「っ~~!!」
「本格的な陣痛になるのが早いわね。萌、私は病院に連絡をしておくから、ルミさんの旦那さんに連絡をお願い」
「はい、お義母さん。ルミ、こっから長丁場だからな。頑張るんだぞ」
「っ~~~!!!」
一昨日、ルミにおしるしが出た。
異形個性故に、お産がどうなるかが分からない部分があったので、家に泊まらせていた。そして、遂に破水と陣痛が始まった。
「(prrrガチャ)『はい、こちらトムラ事務所』バーニンだ。トムラに今すぐ伝えろ、ミルコが産気付いたってな。先に病院に行ってるから、落ち着いて合流しろって」
『わ、分かった!!おい、トム』pi
「お母さん、はい荷物!!」
「ありがとう、冬美。緋衣の事、お願いね。萌、ルミさんを支えて上げて」
「はい。ルミ、急がなくていい、ゆっくり歩け」
「っ~~~~!!」
▼▼▼
トントントントントントン
「お、お師匠、貧乏ゆすりがひどいです」
「ん?お、おお、スマンスマン、俊典。流石に、志村の曾孫に会えると思うと、落ち着かんでな」
「私が、雪花を抱いてきた時とは偉い違いですね」
「老骨に鞭打って、AFOの後始末に奔走しとる所に、子供が産まれたと乗り込んできた馬鹿と一緒にすんじゃねぇよ、馬鹿弟子が」
「お師匠が奔走しすぎて、連絡つかなかっただけなのに」
「何か言ったか?」
「い、いえなにも」
儂と俊典は今、家主の居ねぇ家のリビングで二人、何するでもなくソファに座っている。家主?志村の孫に決まってんだろ。
先週、珍しくこの馬鹿弟子からの電話が鳴り、何かと思って出てみれば、判別できねぇ言語で捲し立てられた。見兼ねたのか、近くに居たとおぼしき妹弟子に代わり、志村の曾孫が無事に産まれたと伝えられた。妹弟子から、そろそろだとは聞いていたが、結局、安産祈願のお守りは渡し損ねちまったな。
んで、今日だ。小僧の女房と子供が退院してくる日だ。老い先短ぇ老人に心残りがねぇようにと、いの一番に抱かせてくれるって言うなら、お言葉に甘えさせて貰うに決まってんだろ。
「小僧はまだか?」
「もうそろそろだとは思いますが···」
「どっかで事故か事件に巻き込まれてねぇだろうな······俊典」
「お、お師匠!ダメですからね!!」
「まだ何も言ってねぇだろうが」
「個性を使って迎えに行くとか言い出してたでしょ!絶対!!」
「···スーツ着てねぇのに、んな事出来るかよ」
「着てたらやってたって事ですよね!!免許返納してるんですから、やったら捕まりますよ!!」
「分かっとると言っとるだろうが!!ちょいと、オメェの女房に電話してみろって言いたかっただけだ」
「恐らく、"良いから大人しく待っていて下さい"と言われるのがオチですよ」
あの嬢ちゃんならあり得るか。保護責任者の肩書き持ってるのを良い事に、一人だけ小僧に付き添って迎えに行きやがって。もう少し、師匠に融通きかせろや。
そして、それから10分後。車庫がある辺りに、車が入る気配がした。緊張が走る。俊典はそうでもなさそうなのが癪だったから、事故の振りして、杖で脛を軽く叩いたが、儂は無実だ。
軽く身嗜みを整えると、玄関の扉が開き、複数の足音が近づいてくる。そして遂に、おくるみを抱いた志村の坊主が、儂らの前に姿を現した。
「お待たせしました、グラントリノ、オールマイト。紹介します、俺の娘の志村ルナです」
「ルナ、いい名前じゃないか」
「······」
「お師匠?」
儂にも見えやすいように、膝をついた志村の坊主···いや、志村転孤。見えたのは、おくるみに包まれ、目を閉じて安らかに眠っている赤子。言葉も何も出なかった。
「グラントリノ、どうぞ」
「お師匠」
ソッと差し出される赤子。恐る恐る手を伸ばし、ゆっくりと自身の腕の中へと抱く。母親であるミルコに似た顔立ちと色黒の肌。兎の耳。なのに、何故か志村の顔と重なる。
「······見てるか、志村。お前さんの曾孫が、儂の腕ん中にいるぞ。よく寝てやがるよ、本当に。安穏と寝てるがよぉ、おめぇさんが産まれるのに、儂らが昔どんだけ頑張ったか分かるか?ちゃんと感謝して、幸せに長生きすんだぞ、おい」
儂のしわっしわの手とは比べ物にならない、シミ一つ無い綺麗な頬を軽く撫で、父親へ返す。
「て、転弧君、次はわた「その前に、授乳の時間よ。ルナちゃんをルミさんの所に連れて行ってあげて」
「分かりました、先生」
「(ToT)ソンナー」
「俊典、お前はこれから幾らでも機会があるだろうが」
「(´・ω・`)ショボーン」
部屋の角で体育座りする俊典と、その肩をポンポンと叩く冬花の嬢ちゃんを横目に、儂は手に残る温もりと重さを思い出す。
「本当に、もう思い残す事はねぇな」
あんな事をボソッと呟くグラントリノであったが、本当の祖父である志村弧太郎よりも、志村三姉妹からお祖父ちゃん扱いされる位足繁く通い、お菓子やら玩具やらを無断で買い与えて、志村夫妻から大叱られする程度には長生きされたらしい。
▼▼▼
「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!」
「白雲さ~ん、もう少しですよ~」
「ふんぬぅぅうううう!!!!」
因みに、志村夫妻に第一子が誕生してから一週間後、白雲夫妻にも新たな命が無事誕生した。
初稿では、グラントリノは志村ルナを抱いた翌日、息を引き取る展開でした。
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