シャーーーー
「······」
部屋に響くはシャワーの音。
備え付けのダブルベッドに腰を降ろし、その音を聞きながら、トムラ事務所事務員の伊口秀一(22歳)(腰タオルのみ装備)は、混乱の真っ只中にいた。
何故なら、ガラス張りのシャワー室でシャワーを浴びているのが、この前店長と結婚されたピクシーボブと同じ、プッシーキャッツに所属し、出水洸汰君繋がりでそれなりに交流のある、マンダレイこと送崎信乃その人だから。
「······」
何で俺は、マンダレイとラブホテルに来ているのだろうか。送崎信乃の筋肉質だけど女性らしい丸みを帯びた、均整の取れた体をチラチラ見ながら、そんな事を思う伊口秀一であった。
▼▼▼
遡ること数時間前。
「かんぱーい」
「かんぱい」
今日は、来月に迫った雄英高校夏合宿の打ち合わせを、マンダレイと行った。ピクシーボブが、妊娠で活動休止した事で人手不足だからと、トムラ事務所に応援を頼まれたのだ。
と言っても、トムラは新婚だし、身重な奥さんの面倒を見なくちゃいけない。コンプレスも、ホテル最上階の夜景が綺麗な高級レストランで、リューキュウに指輪を贈って、式の準備や打ち合わせに忙しくしている。なので、雄英から送られてきた生徒達の資料を元に、誰を派遣するか話し合わなければいけなかったんだ。
「店員さーん、生おかわりお願~い、大で!」
「は~い、ただいま~」
「···今日は、ペース早いっすね」
「あら、そう?」
そして、打ち合わせも無事に終わり、良い時間だったので、晩飯も兼ねて居酒屋に来ている俺とマンダレイ。何度か、酒の席を共にした事はあるけど、二人だけでは初めてだから、変に緊張してしまう。そもそも、女性とサシでっての自体初めてだし。
「生、中で。後、串盛り合わせとタコ天を」
「生大おかわり~、軟骨と~トンテキ」
グビグビと、ビールを胃に流し込んでいるマンダレイを見ながら、料理を摘まんで自分のペースで飲む。いつもは、周りの世話(主にピクシーボブ)を焼いて、ゆっくり飲んでいるマンダレイなんだけど、何かあったのだろうか。
「でね、この前洸汰が、学校の体力テストで一位になったんですって。私達で鍛えてあげた甲斐があったわ」
「聞きましたよ。この前、洸汰君が嬉しそうに電話で話してくれた」
「あら、私には"別に、まだまだこれからだから"って、澄ました顔でいたのに」
「男ってのは、何才でも、異性には格好つけたい生き物だから」
「伊口兄ちゃん、ですものね」
ペースが早い意外に、別におかしな所はない。いつものマンダレイだ。
「にゃはは~、ごちそうさまでした~」
「ちょっ!待ってくださいよ、信乃さん!」
すっかり酔っ払って、陽気に居酒屋を出ていくマンダレイを、急いで会計を済ませて追いかける。こりゃ、どっかでタクシーでも拾わないと駄目かも。
「信乃さん、大丈夫ですか?タクシーで帰った方が」
「大丈夫大丈夫。それより、秀一君。一緒に行きたい所あるんだけど、いい?」
「っ!!え、ええ、構いませんけど」
「じゃ、行きましょう!」
上目遣いでそう尋ねられ、いつもより幼くも妖艶にも見えて、心臓が盛大に跳ねた。そして、ギュッ組まれた腕に当たる、む、胸の感触に、頭が噴火しそうだった。
そうして、連れ込まれたのが、冒頭のラブホテルであった。本当に、何故こうなった?!
▼▼▼
「あれ?伊口君、まだ帰ってきてないの?」
「ええ、マンダレイとご飯食べてくるらしいわよ」
「もしかしたら今頃、二人でしっぽりとしてるかもな!」
「しっぽりって何ですか?仁君」
「まさか、アイツにそんな度胸はねぇだろ」
「分からないよ~、マンダレイから誘われれば、そのまま流されちゃうんじゃないかしら?」
「だから、しっぽりって何ですか?仁君」
「あ~、伊口君ならありそうだね」
「あっちは猫だからな、パクっといかれるのは必然だな」
「余りに遅かったら、連絡してみるか」
「仁君!しっぽりって何なんですか!!」
「トガ、お前にゃまだ早い」
▼▼▼
「お待たせ、秀一君」
「い、い、いえ!!い、今来たところです!!」
「何それ、デートの待ち合わせ?」
「ひょえっ!?!」
俺の横に腰を降ろし、しなだれかかってくるマンダレイ。シャンプーの香りとか、濡れた髪とか、お湯で紅潮した顔とか、タオルがちょっとズレれば先っぽがこんにちわしそうな胸とか、ど、ど、ど、童貞には刺激がががが。
「···やっぱり、こんなおばさんとは、イヤ?」
「ひ、ひえ!きょ、きょ、きょう栄です!!」
「···本当?じゃあ、えい!」
「ふおっ!!」
マンダレイに押し倒され、ボフッとベッドに倒れこみ天井を見上げる。そして、体を這う指の感触と、腹から首筋にかけてツーっと登ってくる生暖かく湿った感触。
俺を見下ろし、唇を舐めるマンダレイに、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「し、信乃さん」
「何?秀一君」
「俺、責任取りますから!!」
「なら、これはいらないわよね」
そして、トカゲは猫に蹂躙された。
▼▼▼
「ラグドール、虎。ちょっと良いかしら」
「何かにゃ?」
「昨日の打ち合わせで、何かあったか?」
「いいえ。でも、二人に謝らないといけない事があるの」
「「?」」
「来月、もしかしたら私も活動休止するかも」
「「にゃにーーー!!!」」
「···大丈夫か?秀一」
「···トムラ、精根尽き果てるって、こういう事なんだな」
「···何か、精の付くもの頼んどく」
「···頼む」
「···童貞捨てた感想は?」
「···天国と地獄だった」
「···他に、欲しいものあるか?」
「···役所から、婚姻届貰ってきてくれ」
「···分かった。ご祝儀、弾むからな」
「···ついでに、給料上げてくれ」
「···考えとく」
何で君ら、すぐ襲ってしまうん?
最初の構想だと、デートとかご飯とかさせつつ、ピクシーボブの妊娠とか、迫リュープロポーズとかの報告をさせるだけの予定だったのに。サブタイも、「猫とトカゲと近況報告」だったのに。
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