八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

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第九十九話「乙女の聖戦~Valentine~#3」

 

 

 

 

「うう···」

「流子、いつまでそうしている気?早くしないと、他のお客さん来て、渡す所じゃなくなるわよ」

「わ、分かってるわよ···ふぅ~、然り気無く、自然に、普通に、何事もないように···」

「···先に行ってるわよ」

「まままま待って信乃!!一人にしないで!!」

「だったら、後10秒で扉を開けて中に入りなさい。それ以降は待たないからね」

「うう···信乃~」

「はぁ、私だって、これでもドキドキなんだからね(小声)」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「あ、鉄哲」

「切島か、こんな所でどうしたよ」

「お前こそ」

「俺は、荊を待ってるだけだよ」

「俺だって、三奈にここで待ってろって言われたから」

 

 俺も男として、今まで気にした事はないと言えば嘘になる。ましてや、今回は、正式に彼女が出来て始めてのバレンタインだ。

 ドキドキして、待ち合わせ場所の校舎裏に向かったら、彼女ではなく野郎が立っていた時の、俺の心情を察してくれ。

 

「···」

「···」

「···場所、間違えてないだろうな?」

「···間違えてねぇ···筈。これって、ここで合ってるよな?鉄哲」

「···完全にここだな」

 

 不安になって、三奈から送られてきた、印の書かれた地図を鉄哲に見せると、苦虫を噛んだような顔で答えてくれた。

 お互い、何を話していいやら分からず、ただ無言で、時間だけが過ぎていく。

 

「ごめ~ん、お待たせ~」

「お待たせしてすみません。少々、準備に手間取ってしまいまして」

「気にすんな、三奈」

「別に、そんな待ってねぇよ、荊」

 

 漸く、待ち人である互いの恋人がやってきた。

 

「で、切島と同じ場所で待ち合わせ場所にしたのは何でだ?」

「そ、そうだ。わざわざ同じ場所じゃなくても」

「それはね~、これの為だよ!!」

 

 三奈が差し出してきたのは、中にチョコの入った、Aと書かれた袋と、Bと書かれた袋だった。

 

「どういうこった?」

「どちらかが、私が作ったものです。片方は三奈さんがお作りになられました」

「···で?」

「二人はよく勝負してるじゃん。という訳で、彼女の作ったチョコはどっちだ当て勝負!」

「「はぁぁああ!!!」」

 

 とんでもない事を言う三奈。え、いや、何で?

 

「だって、二人とも私らの事忘れて、勝負勝負やってんじゃん!それの意趣返しも兼ねて。見事当てればご褒美、外せば···」

「は、外せば···(ゴクリ)」

「それは、外した時にお教えします」

「···当てればいいんだな?」

「はい、是非当てて下さい、徹鐵さん」

「くっ、やってやらぁ!!」

「はい、じゃあAの方から一個ずつ取って食べちゃって」

 

 鉄哲と顔を見合せ、Aの袋からチョコを取り出し、恐る恐る口の中に入れる。チョコの甘さの中に、酸味を感じる。多分、柑橘系の何かだろう。

 

「では、次は此方を」

 

 促されるまま、Bの袋からチョコを取り出し、口の中に入れる。こっちは、爽やかな感じのチョコだ。なんというか、自然を感じるとでも言えばいいのか。

 

「さて、どっちがどっちでしょう!」

「へっ、分かってんだろうな、切島」

「···ああ、鉄哲」

「「三奈/荊のチョコはこっちだ!!」」

 

 俺はBを、鉄哲はAの袋を指差す。

 

「何で、そう思ったの?」

「「勘!!」」

「ふふ、では正解を発表いたします」

 

 二人は笑顔で顔を見合せ、鞄からラッピングされた箱を取り出す。

 

「「大正解!!」」

 

 三奈が差し出す箱にはBと、塩崎さんが差し出す箱にはAと書かれていた。

 

「「よっしゃーーー」」

「いい?もうちょっと彼女を大切にする事」

「でなければ、またイジワルを仕掛けてしまうかもしれませんよ」

 

 今度から、もう少し勝負の頻度を下げよう。そう、鉄哲と視線で会話して、改めてチョコを受け取る俺だった。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「すまない、百。待たせた」

「いえ、ご用事はもうよろしいのですか?」

「ああ、事務所に届けられた俺宛のチョコをどうするか、聞かれただけだからな」

「···どうされるのですか?」

 

 百が、少し不安そうな顔で覗き込んでくる。最近では、鳴りを潜めていたけど、生来の物なのか、百は時折自信を無くす。自分の中で生まれた不安を、無視できないとも言うべきか。

 I·アイランドや肝試しの時の様な、勇ましい言動はどこへやらだ。

 

「受け取る義理は無いからな、事務所で援助している孤児院とかに寄付して貰う。まぁ、変な薬とか入っている奴は処分して貰うから、いくつ残るか」

「結構ありますの?」

「親父が言うには、手作りにはもれなく、惚れ薬的なのだったり、本人の血液や、どこかの毛や皮膚や爪だったりが入っているらしい。配れるのは、市販の物だけになるだろう、と」

「···人の口に入るもの···なんですよね?」

「ホークスは、俺以上に凄かったらしい。自分の肉体や体液を、他人に摂取させる事で、洗脳の個性が発動するなんて輩から送られてきたとか」

「······ゾッとしますわね」

「俺は、家族以外だったら、百しか欲しくはないからな」

「えぇと、私"の"···ですわよね?」

「···それもある。でも、一番は百自身だな」

「っ!!」

 

 百の耳に口を寄せ、カプリと甘嚙みする。百は耳が一番の弱点だから、いつもとてもそそる反応をしてくれる。

 

「こら轟、正門前で何してるの」

「···骨抜、何の用だ」

「何の用だじゃなくて、そんな所で乳繰りあわれると、皆気まずくて通れないでしょうが」

「大丈夫?魂飛んでない?八百万」

「え、ええ。多少は慣れましたから、取蔭さん」

「···慣れる位されてんだ」

「兎に角、恋人同士のイチャイチャは、もうちょっと人目の少ない所でしなさい。ほら、行くよ」

「···ちっ」

 

 渋々、骨抜に押されるがまま、帰路につく。まぁ、またベッドの上で、百の反応は楽しむ事としよう。

 

 

「ねぇ、八百万。初めての時ってさ、どうやって誘った?」

「え?···もしや、取蔭さん」

「今日さ、一発狙ってみようかな、と」

「···ご武運を」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「おいトムラ!第五位様直々に、手作りのチョコを届けに来てやったぜ!ありがたく食いやがれ!!」

「···窓から入ってくんな、扉使え扉」

 

 荼毘の結婚式以降、何故か纏わりついてきて、勝負と称して抱かれに来る兎耳が、窓から事務所内に入ってきやがった。

 

「仕方ねぇだろ。入り口の所で、猫二人がモダモダしてやがんだよ。一人は店長の女だったぜ」

「···おい秀一」

「あ?どうした?何か書類ミスってたか?」

「違う、下でお前にお客さんだ。出迎えてやれ」

「分かった、電話番頼むな」

「ああ、さっさと行ってこい」

 

 「ミルコ、お疲れ様っす」何て言って、扉から一階に降りていく秀一を見送り、取り敢えず、電話機を手の届く所に持ってきておく。

 

「て、受け取れや!クソガキ!!」

「···ちゃんと、食べられる物なんだろうな。正直、アンタが手作りするとか、イメージ湧かないんだが」

「あ゛あ゛!!私だってなぁ!料理ぐらい···すこしは······できる」

「最後まで自信の持てよ」

「だああ!!いいから受け取ってさっさと食え!!」

「···今は勤務中だ、そこの冷蔵庫に置いといてくれ」

「駄目だ、今食え。つか、私が食わせてやる」

 

 此方が反応する前に、バビュンと一足飛びに、椅子に座る俺の上に跨がってきたミルコ。折角、丁寧に梱包してあるそれを、無惨に引きちぎりながら開け、チョコらしき物を取り出した。

 

「食え!」

「···あーん······普通だな」

「そこは上手いって言う所だろうが!!」

「悪い、俺は嘘もお世辞も言えない質でね」

「ぐぬぬぬぬ!首洗って待ってろ!!今晩こそヒィヒィ言わせてやるからなぁ!!!」

「···はぁ、そう言って、毎回ヒィヒィ言ってるのはどっちだ」

 

 捨て台詞吐いて、来た時と同様窓から飛び出して行ったのを、溜め息混じりに見送り、ミルコが置いていったチョコに手を伸ばす。

 

「···うん、普通に上手い」

 

 さて、今日はあの色ボケ兎を、どんな風にしてやろうか。

 

 

「おい、トムラ。見てくれよ、これ。洸汰君が俺の似顔絵書いてくれたんだぜ。あの子、本当に良い子だよなぁ。マンダレイも、律儀にチョコ作って持ってきてくれたし、今年のバレンタインが一番最高だぜ」

「···そうか、良かったな、秀一」

 

 弛んだ顔で、ガキ挟んで、秀一とマンダレイが並んで書かれた画用紙を見せてくる秀一。何とも、平和な日だことで。

 

 

 

 




コメントして下さった皆様、ありがとうございました。CPタグは追加せずに、現状のままでいこうと思います。

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