「おっ、デクじゃねぇか」
「えっ?」
駅を出ると、唐突に声を掛けられた。
声の方へ顔を向けると、そこには額に縦一本の手術痕のある男性が、タバコを咥えて立っていた。
「えと···」
「オイオイ、俺だよ俺、分倍河原!あ~、トゥワイスって言ったらピンと来るか?」
「あ!す、すみません、マスクしてる印象が強すぎて」
「気にすんな。マスク無しの顔、ヒミコとの結婚式ん時位だからな。今帰りか?」
「あ、はい。ちょっと、事件の後始末に時間が掛かっちゃって」
「じゃあ、飯は?」
「まだです。どこかで適当に済ませようかと」
「俺もなんだよ。一人じゃ寂しいからよ、一緒に飯食おうぜ。先輩として、ルーキーに奢ってやるからよ」
「い、いえ、そんな」
「良いから良いから、若いのが遠慮すんなって」
「うわっ!!」
そう言って、肩を組まれて引き摺られる様に歩き始めた。互いの愛する人で繋がりこそあれど、ちゃんと交流した事は無かったから、ちょっと楽しみではある。
▼▼▼
「んじゃ、乾杯」
「乾杯」
分倍河原さん行き付けのラーメン屋で、美味しいラーメンをご馳走になった後、
「もうイケル歳なんだろ?コレに付き合えよ」
と、何かを飲むジェスチャーをする分倍河原さんに、まぁここまで来たらとOKして、これまた分倍河原さんの行き付けの居酒屋に連れてこられた。
「んぐんぐんぐ···プハァ~!!やっぱ、仕事終わりはこれだよなぁ」
「は、はぁ···」
ビールの入ったジョッキを、一息で飲み干す分倍河原さん。正直、このビールの味を美味しいとはまだ思えない。お茶子さんのお父さんにも、それを旨いと思える様になれば、大人の男の仲間入りだって笑われたっけ。
「ビールおかわり~。ん?なんだ、デクはまだビール苦手か?」
「え、あ、すみません」
「まぁ、俺も初めて飲んだ時は、なんじゃこりゃって思ったけどな。それも大人の階段って奴だ」
「は、はい」
やっぱ、苦い。
「どうする?別のにするか?」
「えと、はい。日本酒、ロックで」
「お、そっちはイケル口か」
「お茶子さんが、そっちの方が好きで」
「なるほどな」
おつまみに頼んだたこわさを摘まみながら、ニヤニヤと笑う分倍河原さん。
「分倍河原さんは、奥さんと飲んだりしないんですか?」
「···誰かの彼女さんと、あっちこっち連れ立って飛び回ってるお陰で、最近飲めてねぇな」
「···すみません」
「良いって。生き生きしてるアイツが、あんな事があったこんな事があったって語ってくれんのを見るのも、結構楽しいからよ」
「···でも、もうちょっとこっちにも構って欲しいですよね」
「···お前もそう思うか」
「···はい」
トガさんが始めた、個性カウンセリング事業に協力しているお茶子さん。日本全国を回って、苦しんだり悩んだりしている人が居ないか探しながら、カウンセリングの輪を広げる活動している。
だから、同棲はしていても、あんまり一緒に過ごせてない。電話で話したりはするけど、はっきり言って寂しい。
「今後の社会を思うと、必要な事だとは理解してるんですよ」
「ああ、大切でアイツ自身がやりたい事だから、トコトンやらせてやりたい」
「頑張ってるから応援したい」
「俺のワガママで、足引っ張りたくはねぇ」
「「それでも、イチャイチャする時間が欲しい!!」」
同時にコップを空にし、机にコップを置いた時にダンッという音が鳴った。何か、いつの間にか片手を折り返す位はおかわりした気がするけど、まだ酔ってはいない。
「滅多に合わない休み、デートとかしたいけど、疲れてるから休ませてあげたい」
「目にクマ作られた顔見たら、色々溜まってっけど流石によぉ」
「けど、寝る時は一緒にって上目遣いしてきて、思いっきり抱き付いてくるから、手を出したくてたまらない」
「朝んなりゃ、本人はスッキリした顔でまたあっちこっち」
「テレビに取り上げられて、イケメン芸能人と一緒に映ってたりして、浮気は疑ってないけど、モヤモヤさせられる」
「小さい子供相手にしてると、早く子供作りてぇなぁって」
会話になっている様ないない様な、交互に不満やら願望やらを口にする。
「お前さんらと合わせるとか言いやがって、さっさと結婚しろや、カップル選手権第一位」
「結婚しても、まだ子供作れませんよ。事業がある程度、それこそ、お茶子さん達が常に最前線に居なくても回る様にならないと無理ですよ。だから、早く軌道に乗せてください」
「んな一朝一夕で進むかよ。それこそ、テメェの交友関係使えや」
「もう皆協力してくれてますよ!!というか、ヴィラン連合のツテを使ったらもっと早くなるでしょ」
「使いまくってるに決まってんだろ!!それでさっさと解決すんなら、ヴィラン連合が駆け込み寺になってねぇよ」
「うう、お茶子さ~ん」
「ヒミコ~」
「「うおおおお!!飲むぞオラー!!!」」
▼▼▼
「う゛あ゛あ゛あ゛···あたまいてぇ」
気が付けば、自宅のベットだった。デクと飲んでたのは何となく覚えてるが、家には帰ってこれた様だ。
スマホを見たら、もう夕方も夕方で、折角の休みが二日酔いで終わってしまったが、まぁなんかスッキリしてるから良しだな。
「取り敢えず、シャワー浴びるか」
服は昨日のままだから、流石に気持ち悪い。適当にシャワーでサッパリして、コップ一杯の水を飲む。んで、晩飯どうすっかなぁと考えながら、リビングに行くと、
「うおっ!!!か、帰ってたのか、ヒミコ」
「···ただいまです、仁君」
「お、おかえり」
灯りも着けずに暗い部屋でソファに座って、電源の入っていないテレビを見ているヒミコが居た。
「な、何やっ(prrrr)?デク?(pi)どうした?デク」
『分倍河原さん、昨日はデク君をええ所に連れてってくれたみたいですね。また、お礼させて貰いますね』
「はっ?あ、おい!!···切れちまった、今の、ウラビティの声だよな···「仁君」うおあっ!!!」
いつの間にか、ヒミコが目と鼻の先に佇んでいた。
「ヒ、ヒミコ?」
「仁君、昨日は出久君と随分楽しくお酒を飲んだみたいですね」
「お、おお」
「良かったですね。で、これは何ですか?」
そう言って、ヒミコが掲げてきたのは、女の子らしき名前のサインが入ったお店の名刺。
「······」
「仁君」
「······」
「仁君」
「誠に、申し訳ありませんでした」
俺は、背筋を正して正座し、素直に頭を下げるのだった。
「お、お茶子さん、あの、」
「何?デク君。あ、もうちょっと重り欲しいん?」
正座した足の上に乗せられた板の上に、筋トレで使ってるダンベルやら置かれている。とても良い(怖い)笑顔のお茶子さんが許してくれるまで、ずっとこの姿勢を取らされている僕。お母さんも、お茶子さんの味方で助け船は出してくれない。
「まぁ、私も、最近デク君とスキンシップ取れとらんかったんは反省しとるんよ」
「ぐっ!!」
「やから、ちゃんと上書きせんとな。ユウキちゃん、どんな子やったん?」
「ま、全く一切覚えてません」
「ふぅ~ん、そうなんや」
足の上に乗っているダンベルやらの上に、ドスンと腰を下ろして、僕の胸板を指でクリクリしてくるお茶子さん。
分倍河原さん、僕ら、昨日は何してたんですかね。
仕事にかまけて放っとかれてた旦那と彼氏が、キャバクラに行ってて怒る奥さんと彼女の図。
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