「では、久方振りの再会を祝して、乾杯」
「乾杯」
雄英を卒業して、プロヒーローとしてデビューして早数年。一応、それなりなヒーロー生活を送っていた。
そんなある日、仕事終わりに寄ったスーパーで買い物をしていると、どこか見覚えのある後ろ姿が目に入った。何となく、その後ろ姿が気になって、自然を装いつつ、その人物の顔が見える位置に移動する。
「···ヒーローがストーカーかい?」
「やっぱり、物間だった。久しぶり、成人式以来?」
「久しぶり、拳藤。四年ぶりといった所かな」
その人物は、予想通り、かつて共にヒーローを目指し切磋琢磨したクラスメートだった。
「どうしたの?こっちで何か?」
「ああ、こっちで研修があってね。それに参加する為さ」
「そっか。いつまで?」
「研修は今日までさ。明日は休みになってるから、ゆっくり晩酌でもしようかとね」
「じゃあ、家来る?私も明日休みだから、たまには飲もうかなって思ってて」
「···いいのかい?僕も一応男なんだけど。週刊誌にすっぱ抜かれでもしたら、色々面倒なんじゃないのかい?」
「世間は、雪花とかの結婚で大盛り上がり中だし、まぁ大丈夫でしょ」
「···じゃあ、お邪魔させて貰おうかな」
そうして、お洒落もへったくれもない缶ビールで乾杯する私達。ソファに並んで座って、適当に作ったお摘みをちょくちょくつまみつつ、互いの近況や知り合いの近況、思い出話に花を咲かせる。
「はぁ~、しっかし、とうとう売れ残りは私だけになっちゃった」
「近年は結婚ラッシュだったからね。中々タイミングが合わなくて、式に参加出来なかったのが悔やまれるよ」
「いろんな国に飛んでたもんね、アンタ」
「飛ばされてた、の間違いだよ」
物間は自虐的に、自分の個性は日陰者だってよく言ってたけど、分かる人から見れば、とても汎用性と応用性の高い個性だ。物間が居れば、そこに必要な個性持ちが、単純に一人増える。故に、海外派遣の仕事を協会からよく回されていた。日本に居た時間なんて、合計で一ヶ月あったかどうかじゃないだろうか。
「物間はどう?色んなとこいってるんだから、出会いとかあったんじゃないの?」
「そんな余裕は無いよ。仲良くなる前に、他所の国さ。ワンナイトラブは趣味じゃないしね。拳藤こそ、どうなんだい?嘘か本当か分からない、熱愛報道とか交際疑惑はよく耳にするけど?」
「何もかもでっち上げよ。私というよりも、私から繋がる皆狙いのハニトラばっか。どこどこの御曹司だ、やれイケメン俳優だ、売り出し中の人気アイドルだ。ネットじゃ、恋愛世代なんて揶揄されてるのと一緒に、こっちは青春時代を過ごしてるのよ?皆の爪の垢煎じて飲んでからにしろっての」
思い出すだけでムシャクシャして、缶を一気に二本位空にしてた。メディア露出は比較的多めにしてるから、そういう人らと接触する機会も増える。本当に揃いも揃って、私を利用して成り上がろうって魂胆な奴ばっか。そうじゃないなら、単純に私の体目当て。私とヤッたっていう勲章を掲げたいだけのクズ。
「あ~あ、こんな事なら、高校時代に、心のままに素直になっとくんだった。せめて、処女位は捨てとけば良かった」
「ブッ!!な、な、何を言っているんだい、拳藤」
「···ぶっちゃけ、私はアンタが好き···だったんだと思う。いつからって聞かれたら分かんないけど、頑張ってるアンタから目が離せなくなって。最初は、"何コイツ、良く雄英に入れたわね"なんて思ってたのに。凄く、格好良く見えてきて。でも、皆みたいに思いを伝える勇気が出なくて。所詮手を大きくするだけの私じゃ、アンタに釣り合わないとか、相応しい実績か何かを積み上げてからとか言い訳して」
「拳藤···」
「アンタが、私の事、クラスメートの、仲間の一人としか思ってないって分かってたから。告白して、フラれる位なら、今のままの距離感で、とか思っちゃって。臆病だったんだよね」
レイ子や唯、雪花とかから、色々発破を掛けられたけど、勇気が出ないままうじうじしてたら、卒業式。社会に出てからは、私も忙しくて、B組のグループチャットで、時々会話をするだけになっちゃった。
「拳藤、もう、僕への好意は過去形なのかい?」
「···うん······いや嘘。今でも、アンタが好き。アンタ以上の人、出会った事ないから。いっつも、アンタと比べてた。未練たらたら。そんなだから、私に寄ってくるのは、私自身が好きじゃない奴らばっかなんだろうね」
「···拳藤······一佳」
「何よ、突然フルネっ!!!」
気付けば、物間の顔がドアップだった。唇には、缶の冷たくて硬い金属の感触じゃなく、柔らかくて温かい人肌の感触。
何秒間、そうしていたか分からないけど、ゆっくりと物間の顔が離れていく。
「···ワンナイトラブ、趣味じゃないんじゃなかったっけ?」
「君が望むなら、それでもいいよ。でも、出来るなら、一夜じゃなくて、一生を、僕は望むかな」
「···何?同情?」
このタイミングで、そんな事しか口に出ないなんて、やっぱ私って臆病だなぁ。だって、コイツの目を見れば分かる事なのに、あの言葉を欲しがってるだけだもん。
「クラスメート思いの物間君は、落ち込んでるクラスメートを励ます為になら、そういう事も出来ちゃうのかな」
「フッ、ここに居るのが一佳じゃなかったら、愚痴を聞いて帰ってただろうね」
「そりゃ、私以外は皆、既婚者だものね」
「···好きだよ、一佳」
「っ!!!」
「高校時代から、君が好きだよ。言ってはなんだが、こう見えて僕は自分に自信が無い人間でね。僕の方こそ、君には不釣り合いだと思っていた。だから、君に相応しい人間になってから、この思いを伝えようと、逃げていたんだ」
「······」
「拳藤一佳さん、僕と、結婚を前提にお付き合いしてくれますか?」
「はい、こんな私で良ければ」
▼▼▼
「え?物間が一佳に告白した!!?本当?!人使」
「ああ、婚約したって。物間からメールが来た」
「はぁ~~~、漸くか~~~」
「長かったな、レイ子」
「本当」
「また、御祝儀を準備しとかないとな」
「···出来れば、少し待ってて欲しいわね」
「ああ」
おめでとう、一佳。
「あ!今お腹蹴った」
「この子も、お祝いしてくれてるみたいだな」
「ええ、そうみたいね」
うん、やっぱり、この二人が在学中にくっつくビジョンが想像出来なかった。
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