「何か悪いねぇ。チョコだけじゃなく、晩御飯までご馳走になって」
「いえ、私がしたくてした事ですから。食後にデザートなど、どうでしょう」
「それは、嬉しいね。でも、チョコとは別にかい?」
「ええ、ここに一品。雌の竜など、いかがかしら?」
「ふふ、これはこれは。逆に、僕がデザートだったかな」
「あら、食べて頂いても、よろしいのですよ?出来るものなら」
「そこまで言われては。たまには、男として頑張ってみようかな」
「では、共に湯浴みでもしながら···」
「あ、でも、少しはお手柔らかに。種も仕掛けも丸裸にされた、しがないマジシャンですから」
「竜の逆鱗に触れなければ、考慮してあげますよ」
▼▼▼
「はい、私達からバレンタインです」
「お返し、期待してますよ~」
「三倍返し、待ってます」
インゲニウム事務所恒例の、所属女性ヒーローや女性事務員、女性研究·開発員による、男性達へのチョコ配り。インターンとはいえ、俺も事務所の仲間なので、参加するようにと兄から言われた。
「結局、今日一日、明君とは会えなかったな」
メリッサさんから、明君もヒーロー科女子合同のチョコ作りに参加すると言われ、内心期待した所もあったのだが。学校内に居る気配はあった。しかし、どこに行っても姿を捉える事はできなかった。
『クケケケ。ま、漸くアイツも、そういう情緒が育ってきたという事だ。気長に待ってりゃ、あっちから姿を現すさ』
そう言っていたの、パワーローダー先生。
「気長にとは、後どの位ですか、パワーローダー先生」
女性の先輩ヒーローから手渡された、市販のチョコ詰め合わせを見ながら、少し溜め息をついた。
「はぁ、今年もこの義理チョコだけか。良いよなぁ、テンヤは。発目ちゃんから貰えてんだろ?」
「しかも、こんな大量生産品じゃなくて、手作りの本命チョコなんだろ?」
「羨ましいね~。俺もそんな青春が送りたかった!」
「何言ってんの。そんなだから、そんななのよ」
「そうそう、僻んでばっかいないで、モテる努力をしなさいな」
「え、いえ、俺も···女子陣が男子陣にとくれた物と、これの二つです」
俺がそう言うと、和気藹々とされていた皆さんが、急に無言になられた。兄さんまで、驚いた表情をして僕を見ている。
「···天哉、発目さんから貰ってないのか?」
「今日一日、彼女とは顔を合わせてないんだ、兄さん」
「「「ええーーー!!!!」」」
今度は、打って変わって絶叫が響き渡る。
「···発目さんに、連絡は取れるかい?」
「···私からしてみましょう。所長や天哉君がやるよりも、出てくれる可能性が高いでしょうから」
「···頼む」
開発部のリーダーを勤める女性が、明君に電話を掛ける為に席を外された。
「兄さん···」
「天哉、俺の口から言うのはどうかと思うが···発目君はここ最近、よく俺に質問をしてきていたんだ」
「質問?」
「ああ、殆どがお前の事だったよ」
「···俺の···事」
「お前の好きな色、好きなデザイン、好みのチョコの種類、他にも色々と。今日を、とても楽しみにしていた様に見えたよ」
明君が、そんな事を···。
「所長」
「どうだった?」
「発目さんには繋がらなかった。でも、お母さんとは連絡ついたわ。発目さん、帰ってからずっと部屋に閉じ籠って、泣いてるらしいわ」
「そうか。どうする?テンヤ」
「···どうするって······僕は···僕が行った所で···何も」
「テンヤ、俺は昔、ヒーローの本質ってのは余計なお世話だって教えられた。これの意味をずっと考えていた。そして、何が出来るかじゃなく、何がしたいか、何をしてあげたいかだと思ったんだ。もう一度聞くぞ、どうする?テンヤ」
「···どこでも駆け付けて、迷子の手を引いて歩くのがインゲニウム。······行ってきます、インゲニウム」
「ああ、行ってこい」
「レシプロ!!」
行ってどうするか何て、全然頭にない。でも、ここで行かなければ、僕は。
「うおおおおおお!!!!」
▼▼▼
「結局、女子全員からの義理チョコ一個だけだったな」
「まぁ、貰えただけでも良しとしよう」
「リア充死ね!リア充死ね!リア充死ね!!」
「峰田、お前本当にヒーロー志望何だよな?」
「折角だし、カラオケでも行って発散しようぜ」
「お、いいね。賛成」
「よし、じゃあ···って、あれ飯田じゃね?」
「ホントだ。あんな急いで、どうしたんだろうな」
「もしかしたら、あのサポート科の女子からチョコ貰えなくて、ショックでヤケ起こしたんじゃ」
「それはねぇだろ、峰田じゃねぇんだし」
「なんだとぉおおお!!」
▼▼▼
「ここよ。明をお願いね、天哉君」
「ハァハァ···はい」
明君の家に到着し、明君のお母上に部屋の前まで案内していただいた。
「スゥ···はあ~」
深呼吸をして息を整える。そして、意を決して扉をノックする。
「···明君、俺だ、飯田天哉だ」
ドタンバタンドンガラガッシャーン!ドタドタドンッ!!
部屋の中から凄い音がして、大きな足音の後に、内側から勢いよく扉を押さえる音が聞こえた。
「···明君、そこに居るんだろ」
『か、か、か、帰って下さい!』
「君の顔を見たら、帰るよ」
『っ!』
「ここを、開けてほしい」
『ダメです!!イヤです!!早く帰って下さい!!』
「嫌だ、君の顔を見るまでは帰らない」
『···何でですか』
「そうしないと、俺はヒーロー失格になってしまう気がするから」
『···自分の為ですか』
「ああ、俺がそうしたいからだ」
『···私は、会いたくありません』
「それは何故?」
『会いたくないからです!』
「明君、俺は今日、とても楽しみにしていたんだ。君から、チョコを貰えるんじゃないかと、とても楽しみにしていたんだ」
『っ!!』
「用意···してるんだろ?」
『···自意識過剰ですね。ベイビーにしか興味の無い私が、何故チョコを作っている訳無いじゃないですか』
「なら、何で君は今日、俺から逃げるんだ?」
『に、逃げてなんかいませんよ』
「···明君、何かあったなら、俺に言ってほしい。俺は、君が心配何だ」
『···それは、未来の同僚としてですか?』
「君が好きだからだ」
『···えっ?』
「発目明君、君が好きだからだ」
『···』
「だから、顔を見せてほしい」
「······」カチャ
扉が、ゆっくりと開いていく。そして、泣き腫らした目をした明君が、俺を見上げてくる。
「天哉さん」
「明君」
「···ごめんなさい」
「何を謝ると言うんだい?」
「···これです」
明君が差し出したのは、焼け焦げボロボロになった包み。その中には、チョコだったとおぼしき物体が。
「浮かれて、いつもはしないミスをして、ベイビーの爆発でこんな事に。メリッサさん達と、頑張って作ったのに···」
「···」
「初めて、ベイビーに悪意を抱いたんです。それが、とても衝撃的で、頭ぐちゃぐちゃになって、そんな姿を天哉さんに見られたくなくて、こんなになってしまったチョコを見られたくなくて」
「···」
「自分が分からなくなって、何でこうなったのか皆目検討もつかなくて···でも、漸く分かりました。天哉さん、私も貴方が好きです、大好きです」
「明君」
「明日、作り直してきますので、その時は、ちゃんと受け取ってくれますか?」
「ああ、勿論だとも」
「えへへ、あれ···何か、とても眠くなりました······」バタッ
「明君!!?」
「zzz」
「明君!起きるんだ!!寝るなら、キチンとお風呂に入って着替えてからにしたまえ!!明君!!明くーーん!!!」
▼▼▼
「「「Give me chocolate!!!」」」
「「うりゃハイ!うりゃハイ!うりゃハイ!」」
「何で即興のオリジナルソングを、息ピッタリにハモれるんだ?合いの手入れられるんだ?」
「さあ?ま、楽しけりゃ何でもいいんじゃね?」
「ま、そうだな。来年は、本命チョコ貰える様頑張ろうぜ!な、黒色」
「う、うん(言えない、小森さんから貰った何て、絶対言えない)」
「「「チョコをくださーーい!!!!」」」
血眼になって熱唱する峰田·円場·泡瀬、タンバリンやマラカス持って合いの手入れる庄田·吹出、来年の抱負を語り合う回原·瀬呂達を見ながら、鞄の中に眠る、キノコの包装紙に包まれたチョコを思い、肩身を狭くする黒色君であった。
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