それは、白雲朧とピクシーボブこと土川流子の結婚式二次会の時だった。
白雲の店に、トムラ事務所(トガ除く)、相澤·山田·香山·黒瀬の雄英教師陣、プッシーキャッツ、リューキュウ、ミルコ、荼毘、ホークスといった、友人·知人のみを集めて、気兼ねなく飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。
そんな中、その異変に真っ先に気付いたのは、長年の友人でありライバルでもあるリューキュウだった。
「ねぇ、ルミ。貴女、そんなにレモン好きだったかしら」
あのミルコが、酒ではなくレモネードを飲み、揚げ物についていたレモンを食べる。そんな姿を見て、自身の女性的勘の赴くまま尋ねる。
「あ?あ~、何か最近、無性に酸っぱいもんが欲しくなんだよ」
その言葉を聞いた者から、次第に静まっていき、あれ程騒いでいた店内がシーンとなって、ミルコに視線が集まる。トムラは、背筋に変な汗が出ているのを感じた。
「···何だよ」
「···最近、体調に変化は無いかしら?」
「別に」
「些細な事でもいいわ」
「···強いて言うなら、変に鼻が利くのと、変に体がダルい所為か、蹴りのキレが悪い···程度か」
「ルミ、明日一緒に病院行くわよ」
「何でだよ」
「いいから、行くわよ。トムラも、付き合いなさい」
「···ああ」
「だから、何でだよ!」
▼▼▼
『···ーロー協会より、ラビットヒーロー"ミルコ"の活動自粛が発表されました。自粛理由については、後日、記者会見の場にて発表すると···』
「······」
チャンネルを変えても、どこも同じ内容のニュースばかり。子供も成長し、自分の元から巣だって行って、かつてよりも、自身の中で折り合いがつけられる様になったとはいえ、未だに、ヒーローという言葉を聞くと、口の中に苦いものを感じる。
「では、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
受付を済ませ、バケツ·雑巾·菊を受け取る。
殉職ヒーロー共同無縁墓地。ヒーロー活動中に、何らかの理由で殉職してしまった、縁者の居ないヒーロー達が眠る場所。
その一角に、自分を捨てた母、志村奈々の墓がある。遺骨も遺灰もなく、ただ名前の掘られた墓石が立つだけの墓が。かの人から、ここ存在を教えられて数年は、決して足を運ぶ事は無かった。初めて来たのは、三年前。願掛けの様な思いで、訪れた。それ以降、毎年一回はここに来ている。
「···」
バケツに水を酌み、汚れの少ない墓石を拭き、生えている雑草を抜き、菊を備え、線香を焚く。そうしていると、足音が近付き、自身の後ろで止まった。
振り返った先には、自身の面影を残す一人の男が立っていた。
「···父さん」
「···俺に、ヒーローになった息子は居ない」
「···」
「···」
「···」
「······大きくなったな」
「···」
「···」
父さんと並んで、祖母の墓に手を合わせる。
「···元気にやっているか?」
「ああ」
「飯は、ちゃんと食ってるか?」
「ああ」
「怪我、してないか?」
「ああ」
「···そうか」
「···父さん、俺、結婚するよ」
「······そうか」
「相手は、ヒーローの女性だ」
「っ!!······そうか」
「···それと、子供が出来た」
「なっ!!!」
「今日は、それだけ伝えに来た。勘当されたとはいえ、俺が父さんの息子だってのは変わらない事実だから」
「······」
「じゃあ、俺、もう行くよ。これ、俺が返しておくから」
立ち上がり、父さんが使ったバケツ等を持って、出入口へ向かう。
「転弧!!」
「···」
「一人の親として、言っておく事がある」
「···」
「···最後まで、子供の側にいろ。老いて逝くまで、子供の親でいろ。ヒーローではなく、親として、死ね」
「···うん」
「······それと、今度、そのお相手を連れて家に来なさい」
「···うん」
▼▼▼
「まさか、ルミがそんなミスするなんてな」
「うっせぇ、後で薬飲む予定だったんだよ」
「ゴム無くなったからって、何で生でしたのよ。しかも、キッチリ中で出させるとか。せめて、外でしょ。というか、自分の危険日位把握しておきなさいよ」
「だああ!!萌も竜子も、うっせぇって言ってんだよ!!そういう気分だったんだよ!!わりぃか!!!」
「お前の方が、確実に過失割合高いな」
「トムラにとっては、貰い事故みたいな物でしょうね」
「うぐっ!!···萌だって、人の事言えねぇだろ」
「私はちゃんとしてたっての。その上で起きた、完全なる事故。ルミの、確実に防げたのとは別だって」
「まぁ、パートナーがちゃんと責任取ってくれる人で良かったわね。貴女達が復帰するまでは、私一人で頑張っておくわ」
「···いっその事、竜子も作る?」
「はっ?!」
「そうだ、それがいい!!休んでる間に、テメェに順位抜かされるのは癪だからな!!」
「何馬鹿な事言ってるのよ!私は、ちゃんと、その、プ、プロポーズ、とか、して貰ってから···ちゃんと、順番を···」
「よし、今すぐコンプレス呼んでこい!!」
「OK、旦那に連絡して貰う」
「ちょっ!待ちなさい!萌!ルミ!!」
「(ゾクッ)」
「どうしたの?Mr.、いきなり振り返って虚空見つめて」
「···いや、何か覚悟決めなきゃいけない予感が」
「何よそれ。まさか、アンタも所長みたいにリューキュウちゃんを···」
「いやいや、おじさんはちゃんとしてるから。避妊はバッチリだから」
「まぁでも、リューキュウちゃんも良い年齢なんだから、余り待たせちゃダメよ?」
「···分かってますよ、マグ姐さん」
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