八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

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第百話「乙女の聖戦~Valentine~#4」

 

 

 

 

「何か悪いねぇ。チョコだけじゃなく、晩御飯までご馳走になって」

「いえ、私がしたくてした事ですから。食後にデザートなど、どうでしょう」

「それは、嬉しいね。でも、チョコとは別にかい?」

「ええ、ここに一品。雌の竜など、いかがかしら?」

「ふふ、これはこれは。逆に、僕がデザートだったかな」

「あら、食べて頂いても、よろしいのですよ?出来るものなら」

「そこまで言われては。たまには、男として頑張ってみようかな」

「では、共に湯浴みでもしながら···」

「あ、でも、少しはお手柔らかに。種も仕掛けも丸裸にされた、しがないマジシャンですから」

「竜の逆鱗に触れなければ、考慮してあげますよ」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「はい、私達からバレンタインです」

「お返し、期待してますよ~」

「三倍返し、待ってます」

 

 インゲニウム事務所恒例の、所属女性ヒーローや女性事務員、女性研究·開発員による、男性達へのチョコ配り。インターンとはいえ、俺も事務所の仲間なので、参加するようにと兄から言われた。

 

「結局、今日一日、明君とは会えなかったな」

 

 メリッサさんから、明君もヒーロー科女子合同のチョコ作りに参加すると言われ、内心期待した所もあったのだが。学校内に居る気配はあった。しかし、どこに行っても姿を捉える事はできなかった。

 

『クケケケ。ま、漸くアイツも、そういう情緒が育ってきたという事だ。気長に待ってりゃ、あっちから姿を現すさ』

 

 そう言っていたの、パワーローダー先生。

 

「気長にとは、後どの位ですか、パワーローダー先生」

 

 女性の先輩ヒーローから手渡された、市販のチョコ詰め合わせを見ながら、少し溜め息をついた。

 

「はぁ、今年もこの義理チョコだけか。良いよなぁ、テンヤは。発目ちゃんから貰えてんだろ?」

「しかも、こんな大量生産品じゃなくて、手作りの本命チョコなんだろ?」

「羨ましいね~。俺もそんな青春が送りたかった!」

「何言ってんの。そんなだから、そんななのよ」

「そうそう、僻んでばっかいないで、モテる努力をしなさいな」

「え、いえ、俺も···女子陣が男子陣にとくれた物と、これの二つです」

 

 俺がそう言うと、和気藹々とされていた皆さんが、急に無言になられた。兄さんまで、驚いた表情をして僕を見ている。

 

「···天哉、発目さんから貰ってないのか?」

「今日一日、彼女とは顔を合わせてないんだ、兄さん」

「「「ええーーー!!!!」」」

 

 今度は、打って変わって絶叫が響き渡る。

 

「···発目さんに、連絡は取れるかい?」

「···私からしてみましょう。所長や天哉君がやるよりも、出てくれる可能性が高いでしょうから」

「···頼む」

 

 開発部のリーダーを勤める女性が、明君に電話を掛ける為に席を外された。

 

「兄さん···」

「天哉、俺の口から言うのはどうかと思うが···発目君はここ最近、よく俺に質問をしてきていたんだ」

「質問?」

「ああ、殆どがお前の事だったよ」

「···俺の···事」

「お前の好きな色、好きなデザイン、好みのチョコの種類、他にも色々と。今日を、とても楽しみにしていた様に見えたよ」

 

 明君が、そんな事を···。

 

「所長」

「どうだった?」

「発目さんには繋がらなかった。でも、お母さんとは連絡ついたわ。発目さん、帰ってからずっと部屋に閉じ籠って、泣いてるらしいわ」

「そうか。どうする?テンヤ」

「···どうするって······僕は···僕が行った所で···何も」

「テンヤ、俺は昔、ヒーローの本質ってのは余計なお世話だって教えられた。これの意味をずっと考えていた。そして、何が出来るかじゃなく、何がしたいか、何をしてあげたいかだと思ったんだ。もう一度聞くぞ、どうする?テンヤ」

「···どこでも駆け付けて、迷子の手を引いて歩くのがインゲニウム。······行ってきます、インゲニウム」

「ああ、行ってこい」

「レシプロ!!」

 

 行ってどうするか何て、全然頭にない。でも、ここで行かなければ、僕は。

 

「うおおおおおお!!!!」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「結局、女子全員からの義理チョコ一個だけだったな」

「まぁ、貰えただけでも良しとしよう」

「リア充死ね!リア充死ね!リア充死ね!!」

「峰田、お前本当にヒーロー志望何だよな?」

「折角だし、カラオケでも行って発散しようぜ」

「お、いいね。賛成」

「よし、じゃあ···って、あれ飯田じゃね?」

「ホントだ。あんな急いで、どうしたんだろうな」

「もしかしたら、あのサポート科の女子からチョコ貰えなくて、ショックでヤケ起こしたんじゃ」

「それはねぇだろ、峰田じゃねぇんだし」

「なんだとぉおおお!!」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「ここよ。明をお願いね、天哉君」

「ハァハァ···はい」

 

 明君の家に到着し、明君のお母上に部屋の前まで案内していただいた。

 

「スゥ···はあ~」

 

 深呼吸をして息を整える。そして、意を決して扉をノックする。

 

「···明君、俺だ、飯田天哉だ」

 ドタンバタンドンガラガッシャーン!ドタドタドンッ!!

 

 部屋の中から凄い音がして、大きな足音の後に、内側から勢いよく扉を押さえる音が聞こえた。

 

「···明君、そこに居るんだろ」

『か、か、か、帰って下さい!』

「君の顔を見たら、帰るよ」

『っ!』

「ここを、開けてほしい」

『ダメです!!イヤです!!早く帰って下さい!!』

「嫌だ、君の顔を見るまでは帰らない」

『···何でですか』

「そうしないと、俺はヒーロー失格になってしまう気がするから」

『···自分の為ですか』

「ああ、俺がそうしたいからだ」

『···私は、会いたくありません』

「それは何故?」

『会いたくないからです!』

「明君、俺は今日、とても楽しみにしていたんだ。君から、チョコを貰えるんじゃないかと、とても楽しみにしていたんだ」

『っ!!』

「用意···してるんだろ?」

『···自意識過剰ですね。ベイビーにしか興味の無い私が、何故チョコを作っている訳無いじゃないですか』

「なら、何で君は今日、俺から逃げるんだ?」

『に、逃げてなんかいませんよ』

「···明君、何かあったなら、俺に言ってほしい。俺は、君が心配何だ」

『···それは、未来の同僚としてですか?』

「君が好きだからだ」

『···えっ?』

「発目明君、君が好きだからだ」

『···』

「だから、顔を見せてほしい」

「······」カチャ

 

 扉が、ゆっくりと開いていく。そして、泣き腫らした目をした明君が、俺を見上げてくる。

 

「天哉さん」

「明君」

「···ごめんなさい」

「何を謝ると言うんだい?」

「···これです」

 

 明君が差し出したのは、焼け焦げボロボロになった包み。その中には、チョコだったとおぼしき物体が。

 

「浮かれて、いつもはしないミスをして、ベイビーの爆発でこんな事に。メリッサさん達と、頑張って作ったのに···」

「···」

「初めて、ベイビーに悪意を抱いたんです。それが、とても衝撃的で、頭ぐちゃぐちゃになって、そんな姿を天哉さんに見られたくなくて、こんなになってしまったチョコを見られたくなくて」

「···」

「自分が分からなくなって、何でこうなったのか皆目検討もつかなくて···でも、漸く分かりました。天哉さん、私も貴方が好きです、大好きです」

「明君」

「明日、作り直してきますので、その時は、ちゃんと受け取ってくれますか?」

「ああ、勿論だとも」

「えへへ、あれ···何か、とても眠くなりました······」バタッ

「明君!!?」

「zzz」

「明君!起きるんだ!!寝るなら、キチンとお風呂に入って着替えてからにしたまえ!!明君!!明くーーん!!!」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「「「Give me chocolate!!!」」」

「「うりゃハイ!うりゃハイ!うりゃハイ!」」

「何で即興のオリジナルソングを、息ピッタリにハモれるんだ?合いの手入れられるんだ?」

「さあ?ま、楽しけりゃ何でもいいんじゃね?」

「ま、そうだな。来年は、本命チョコ貰える様頑張ろうぜ!な、黒色」

「う、うん(言えない、小森さんから貰った何て、絶対言えない)」

「「「チョコをくださーーい!!!!」」」

 

 血眼になって熱唱する峰田·円場·泡瀬、タンバリンやマラカス持って合いの手入れる庄田·吹出、来年の抱負を語り合う回原·瀬呂達を見ながら、鞄の中に眠る、キノコの包装紙に包まれたチョコを思い、肩身を狭くする黒色君であった。

 

 

 

 




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