「うう···」
「流子、いつまでそうしている気?早くしないと、他のお客さん来て、渡す所じゃなくなるわよ」
「わ、分かってるわよ···ふぅ~、然り気無く、自然に、普通に、何事もないように···」
「···先に行ってるわよ」
「まままま待って信乃!!一人にしないで!!」
「だったら、後10秒で扉を開けて中に入りなさい。それ以降は待たないからね」
「うう···信乃~」
「はぁ、私だって、これでもドキドキなんだからね(小声)」
▼▼▼
「あ、鉄哲」
「切島か、こんな所でどうしたよ」
「お前こそ」
「俺は、荊を待ってるだけだよ」
「俺だって、三奈にここで待ってろって言われたから」
俺も男として、今まで気にした事はないと言えば嘘になる。ましてや、今回は、正式に彼女が出来て始めてのバレンタインだ。
ドキドキして、待ち合わせ場所の校舎裏に向かったら、彼女ではなく野郎が立っていた時の、俺の心情を察してくれ。
「···」
「···」
「···場所、間違えてないだろうな?」
「···間違えてねぇ···筈。これって、ここで合ってるよな?鉄哲」
「···完全にここだな」
不安になって、三奈から送られてきた、印の書かれた地図を鉄哲に見せると、苦虫を噛んだような顔で答えてくれた。
お互い、何を話していいやら分からず、ただ無言で、時間だけが過ぎていく。
「ごめ~ん、お待たせ~」
「お待たせしてすみません。少々、準備に手間取ってしまいまして」
「気にすんな、三奈」
「別に、そんな待ってねぇよ、荊」
漸く、待ち人である互いの恋人がやってきた。
「で、切島と同じ場所で待ち合わせ場所にしたのは何でだ?」
「そ、そうだ。わざわざ同じ場所じゃなくても」
「それはね~、これの為だよ!!」
三奈が差し出してきたのは、中にチョコの入った、Aと書かれた袋と、Bと書かれた袋だった。
「どういうこった?」
「どちらかが、私が作ったものです。片方は三奈さんがお作りになられました」
「···で?」
「二人はよく勝負してるじゃん。という訳で、彼女の作ったチョコはどっちだ当て勝負!」
「「はぁぁああ!!!」」
とんでもない事を言う三奈。え、いや、何で?
「だって、二人とも私らの事忘れて、勝負勝負やってんじゃん!それの意趣返しも兼ねて。見事当てればご褒美、外せば···」
「は、外せば···(ゴクリ)」
「それは、外した時にお教えします」
「···当てればいいんだな?」
「はい、是非当てて下さい、徹鐵さん」
「くっ、やってやらぁ!!」
「はい、じゃあAの方から一個ずつ取って食べちゃって」
鉄哲と顔を見合せ、Aの袋からチョコを取り出し、恐る恐る口の中に入れる。チョコの甘さの中に、酸味を感じる。多分、柑橘系の何かだろう。
「では、次は此方を」
促されるまま、Bの袋からチョコを取り出し、口の中に入れる。こっちは、爽やかな感じのチョコだ。なんというか、自然を感じるとでも言えばいいのか。
「さて、どっちがどっちでしょう!」
「へっ、分かってんだろうな、切島」
「···ああ、鉄哲」
「「三奈/荊のチョコはこっちだ!!」」
俺はBを、鉄哲はAの袋を指差す。
「何で、そう思ったの?」
「「勘!!」」
「ふふ、では正解を発表いたします」
二人は笑顔で顔を見合せ、鞄からラッピングされた箱を取り出す。
「「大正解!!」」
三奈が差し出す箱にはBと、塩崎さんが差し出す箱にはAと書かれていた。
「「よっしゃーーー」」
「いい?もうちょっと彼女を大切にする事」
「でなければ、またイジワルを仕掛けてしまうかもしれませんよ」
今度から、もう少し勝負の頻度を下げよう。そう、鉄哲と視線で会話して、改めてチョコを受け取る俺だった。
▼▼▼
「すまない、百。待たせた」
「いえ、ご用事はもうよろしいのですか?」
「ああ、事務所に届けられた俺宛のチョコをどうするか、聞かれただけだからな」
「···どうされるのですか?」
百が、少し不安そうな顔で覗き込んでくる。最近では、鳴りを潜めていたけど、生来の物なのか、百は時折自信を無くす。自分の中で生まれた不安を、無視できないとも言うべきか。
I·アイランドや肝試しの時の様な、勇ましい言動はどこへやらだ。
「受け取る義理は無いからな、事務所で援助している孤児院とかに寄付して貰う。まぁ、変な薬とか入っている奴は処分して貰うから、いくつ残るか」
「結構ありますの?」
「親父が言うには、手作りにはもれなく、惚れ薬的なのだったり、本人の血液や、どこかの毛や皮膚や爪だったりが入っているらしい。配れるのは、市販の物だけになるだろう、と」
「···人の口に入るもの···なんですよね?」
「ホークスは、俺以上に凄かったらしい。自分の肉体や体液を、他人に摂取させる事で、洗脳の個性が発動するなんて輩から送られてきたとか」
「······ゾッとしますわね」
「俺は、家族以外だったら、百しか欲しくはないからな」
「えぇと、私"の"···ですわよね?」
「···それもある。でも、一番は百自身だな」
「っ!!」
百の耳に口を寄せ、カプリと甘嚙みする。百は耳が一番の弱点だから、いつもとてもそそる反応をしてくれる。
「こら轟、正門前で何してるの」
「···骨抜、何の用だ」
「何の用だじゃなくて、そんな所で乳繰りあわれると、皆気まずくて通れないでしょうが」
「大丈夫?魂飛んでない?八百万」
「え、ええ。多少は慣れましたから、取蔭さん」
「···慣れる位されてんだ」
「兎に角、恋人同士のイチャイチャは、もうちょっと人目の少ない所でしなさい。ほら、行くよ」
「···ちっ」
渋々、骨抜に押されるがまま、帰路につく。まぁ、またベッドの上で、百の反応は楽しむ事としよう。
「ねぇ、八百万。初めての時ってさ、どうやって誘った?」
「え?···もしや、取蔭さん」
「今日さ、一発狙ってみようかな、と」
「···ご武運を」
▼▼▼
「おいトムラ!第五位様直々に、手作りのチョコを届けに来てやったぜ!ありがたく食いやがれ!!」
「···窓から入ってくんな、扉使え扉」
荼毘の結婚式以降、何故か纏わりついてきて、勝負と称して抱かれに来る兎耳が、窓から事務所内に入ってきやがった。
「仕方ねぇだろ。入り口の所で、猫二人がモダモダしてやがんだよ。一人は店長の女だったぜ」
「···おい秀一」
「あ?どうした?何か書類ミスってたか?」
「違う、下でお前にお客さんだ。出迎えてやれ」
「分かった、電話番頼むな」
「ああ、さっさと行ってこい」
「ミルコ、お疲れ様っす」何て言って、扉から一階に降りていく秀一を見送り、取り敢えず、電話機を手の届く所に持ってきておく。
「て、受け取れや!クソガキ!!」
「···ちゃんと、食べられる物なんだろうな。正直、アンタが手作りするとか、イメージ湧かないんだが」
「あ゛あ゛!!私だってなぁ!料理ぐらい···すこしは······できる」
「最後まで自信の持てよ」
「だああ!!いいから受け取ってさっさと食え!!」
「···今は勤務中だ、そこの冷蔵庫に置いといてくれ」
「駄目だ、今食え。つか、私が食わせてやる」
此方が反応する前に、バビュンと一足飛びに、椅子に座る俺の上に跨がってきたミルコ。折角、丁寧に梱包してあるそれを、無惨に引きちぎりながら開け、チョコらしき物を取り出した。
「食え!」
「···あーん······普通だな」
「そこは上手いって言う所だろうが!!」
「悪い、俺は嘘もお世辞も言えない質でね」
「ぐぬぬぬぬ!首洗って待ってろ!!今晩こそヒィヒィ言わせてやるからなぁ!!!」
「···はぁ、そう言って、毎回ヒィヒィ言ってるのはどっちだ」
捨て台詞吐いて、来た時と同様窓から飛び出して行ったのを、溜め息混じりに見送り、ミルコが置いていったチョコに手を伸ばす。
「···うん、普通に上手い」
さて、今日はあの色ボケ兎を、どんな風にしてやろうか。
「おい、トムラ。見てくれよ、これ。洸汰君が俺の似顔絵書いてくれたんだぜ。あの子、本当に良い子だよなぁ。マンダレイも、律儀にチョコ作って持ってきてくれたし、今年のバレンタインが一番最高だぜ」
「···そうか、良かったな、秀一」
弛んだ顔で、ガキ挟んで、秀一とマンダレイが並んで書かれた画用紙を見せてくる秀一。何とも、平和な日だことで。
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