはいかないよね。それとも、メルが食べさせてくれる?」

「あら、じゃあはい、私の気持ち、あ~ん」

「あ~ん!うん、とても美味しいんだよね!」

 

 ハートのチョコを、メリッサさんに食べさせて貰うミリオ。今、メリッサさんの指も、ちょっと口の中に入ってなかった?メリッサさんも、嬉しそうに指舐めないで。そういうのは、二人っきりの時だけにしてほしいんだけど。

 

「···」ジー

「···」

「···」ジー

「···」

「ジー」

「···」

「もう!はい、天喰君!!あ~ん!!」

「えっ!あ、あの!は、はどうさんっ?!?」

 

 波動さんが、ハートのチョコを取って、俺の口先に差し出してくる。

 

「もう!早くしないと、チョコ溶けちゃうよ」

「天喰君、女の子に恥をかかせちゃダメよ」

「環、男を見せる時なんだよね!」

「えっ、うっ、あ、あ、あーん」

 

 あ、ちょっと、波動さんの指も·········。

 

「きゅぅ」バタン

「天喰君!!?どうしたの?いきなり倒れるなんて、不思議」

「環にしては、頑張ったんだよね」

「ふふ、これから楽しみね」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「今日はここまで、風邪引かないように、しっかり汗拭いとけよ。鍵閉めたら、いつもの様にな」

「ハァハァ、はい、ありがとうございました」

 

 放課後の相澤先生との特訓。少しは強くなってる筈なんだけど、まだまだ足下にも及ばないな。仰向けにぶっ倒れたまま、相澤先生の背中を見送っていると、出入り口の所で入れ替わるように、柳さんが入ってきた。

 

「心操君」

「···柳さん」

「お疲れ。はい、これ」

「···ありがと」

 

 恐らく、相澤先生に渡されたであろうゼリー飲料を、俺の顔の横に置く柳さん。惜しい、もうちょっとで覗けそうだったのに。

 

「······何?」

「···いや、あと少しで役得だったなぁと」

「はっ?」

「後、ちょっとまだ動けそうにないから、膝とか貸してくれると嬉しいなと」

「······ちょっとだけ、今日だけだからね」

「えっ?」

 

 柳さんが俺の頭を持ち上げて、頭の下に膝が来るように座った。そっと、頭を下ろされ、布の感触と人肌の温もりを感じる。対抗戦の時のヒーロースーツよりも、布地の薄い制服のスカートだから、体温は余計にしっかりと。

 

「···ありがとうございます」

「···もう、一ヶ月切ったわね。仮免試験、頑張りなさいよ」

「ああ、すぐに追い付いてやる」

「雄英潰し、気を付けて」

「全部跳ね返してやるさ」

「そう···はい、もういいでしょ」

「ええ~、もうちょっと」

「頭落とすよ」

 

 本気で落とされそうなので、渋々体を起こす。で、向き合う様に胡座をかく。

 

「···な、何?」

「わざわざ会いに来てくれて、何か渡してくれる物があるんじゃないかなぁと期待してる」

「·········これ、どうぞ。味は、あんまり期待しないで。後、言っとくけど、そういうんじゃないからね!!」

「ありがと。···うん、美味しいよ」

「···お世辞はいいから」

 

 頬を赤くして、そっぽを向く柳さん。知ってる?柳さん。チョコって、一種の興奮剤何だってさ。

 生チョコを一つ、口に咥える。左手を柳さんの右頬、右手を柳さんの下顎に当てて、上向かせつつこちらに顔を向けさせ、口を半開きにさせる。

 そして、咥えたチョコを、柳さんの口内に押し込み、自身の口で蓋をする。

 

「っ!!!?!」

 

 ジタバタ暴れ様とするけど、左手を柳さんの後頭部に回して、更に押し倒す。

 

「っ!?!っ!っ!!?!!?···ぷはぁっ!!はぁはぁ、いきなり何すんの!!」

「ちゃんと、甘くて美味しかったでしょ?」

 

 チョコを嚥下したの確認し、名残惜しくも唇を離す。荒く上下する胸が、堪らなく男を刺激してくる。

 

「ねぇ、柳さん。仮免受かったら、柳さんに伝えたい事があるんだ。時間、作ってくれる?」

「······受かったら···ね」

「うん、何がなんでも合格するから」

「······それはいいから、さっさと退きなさい!!」

 

 

「···そのほっぺた、どうした、心操」

「···ちょっと、調子に乗り過ぎました」

「···そうか。しっかり冷やしとけよ」

「···はい」

 

 そう言って、右頬に季節外れの紅葉を咲かせた心操を、ため息混じりに見送る、相澤先生であった。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

「ん」

「あ~ん···う~ん、そうだな、60点て所か。混ぜが甘かったな」

「ん~」

 

 唯の家にお邪魔して、唯が手作りしたガトーショコラを、唯に食べさせて貰いながら採点する俺。忌憚ない意見をと念を押されたから、そこそこ辛口コメントを口にする。

 正直、手作りかつあーんして貰えるなら、それだけで120点なんだけどな。

 

「独り立ちには、まだまだだな」

「ん」

 

 ちょっと落ち込む唯の頭をポンポンしてやりながら、最後の一欠片を口にする。その余韻を楽しみつつ、紅茶で喉を潤す。

 

「ご馳走様でした」

「ん」

「じゃあ、俺はそろそろ「んっ!」···まだ、何かあるのか?唯」

「···んっ」

「あっちって、唯の部屋だろ。部屋で待ってろって?」

「ん」

「···分かった」

 

 唯に言われるがまま、初めて、唯の部屋に足を踏み入れる。女の子らしい、可愛らしい部屋。どこに足を踏み出していいか分からず、頭が真っ白になって立ち尽くしていると、後ろで扉の開く気配がした。

 

「ああ、ゆ···ってええええ!!!!」

 

 そこに居たのは、下着姿の唯。

 

「えっ!?ちょっ!えっ??!」

「力道···」

「き、きがえか?!おれ、そとにでてっから」

「力道」

 

 慌てふためく俺とは裏腹に、ゆっくりと近づいてきて、後ろから抱きしめてくる唯。その手は、淀みなく制服のボタンを外し、ベルトを緩めてくる。

 

「あの?唯さん?!?」

「···今日、親、遅くまで帰ってこない。だから···」

「···本当に、いいのか?」

「······ん」

「唯」

「力道」

 

 

 砂藤力道は新発見した。個性が発動すると、アレもでかくなるんだと。

 小大唯は、安堵した。自身の個性で、ゴム製品のサイズを変えられる事を。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「······」

「フミカゲ、タベナイノカ?」

「······」

 

 常闇踏影は、自身の勉強机に座って、机の上に置いてある物を、腕を組んで見ていた。

 

「ハヤクタベナイト、モッタイナイゼ」

「···分かっている」

 

 相棒でもあるダークシャドウの言葉に返事をするも、一向に手は動かない。そこにあるのは、蛙吹梅雨の弟妹が、母親と共に作ったアップルパイ。それは、紛れもなく蛙吹梅雨の顔を再現していた。

 チラッと、横に置いてある手紙に目をやる。

 

『常闇兄上、"早く"食べてくださいね』

 

 綺麗な字で、そう書かれている。

 

「くっ、俺はどうすれば」

「イヤ、ダカラタベヨウゼ?」

 

 

 

 




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