「貴女、まだ結婚しないの?」
「···人を呼び出しておいて、開口一番何ですか?会長」
ヒーロー公安委員会の会長室に呼び出され、今度は何の任務なのかと思ったら。
「貴女の結婚式でするスピーチ文、もう5パターンも出来ちゃったわよ」
「知りませんよ、そんな事」
「良い体してるんだから、さっさと誘惑して抱かれちゃいなさいな」
「んなっ!!」
何をほざくか、このババァ。
「貴女がモタモタしてるから、こんなのが届いちゃったじゃない」
「···何ですか、これは」
「貴女と、お見合いしたいんですって」
「···はいっ?」
▼▼▼
「···ママ?」
「はっ!な、なぁに?壊理ちゃん」
「どうかしたの?手、止まってる」
「あ、ごめんね、石鹸流すわね、目を閉じて」
「うん」
いけないわね、ボーッとしちゃってたわ。
シャワーで、壊理ちゃんの髪から泡を綺麗に流しながら、会長から言われた事を思い出す。
『···お見合いですか』
『ええ、そうよ』
『···何でまた』
『さぁ、でも、お見合い相手の親、二ヶ月前に再婚したばかりでね』
『···』
『再婚相手の母親、旧姓を斎日というらしいわ』
『っ!!』
『そう、斎日壊理の実の母親よ』
「···ねぇ、壊理ちゃん」
「何?ママ」
「···もし······ううん、何でもないわ。はい、いいわよ」
「変なママ」
そう言って笑って、湯船に浸かる壊理ちゃん。
そうよ、私はただ、危険個性の個性暴走を監視する為だけに派遣された保護責任者。
家族ごっこをしてるだけの、ただの公安の女。
「はい、今日はここまで。明日も学校だから、もう寝ましょうね」
時計を見て、読んでいた絵本を閉じて、頭を撫でながら布団を肩まで掛けてあげる。
「···ママ」
「何?壊理ちゃん」
「パパと壊理と、ずっと一緒に居てね」
「···おやすみなさい、壊理ちゃん」
「おやすみなさい、ママ」
『斎日壊理が再婚した相手、確固とした証拠がある訳じゃないけど、ヒューマライズの信者と関わりがある可能性があるわ』
『···ヒューマライズ』
『貴女を使い、壊理を囲い込み、永遠の命を···何て、馬鹿げた計画でもあるのかしら』
『っ!』
『···法的には、斎日壊理の親権は、まだ母親に残っているわ。組長さんはヤクザだから、斎日壊理の親にはなれない。独身である治崎廻も、斎日壊理を養父になれない』
『······』
『···私に、命令させないでね?』
▼▼▼
「ただいま」
「おかえり~」
「···珍しいな、そんな酔っぱらう程飲んでいるなんて」
「そうかしら~」
仕事を終えて帰ってみれば、壊理の監視という名目で同居中なレディナガンの、妙なテンションに出迎えられた。
テレビも付けず、ただ、彼女の趣味ではない度数の高い酒を、コップに注いでは飲み干し、注いでは飲み干している。
「ぷはぁ~~」
「···何かあったのか?」
「べつに~」トクトクトク
「···やめろ。そんな酒臭い体で、壊理と寝るつもりか?」
「あっ···」
「(グビッ)···不味い、熟成が足りていない、これじゃ只の強い酒だ」
コップを奪い取り、一息に呷る。
「え~、おいしいのに~~」
「なら、お前の舌が馬鹿になったんだろうな」
「ひどいわ~」
「今日はもう終わりだ」
「いやよ、わたしのなんだから、かえして」
「···自棄酒の理由を言え」
俺の言葉に、ビクッとなって、泣きそうな顔で俺を見る。そして、足を抱えて膝に顔を埋め、ポツポツと言葉を紡ぎだした。
「···ねぇ、治崎。私、母親になっていいのかしら」
「···」
「公安のヒーローとして、人には言えない様な事もしてきた。私の手は、何人もの血で汚れている。こんな手で、あの子を抱き締めていいのかしら」
「···」
「ねぇ、治崎···私が、壊理ちゃんの母親になっていいの?」
顔を上げてこちらを見る顔は、迷子の子供の様だった。
「···俺は指定ヴィラン団体の人間だ。後ろ暗い事もやってきた、それこそ、人殺しもな」
「···」
「だが、その手で壊理に触れる事を、俺は躊躇ったりしない。組を、親父を守る為に、覚悟を決めて、自分の意思でやった事だからだ」
「···自分の意思で」
「それに、壊理が言ってるんだ。お前に母親になって欲しいと。なれるかどうかじゃなく、お前がなりたいかどうかだ」
「私が、なりたいかどうか···」
「俺は、壊理の意思を尊重する。アイツが望んだなら、俺はソイツと共に親として隣に立つ。よっぽどじゃない限りだがな」
「···私は、そのよっぽどに入るのかしら?」
「···少なくとも、壊理の授業参観を任せてもいい、とは思っている」
「···何よそれ」
さっきまで泣きそうだったのに、クスクスと笑うレディナガン。
「ねぇ治崎、私と籍を入れて、壊理ちゃんを養子にしてくれる?」
「理由による」
「壊理ちゃんを狙っている奴らがいるわ。ソイツらは、壊理ちゃんの実の母親を抱き込んでいるの」
「ちっ、面倒な」
「しかも、回りくどい事に、私に見合い話を持ってきたわ」
「···馬鹿なのか?ソイツらは」
「馬鹿なんでしょうね。で、どうするの?」
「明日、親父に話を通してからだ。だが、書類の準備は任せた」
「ええ、分かったわ」
「···式はするのか?」
「···壊理ちゃん次第ね」
「···そうか」
「···子供は、必要?」
「···壊理次第だ」
▼▼▼
「そう、分かったわ。ああ、良いのよ、そっちはこっちで片付けておくから。御祝儀とスピーチは任せなさいね(pi)。···はぁ」
「ふっ、お上もお上で色々大変だな」
「あら、元はといえば、貴方の所の厄介事よね?」
「···孫に罪はねぇよ」
「娘さんの動向位、把握しておいて欲しかったのだけど?」
「···アイツは、もうカタギの人間だ。それに、結婚して家を出た時、もう二度と関わらないと約を交わしたからな。それを、破るわけにはいかねぇ」
「面倒臭いわねぇ、ヤクザって」
「オメェんとこ嬢ちゃんも、大概だろ」
「···否定出来ないわ」
「それで、二人にガキが出来たらどう扱えば良いんだ?」
「未成年の間は、お互い干渉しない事。将来どうするかは、その子の自由意思に」
「分かった。どうせ、俺が死んだら組は無くなる。ヤクザになる事はねぇよ」
「あら、そうなの?」
「ああ、ヴィラン連合さえありゃ、食うに困る事はねぇ。治崎も、納得してくれてるしな」
「そう、じゃあ二人···いえ、三人の新たな門出を祝って」
「ああ、門出を祝って」
▼▼▼
「パパ、ママ。壊理、弟か妹が出来るの?!!」
「「···」」
「···お爺ちゃんが、言ってたんだけど、ウソなの?」
「···壊理が、良い子にしてたら、本当になるかもな」
「本当?!ねぇ、パパの言ってる事本当!?ママ」
「え、ええ、本当よ。壊理ちゃ、壊理が良い子にしてたら、きっと」
「うん!壊理、良い子にしてる!!」
「···挑戦は、しましょうか」
「···仕方ない」
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