八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

224 / 244
「巣立ちの時」

 

 

 

 

「やぁ、忙しい時にすまないね」

「いえ、貴方の方こそ、大変でしたでしょう」

 

 ここは、企業のお偉いさんや政治家等が利用する、由緒正しき料亭。

 女将に案内されて、足を踏み入れた一室には、現役時代と比べたら多少は細くなったものの、その身に宿す威風は陰りを見せず、トレードマークであるV字に立つ前髪と、白い歯が眩しい笑顔を浮かべる人物が、お膳の前に座っていた。

 

「まずは、一献」

「ありがとうございます」

 

 彼の対面に置かれたお膳の前に座り、震えそうになる手を何とか抑えながら、彼からの手酌を受け、手酌を返し、お猪口に口をつける。

 

「御息女は、ご無事でしたか?」

「···ああ、検査でも何も無かったよ。少々、個性因子に乱れがあったけど、休めば元に戻るよ」

「まさか、貴方の言葉を、貴方の事を、あの様に解釈する者が居るとは、驚きでした」

「HAーHAHA!!まさしく、ヴィランから恐れられる事は幾度もあったけど、ヴィランに後継者となると言われたのは初めてだったよ」

「私も、正直耳を疑いました」

 

 自身をダークマイトと名乗ったバルド·ゴリーニ。力、強さに対する憧れが強く、故にオールマイトの強さに魅せられた愚かな男。

 

「分からない。ただ強いだけでは"象徴"となり得ない事に、何故気付かないのか」

「···以外だね。かつて、英雄回帰を掲げて街頭演説をしていた君なら、彼に共感出来る所もあると思ったんだが」

「奴は貴方の力に魅せられた。私は、貴方の在り方、精神性に魅せられた。その違いです」

「私の在り方」

「正直、あの頃の自分は目が曇っていた事は確かです。ヒーローの名を騙り、信念もなく、金や名声の為だけに個性を振るう偽者が跋扈する社会を変える。貴方の様な、本当の英雄(ヒーロー)だけが、その称号を背負う社会に。それが、私の掲げた英雄回帰」

 

 学友に、先達に、市民に、全てに絶望したあの頃。この歪な世を正さねばと、白い目に晒されながら言葉を発し続けたあの日々。

 

「あの日、貴方と奥方に演説を聞いて頂けていなかったら、私も、人々を害するヴィランとなっていたのでしょう。ヒーローは皆、貴方の様になれと」

「ヒーローを引退して、思う様になったよ。私は、もっと早くに身を引くべきだったんじゃないかってね」

「···」

「昔から、じっとしていられない質でね。困ってる人が居ると、駆け出さずにはいられなかった。両親をヴィランに殺され、日々ヴィランの脅威に怯えて暮らす人達に、笑顔になって欲しかった。だから、僕が彼らの寄りかかる柱になると決めて、今まで走ってきた。平和の象徴として、誰もが笑って暮らせる世の中にする為に。

 ただ、私は寄りかからせるだけで、自分で立つ事を忘れさせてしまったのかもしれないな」

「···否定出来ませんね。今居る政治家も、貴方が居ない世の中に不安を感じている者達ばかり。特に、上の地位に居る者程顕著なのが実情です。本当にどうしようもない何かが起これば、貴が飛び出して解決してくれると、本気で思っている人間も少なくなかった。そういう意味では、今回の事件は、意識を変える良い切っ掛けだったかもしれません」

「というと?」

「ダークマイト、確かに力だけなら貴方に匹敵する物を持っていたでしょう。その相手を、皆で力を合わせて打倒した。ある意味、オールマイトが居なくても大丈夫だと、世間に、世界に示せたのだと私は感じました。ルミナイネン、貴方の御息女が戦闘の場に居なかったのも、結果的に良かったですね。アレで、彼女を貴方の後継と祭り上げようとする動きも鈍りを見せ始めている」

「···そうか」

「オールマイト、貴方が引退を決めた理由は何ですか?」

「え?」

「身体的な衰え、表向きはそう仰っていましたが、実は違うのでしょう。自身が引退しても、もう大丈夫だと貴方自身が思ったからでは?」

「···」

「子供は大人になれば巣だって行くもの。それまでは、巣の中に居るもの。貴方の引退は、遅くも早くもない。単純に、我々の巣立ちの時があの日だったというだけですよ」

「赤黒議員」

「見届けて下さい、平和の象徴。貴方の下から巣だって行った我々の事を」

「···ああ、応援しているよ」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「あら、お帰りなさい、貴方。議員とは、良いお話が出来ましたか?」

「ああ、何か胸のつっかえが取れた気分だよ」

「それは良かったですね」

「雪花は?」

「まだ、爆豪君の所ですよ」

「ムゥ、そうか」

「娘に構って貰う時間が少なくて、焼きもちですか?」

「そ、そんな事はないさ。爆豪少年も、大分頑張ってくれたし、娘を助けてくれた恩人だからね。ただ、」

「ただ?」

「もうちょっと家族水入らずの時間も欲しいかなぁって」

「······」

「あれ?冬花さん?な、何か怒ってる?」

「いえ~、別に~、今まで散々夫婦水入らずの時間を蔑ろにしてきて、そういう事を言うんですね~とか、これっぽっちも思ってないですよ~。後始末に追われてた妻を放っておいて、自分は楽しくお酒を飲んでおいて、手土産一つも無いなんて~とか、ぜ~んぜん、思ってないですよ~」

「···誠に、申し訳ありませんでした」

「クスッ、晩酌にします?お風呂にします?それとも、ワ·タ·シ?」

「···順々に全部でお願いします」

 

 

 

「何だ、今日は偉い気合いの入った顔してるじゃないか、赤黒」

「おはようございます、総理。いえ、今一度自身のオリジンを再確認出来ましたので」

「そうか、漸く御老体共が静かになったんだ。オールマイトの居ない新しい社会、しっかりと形作っていくぞ、気張れよ、赤黒」

「はい!!」

 

 

 

 




久しぶりのステイン。
正直、映画にも出て欲しかった。ダークマイトに対して一言欲しかった。実際、どう評価するんでしょうね。

評価と感想をよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。