「くっ!百っ!」
「しょうっと、さん、っ!!···はぁはぁはぁ」
蜜月を終え、右隣に寝る恋人の腕を枕に、じっとその顔を見る。何となく、そっと顔半分を覆う火傷跡に手を添わした。
「貴方の火傷の事、お尋ねした事がありませんでしたわね」
「···気になるか?」
「お、起きておられたのですか?」
「目が覚めた。それで、気になるか?この火傷」
「教えて頂けるのですか?」
「まぁ、大した話じゃないからな。でも、悪いが明日で頼む、眠いんだ」
「きゃっ···もう、焦凍さんたら」
そう言って、体ごと此方を向き、しっかりと抱き締める様に私の胸に顔を埋められて、また静かな寝息を立てられる焦凍さん。
こうなってしまっては、下手な抵抗をすると、限界まで果てさせられた上で抱き枕にされてしまうので、朝起きられるまで大人しくしておりますわ。まぁごく稀に、男性の生理現象で、アレがお元気になられたままに、半覚醒で始められるのは止めて頂きたいのですけどね。
「もう、十年近く前になる。まだ、燈矢兄も中学生だったな。あの日、俺はコッソリと、燈矢兄が秘密の特訓で山に行くのを尾行していったんだ、どんな事をしてるのか、子供心に知りたくてな」
「何故、燈矢お義兄様は、わざわざ山に行かれていたのですか?家のトレーニング室の方が、設備も整っておりますのに」
「兄曰く、反抗期って奴らしい。冬花さんと編み出した、赫灼熱拳·冷を完璧にするまで、親父に見せたくなかったんだとよ。馬鹿な事してたってよく言ってる」
「それで、何があったのですか?まさか、森林火災になって?!」
「それはな···」
▼▼▼
「たく、バレバレ何だよ、焦凍」
「···ちゃんと隠れてたのに」
「コソコソしなくても、別に見せてやるってのに」
この前、個性を発現したばかりの末っ子が、膨れっ面しながら横をトコトコ歩く。
「でも、秘密なんでしょ?」
「糞親父にはな。母さんとか冬美とか夏雄とかお前とか雪花とかなら、別にいいよ」
「本当!」
「ああ。ただし、絶対に大人しく見るだけだからな。危ねぇから、真似して炎出したりすんなよ。兄ちゃんとの約束だ」
「うん、約束!指切り!」
「おう、嘘ついたら針千本飲~ます!」
「指切った!!へへ」
「じゃあ、行くぞ」
コッソリと、母さんにメールで焦凍も一緒だと伝え、焦凍と手を繋いで、特訓場所にしている山に向かって歩く。あんな事になるなんて、思いもせずに。
「エンデヴァー、少し良いか」
「警察が何の用だ」
「このヴィランを知っているか?」
「···知らん。コイツがどうかしたのか」
「三日前、殺人未遂でヒーローと交戦し、逃げられてしまったらしい。その時、コイツはこう言っていたとの事だ。"俺を終わらせてくれるのは、エンデヴァーだけだ!エンデヴァーを呼べ!俺を殺させろ!!"とね」
「···」
「此方でも行方を追っているが、そちらも周囲に気を付けておいてくれ。ヴィラン名は、エンディングだ」
「···分かった。······(prrr)冷、俺だ。子供達は、」
「に、兄ちゃん」
「焦凍!!」
「あの方の、息子。お前を殺せば、きっと、俺を終わらせに来てくれる!」
突然、ソイツは現れた。
赫灼熱拳·冷の発動と安定した維持に集中していて、少し離れて見ていた焦凍に、後ろから近付いていたソイツに気が付かなかった。
気付いた時には、焦凍はチョークスリーパーの様に首を絞められ、俺は奴の伸ばしてきた白い線に縛られてしまった。
「お前、何者だ!」
「俺は、エンディング。俺の望みは唯一つ。あの方に、エンデヴァーに、俺を終わらせて貰う事だ」
「ふざけんな!なら、今すぐ焦凍を離して、親父に直接挑めよ!!」
「駄目だ。それでは、あの方は俺を終わらせてくれない。ただ取り押さえ、捕まえるだけだ。故に、あの方が私を終わらせてくれる程の事をしなければ」
「く、くるしいよ、にいちゃん」
「焦凍ぉおお!!!止めろ!!やるなら俺を先にやれ!!!」
「さぁ、早く来い!エンデヴァー!!!」
酸欠で虚ろになっていく焦凍の目。
動け、動けよ!何の為に鍛えてきたんだよ!!ヒーローになる為だろ!!ヒーローはヴィランから人々を守る存在だろ!!動いてくれよ、俺の体、あんなキチガイにびびってんじゃねぇよ!!
「ひょっ!!」
「っ!!」
突然、奴が焦凍を放り投げた。焦凍の首を絞めていた奴の腕が、白銀にキラキラしてる。あれは、氷?まさか、焦凍の個性!!
「くっ!小癪なガキが!!」
「させるかよぉぉおおお!!!!」
怒りの形相で、地面に横たわる焦凍に向かっていくヴィランに、親父が空飛ぶ要領で手から炎を噴射して、思いっきり体全体で突っ込み、そのまま木に叩きつける。
気絶したのか、俺を拘束していた白い線が崩れた。
「はぁはぁ、クソッレヴィランめ······はっ!焦凍!!大じょっ!!!焦凍ぉぉおおおおおお!!!!」
慌てて、焦凍の方に振り向いたら、そこには、体の2/3が氷に包まれた焦凍の姿があった。焦凍の周囲も、次第に凍り付いていっている。
「っ!!」
慌てて駆け寄り、焦凍の体に触れた瞬間、俺の手が凍り付いた。くそっ、無意識の防衛本能が働いて、個性が暴走してやがる。このままじゃ、凍死しちまう。
「大丈夫だからな、焦凍。兄ちゃんが、絶対助けてやるからな」
生半可な炎じゃ駄目だ。例え、俺自身が燃え尽きたとしても、俺の全力の炎で、お前だけは。
「赫灼熱拳·冷」
▼▼▼
「で、この火傷跡が出来たらしい」
「すっ飛ばし過ぎですわ!!もう少し詳しくお願いしますわ!!」
何となく想像は出来ますが、"で"で終わらせないで下さいまし。
「正直、俺も覚えてないし、燈矢兄や親父から聞いただけだからな。燈矢兄が俺を解凍し続けてくれて、それで起こった水蒸気に近隣の人が気付いて通報、母さんも気付いて親父に連絡、急いで駆け付けた親父に二人とも救助されて病院に。この火傷は、その時氷で覆われていなかった部分で、燈矢兄の炎に皮膚が耐えられなかったから出来た、らしい」
「皮膚移植等は、なされなかったのですか?」
「移植しても、炎熱耐性の差で移植した皮膚が焼けるだろうからって。まぁ、俺も別に良いって言ったしな」
「何故?」
「···燈矢兄が、俺を助けてくれた証だから。この火傷跡が、燈矢兄のヒーローである証の一つ、だから」
「···焦凍さん」
「俺が、勝手に思ってるだけだけど」
「因みに、雪花さんは、その時何をされていましたの?」
「···雪花は、普通に寝こけてた。しかも、俺の火傷跡見て、『HA~HAHA!!焦凍が本当に焦げた!!』って腹抱えやがった」
「···雪花さん······」
エンディングは、現在もカウンセリングを受けながら、牢屋の中で過ごしています。
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