「ねぇ、お婆ちゃん」
「何?緋衣」
「お爺ちゃんって、お婆ちゃんにどんな風にプロポーズしたの?」
「あら、どうしたの?突然」
「ん~、ちょっと気になっただけ」
「そう。そうねぇ、アレは私が17、8の時かしら」
▼▼▼
「ご紹介致します。こちら、超絶美人で気立ても良くて家事も出来る私の自慢の姉、氷叢冷です。姉さん、こちら、私がいつもお世話になってる先輩の、轟炎司先輩です」
「ひ、氷叢冷です。妹がいつもご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「···轟炎司だ。別に、大した迷惑は被っていない」
父やお祖父様を騙して、雄英高校ヒーロー科に進学した妹が、私に紹介したい人がいると言って、学校帰りにとある喫茶店で待ち合わせると、妹が一瞬ヴィランかと見間違ってしまう様な、凶悪な顔をした大柄な男の人を伴ってやって来た。
これが、私とあの人との、初めての出会い。
それから、冬花とお茶したりする場に、ちょくちょく轟さんを伴ってやってくる冬花。次第に、顔の怖さとか威圧感にも慣れ、冬花抜きにしても、普通に会話できる様になっていった。
「じょあ、姉さんに先輩、お先に失礼しま~す。先輩、ちゃんと姉さんをよろしくお願いしますね!」
「分かっているから、さっさと行け」
「またね、冬花」
あの子、どうも私と轟さんをくっつけたいみたいで、こうやってよく二人きりにさせようとする。家の事情は、冬花から聞いてご存知らしいのだけど、家の事情にこの人を巻き込む訳にはいかないわ。なのに、
「では、行くか」
「あ、あの、一人で帰れますので、轟さんのお時間をいただかなくとも」
「···そう言って、この前は変な輩に絡まれていただろう。それに、何かあったら俺の寝覚めが悪い。大人しく送られろ」
「···はい。······あ、自分の分は自分で払います!」
「気にするなと言っている。こんな俺でも、男の甲斐性位は理解している」
拒まなくてはいけないのに、こうやっていつも、轟さんが自身と私のコーヒー代を払い、家まで送ってくれる。轟さんの不器用な優しさに、いつも甘えてしまう。
そうして、ズルズルとこの関係を継続させてきてしまった。
「あっ」
「···足元に気を付けろ」
「す、すみません」
「···」
「···」
「姉さん、先輩、いつまで見つめあってるの?」
「「っ!!」」
冬花が薦めてくれる、少女漫画の様な一幕を体験したり、
「その、なんだ、今度、ここに行ってみないか」
「ここって···」
「い、妹から、お前が行きたがっていたと聞いて」
「もう、あの子ったら」
似合わないのに、一緒に流行りのスイーツショップに行ってくれたり、
「はい、轟さん。余り、味に自信は無いのだけど、貰って下さい」
「···ありがとう」
「フフッ、いつもお世話になっているお礼です」
「···お返しは、何がいい」
初めて、異性の人にバレンタインのチョコを送ったり、
「···よ、よく、似合っている」
「あ、ありがとうございます。な、なんだか、恥ずかしいですね。服に着られているような」
「そ、そんな事はない、と、とても綺麗だ」
初詣や花火大会に、着物や浴衣で着飾って行ったり。
家の事なんて忘れて、ただの一人の女の子として、生きる事が出来た。夢の様な時間だった。
でも、夢はいつか覚めるもので、そんな日は長く続かなくて、
「···婚約、ですか」
「ああ、そうじゃ。漸く、お前さんと番わす男の選定が終わった。一年後、お前が二十歳になったら婚姻じゃ」
「···お、お爺様、わ、私は······」
「なんじゃ、不服でもあるのか?」
「······いえ、分かりました、お爺様」
「うむ、では下がれ」
「はい」
高校を卒業し、花嫁修行の様な事を習わされつつ、オールマイトの陰に隠れながらも、しっかりとご活躍されている轟さんを応援する日々を送っていた。そして、お爺様に呼び出され、それを告げられた。
私は、氷叢冷。氷叢の娘。そんな私に、選べる未来なんて、端から存在しない。お爺様の言いなりでしか、ない。
分かっていたのに、覚悟していたのに、その日は、枕を濡らす涙が止まらなかった。
▼▼▼
「お久しぶりです、轟さん。ご活躍、いつも耳にしています」
「ああ。それで、俺に話とは」
「轟さん、私、結婚します」
「なっ!け、結婚!!?」
「はい」
「······冬花が言っていたアレか。一族の者と、」
「はい、私の相手は、父の弟だそうです」
「···冷、お前はそれでいいのか」
「···それが、氷叢に産まれた者の運命です」
「しかし、」
「私には、妹の、冬花の様に、檻から飛び出す勇気も、力もありません」
「···そうか」
「轟さん、今までありがとうございました。貴方と過ごせた日々は、私にとって、とてもかけがえのない思い出です。もう、お会いする事はありませんが、今後のご活躍を、お祈りしています」
そうして、お別れをした筈なのに、なんで、なんで、
「冷、この方が、お前を貰って下さるそうだ。粗相をするんじゃないぞ」
なんで、貴方はそこに居るんですか!
俺は、俯いて呆然としている冷と向かい合っている。なにも言わず、ただ、じっと冷を見据えて。
「なんで···」
ポツリと、か細い声で冷がそう呟いた。
「···私なんかの為に、幾ら払ったんですか ?」
「···気にするな、俺には何て事ない額だ」
「そんな訳ないじゃないですか!!あのヒーロー嫌いな祖父が、あんなホクホク顔でいるなんて!!」
「お前を嫁に出来るなら、幾らだろうと、俺には安い額だ」
「っ!!······なんで、私なんかの為に···」
「好きだからだ」
漸く、顔を上げたな、冷。
「わ、私なんかより、ふ、冬花の方が···」
「確かに、アイツはお前より強いだろう。自身の現状を、自身の力で打破する力を持っている。だが、ただそれだけだ」
「···」
「俺は、お前に、待っていてほしいんだ。お前に、おかえりと、出迎えてほしいんだ」
「···」
「お前に、勇気も力も無くても、手は伸ばせる筈だ。なら、後は俺に任せろ。俺が、お前を引っ張り出してやる」
「···良いのですか?私は、貴方に寄りかかるしか、後ろで見ているしか出来ないのに」
「そうしていてほしいんだ。最期の時まで、俺の背中を見ていてくれ」
そして、泣きながら、笑みを浮かべながら、三つ指を着く愛しい女性を、見下ろした。
▼▼▼
「···お爺ちゃんて、結構情熱的?」
「意外でもないでしょ?」
「いや、私的にはどちらかと言うと、暑苦しいって印象だから」
「あらあら」
「それで、結局お爺ちゃんは、お婆ちゃんの為に幾ら払ったの?」
「さぁ?でも、冬花曰く、最初は億単位のお金を用意しようとしていたそうよ」
「億っ!!!」
「フフフ」
上手く書けたとは思わないけど、お二人の馴初めはこんな感じでどうでしょう。
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