八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

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第百一話「乙女の聖戦~Valentine~#5」

 

 

 

 

「皆、ちゃんと渡せたかなぁ」

「もう、拳藤が気を揉んでも仕方ないんじゃないかな?」

「そう···だよね」

「僕としては明日、貰えなかった男子諸君の怨み節を、どういう風に対処するか、それが心配の種だよねぇ」

「そっか、頑張れ物間」

「他人事だねぇ。そうだ、明日クラスの皆に、拳藤が作ってくれたチョコが、どれ程美味しく、いかに素晴らしかったかを、声高らかに語るとしよう」

「はぁっ?!?!」

「うん、そうしよう。では、僕はスピーチの内容を考えなければならないので、また明日」

「ちょ、待ちなさい!こら、物間ーー!!!」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「···」

 

 爆豪勝己はイライラしていた。

 もう放課後になるというのに、愛する恋人からチョコを貰えていないからである。日中、ずっと視線を送っていたのに、何の反応も示さず、普段通りの八木雪花。何度も日付を確認し、今日がバレンタイン当日だと確かめた位だ。

 

「···クソッ」

 

 当人は、既に教室には居ない。というより、残っているのは彼一人。仕方なく、乱暴に帰り支度を始める。

 

「······あ?」

 

 そして、気付いた。鞄の中に、掌サイズのラッピングされた箱が入っている事に。急いで取り出し、中身を確かめる。中に入っていたのは、チョコ一個と鍵。

 

「···家の鍵か」

 

 チョコを口に放り込み、鞄を肩に掛け、鍵を握り締めて走り出す。全力疾走で。途中、教員に注意された気もするが、そんなのはお構いなしに。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 物の数分で、家の前に着き、鍵穴に鍵を差し込む。開いた。

 家の中は、明かりも点いておらず、カーテンも閉め切られて真っ暗。ゆっくりと家に上がり、電気を灯すと、リビングのテーブルに、真っ赤なマフラーと"部屋にご招待"と書かれたメッセージカード、そして鍵。

 

「···」

 

 それらを手に取り、八木雪花の部屋に足を向ける。扉のハンドルを握り、一呼吸置いて中に入る。

 そこには、人一人入れそうな大きな箱が、デンと鎮座していた。箱には南京錠が付いており、"OPEN♥️"と蓋に書かれている。

 

「······」

 

 リビングにあった鍵を、南京錠に差し込む。すんなり開いた。蓋に手を掛け、勢いよく開ける。

 

「っ!!」

 

 そこには、自身の体に、服の上からリボンを巻いた八木雪花が、丸まって寝息をたてていた。

 

「···おい」

「···ん、ふあああ~。······あ、かっくん、やっときた」

「···何してやがる」

 

 声を掛けると目を覚まし、目を擦りながら、爆豪勝己を見上げてへにゃりとと笑い掛ける八木雪花。

 

「はっぴーばれんたいん。さぁ、めしあがれ?」

 

 丁寧にラッピングされた箱を差し出し、可愛らしく首を傾げる雪花。瞬間、勝己の頭の中で、何かがブチッ!と切れた。

 

「っ!きゃあっ!!ちょっ!まだ私じゃ無くてチョコ!!召し上がるのはチョコ!!!」

「うるせぇ、黙ってろ」

 

 目にも止まらぬ早業で、箱の中から雪花を抱き上げベッドに放り投げ押し倒し服をひん剥く。

 

「お仕置きだ、雪花」

「いやーーーーー!!!何か分かんないけどごめんなさーーい!!!!」

 

 

 その後、色んな体液でドロッドロになって、白目を剥きながらビクンビクンする雪花と、上機嫌にチョコを食べる勝己の姿が見られるのであった。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「若、壊理ちゃんがお見えです」

「分かった、社長室に案内しろ。幹部も全員呼べ」

 

 ヴィラン連合本社で仕事をしていると、音本が壊理の到着を知らせてきた。

 バレンタインなんぞに縁は無かったが、今年は壊理が、チョコを作ると張り切っていたので、親父も俺も、内心ウッキウキだった。レディナガンがついてくれてるので、味も問題ないだろう。問題があったとしても、笑って食べるけどな。

 

「治崎、来たか」

「はい、親父」

「···」ソワソワ

「親父、落ち着いて下さい」

「わ、分かっている」

 

 

 コンコン

「音本です。お連れしました」

「うむ、入れ」

「失礼します。壊理さん、どうぞ」

「しつれいします」「失礼します」

「おおー、よく来たな、壊理!筒美殿も、壊理の我が儘を聞いてくれて、感謝する」

「いえ、お構い無く。さぁ、壊理ちゃん」

「う、うん」

 

 可愛らしくラッピングされた箱を、しっかりと両腕で抱えて、慎重に運ぶ壊理。

 

「お爺ちゃん、ハッピーバレンタイン」

「ありがとう、壊理。開けてもいいかい?」

「うん!」

 

 親父が、ゆっくりと包装を開け、中身を取り出す。全員興味津々で覗き込む。

 

「「「おおーー!!!」」」

 

 感嘆の声があがる。そこには、立派なチョコケーキがあった。

 

「凄いな、よく頑張って作ったな、壊理。治崎、切り分けてくれるか?」

「はい、親父」

「お爺ちゃんは一番大きくね!」

「ふ、分かったよ、壊理」

「では、私はコーヒーでも入れますね」

「頼む、レディナガン」

「勤務外は、筒美と呼ぶよう言っているでしょう」

「すまない、慣れなくてな」

 

 言われた通り、親父の分を大きめに切って皿に乗せていく。全員分切り分け、筒美の入れてくれたコーヒーとケーキが並ぶ。

 

「では、頂くとしよう」

 

 親父が、ケーキを一口。壊理ちゃんが、不安そうに筒美のスカートをギュッと握っている。

 

「うん、美味いぞ、壊理。今まで食べた中で、一番だ」

「本当!お爺ちゃん!!」

「ああ、じいじが嘘をついた事なんてないだろ?ああ、でも、じいじにはちょっと量が多いな。壊理も一緒に食べてくれるかい?」

「うん!!」

 

 トテトテと親父の膝に収まり、親父に食べさせて貰う壊理。俺達も、それを確認してから手をつける。

 

「···どう?」

「ん、ああ、親父の言う通り、今までで一番美味いよ」

「良かった。パパも美味しいって、ママ」

「「「ブッ!!!!」」」

 

 壊理の予想外なトンデモ発言に、全員が吹き出した。親父もフォークを落とし、皿に当たってカチャンと音が響く。

 

「壊理···今なんと?」

「え?火伊那ママと作ったケーキ、廻パパも美味しいって言ってくれたって」

「壊、壊理ちゃん?!?!!?それは、二人っきりの時だけって約束···」

「あ···てへっ!嬉しくってつい、ごめんなさい、火伊那ママ」

「···レディナガン、壊理に何を教えたんだ」

 

 壁を背にして、顔を赤くしてアタフタしている筒美の顔横に手を勢いよく着いて、威圧感たっぷりに問う。

 

「違う違う!!私じゃなくて、壊理ちゃんから。それこそ、貴方の入れ知恵じゃないの?!」

「はっ?そんな訳あるか」

「壊理、どうなんだ?」

「私がそう呼びたいって思ったの、お爺ちゃん。火伊那お姉ちゃんをママって。廻さんをパパって」

「ふむ、そうか」

「こりゃ、今度から筒美さんじゃなくて、姐さんて呼ばなきゃいけねぇかもな」

「壊理ちゃんのパパとママって事は、若の奥さんて事だからな。俺達にとっては、姐さんになるな」

「「なっ!!」」

 

 幹部連中も、揃ってトンデモない事を言い始めやがった。

 

「くっ、治崎、一時撤退だ。このままここに居ては、なし崩し的に結婚させられかねん。私は、なし崩しなんて御免だ」

「わ、分かった」

 

 そして、全く一切回ってない頭のまま、レディナガンと共に、社長室から飛び出した。飛び出してしまった。

 

 

「なし崩しじゃなけりゃ、良いって事なのかねぇ?姐さんは」

「て事かもな」

「壊理、お前は本当に、あの二人に親になって欲しいのか?」

「···うん。ママとパパが、本当にママとパパになってくれたら、私嬉しい」

「そうか···(prrr)」

『私よ、急に何かしら?ヤクザの親分さん』

「よう、公安委員会委員長さん。そっちから預かってる嬢ちゃんの事なんだがよ、家のわけぇのとくっつけちまっても構わねぇかい?」

『···詳しい事はまた後で聞くけど、端的に言ってしまえば構わないわ。ヤクザの組員にしなければ、ね』

「分かった、また連絡する」

『ええ、そうして頂戴。うちの娘を、よろしくお願いね』

「へ、言われなくても。可愛い孫の母親になるかもしれねぇんだからな」pi

 

「おい、てめぇら。壊理の頼みだ、気張るぞ!!」

「「「おう!!」」」

 

「···はぁ、(prrr)私よ、行き遅れのドラ娘が嫁に行くわ、手を貸しなさい、ホークス」

『はいっ?』

 

 

「貴方、今まで壊理ちゃんにどんな教育してきたの!?」

「少なくとも、普通に育ててきたつもりだ!!」

「壊理ちゃんの母親は良いけど、貴方の妻にはなりませんからね!!」

「俺だって、父親はともかく、夫なんて御免被る!!」

 

 

 二人はまだ知らない。自分達が、既に四面楚歌となっている事に。最早、逃げる隙間もない程に、みっちり包囲されている事に。

 

 

 

 




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