八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

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第九話「八木雪花と戦闘訓練with反省会」

 

 

 

「負けちゃったんだ、僕」

 

 背中に感じるアスファルトの感触、ボロボロになって焦げ臭いヒーロースーツ、添え木代わりのパイプと一緒に右腕に巻かれた捕縛テープ。

 出会ってから、初めてかっちゃんとまともにぶつかり合った。OFAフルカウル5%、今まで書き込んできたノートの知識、限界を越えたフルカウル8%まで使ったのに。

 虐められるだけだった、馬鹿にされるだけだった。それでも、強い個性を持ってて何でも出来るかっちゃんは、最も身近な憧れの存在だった。

 

"憧れになりたい奴が、憧れを越えたい奴に勝てるかよ、出久"

 

 去り際に言い残していった、かっちゃんの言葉。励ましなのか、いつもの罵倒なのか。でも、初めてちゃんと名前を呼んでくれた。

 

「くやしいなぁ」

 

 ポロっと口から出た言葉は、誰に聞かれるでもなく空へと消えていく。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「た~だいま~」

「雪花、もう大丈夫なのか?」

「まぁ、ちと許容限界越えただけだからね~。体がダルいだけでなんともないよ」

 

 気が付けば、保健室のベッドでお世話になっていた私。キャパオーバーで気絶してただけだから、今日はゆっくり休みなと緑谷君を治療中のリカ婆に飴ちゃん貰って保健室を放り出された。制服に着替えて教室に戻ると、扉の所で焦凍と出くわした。私の鞄も持っている事から、届けに来ようとしてくれてたんだろうね。さんくす、従兄弟殿。

 対照的に、反対側の扉から帰ろうとしていた爆豪君は、此方を一瞥しただけで帰ろうとしやがった。私は、ととと~っと走って行って爆豪君の背中に飛び付く。

 

「ぬごっ!何しやがる、クソ雪女!!」

「おやおや、私のお陰で勝てたのにその態度は何?かっくん?」

「かっ?!??出久みてぇな呼び方してんじゃねぇ!つか、さっさと離れろ!!」

「ほーへーふ~ん、出久ね~。ま、その顔に免じて、明日のランチラッシュスペシャルで手を打とうじゃないか」

「なっ···ちっ、わあったよ。だからさっさと離れろ!!」

 

 耳まで真っ赤にしてカアイイ。口は乱暴だけど、無理矢理振り落とそうとしない所を見ると、一応は悪いと思ってるんでしょう。私は、そっと体を放してすっと前に回り込んでガバッとかっくんの顔を自分の胸に押し付ける。

 

「?!??!?!!」

「よしよし、雪花お姉さんから、頑張ったかっくんへのご褒美。何なら、揉む?」

「くかきけこかかきくけききこくけきこきかかかーーー」

「うわ!かっちゃん!!」

 

 訳分からん奇声を発して、丁度戻ってきた緑谷君を撥ね飛ばしながら、全力疾走で走り去って行くかっくんの背中を見送る。

 

「いやぁ、若いっていいねぇ」

「同い年だろ」

「八木!!訓練で勝ったオイラにもご褒美!!生でぶへっ!!!」

「峰田ちゃん、最低よ」

 

 この後、皆はめちゃめちゃ反省会してた。私は、響香と梅雨ちゃんに説教された、解せぬ。隠し撮りした、百と楽しそうに話をしている焦凍の写真を、轟家女性陣に送って憂さ晴らしだ。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

「あんのクソ雪女、羞恥心てもんがねぇのかよ」

 

 顔の火照りがまだ取れねぇ。

 俺だって、別に性欲ってもんがねぇ訳じゃねえ。ただ、そういうのにかまけてる暇が無かっただけだし、遠目には見ても近付いてくる女子が居なくて異性慣れしてないとかじゃ断じてねぇ!

 

「···口ん中いてぇ」

 

 初めて、出久にぶん殴られた。

 

『今日のヒーロー基礎学、私が担当するんだけどね。そこで、君と緑谷少年が戦う場を用意してあげよう』

『ハァハァ···教師としていいんかよ?』

『何がどうあれ、君達は一度しっかりぶつかるべきだ。ついでに教えてあげるといい、私に追い付きたい者と追い越したい者の違いを。言っとくけど、私は緑谷少年をOFAの後継者にしたが、私の後継者に指名した覚えはないんだよ』

 

 相変わらず、涙を浮かべた情けない顔だった。

 

『焦凍は私が抑えとくから、爆豪君は緑谷君と夕日の河原の如く殴り合いなよ』

『誰がするか、俺はクソデクをぶっ殺すだけだ』

『···私じゃ焦凍に勝てない。だから、勝って助けに来てね』

 

 でも、いつもの様に恐怖に体を震わせてはなかった。

 

『勝ちたい。僕は、君に勝ちたい。一番身近で、憧れた君に勝ちたいんだ!!!』

『やってみせろや!オールマイト気取りが!!』

 

 最後に見せた、無意識に自身の肉体限界を越えて個性を使った動き。一瞬死んだと思った。だけど、アイツは拳が当たる瞬間個性を切りやがった。

 あのままだったら、もしかしたら俺は···。

 

「クソッタレ、俺は全部を超えていくんだ」

 

 

  ▼▼▼

 

 

 

「本当にやるんですか?例年なら、二学期以降に行うものですが」

「今年のA組は、下に合わせるより上に追い付かせた方が伸びると思うの。貴方も、今日の戦闘訓練の映像は見たでしょ」

「···ええ。正直、上位とその他に開きがあるのは分かっていましたが、ここまでとは想定していませんでした」

「そんなになのか?」

「ああ、ブラド。B組なら、全員で自力を上げて行く従来の方法で十分伸びるだろう。だか、A組は下に合わせると上位勢の時間が無駄になる。上に合わせて下を引っ張り上げる方が合理的なのは確かだ」

「しかし、それでは着いてこれない者も多く出る可能性が···」

「今着いてこれないなら、プロになってもリタイアするのが目に見えているわ。それに、この子達は食らいついてきてくれるわ。だって、相澤君のお眼鏡に叶った子達ですもの」

「···分かりました。ですが、生徒達のメンタルチェック等の監視体制強化も合わせてお願いします。俺だって、別に生徒の夢を潰してやりたい訳じゃありませんから」

「分かってるわ」

「では、今度のヒーロー基礎学実習、僕が担当するUSJでの災害救助訓練でですね」

「ええ、先方には私から話をつけておくから、準備をお願いね、黒瀬さん」

「はい、八木先生」

「管君も、生徒達の様子に可笑しな点があれば報告して。端から見ればA組が特別扱いに見えるもの。変に拗らせて無茶する様な事になれば大変だから」

「ええ、分かっています。うちのクラスは、そんな事しなくとも皆高水準だという事の証明ですからな」

「言っとくが、クラスでは下だからといって、B組の生徒より下という訳じゃないからな」

「はいはい、お互いの生徒自慢はよそでやりなさい。私は、校長に書類出してくるから」

 

 そう言って、職員室を出ていく八木学年主任。

 俺は、手元にある書類に書かれた文章に再び目を通し、重いため息をつく。

 "ヴィラン襲撃時における対処訓練"、ヴィラン役·崩壊ヒーロー「トムラ」及びトムラ事務所サイドキック+オールマイト。

 

「訓練が終わった後、更地になってなきゃいいがな」

 

 




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