「行くよ、デク君」
「う、うん、お茶子さん。服、ちゃんと着てほしいなぁ」
静かに燃え上がるオーラを纏い、杵を上段に構えるは、ねじり鉢巻を巻き、法被に袖を通さずサラシを巻いただけの上半身をさらけ出したお茶子。
それを、臼の横で水に手を浸しながら、複雑な表情で見上げるは、同じくねじり鉢巻をして、法被の袖を捲った緑谷君。
「コォーー、行きます!!よいしょーーー!!!!」
そして、気合いの入りまくった掛け声と共に、杵が振り下ろされる。そう、只今轟家恒例の新春お餅つき大会の真っ最中。去年は、ヒューマライズ事件で出来なかったけど、毎年近隣の人達を呼んで、皆でワイワイしながら行っている行事である。
我が家に加えて、爆豪家や緑谷家も参戦。八百万家は八百万家で新年会があるから呼べず、逆にエンデヴァーの代理として、焦凍がそっちに行っている。恐らく、百の周りで野郎共を威嚇している事だろう。
「デク君遅い!よいしょーーー!!!!」
「は、はい!!」
それはさておき、最早、ヴィランと相対してるかの如く必至な表情で、フルカウル発動させて合いの手を入れている緑谷君。恐るべし、お餅に対するお茶子の情熱。
そんな共同作業を、奥様方は微笑ましく見守っている。中には、汗が日の光を反射してキラキラ光る、お茶子の玉のお肌に見惚れて、鼻の下伸ばす旦那を折檻する奥様の姿もチラホラ。
「ふぅ~~~!!完璧や!!!ホラ、デク君!!冷めん内に運ぶ!!!」
「は、はいーー!!!」
···頑張れ緑谷君。後で、お茶子という名のお餅を、しっかり頂くんだよ。
そっからは、いつもの和やかな餅つきに戻り、皆で交代交代で杵を振り下ろしていった。
「丸顔とクソデクに負けてられっか。俺が、つき殺してやるわ」
一人、とても物騒な事を言ってる輩が居るみたいだけど、全体を見れば和やかだ。そう、最愛の人から目をそらしながら、お汁粉用のお鍋を掻き回す私であった。
「······今や!!デク君!!海苔!!!」
「あちち!!はい、お茶子さん」
「砂糖醤油付けすぎ!!60点!!」
「ご、ごめんなさい」
「······そこや!!はい、引子さん、召し上がってください」
「あ、ありがとう、お茶子さん」
用意していた餅米は、無事に全部お餅になり、つきたてのお餅を皆で頂く。お雑煮したり、磯辺焼きにしたり、きな粉付けたり、お汁粉に入れたり、皆思い思いにお餅を楽しんでいる。
そんな中、やはり一人だけ異様に気合いの入った女子がいた。お茶子である。最早、職人芸とも呼べる見事な焼き加減で、お餅を焼いていくお茶子。緑谷君も、相変わらずアシスタントとして、お茶子の指示通りに、お餅に砂糖醤油付けたり、海苔を巻いたりしている。そんな様子に、緑谷君のお母さんも引き気味である。南無。
「雪花ちゃん、食べてる?変わるよ?」
「あ、冬美姉。大丈夫、かっくんが持ってきてくれて、ちょくちょく摘まんでるから。それに、久方ぶりの旦那様との逢瀬を堪能しとかないと、新婚さん」
「も、もう、からかわないの。啓悟さんは今、お父さん達とファンサービスの時間だから」
「旦那様が、粉掛けられないか、見張っとかなくていいのぉ?」
「大丈夫、しっかりと牽制しておいたから」
「ああ~、確かにやってましたね~、ブチューっと」
「それに···」
冬美姉が、意味深に自身の下腹部を撫でる。
「え、もしかして、おめでた?」
「うん、この前、お母さんと病院行ってみたら、出来てた。あ、まだ誰にも言ってないから、ナイショにしてね。ビックリさせたいから」
「OK、黙っとく。ホークス、どんな顔するだろ。鷹が豆鉄砲食らったみたいな顔するかな?」
「それを言うなら、鳩でしょ」
「そうとも言う。ふふ、おめでとう、冬美姉。また賑やかになるね」
「この子の為にも、世界の平和を守ってね、ヒーローさん」
「ドーンと、お任せあれ!!」
▼▼▼
「やぁ、八百万さん。新年おめでとう。相変わらず、君は美しいね」
「新年、おめでとうございます。相変わらず、お世辞がお上手ですね」
「世辞ではなく、紛れもない本心だよ。君以上に可憐な花を、私は知らない」
「可憐ではない花なら、よくご存知なのですね。申し訳ありません、パートナーが戻られた様なので、私はこれで。パーティーをどうぞお楽しみ下さい」
「あ、八百万さん!!」
毎年の事と言えど、懲りない方々ですわ。まぁ、お家の方々から、私とお近づきになれと命じられているのでしょうけど。せめて、鼻の下位戻してからにして欲しいですわ。
「悪い、大丈夫か?百」
「いえ、大した事ではありませんわ。ただ、パーティーよりも、餅つき大会に参加したかったと思っただけですわ」
「···抜け出すか?」
「いえ、私も八百万の人間。自らの責務を放り出す訳には参りません。焦凍さんも、ご自分の責務は全うして下さいね」
「ああ。と言っても、親父に頼まれた挨拶回りは終わったけどな。もう、お前の側を離れないでいい」
「そうですか、では、側で守って下さい、焦凍さん」
「勿論だ。·········今日は、ホテルに泊まるんだったよな」
「え?ええ、お義父様やお義母様には、明日新年のご挨拶に伺わせて頂く予定ですわ。それが何か?」
「いや、今年は姫初め邪魔されずにすむな」
「っ!!もう、焦凍さんの馬鹿!!」
「百が、魅力的過ぎるのが悪い」
「開き直らないで下さいませ!!それと、明日は初詣もありますので、多くて三回までかつ、余り激しいのも無しですわよ」
「······分かった、努力する」
「本当に、努力する気がありますの?」
「·········努力する」
「······どうしましょう、全く信用出来ませんわ」
▼▼▼
「HAPPY!!NEW イェアアアアア!!!!」
「「「かんぱーい」」」
「ぷはあ~~、今年もよろしくだZE!!白雲」
「ああ、子供も産まれるし、バンバン金落としてってくれよ、ひざし。あ、消太もな」
「友人にたかるな」
「予定日は、再来月でしたっけ?」
「白雲君も、とうとうお父さんなのね。時が経つのは早いわね~」
「香山先輩も、早く好い人見つけないと、お局様になっちゃいますよ」
「あら、言ってくれるじゃない。おあいにく様、心配されずとも、ちゃんと相手は見つけてあるから大丈夫よ」
「ええ!!!そうなんですか?!?いつのまに?!?誰ですか???!?」
「ちょっと、落ち着きなさい13号」
「お前は、知ってたか?山田」
「ん?ああ、まぁ、一応···」
「何だよ、歯切れ悪いな、ひざし。もしかして、先輩が結婚相手見つけてショックだとか?」
「ち、ちげぇよ」
「じゃあ、何だ」
「そ、そりゃあ···」
「そりゃあ、そのお相手が自分なんだもんね、山田君」
「ちょっ!!新学期まで内緒って言ったのそっちでしょうが!!サプライズするからって」
「あら、そうだったかしら?」
「···マジですか」
「マジよ、相澤君。アンタも、さっさとする事しちゃいなさいよ。女の寿命は、短いんだから、ね」
「あ、それはご安心下さい。2Aの子達が卒業したら、結婚する約束をしていますので」
「あら何よ、アンタもちゃんと出来るじゃない、イレイザー」
「······」
「フフ、と言う訳で白雲君。二次会の会場、提供よろしく。稼がせてあげるわよ」
「どうぞ、今後ともご贔屓に。あ、でも、格好はちゃんとしてくださいよ。子供の教育に悪いんで」
「分かってるわよ!!」
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