「···ゴクリ」
「大丈夫です!引子さん!!お腹引っ込めんと、そのまま」
「ええ、お茶子さん。フゥ~···行くわよ、引子」
かつての栄光が忘れられず、履けなくなっても捨てられずに、箪笥の奥に仕舞われていたズボンを手に、鏡の前に立つ緑谷引子と、それを見守る麗日お茶子。
深呼吸をして、ゆっくりとズボンに足を通す。ふくらはぎは通った、太股も入った、お尻も越えた、ファスナーも上がった、
「···ボタン、留まったわ。お茶子ちゃん!履けたわ!!私!履けたわ!!!」
「おめでとうございます、引子さん!!」
「お礼を言うのは私の方よ!貴女のお陰、貴女が居てくれたお陰よ!!」
「わぷっ!引子さん!溺れる!!」
それが個性なんじゃないかと思う位、目から涙を放水しながら、お茶子を抱き締めて跳び跳ねる引子。
愛息子が無個性を診断されてから、ストレスによって横幅がドーンとなっていた体。お茶子の厳しくも優しい指導の下、懸命な努力の結果、遂に、その当時に近い横幅にまでなった。
「光己さーん!!約束のエステ!!お願いしまーーす!!」
「ちょっ!引子さん、上!上着とらん!!」
上半身下着姿で外へ出ようとする引子を、慌てて止めるお茶子。そんな二人のドタバタな様子を、壁越しに嘆息する、緑谷出久なのであった。
▼▼▼
「ねぇ、田中さんの隣に居る人、誰?」
「見覚えはあるけど、誰だったかしら」
「何言ってるの、引子よ、引子」
「えっ!!緑谷さん!!でも、緑谷さんて、もうちょっとこう···ふくよかじゃなかったかしら」
「ダイエット、されたんですって」
「しかも、一年であそこまで細くなられたらしいのよ、凄いわよね~」
フフフ、皆驚いてる驚いてる。
三年振りの同窓会。皆の「え?誰?」って顔が面白くてたまらないわ。光己さんのコーディネートでバッチリだし、グリセリンのお陰でお肌もプルプルだもの。もう、口元がニヤニヤしない様にするのが大変大変。
「ねぇ、引子!どんなダイエットしたら、一年でそんな痩せれるの?!」
「教えなさいよ!いえ、教えてください!!」
「お願いします!何でもしますから!!」
「···正直、余りオススメはしないわ」
「そんな事言わないで、教えてよ~」
「そこまで言うなら···でも、特別な事なんてしていないのよ、本当に。これが、私がやっていたメニューよ」
「「「とれどれ~?···ヒュッ!!」」」
昔に比べてふくよかになった友人達に、お茶子ちゃんと出久考案の、ダイエットメニューが書かれた紙の写真を見せる。それを見て、皆絶句している。
それもその筈、お茶子ちゃんも出久も、私用に軽めに組んでおいたからって言っていたけど、トップヒーローを目指して、日夜訓練に励んでいる子達から見ての軽めだから、普通の人にとっては大分ハード。挫けそうになる心を、二人があの手この手で奮起させてくれなければ、私はここまで来れなかっただろう。
「···これ、本当にやったの?」
「信じられない···」
「こんなの無理よ~」
「まぁ、これは本当に最終盤のメニューだから。最初の頃は、全部1セットで終わりだったわ。それでも、中々だったけど」
「何処のジム?」
「ジムじゃないわ、息子とお茶子ちゃん、家で下宿してる息子の恋人ね、その二人が考えてくれたメニューよ。二人とも、雄英のヒーロー科に通っているから、凄い本格的でしょ?」
「お茶子ちゃんて、ウラビティの麗日お茶子ちゃんよね?家の息子ったら、去年の体育祭以来のファンなのよ」
「あら、家もなのよ。しかも、アレは絶対初恋よ。急に、"俺、雄英目指す!"何て言い出したのよ。何を目当てに行く気なのやら」
「それならまだマシよ。家なんか、旦那と長男次男がクリエティに鼻の下伸ばして、もう見てらんないんだから。まぁ、娘はショートのファンみたいだけど」
皆の口から出てくるのは、出久やお茶子ちゃんと同級生の子達の名前ばかり。テレビとかで、皆の活躍が時折出てくるけど、オールマイトの最初の生徒って事で、元々関心が高かったものね。皆、礼儀正しいし、こうやって褒められていると、出久が褒められているのと同じ位嬉しく思うわ。
「ねぇ、緑谷さん。一つ、お願いしていい?」
「何?」
「デク···出久君のサイン、貰って良いかしら」
「えっ?!」
「息子がね、デクのファンなの。一度、助けてもらった事があるみたいで、"僕も、デクみたいなヒーローになる!"って、勉強とか運動とか頑張ってるの。今度誕生日だから、そんな息子にプレゼントしてあげたくて」
「···分かったわ、息子に頼んでみるわね」
出久、貴方は本当に、ヒーローに成れたのね。頑張りなさい、皆がアンタを応援してるからね。
▼▼▼
「はっくしょん!」
「だ、大丈夫?!デク君」
「う、うん。誰かが噂でもしてるのかなぁ?」
「デク君のファンかもね」
「どんな人が噂したんだろう」
「···今、女の子を想像したんとちゃうよね?」
「ち、違うよ、そんな事してないよ!」
「ふふ、冗談や冗談······何か、固くなっとらん?」
「···お茶子さんの感触が、気持ち良くて。後、ジト目のお茶子さんが可愛くて」
「···仕方あらへんなぁ、後一回だけやからね」
「うん」
引子が感慨に耽っていた時、大人の目が無い事をいいことに、バッチリガッツリハッスルしている、息子と義娘(予定)であった。
「デク君の馬鹿!!一回だけ言うたのに!!」
「ごめんなさい!お茶子さんが可愛すぎて、一回じゃ収まりませんでした!!」
「···お風呂、連れてって」
「えっ?」
「色々ドロドロやから、お風呂で流したいの!でも、デク君の所為で腰抜けとるから、運んで言うとるの!!」
「は、はい!!」
「もし、お風呂で手ぇ出したら、一週間禁止やからな」
「···はい」
「それと、今週末発売のフィギュア「DXオールマイト(次は君だver)」も買うのも禁止やから」
「はいっ!!決して何もしません!!」
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